078 過ぎた力は悩みの種


 世の中は新年を迎え、カレモレ館の中も母上主導の下で簡素ながら新年の装いになり、使用人たちにも交代で休暇が与えられている今日この頃。
「はぁ〜〜」
 夜、ひっそりとアトリエに籠った僕は、パソコンモドキを前に頭を抱える毎日を過ごしています。
「ありえん。このスキルを僕に与えたもうた存在は、僕に神になれとでも?」
 僕の自制心とか倫理観とか、そういうものが試されているとしか思えない。
 この世界の住人を、五人箱庭に入れた。それでアンロックされたラビリンス・クリエイト・ナビゲーションの機能は、「エクストラスキル創造」「現地人へのスキル付与」「迷宮予定地設置範囲拡大」「“障り”吸収範囲拡大」「迷宮ギミック追加」「工房機能強化」の六つ。どれも、今の僕では扱いきれない。
 特に、「エクストラスキル創造」と「現地人へのスキル付与」は、慎重に慎重を重ねても、やったら後悔しそうだし、畏れ多くて手が出しづらい。
「いくらなんでも、僕に期待しすぎだろ」
 シロたちが僕にすごい望みをかけているのは知っているけれど、【環境設計】スキルを僕に付与したのは、シロではなくて、もっと上位の、たぶん、世界を創造したか管理しているような、神様的存在だ。
 シロはこの世界のデータを提供してはくれるけれど、インターフェースであるLCN自体を設計したわけではないだろう。僕の【環境設計】というスキルは、ただでさえ裁量範囲が広い。それなのに、このままLCNの機能が解放されていったら、世界のメインフレームにまで干渉できそうな気配すらしてくる。そんな権限を、自分たちのことすらままならなかったシロが、僕に与えられるはずがない。
 前世で死んだ後、あの大病院のロビーのような空間に立っていたことを思い起こせば、僕にスキルを積んだ存在が、それだけ必要だと考えていたんだろうけれど……僕はただの人間だぞ?
(まあ、慎重に、少しずつ、やっていくしかないか)
 召喚されてくる稀人を保護するために使えるなら、ありがたいことだし、頑張って使いこなすしかないだろう。
「まず、いますぐ効果が出てくれて嬉しいのは、設置範囲拡大だよね」
 これは、僕が一度現地に行かないと迷宮を出すことができない仕様の緩和だ。だいたい視認できる範囲まで近付かなきゃいけなかったのが、直線距離で十キロも近付ければ、間に山や都市があって見えなくても設置可能になった。
(これで、僕が地上を移動する距離が、だいぶ楽になった。街道沿いから、そんなに離れなくて済むな)
 僕の迷宮は、一度行ったことのある場所なら、どこにでも扉を繋げることができるので、同じ道を戻ってくる必要がない。設置範囲が広がったことと組み合わされば、効率がぐんと上がることだろう。
 緩和系のアップとしては、「“障り”吸収範囲拡大」も同じだ。こちらは、迷宮が吸収する“障り”を、どこから引っ張ってくるかという範囲が広がった。これによって、人里から離れすぎているとか、迷宮を出しにくい場所にある星を巡る流れからも、“障り”を吸収しやすくなるだろう。
 「迷宮ギミック追加」は、殺意高い系から金盥かなだらいが落ちてくる系まで、色々追加されているようだ。最初から入っていたギミックも、まだ全部は使っていないし、使いこなすにはセンスが必要なので、心に余裕がある時に考えることにする。
 「工房機能強化」は、主に迷宮で生産される物の生産量アップのようだ。あとは、より複雑な魔法道具が作れるようになった。
 恩恵を受けるのは、僕が無限湧きさせている原料類のストック量や、迷宮都市で製造業をしているアルカ族だ。これは迷宮都市の運営にも影響が出るので、側近級アルカ族たちにもよく伝えてある。
「でぇ〜、問題は、「エクストラスキル創造」と「現地人へのスキル付与」なわけでぇ……」
 簡単に言えば、エクストラスキルは「僕が考えた最強のスキル」を作れてしまう。現在この世界にはない、【解毒魔法】や【死霊魔法】なんかも、僕が仕様を考えて作れてしまうのだ。ちなみに、【回復魔法】は存在するが、聖女シャヤカーが使えたという記録だけで他の誰も持っていないし、【異世界言語】や【アイテムボックス】は稀人限定スキルだ。
 そんな超レアなスキルを、その辺の人間にぽんぽん付与することができるようになってしまったのである。先述の「工房機能強化」と合わせて、スキルスクロールなんていう、現地人垂涎のアイテムまで爆誕させられてしまうのだ。
 チートというにも、ぶっ壊れ過ぎな機能だ。
「でも、ソルに武術系のスキルはあげたいかなぁ。スハイルは【隠密】なんていうレアスキルを持ってたし」
 スハイルをスキル鑑定してびっくりしたよ。どうりで、行動に音がしないし、簡単に気配を消せるわけだ。

スハイル
年齢 23
状態 健康
レベル 7
スキル 【隠密】

(ただまあ、スキルは一人一個なのは、固定なんだよな。そこはありがたい)
 稀人は一人で複数のスキルを持っているし、僕が創るアルカ族にも複数のスキルを付けられるけれど、僕を含めた、こちらの現地人がスキルを複数所持することはできない。LCNの解放された機能を使っても、追加や上書きもできないようだった。
(レアドロップや宝箱報酬で、スキルスクロール入れてみるか? 冒険者引退後の仕事に役立つだろうし、上流階級にも高額で売り買いされそうだし?)
 スキルの種類分布に偏りが出ないよう、調整が必要だろうけれど、遺伝するものでもないし……でも、嫌がらせに使う馬鹿が出そうではあるんだよなぁ。
(希望しないスキルを無理やり習得させられて、人生が好転するならまだしも、転落してしまったら、嫌がらせの道具にされたスキルの方が可哀そうだ)
 まあ、それはそれでドラマが生まれはするんだろうけれど、ひとの人生をどうにかできてしまえる物を、軽々に頒布したくはない。使った人にしかスキルが付与されないとか、迷宮でアイテムとして実装するなら、色々と制約をつけてからだな。
 僕は自分の考えをまとめながら、迷宮会議にかけて、側近たちに出す指示をメモ書きしていくのだった。


 箱庭に作った多目的空き地は、現在はもっぱら運動場として機能している。
 奴隷落ちしていたソルや、長年下男として家の周辺から出なかったスハイルに、筋力と戦闘勘を取り戻してもらうためだ。
「ぜぇ、ぜぇ……」
「はぁっ、はぁっ……」
「ほっほっほ。お二人とも、だいぶ体力が戻ってきたようですな。キレはまだまだですが、持久力は初めのころと比べて段違いです。がんばっていますね」
 地面に伸びているソルとスハイルを、執事姿を少しも乱していないハセガワが、涼しい顔で見下している。
「ハセガワぁ、そろそろ時間だよー」
 昼過ぎから夕食前まで、ぶっ通しで運動している彼らに、僕はちょっとついていけないと呆れる。
「おや……では、今日はこのくらいにしておきましょう。お二人とも、シャワーを浴びていきなさい」
「ハ、ハイ……お疲れ、さま……でした」
「ご指導、ありがとう、ございました……」
 身分や服装に問題があるソルとスハイルを、ブルネルティ家の護衛士たちに混じってトレーニングさせるわけにもいかないので、こうして箱庭でハセガワに指導させているのだけど……。それにしたって、なかなかのスパルタ具合だと思う。僕は絶対にやりたくない。
「そろそろダンジョンに放り込んでも大丈夫かな? 地上での護衛は問題ない?」
「トラップの多い所でなければ、大丈夫でしょう。二人とも、対人経験はありますので、旦那様の護衛としてはスタートラインに立てております。害獣の相手もしたことがあると言っていたので、ダンジョンでサイズが違うエネミーと戦っていれば、しだいに勘を取り戻すでしょう」
 よろよろと箱庭の屋敷に戻っていく二人の背中を眺めるハセガワの眼差しは、少々鋭い。
「ただ、多数を相手にできる体力を増強することと、罠に対する警戒を、もっと学ぶべきかと」
「厳しいなぁ」
「私どもは、迷宮の外で、旦那様のおそばにおれませんので」
 それを言われると、僕も言い返せない。アルカ族たちは、僕のことを大事に思ってくれているし、そのためにアレコレと考えてくれる。僕の護衛になるソルとスハイルへの指導が厳しくなるのも、仕方がないだろう。
「ファラとナスリンを、どうしようかなぁって。連れまわしても暇だろうし」
「この箱庭で、親子で待機させてもよろしいかと。まだアクルックスが出来る前は、ハニシェもそうしていましたでしょう?」
「それもそうか」
 料理や裁縫、家庭菜園などのグリモワールがあれば、退屈はしないだろう。
「ニーザルディア語だけじゃなくて、セーゼ・ラロォナ語のグリモワールを作らなきゃな。いずれは、大陸の向こう側にも迷宮を出すんだし」
「それがよろしいかと。教皇国語を共通語にしている国も多いようですが、カガミなら、それ以外に多く使用されている言語や地域を知っているでしょう」
「わかった。執筆課にも指示しておこう」
 次の旅への準備は、着々と進んでいる。
 それは、迷宮によるこの世界の浸食準備が整っていることと、同じ事だ。