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181 堕天女神 −グ・ルメー・ニャ
私は裕福な家に生まれた。
それも、大陸でわずか数家という、尊く高貴な家だ。 さらに私は、才覚に恵まれていた。 天才と誉めそやされていた。 ただ、致命的に体が弱かった。 生まれつき、極端に保有魔力が少なかったのだ。 はじめは、その脆弱さを嘲られた。 すぐに死ぬだろう、出来損ないだと。 しかし、成長するにしたがい示した、圧倒的な魔導の造詣。 私が次々に発表し、実用化していく理論や機構に、誰もが評価を覆した。 『グ・ルメー・ニャは、天才だ』 つい数年前までは、出来損ないと言っていた舌で、そうおもねるのだ。 (馬鹿ばかりだ) すり寄ってくる有象無象の、垂れた頭を踏みつけ、私は満足していた。 たしかに、私は他人を見下ろす絶頂にいて、満足していたはずなのだ。 だから、世界の境界に興味を持ったのは、ほんの出来心だった。 構成する魔素の性質や濃度の違いなどのせいで分かたれている、まだ見ぬ世界。 そこでは、我々は生きられないと考えられていた。 (本当だろうか? 誰も確認していないのに?) そして私は、死刑囚の最終処分場とされる場所へ、制止を無視して視察に行ってしまった。 「いやァッ!!」 魔力量の少ない体が浮き上がり、一瞬で そうして堕とされた場所は、ただでさえ少ない魔力が溶け出てしまい、私はすぐに死ぬはずだった。 たまたまそこに、大きな殻がなかったなら。 この殻の持ち主は、ライシーカという名前だったが、私が入り込んだ瞬間に潰れ、粉々に砕けて消えてしまった。 (まあ、いい。下等生物など、意識がある方が邪魔だ) 緊急避難とはいえ、原生生物の肉体を占領せねばならないなど、屈辱の極みだ。 しかし、それから何度か観測した死刑囚たちは、保有魔力が大きすぎて殻を得ることもできずに消滅していた。 元々魔力量が少なく、ライシーカというちょうど良い殻があるところに堕ちた私は、運が良かったのだ。 勤勉な私は、無為に生きることを善しとしなかった。 なにより、私を堕としたあの場所の管理の杜撰さに、非常に腹が立っていた。 私の至上の目的は、私のいた世界に帰ること。 そのためには、私の全能を傾け、あらゆる手段をとると誓った。 まずはこの世界の構成を調べ、元の世界との違いを、徹底的に比較した。 その結果、我らの生存が難しいのは魔力が薄すぎるせいであること、魔素を含む様々な物の性質が異なるせいで、こちらから昇ることは、理論上不可能であることが判明した。 (それなら、 天井が塞がっているなら、天井を破って梯子を降ろさせればいい。 現に、向こうからこちらへは押し出されてくるのだ。 こちらの魔力を極限まで薄くすれば、届かない天井も破れるだろう。 ろくな開発もされていない原始的な世界で、私はせっせと活動した。 魔力を薄めるには、魔力を使わせ、かつ生産を抑制させねばならない。 しかし、この世界の知的生命体が、まだあまりにも原始的なせいで、効率的に魔力を消費することができない。 そこで、私は別の世界と繋げ、私とは別の異世界人を手元に置く方法を考えた。一度でも境界を跨いだ経験が、私にその可能性を示唆させた。 これなら大量の魔力を使うし、魔力を生産しているこの世界の機構にアクセスするための 呼び出すのは、ここよりもさらに魔力が少ない世界からがいいだろう。 その方が、私も制御しやすい。 元々魔力量が少なかったのに、この世界に来てさらに魔力量が減ってしまった。 殻のおかげで生きていられるが、さまざまなところで不便が生じていた。 ああ、早く帰りたい。 無事に、魔力がほとんどない世界から生命体を召喚し、この世界の機構にアクセスして魔力生産を大幅に減らすことに成功した。 基本的に生産されている魔力は、すべて私の生存と拠点づくりに費やすことで、降下する一方だった私の力は持ち直し、生存環境もずいぶん良くなった。 ようやく、一息つける。 嬉しい誤算だったのは、召喚した生命体の世界は、魔法を使わなくとも高度に発展していた。 その知識をこの世界の原始的な生命体にくれてやることで、多少は文明レベルが上がりそうだ。 (私の知識など、さらに理解できぬだろうし、下等生物にくれてやるなんて、もったいないわ) 私からは召喚に関する最低限の知識を与えるだけにして、原生生物には異世界人の知識を崇めさせることで、私の異質さを隠すよう工作した。 私の生存のために支配は必要だが、統治をする気はない。 簡単な支配機構を作り、ライシーカ教皇国とした。 あとは原生生物が勝手に支配域を増やし、同時に現存する魔力を減らしていってくれる。 私が声を発するのは、私の新しい殻を用意させる時だけでいい。 愚かな原生生物は、この世界では生存に適さない異世界人を召喚しては、尊い稀人の知識と崇めている。 その技術をもたらした私の名を、『グルメニア』と拙い発音で呼びながら。 |