美味しい君 −2−


 存分に飲み食いして、大和は満足のまま、ベッドでスタンバイしていた。食欲を満たしたら、すぐに横になれるので、やはり宅飲みはいい。自分で片付けねばならないのが難点だが、ダンテが片付けると言って追い出されてしまった。
(・・・・・・遅いですね)
 いつまでたってもダンテが来ないので、大和はしびれを切らして寝室を抜け出した。キッチンもダイニングも、ダンテによって綺麗に片付けられていて、スプーンひとつ、ごみひとつ落ちていない。シャワーの音が聞こえてくるランドリールームを覗くと、ちょうど水音が止んでバスルーム側の扉が開いた。
「キャー!大和さんのエッチ!!」
「古典的な反応をありがとうございます」
 全身濡れたままのダンテはバスタオルを抱えて固まってしまい、大和は早く拭いてくださいと促した。
「えっ、そこで見てるの?その格好で?」
「個人的に、大変開放的な服装です」
 日に焼けていない素肌が、いわゆるコルセットタイプのボンテージに包まれ、腕と脇とを繋いで固定する金具がチャリチャリと鳴っている。両腕を自由に動かせない代わりに首回りが開放的で、別につけている細い首輪を少しずらせば、首筋も露わになる。今夜のスペシャルアイテムは、根元からがっちり締め付けているコックリングだ。首輪から繋がったリードを、早くダンテに持ってもらいたくて仕方がない。
「・・・・・・俺はいま、ファッションにおける閉塞と開放に関する、とても哲学的な光景を目の当たりにしているのかもしれない」
「閉塞ではなく、緊縛です」
 エナメル生地に包まれた胸を張る大和に背を向け、ダンテはため息交じりに体の水気を拭きとっていく。
「寝室で大人しく待っていられないの?そんな恰好で覗き見しに来るなんて、本当に堪え性のないド変態なんだから・・・・・・」
「支度に時間がかかっているダンテさんがいけないんですよ。・・・・・・期待しちゃうじゃないですか」
 大和は滑らかに動く肉付きのいい背中に近付き、タオルに跳ね上げられた髪の下に小さなほくろがあるのを見つけた。
「あっ、こんな所にほくろがあるの、知っていました?」
「え?」
 首の後ろというより、ほとんど後頭部に近い場所なので、普段は髪に隠れていることもあって、自分ではわからないだろう。盛り上がりもほとんどないほくろを観察していると、くすぐったそうに湿った巻き毛が降りてくる。
「そのまま髪を乾かしていてください。他にもダンテさんが知らないほくろがないか、身体検査しますので」
「ええー・・・・・・パンツぐらいはかせてよ・・・・・・」
 面倒くさそうな声の抗議がドライヤーの音にかき消されていき、大和はうきうきと柔らかな筋肉に覆われた腰を撫でた。もちろん、ほくろを探すなんて口実で、ダンテが遅かった理由に、積極的にありつくべきだと思ったからだ。
「うふふふふ」
「・・・・・・大和さん、主砲の仰角。当たってる、当たってる」
「だって、僕の為に用意してくれていたのでしょう?」
「そうだけど、入れるときは、そのごついリングを外してね。俺のおしりが壊れちゃうよ。金属でしょ?三連・・・・・・え、四連?絶倫巨砲マゾの脳みそは、考えることが本当におかしい!!まだおしり触らないで!コックリングごとバキバキにおっ立ててる主砲を踏むよ!?」
「あぁっ、ありがとうございます。もっと罵ってください!もちろん、踏んでくださってけっこうです。ご遠慮なく」
「もう・・・・・・大和さん、待てっ!」
 ダンテのむちむちした尻を開くように触っていた大和の、生身の右足の甲に、ダンテのかかとがガツンと踏み下された。ごりっという骨が軋む音と痛みに、全身に得も言われぬ熱が滾り、コックリングの締め付けが喰い込む。
「いぎっ!?あぁっん!あはっ、はひっ!いいッ・・・・・・っ!」
「はいはい。ステイステイ」
 息を弾ませながらダンテの背に上気した頬を押し付けると、ごーっというドライヤーの温風が、時折頭頂部をかすめていく。
「はぁんっ・・・・・・待て、と言われて待つ、この窮屈で焦れる快感・・・・・・っ、素晴らしいですっ」
「そんだけちんこでかくしてりゃきゅうくつだろ。つか、こすりつけるなって・・・・・・」
 なにやらうんざりした調子で低く呟く声が聞こえたが、残念なことにドライヤーの音で聞き取りづらい。
「ぜひ、そのままのダンテさんで蔑んでください。さあ、恥ずかしがらずに」
「恥ずかしいのは大和さんの方だからね?自覚して?」
 温風でふわんふわんになった巻き毛をかき回しながらダンテは大和を見下ろしてきたが、そのため息交じりの呆れた眼差しが大和には心地よい。
「このまま夜のお散歩に行けたら、最高に恥ずかしくて気持ちいいと思うんですけど」
「それでお巡りさんに捕まったら、何で止めなかったって俺が怒られそうだよ」
「残念です。次の機会にしましょう」
 「諦めなければ、いつかきっと叶う」の精神で、大和はリードを差し出し、仕方なさそうにダンテがそれを受け取った。

 ベッドの上で互いの性器を舐め合いながら、大和は今夜の衣装選びに失敗したと感じた。ダンテが下になってくれるとわかっていたら、両腕が自由にならないボンテージなんか選ばなかった。しかし、仰臥した大和の口にはダンテのペニスが居座っており、自分のペースでフェラチオに励むこともできず、ゆるゆると喉の奥まで犯される苦しい快感には、大変満足している。
「はっ、ぁんっ!・・・・・・んんっ、ぅぐ・・・・・・ごほっ!」
「はぁっ・・・・・・ん、気持ちいいよ、大和さん。そんなに奥で吸い付かれると、出ちゃいそうなんだけど」
 大和の上で煽情的に腰を振るダンテは、大和の首輪に繋がったリードを掴んだまま、コックリングに拘束された大和のペニスを扱きながら舐めている。唾液が乗った舌で執拗に先端を撫でまわされ、カリの裏やくびれまで唇で丁寧に愛撫されると、もっと咥えて欲しくて腰が跳ねる。腕を繋ぎ止めている金具のガチガチという音が余計に興奮を促して、口の中の肉棒に舌で撫でるように吸い付いて快感を強請った。
(はあぁ、気持ちいいです・・・・・・っ、あっ、キツ・・・・・・!)
 金属で拘束されたペニスが、温かく濡れた口腔で扱かれ、出たり入ったりしている。快感のせいで緩んだ脚の間で、伝い落ちた唾液を擦りつけるようにやわやわと睾丸を愛撫されると、もう我慢ができなかった。
「んうぅッ、ぁぐ・・・・・・うふぅッ!ひうぅ・・・・・・っ!」
「んふぁ・・・・・・あはっ、すご。こんなにガチガチで・・・・・・大和さん、もう出ちゃいそう?はぁっ、俺も、んっ・・・・・・イきそうっ・・・・・・はぁ、んっ」
「んっ!?ふぅっ・・・・・・ぁ、んうっ!んぐぅ!」
 ずぷぷっと喉奥まで咥えられる狭い感触と同時に、自分の口の中にも無遠慮に突っ込まれ、上も下もいいように弄ばれる屈辱感で、大和は気持ちよく喘いだ。激しくなるほど自分で自分のものを咥えているように感じて、それもたまらない。
「ンッ、ふぁ、ぁ・・・・・・!」
「ぉご!?」
 びゅくっと精液が喉の奥に当たる衝撃に、大和もペニスに施された緊縛をものともせずに射精した。
「ぅわっ」
「がふっ!ん、ぁ・・・・・・ぁげほっ、はぁっ、ぁあ・・・・・・」
 口の中から抜けていくダンテを名残惜しく思ったが、大和に向き直ったダンテの顔を見て、笑いそうになった。
「大和さん・・・・・・イくならイくって言って?」
「む、無理です!だって僕、ダンテさんのおちんちんを咥えていたんですよ!?」
 大和の精液をまともにかぶってしまい、顔や髪から白い体液を滴らせるダンテは、なかなか悲惨な状態になっている。
「もー。いくら忙しいからって、溜め込まないでよ。大和さんは性欲お化けだって言ってるでしょ、自覚してよド変態」
「あぁん、善処します」
 ダンテは大和の精液をふき取り終わると、大和のコックリングを外した。正座を崩したような開放感を物足りなく思うが、一応、健康上の制限時間というものがある。
 リードに引かれるまま不自由な上半身を起こすと、目元を緩めたいつもの穏やかな表情を裏切るように、白い犬歯が笑みの形に吊り上がった唇から覗いていた。捕食者を前に抵抗できない自分という状況が、大和の精神的性感帯をゾクゾクと撫で上げて、枷を外されたペニスが再び硬くなっていく。
「そんなに、僕に噛みつきたいですか?」
「好きだという気持ちと同等かそれ以上に、食べたくなるからね」
「変な人ですね」
「・・・・・・大和さんに、言われたくないなぁ」
 ガリッと噛みつかれた場所が、いつもの柔らかな首筋ではなく、硬い肩に近かった。
「イッ・・・・・・!!」
 身動きができない自分は、まるで、夢でみたよう。それでいて、容赦のない痛みが、現実だと知らしめてくる。
「い、た・・・・・・っ、ぁ!?」
 当たり所が悪かったのか、いつも以上の痛みがあり、肉が裂け、骨が砕けそうな気さえする。その割に、いつもの啜り取られるかのような虚脱感が少ない。
「はっ、ぁうッ・・・・・・イ・・・・・・ッ」
「ん・・・・・・あれ、失敗したかな?」
 噛みついている方も何かおかしいと感じたのか、口を離して首を傾げている。
「はぁっ・・・・・・ぁっつ・・・・・・し、失敗とか、あるんですか?」
「たまに」
 けろりとした顔でダンテが答えると、自分で付けた血のにじむ歯形をぺろぺろと舐める。
「ごめんね、上手くいかなくて。・・・・・・俺も酔ってるのかな?」
 そうは見えないが、本人も言うとおり、失敗することもたまにはあるだろう。
「どうってことありません。痛かったので、僕は構いませんし」
 両腕は相変わらずコルセットに繋がったままで、自分の上に乗っているダンテの腹を裂いたりは出来ない。もちろん、本当に胸に心臓が埋まっているのかを確認することも・・・・・・。
「どうしたの?」
「いえ。・・・・・・なんだか、気持ち良さが中途半端です」
「うーん、そうかぁ・・・・・・ちょうどいいサイズになったから入れようかと思ったけど、このドMはこのまま踏んだ方がいいのかな」
 すっくと立ちあがったダンテが大和の胸をゲシゲシと蹴りだし、首輪に繋がったリードを引っ張られたままの大和は頬を赤らめる。
「あぁっ、どちらも大歓迎で・・・・・・あんっ、とても気持ち良くて、またイっちゃいそうです」
「他人の足の裏が好きな変態!変態変態変態!!」
「あぁっ!ありがとうございますっ!」
 びくんびくんと元気を取り戻した大和にまたがると、ダンテは慣らしておいた自分の内に、見せつけるようにゆっくりと収めていった。