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183 ああ、生き返るな
それからしばらくの僕は、オーブに囚われていた稀人たちの魂のため、特性アルカ族ボディの調整に奔走することになった。
信義さんと真理愛さんが言っていたとおり、次々と体を得て『ひのもと町』への移住を希望されて、僕は必死に仕事を片付け続けた。 稀人用のボディは、シェイプシフターというモンスターの変身特性を参考にした、自分の容姿を自分の記憶で造形できるものだ。ざっくりいうと、ベースは生前の自分の姿だが、そこから崩れすぎない程度に、自分の裁量でキャラメイクができるアバターだ。 信義さんのように、亡くなってからの年月が比較的短いとか、真理愛さんのように強く自分を持っている人ならば、けっこうすんなり定着してくれるようだ。 ただ、時間が経ちすぎていたり、生前の恨みが強すぎたりして、個としての魂に損傷があると、やや時間がかかる傾向にある。自分という存在を忘れかけているのだ。 たとえば、セーゼ・ラロォナで行われた、前々回の召喚儀式で呼ばれた稀人。 この世界に来て、ほんの一、二ヶ月で亡くなってしまうまでの間、ひどい苦痛にさいなまれた彼は、死後も混乱と怒りと絶望と呪詛を叫び続けていた。 そして、ずっと前に召還され、同じように理不尽を嘆いて呪詛を吐き出し続けていた他の稀人の魂と共鳴して、半ば融合してしまっていた。 僕は、そんな人たちを無理に呼び出すことはせず、オーブの中が空いて落ち着くのを待った。 彼ら、彼女らが吐き出す“障り”は、これまでは星を巡る流れに入っていたが、いまは僕の迷宮がすべて吸い取っている。 『なぁ、おい。これって、法的に問題ないのか?』 『でも、前よりも据わりがいい感じがするわ』 『ねぇねぇ、ちっこい魔王サマ。ご飯が美味いって聞いたぞ。焼肉奢ってくれよ〜』 「……」 いま僕の肩に乗って後頭部にしがみついて『やきにくー! やきにくー!』と合唱しているのは、トゲトゲ鱗も勇ましい漆黒の三つ首ドラゴン。ただし、フォルムが丸っこい。 ……黒いキング〇ドラって言うな。僕もこうなるとは思ってなかったんだから。 このヌイグルミのように見た目だけは愛らしいミニ黒竜ボディだが、中身は先述の大輔さんに加え、 三人とも、自分の名前を「そんな感じだった気がする」程度しか覚えておらず、だいたいの年齢や嫌いな物、得意なことなどを聞き取って、名簿や教皇国が残した記録と突き合わせていった結果だ。もちろん、間違っている可能性もある。 魂がくっついてしまった人たちを、無理やり分解して個別のボディに押し込むなんてできない。人間の姿形に押し込めようとするのも、やめておいた方がいいだろう。 そこで、『GOグリ』のペットシステムにある、可愛らしいモンスターのガワを用意してみた。完全な人型よりもモンスタータイプの方が、強力なスキルを積めるというメリットもある。 (そうしたら、こうなったんだ) 試作というか、こういう方法もあるかな、と模索していた最中だったのに、彼らの方から勝手に飛び込んできたのだ。 「まだ調整もできていないのに、危ないですよ」 本当は緑色で、頭も一つしかないドラゴンのはずなのに、彼らが入った瞬間に、黒くなって頭が三つに増えたのだ。 『そこは高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するのよ!』 「フラグ立てないでください。僕の手に負えないような変化は勘弁してくださいよ」 『とりあえず、焼肉いこーぜー!』 「はいはい。ハセガワー、ちょっと頼むー」 僕は丸っこい黒竜を後頭部にくっつけたまま、敏腕執事に焼肉店の席を取ってもらった。 オーブに囚われていた稀人が解放されてから、『ひのもと町』の飲食店はさらに増えた。カレーハウスやラーメン屋のリクエストが多かったせいだ。 中には、琢磨や水渓さんのような自分の店を持ちたいと言って、寿司屋や小料理屋、パン屋などを出す準備を始めた人もいる。 『意外とにぎわっているんだな』 他の二つの頭が肉にかぶりついているのを横目に、左側の頭が感心したように呟いた。 お座敷席に座った僕は、せっせと肉を焼いては、一ぴ……き? 三人? の前に置いた小皿に提供していっている。 『閉じ込められている時も、狭いとは感じていたから、人数は多いんだろう。だけど、こう実際に見るとな……』 「そうですねぇ、前よりは増えましたけど、それでも半分以上は、お世話係のアルカ族ですよ」 この店に来るまでに見た『ひのもと町』の街並みは、すでに七十人近い新たな住人を受け入れており、それに伴ってお世話係のアルカ族も増えていた。 僕が造りすぎたせいで住宅の空きはたくさんあるので、やっと町らしくなってきた、とも言える。 「元々この町に入居していた稀人は五人だけでしたし……はい、ハラミ焼けました」 『んん! 私の!』 『カルビ! 次、カルビくれー!』 『……お前ら、よく食うな……』 右側と真ん中が元気よく食べまくるのは、たぶん元が若かったせいだろう。 『そっちも食べないと、お腹いっぱいになっちゃうぞ』 『そうよね、体はひとつなんだし』 『俺は酒を飲みたいんだがなぁ』 焼肉にはビールが欲しいと左側が言う。 「飲みます?」 『いいのか?』 『マジ!? オレまだ子供なんだけど!?』 見た目が愛らしいキ……ドラゴンなので、元の年齢や性格もバラバラな三人の掛け合いは、慣れるとおかしくてしょうがない。こっちは笑いたいのを堪えるのが大変だ。 「そのボディなら、健康に問題はありません。でも、飲んだくれて八岐大蛇状態にならないでくださいね」 『わかった』 なみなみとビールが注がれたグラスを抱え、左側の頭は幸せそうに飲みほした。 『ああ、生き返るな』 他の二つの頭から『おっさんくさい!』と抗議されつつも、顔を泡だらけにした左側は満足そうだ。 僕は相変わらず、タンやらロースやらカルビやらを焼き続け、自分も少し食べながら、彼らの話に耳を傾けた。 魂同士がくっついてしまった人はそれなりにいるらしく、そういう人たち同士がさらにくっついて、混沌とした状態になっている塊もあるらしい。 『でも、外に出られるとわかって、ちょっと正気になった人もけっこういるんじゃない? 私たちみたいに』 『そうだな。前よりも明らかに静かになったと思う』 『そのうち、オレらもポロッと分かれるかもしんねー? いまは、リハビリ中? って言うのか?』 「なるほど」 とはいえ、目の前の三人は、くっついたままでも別にいいらしい。なんとなく安定しているというか、安心感があるんだとか。 (お父さんと娘と息子みたいな?) そういった疑似的な繋がりが、彼らの癒しや安心になっているのなら、無理に分かれさせなくてもいいだろう。 「……その混沌と固まっている中に、ヒノカゲ・サヤカさんはいそうでしたか?」 『聖女シャヤカーのこと? どうかしら?』 『知らねー』 『生きている時に名前だけは聞いたけど、あの中にいるかどうかは、わからんな』 「そうですか」 邪神封印に使われた時、耐えられずに砕け、すりつぶされて消えてしまったかもしれない。あるいは、魂が残ってオーブに囚われていたのならば、最も憎悪をみなぎらせ、“障り”を吐き出し続けているかもしれない。 しかし現時点では、そのどちらもわからないままだった。 『そういえば、このまま肉体を得ずに死ぬのは、推奨されないと聞いたが』 「あ、はい。地球には戻れないし、魂はこの世界に巡る流れに合流するしかないんですけど、いまのところ、かなり“障り”に汚染されていますので」 迷宮やダンジョンが吸い出してはいるものの、まだ数が少なく、邪神のコアも見つけられないので、焼け石に水状態だ。 「僕が世界中まわって、迷宮都市やダンジョンを創りまくっていくしかないですね。浄化装置の心臓部である邪神のコアが偶然見つかるのが、さていつになるのか」 『ふむ。……では、俺たちでも、その迷宮で、なにか協力できるだろうか?』 「いいんですか?」 召喚されてきてひどい目に遭い、こんな世界滅びてしまえと思っていた人たちだ。協力するという事は、その世界を救うことになってしまうのだが……。 『嫌な思い出も多いが、地球まで滅びてしまうのは、本意ではない。それに、生きられない場所に、これ以上日本人が召喚されてくるのも、うんざりだ』 ぐわっと顔をしかめる左側に、真ん中と右側も、うんうんと頷いた。 『オレね〜、ダンジョンボスとかやれるんじゃない?』 『馬鹿ね。ボス部屋でずぅーっと待っているつもり?』 『じゃあなにすんだよ?』 『これから探すのよ。魔王様にいいスキルを積んでもらえるみたいだし……。あ、アンタは新メニューの味見役とかあったら、飛びつきそうね』 『それいい! オレやる!』 『……冗談よ』 『お前たち、食事はもういいのか? そろそろ、一度戻るぞ』 『『はぁい』』 本当に、仲のいい親子みたいで、微笑ましいかぎりだ。 (僕も一度、実家に帰ろうかなぁ) 父上や姉上たちにも、色々報告をしなきゃいけないと気が付いたのだった。 |