その手を取るのは ―5―


 武蔵に簡単に経緯を伝え、寿村の治療を押し付ける形になったスタッフたちに平謝りしつつ、大和はルイスが作ってくれた猶予を走り回って、まだ怒気を放っているダンテを自分のミニバンに押し込めることに成功した。
(たぶん、手加減はしてくれたんだ。片足だけだったし)
 とはいえ、正面や横からならまだしも、後ろから膝を蹴り砕くなんて芸当ができるとは思わなかった。
「・・・・・・やりすぎちゃった」
「いえ、そうでもありません」
 流れる車窓の向こうを眺めながら、ぽつりと漏らしたダンテに、大和はすかさず大丈夫だと評価した。
「一応、準軍事施設ですよ? 本来なら、警告と同時に銃弾が飛んでもおかしくないんです。とはいえ、うちの人達の全員が全員、長門くんのような実行力を持っているわけではありません。相手が襲ってくるアンセラならよくても、人間・・・・・・それも、非武装の民間人相手に銃口を向けるのは、慣れていませんから。それに、ダンテさんは彼を殺さないで、行動不能にしてくれました。本当に、助かりました」
「でも、なにも権限がない俺よりも、長門くんに任せた方がよかったんじゃ?」
「えっ、長門くんがいたんですか?」
 驚いて尋ねれば、正門まで一緒にいたのだという。だが大和はしばし黙し、やがて首を横に振った。
「いえ、あそこで助けてくれたのが、ダンテさんじゃなくて長門くんだったとしても、結果はあまり変わらなかったでしょう」
 むしろ、長門がアタックに参加しなかったおかげで、いち早くルイスが現場に来てくれた可能性が高い。寿村が負ったであろう怪我の多寡は、このさい誤差の範囲だ。
「・・・・・・大和さんが無事でよかった。今度からは、こういう時は涼ちゃんと一緒に行くんだよ。涼ちゃんなら、俺よりうまく大和さんを護ってくれるはずなんだから」
「すみません。反省しています」
 軽率だったことを反省しているし、ダンテに裁かれなければならない罪を犯させたかもしれないことを申し訳なく思った。でも同時に、助けてくれて嬉しかったことを口にすることができないまま、大和はベッドに連れ込まれてしまった。
「この前、渡しそびれちゃったから・・・・・・お誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます・・・・・・っ」
 ぱぁっと熱くなった顔を両手で覆ったが、大和は緩む口元を引き締めることができない。全裸に、貰った首輪だけという、一番シンプルな格好に、いま新しい要素を付け加えてもらったところだ。
「ええっと・・・・・・一応、一番大きいサイズなんだけど・・・・・・」
「うふふふ、大丈夫ですよ。あんっ、気持ちいいですっ」
「きついとか苦しいとか言わないから、まあいいか・・・・・・」
 威風堂々たる大和の主砲は、根元まで覆う金属製コックサックに包まれて、臨戦態勢になれずにびっくんびっくんしている。先端に切れ込みがあるので、排せつや射精には問題ないが、勃起に強い制限がかかるタイプだ。
「あぁっ、僕の恥ずかしいペニスが、躾けられていますっ! とっても、素敵なプレゼントです! ありがとうございます!!」
「そっかー。喜んでもらえてよかったなー・・・・・・」
 サックを止めている南京錠の鍵を握り込み、ダンテの声と微笑みは、若干虚ろだ。貞操帯をプレゼントして喜ばれると、わかっていてもちょっと常識的な感性にダメージがあるのだ。大和級の変態と付き合う以上、仕方がない事ではある。
「あの・・・・・・では、今夜は僕を虐めていただけるのでしょうか」
「そうだね。またどこかのサルに触られないように、厳しく覚え込ませないといけないね」
 ベッドの上に座り、後ろから素肌を抱きしめられた大和は、ひょいと両脚を抱えあげられた。
「え?」
「ちゅーもーく。これ、なーんだ?」
 目の前に提示された黒いシリコン製の物体は、ぐねぐねと曲がった、なんとも言えない特徴的な形をしていた。
「エネマグラですね」
「大当たり。これに(略)ジェルを塗って、大和さんに突っ込みまーす」
「ひっ」
 重要な部分を略されたジェルをまぶされた前立腺マッサージ器具を押し込まれ、大和はしばし異物感にもがいた。
「あっ・・・・・・んっ」
「うーん、難しいな。この辺かなぁ」
「はっ、ぁ・・・・・・んぅっ!!」
 中から押し上げられる強烈な快感に腰を震わせたが、起つべきところが冷たい金具で戒められたままで、上手く吐き出すことができない。
「ひっ、ひぃっ!あ、あ、だ、だんてさ・・・・・・ぁあッ!」
「ふふふっ。大和さん、かぁわいいぃ。それじゃあ・・・・・・お仕置きの時間だ」
 低い囁き声が耳をくすぐり、大和は気持ち良さにふんわりと意識を泳がせたが、ダンテの指先に撫でられた下腹部の異変に、ぎょっと目を瞬いた。
「えっ!? これは・・・・・・」
 滑らかな肌に蚯蚓腫れのように浮き上がった紅い筋は、みるみるうちに優美な曲線を描いて、妖しげな紋様を完成させた。
「いつか役に立つかもと練習したかいがあった、『中出しされないと満足できない淫紋』!! 見た感じ成功したぞ。あとはちゃんと効果があれば・・・・・・」
「ちょっ!? え!? まさか、このまま・・・・・・」
 ダンテに入れてもらえるのは、最後の最後。それまでは玩具で、しかも中だけでイき狂えという拷問でしかない。
「ジェルで感度も上がって、すごく気持ちいいんじゃないかな。・・・・・・何度でも、イっていいからね」
「ッッ・・・・・・!!」
 それは恐ろしい宣言であるはずなのに、大和の肩や背中に当たる身体は温かく包み込んできて、ここでは存分に自身を解放してもいいのだという安心感ばかりが湧き上がってくる。
「は、はいっ! 駄目な僕を躾けてくだしゃって、あひがとぉごじゃいましゅっ♡ アッ、アァッ、はあぁぁんッ♡」
 つるりとした銀色の金具に股間を拘束されたまま、尻の中を弄るせつない快感に大和の背がしなる。
「俺がどれだけ大和さんの事を大事に思っているのか、わからせてあげるからね」
「は、はひぃっ♡」
 がくがくと腰を痙攣させる大和の右手をダンテが取り、その硬い甲に、柔らかな唇がちゅっと吸い付いた。

 主寝室の床は、プレイルームよりも冷たくて硬いフローリングだ。そこに四つん這いになった大和の背に、ダンテの片足が乗っている。
「はい、もう一回」
「ハァッ、ハァッ・・・・・・」
「返事!」
 ピシャン、とバラ鞭が大和の尻をひっぱたき、快楽に蕩けた悲鳴が上がる。
「ヒイィンッ♡♡♡ はひっ、は、はいッ・・・・・・!」
 貞操帯で戒められた股間からは、ぽたぽたと絶え間なく精液が滴り落ち、床についた両膝の間に水溜まりを作っている。オーガズムによる区切りある射精ではなく、睾丸に収まりきらなくなった分が、勃起しきれない尿道を伝ってあふれ出しているだけだ。
「あへっ♡ はひっ♡ ・・・・・・き、嫌いな人や、知らない人には、ついていきません! んぁああッ♡♡ ああぁぁぁ♡♡」
 舌を出して喘ぎ、虚ろな目のままで、へこへこと腰を振って絶頂を訴えるが、がっちりとホールドされた主砲は勃起することを許されず、悪戯に尻の中に埋まっている玩具を締め付けるだけだ。
「しっかり覚えた?」
「はひぃっ、はひぃっ・・・・・・イグっ♡ ぼく、の、おんなのこアクメ♡ またイぐぅぅ♡♡♡」
「うーん、これってお仕置きになっているのかなぁ」
「カハッ・・・・・・♡」
 大和の首輪に繋がった鎖を引き、ダンテはひゅんひゅんと振り回していた鞭で、もう一度大和の尻をひっぱたいた。
「アヒィィッッ♡♡♡」
 かれこれ一時間近く、同じことを繰り返している。それなのに、大和は躾の鞭を求めるばかりで、いっこうにダンテを求めない。頑丈過ぎる大和のせいで、ダンテは暇になってきた。
「ねえ、大和さん。俺、全然気持ちよくならないんだけど・・・・・・」
「は、はひっ! もうしわけ、ありません・・・・・・っ!」
 大和は四つん這いのまま、がたごそと体の向きを変えると、足を下したダンテの股間に手を伸ばした。
 下着の中から出てきた主砲は、やはり臨戦態勢とは言い難く、眉尻を下げた大和がせっせとフェラチオに励んだ。温かく濡れた舌に包まれ、いやらしく唇で扱かれて、ようやくダンテも元気になってくる。
「んっ、んふ・・・・・・ぅ」
「ふは・・・・・・ぁ、うん。気持ちいよ、大和さん」
「ふぁぃ♡ んっ、んっ♡」
 ちゅぽちゅぽと頬張って吸いつく大和の前髪を梳いて額をあらわにすると、泣きぼくろのあたりまで赤く染まった潤んだ目が見上げてくる。
「すっごくえっちな顔。これ美味しい? 大和さん、可愛いなぁ」
「ぁ、おっ♡ おごっ♡ んぶっ、ぁ、おぉ♡」
 喉まで突っ込まれて、ますます蕩けた顔で奉仕する大和の頭を撫でる。ダンテの手が大和の頭をつかむまでもなく、大和の両手が縋りつくようにダンテの腰にまわって、自らイラマチオを求めてくるので、遠慮なく腰を使って喉奥まで届かせた。
「ごほっ、オッ、おごっ♡ んぶ、かほっ、ぉ♡」
「ぁはっ・・・・・・んっ、すごい。・・・・・・大和さんの喉の奥、狭くて吸い付いてきて・・・・・・あっ、あ、そんなにしたら、気持ちよくて出ちゃうよ」
「はっ、んぶっ♡ ぉ、おごっ♡ ぉほおっ♡♡」
 むくむくと大きくなってくる欲望に息を弾ませると、しゃぶっている大和の方はダンテを咥えたまま腰を振って、喉を痙攣させた。その刺激が、ダンテの先端をきゅっと締め付ける。
「んっ! あっ、あぁっ、気持ちいい・・・・・・っ」
 思わず黒髪ごと頭を押さえつけて、大和が苦しくて気持ちいいように精液を注ぎ込んだ。淫紋の効果で下から中出しされないと性欲は収まらないけれど、大和はきっとそんなことは気にしていないだろう。
「んぐっ♡ ごくっ・・・・・・、こほっ、はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・あぁ♡」
「大和さんも気持ちよかった?」
「はいっ。・・・・・・あの、もっとくだしゃいっ♡ 僕のアナルが、きゅんきゅんしてせつないんですっ♡ えっちな僕の中を、ダンテしゃんのおちんぽで躾けてくださいっ♡」
 おすわりの体勢のまま、もじもじと腰を揺らしながら、焦点が合わなくなってきた目で大和が訴えてくる。
「いい子。大和さんの中まで犯して、躾けてあげるよ」
 ダンテは自力で立つことが難しそうな大和の手を取り、ベッドの上に引き上げてやった。