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142 ハイパー錬金術☆解禁
僕は大山羊車に揺られながら、さっき立ち寄った村で買い求めた石焼き芋を頬張っていた。
かつてルスサファ国南部だったこの辺りでは、サツマイモに似た甘いイモがよく実るらしく、煮たり蒸かしたりする以外に、こうして石焼にして食べるのも一般的なんだとか。 「おいひぃ」 「甘くておいしいですねえ」 僕の向かいでは、ハニシェもふにゃんとした笑顔で芋を頬張っている。御者台では、ソルとスハイルも、同じ物を齧っているはずだ。 「研究用に生の芋を一箱買ったけど、なんかずいぶん喜ばれたな。食料は足りているんだろうか」 「このお芋くらいしか、手元にないのかもしれません。戦乱で、ずいぶん疲弊しているのでしょうね」 「北はフロダ国が、こっちはジェルス国が支配したもんなぁ」 この辺りの通貨をあまり持っていなかったので、物々交換や、こちらが物資を売ることも少なくなかった。立ち寄る村落では、大山羊の毛糸や食用油、鉄材に岩塩や干し肉も喜ばれた。 「害獣の数もなかなか減らないって言ってたね」 「こちらにも、教皇国の巫女が派遣されているらしいとは聞きましたが、本当でしょうか」 「どうかなぁ」 僕もできれば巫女様を一目見てみたいのだけれど、なかなかタイミングが合わないし、遭遇できたとしても教皇国の兵士に周りを固められているだろうから、お近づきにはなれないだろう。 (迷宮都市やダンジョンができれば、少しは“障り”が減って、住人の暮らしも良くなるかなぁ? また搾取されるだけかなぁ?) その辺は、支配者のジェルス国の差配ひとつだ。冒険者ギルドがストッパーになってくれることを祈る。 「旦那様、海が見えてきました」 「おっ」 御者台からのスハイルの声に、僕も窓を開けて外を見た。たしかに、くすんだ群青色が、進行方向に見えた。 「あれが、大陸の東の海か。外海なんだよね?」 「はい。船に乗れば、セーゼ・ラロォナにも行けますよ」 ソルの声も、心なしか弾んでいる。 「うーん、遠いな。本当に島があるのかな」 「少し靄がかかっていますね」 ソルの言う通り、視界に占める海の割合は増えているものの、海上にかかった靄のせいで、水平線がはっきり見えない。 この先、三キロから四キロほどの海上に、村のひとつも出来そうな大きさの無人島があるはずなのだ。ただ、切り立った岸壁に囲われて浜がなく、岩礁も多いため、船で近づいて上陸するのは困難を極めた。 僕はその無人島に、『舞芸吟座ベガ』を出現させる予定だ。陸の星を巡る流れの上にはダンジョンを出すとして、僕は初めて迷宮都市を海に出すことにした。 元ルスサファ国の南部は、星を巡る流れが陸よりも海に多い。海に害獣は少ないはずだが、沿岸部には多少被害がでるとわかっている。 (うん、タブレットの地図によると、ちゃんと島があるな。この辺りで引き返すか) ジェルス国の冒険者ギルド本部にもいかなければならないし、僕は適当なところで大山羊車を停め、箱庭に戻ることにした。 時は数日前にさかのぼる。 実は、巫女様の登場を待っていてレイチェル王女を撃退したあの日、箱庭に戻った僕の頭に、久しぶりのアナウンスが響いた。 ―― 迷宮に魔石(極大)の存在を確認しました ―― 迷宮のエラー(解消済み)を確認しました ―― 迷宮への入場者が五万人を突破しました ―― 迷宮出現可能地域が、陸上の十分の一に到達しました ―― ラビリンス・クリエイト・ナビゲーションの、一部機能が解放されました なにやら複数の条件をクリアしたことで、今度はいったい、どんなトンデモ機能がアンロックされたのかとドキドキしつつ、アトリエのパソコンモドキで確認した僕は、椅子ごとひっくり返りそうになった。 「んなんっじゃこりゃぁ!?!?」 僕が扱うラビリンス・クリエイト・ナビゲーションが、実はかなりヤバい代物ではないかと薄々感じてはいたけれど、ついに一線を越えてきた。 (『迷宮内物質の再変性及び再定義権限』……これって、あれだよな? 燿石対策ができるな?) つまり、迷宮範囲に入れてしまえば、抗魔力物質であるはずの燿石を、無害な物質に変えてしまうことができるのだ。 「ヤバい。これはヤバい」 もしも、燿石の存在が聖ライシーカの手によるものならば、僕はそれとほぼ同等の能力を手に入れたことになる。 (僕、本当に人間辞めたかな? いや、僕の力じゃなくて、LCNの機能だ。僕はまだマトモだ) ちょっと混乱してきたので、とりあえず盆栽のポーズをとりつつ、椅子ごとクルクル回ってみた。目がまわったので、すぐに止めて、モニターの前に戻った。 (ええっと、続きがあるな。付随効果として、より魔力を通しやすく留めやすい物質の製造許可……ああ、これ、呪いのビキニアーマーみたいなのを作りやすくなるのか) これは助かる。いまでも迷宮の魔物素材はかなり魔力を通すけれど、そこから加工するのはけっこう大変なのだ。加工するための道具も、それなりの物を用意できるなら、より捗るだろう。琢磨や水渓さんにも伝えておかないと。 (それから、迷宮外から取り込んだ物の、分解と再構築。これも前々からある機能だけど、基本的に元素は弄れなかったんだよな) 無機物は無機物にしか再構築されず、死体の炭素からダイヤモンドは作れても、大山羊の毛皮から金は作れなかった。それを、変換効率とかは置いておいて、ファンタジーパワーでなんでも造り変えられるようになってしまったのだ。おやつの石焼き芋とほうじ茶から、ヒヒイロカネが生産される可能性すらある。 (砂糖とスパイスと素敵な物を混ぜ合わせてケミカルXを加えるとパワーパフ〇ールズが出来るような感じだな。なんてハイパー錬金術) 僕よりもイトウに任せた方がいい案件かもしれない。いや、倫理的に僕が手綱を持っていた方がいいのか? とにもかくにも、この機能で燿石を無害な鉱石に変えられるかもしれない。なんなら、不足している亜鉛や他の元素に変えちまえとも思う。 僕はこの件を迷宮会議にかけ、大興奮なイトウを抑えつつ、側近たちの承認を得た。 そんなことがあったおかげで、ルスサファ北部の魔の森には、僕史上最強にして最凶な迷宮都市『聖懲罪府スピカ』が爆誕した。 『水涯の古都アケルナル』も十分に危険で凶悪なのだけれど、意志を持った戦力、軍隊として考えたら、スピカの方がはるかに効率よく戦えるだろう。装備も良い物を揃えられているし。 いやちょっと過剰戦力だったかなと、実装させてから思わなくもなかったけれど、これでもたぶん、教皇国の全戦力と拮抗することは難しいと思われる。でも、バニタスやレイチェルあたりが千人まとまって攻めてくる程度なら、易々と返り討ちにできるはずだ。 (ただちょっと、思想強めで、オブラートに包んだ人間嫌いがアクルックスのルナティエ以上なのがアレだけど) 『聖懲罪府スピカ』にいるアルカ族は、この世界を創り、僕を異世界から遣わした創世神を信仰している……という事になっている。なぜか、僕を救世主として崇めているのだけれど。 僕がスピカに行ったら、輿に乗せられて移動もままなら無さそうなので、なるべく顔は出さないよう遠慮している。だって、怖いでしょ。天使と悪魔が、僕が載ったお神輿担いで練り歩いていたら。僕が怖いの。(二回目) スピカのダンジョンは『巨塔プルガトリウム』と言って、ゲームの『GOグリ』の中でも、モデルになっているのはバベルの塔ではなく煉獄山だった。ダンジョンの中には解呪や回復薬の材料、護符アイテムの素材がたくさんある代わりに、天使と悪魔と大精霊が襲ってくる上に、デバフトラップや難解ギミックが盛りだくさんで、攻略は至難を極める。誰でも入れる一番浅い階層を除いて、推奨レベルは驚きの百以上。 ただし、グリモワール『稀人の知識』になるアイテム「叡智の欠片」はドロップしない。スピカの図書館にも、『稀人の知識』は収蔵されていない。これは愚者の刃をはじめ、スピカに祈りと心の平穏を求めてやってくる人たちに配慮した結果だ。 その代わり、グリモワール『この世界の知識』になる「叡智の欠片」はドロップし、なんなら禁書扱いの物も落ちるようになっている。手に入れられるかどうかは、別の話だが。 (その辺にあるダンジョンからは、『稀人の知識』がそのまま出てくるからね。欲しければそっちを攻略してもらおう) 迷宮のバランスを考えつつ、ただし人間達の混乱は考えないものとしつつ、僕は次の迷宮都市を出すための旅程を考えることに移ったのだった。 |