マーキング ―1―
定期的な健康診断の終わりに、Tシャツで覆われていく逞しい肩や背中を見上げて、小鳥遊大和の目が据わる。あっという間に隠れてしまったが、色白な肌に目立つ、いくつもの赤い筋があった。
「長門くん、仲が良いのはけっこうですが、健康診断の前にその傷をつけるなんて、忙しくて彼氏に会えていない僕に対する嫌がらせですか。羨ましすぎて目の毒ですよ」 「あー、あいつすぐ消えちゃうんだっけ? それなら、大和に付けてもらえばいいじゃ・・・・・・んえ? 大和って、入れる方できる!?」 「そこ、疑問形で驚くんですか。どっちもできますよ。そうじゃなくてですね」 話を聞いていたか、会えていないって言っているだろ、とばかりに切れ長の目に剣呑な光が宿りかける大和に手を振り、瀬良長門は元気よく診察室を出ていった。 「おつかれさーん! あー、腹減ったー」 「はい、お疲れ様でした・・・・・・」 疲れた声で長門を見送った大和は、しばらくカルテやデータに向かい合っていたが、控えめなノックと共に来客を迎えた。 「時雨さん、どうしました?」 「あの・・・・・・いま、いいだろうか?」 大和の診察室に滑り込んできた萩原時雨が、おずおずと切り出した相談事に、大和は表面を繕いながら、今度こそ胸の内で天を仰いだ。 「・・・・・・わかりました。僕流の解決方法でよろしければ」 「助かる」 頬を赤くして礼を言う時雨に、大和はにっこりと微笑んだ。 「では、縛り方を教えますね。あと、お土産もつけますよ。これは調合に失敗して、一番肝心な効果がほとんど消えてしまった試作ロットですから、時雨さんや長門くんが使っても大丈夫です。僕からの、出血大サービスです」 「え・・・・・・?」 やっかみと言われようとも、欲求不満中に目の前でイチャイチャされる苦痛に対して、それなりに仕返しをしてもいいはずだ。 ノックもなしにドアを開け放った長門は、自室のベッドに腰かけて一心不乱に両手を動かしている時雨を見つけた。 「・・・・・・なにしてんの?」 「見てわからないか。両手を縛っているんだ」 時雨の両手首に巻かれた白いナイロンロープを見ればわかるが、なぜそんなことをしているのかがわからない。 「大和の趣味が 「そうじゃない」 早く解毒しないとヤバいんじゃないかと狼狽える長門に、時雨はロープの端を投げだして両手をぶらつかせた。自分で自分の手を縛るのは難しくて、疲れて攣りそうなのだ。手本を見せてくれた大和だが、なぜこれが出来るのか不思議で仕方がない。 「いつも瀬良の肩や背中をひっかいてしまうからな。どうにかできないかと・・・・・・大和さんに相談したのは当たっているが」 「相談する相手、他になかっ・・・・・・いや、ねーな」 名坂支部の面子を思い浮かべて、長門はすぐに否定した。それにしたって、なぜ自分にまず相談しないのかと、もやっとしたものが若い胸にわく。 「ひっかかれるの、べつにいいよ。たいして痛くねーし」 「そういう問題じゃ・・・・・・」 時雨は申し訳なさと居たたまれなさが酷いのだと説明するが、長門にはあまりピンとこない。しかし、時雨が嫌がっているのなら、譲歩する必要があるだろう。 「わかった。どうすりゃいいの?」 「すまん。えっと・・・・・・」 時雨の指示通りに長門はロープを巻き、そこそこ綺麗に縛ることができた。多少動かしたぐらいで抜けてしまうこともなく、結び目も意外としっかりしている。 「ん、痛くねー?」 「大丈夫だ・・・・・・え?」 両手を縛られたまま、こてんとベッドに押し倒されて目を瞬く時雨に、長門はよいしょと圧し掛かっていく。 「ま、待て!?なにをする!?」 「なにって・・・・・・このままするんでしょ?」 「は!?待て待て!い、いまからそんなつもりじゃ・・・・・・!!」 時雨はじたばたともがくが、そもそも体格に勝る長門を押しのけられたことなどない。しかも、いまは両手が使えない。 「Hey, Hold up !」 「っ・・・・・・!」 長門の片腕一本で、時雨の両手はぐいっと頭上に押し上げられ、そのままベッドに押さえつけられてしまった。 「瀬良・・・・・・っ!」 「・・・・・・うっわ、えろい」 「はなせっ」 恥ずかしさに真っ赤になって身をよじる時雨を見下ろしたまま、長門の口角がふわりと上がった。 「時雨、かーわいいっ」 「やっ、ぁ、ま・・・・・・っ!」 ちゅっと唇に触れた軽さは優しいと言えるのに、時雨を押さえていない方の手は遠慮なくベルトを外してずり下げていく。ゴムと布地の防壁を指先で突破して、まだ柔らかな欲を撫でる性急さに、時雨は首を振って抵抗の意志を見せるが、長門は全く意に介さない。 「あっ、やっ・・・・・・ぁあ!」 するりと服地が離れて肌が外気に触れるほど、時雨の体はかえって長門に密着しようとするのだが、時雨自身はそれに気付いていなかった。 「せ、瀬良っ!」 「なに?」 Tシャツがたくし上げられ、温かくて大きな手のひらが腹筋の凹凸を撫でていく。日頃から重い拳銃を持ち、その反動を受けている手のひらは、刀を握る時雨とは違った場所の皮膚が厚くなっている。長門の手だと意識する、それだけで時雨の息が上がって、喘ぐような吐息が反らされた喉から漏れた。 「時雨だって期待してんじゃん。だから、縛ってたんでしょ?」 「そ、そうじゃな・・・・・・ひっ」 温かく湿った感触が首筋に吸い付いて、びくりと跳ねた体が長門に当たる。閉じることができない両脚は、素肌の内腿がもどかし気にジャージに擦れた。 「ん、ちょっと我慢できねー」 「最初から我慢する気ないだろ!」 ばさっと自分のTシャツを脱ぎすてた長門は、逃げようとする時雨のTシャツにも手をかけ、ロープが巻かれた手首に引っかかるまで脱がせてしまった。 「ぁ・・・・・・」 「めちゃくちゃ可愛いじゃん」 「可愛いって言うな!ぁひっ!?」 ちゅっちゅっと胸をついばまれ、肌寒さに立った乳首を含むように舐められると、もうそれだけで時雨の目は潤んだ。 「あっ、あ・・・・・・やめっ・・・・・・ひっ、や、だめ、だっ・・・・・・せらぁっ!」 ちゅぱちゅぱと吸われ、舌先で丁寧に転がされ、じんじんとしたもどかしい快感が下腹部へと伝播してせつない。 「んっ。時雨、気持ちいい?」 「はっ、はぁっ・・・・・・ぅ・・・・・・」 時雨は恥ずかしさにぎゅっと目を瞑るが、脚を持ち上げられるついでに尻を撫でられて体が跳ねた。無防備にさらされて、隠しておきたい場所がすーすーする。 「ひやぁっ」 「あ、ヤベっ。ゴム持ってくんの忘れた」 相棒の部屋に来るのに、ナチュラルにコンドームを持参する方が問題だ。しかし、それと潤滑剤がない男同士の性行為は無謀といえる。 中途半端な状態であたりを見回し始めた長門に、そこら辺の引き出しをあさられてはたまらないと時雨は観念して、机の上に置きっぱなしにしてあった白いプラスチックの容れ物を示した。 「それ・・・・・・使えば、中に出していいって・・・・・・」 「はっ!?」 まさかの中出しOKに、長門のアホ毛が跳ねたように見える。大和から貰った潤滑ジェルだと言えば、納得したようにうなずいた。 「すげーな。今度大和に優しくしてやんなきゃ」 優しくするより踏んであげた方が喜ぶんじゃないかな、と時雨は思ったが、それよりもこの状況を作ったのが大和ではないかという疑念が浮かんで憮然となった。 「じゃあ、これ使って、時雨の中に出すよ」 「っ・・・・・・」 長門はカラカラとジャーの蓋を外し、意外とローションのように水っぽいジェルを指に絡ませて、真っ赤になっている時雨を見下ろしながら、慎ましく締まっている窄まりに押し込んだ。 「ッ・・・・・・はっ、あ・・・・・・!」 時雨のアナルはジェルの力を借りて長門の指をつるんと飲み込み、さらにくちゅくちゅと広げられて慄く。 「あっ、んっ・・・・・・はっ、ぁ、んんッ!」 「ここ好きだろ?」 「ひっ!やめっ・・・・・・よせ、瀬良っ!そこ、や、め・・・・・・ぇッ!」 内側から前立腺をぐりぐりと弄られて時雨は背をしならせたが、長門の指にぐちゅんと奥まで入ってこられて、息がのどに詰まった。二本の指でもいっぱいで、ジェルのぬめりに負けないくらい、きゅうきゅう締めあげてしまう。 「ァ・・・・・・ぁ、ハッ、あッ、も・・・・・・ぉ!」 「もうちょっと広げねーと、入んないよ」 「っ、ヒ、ィッ!ァッ!」 時雨の脚は大きく開かされ、長門が吸い付いた滑らかな内腿は、唇が離れるたびに赤紫色に染まった。ジェルも指も飲み込んだ時雨のアナルは、ぐちょぐちょちゅぷちゅぷと音をたてて、物欲しそうに蠢く。 「あ、あっ、せ、らっ・・・・・・あっ、ふ、ぅっ・・・・・・も・・・・・・ッ」 「イきそう?」 きっちり起ち上がったモノに視線を感じながら時雨がこくこくと頷くと、目尻に溜まった涙がこぼれた。 「このままイく?それとも、中に欲しい?」 「な、なか・・・・・・っ、この、ままじゃ、つらい・・・・・・!」 「りょーかい」 「アッ」 長門の指がずるんと抜けたせいで力の抜けた時雨の体に、温かな重みが圧し掛かった。 「はっ、はぁっ・・・・・・」 「入れられんの待ってる時雨、かーわいい」 「ぁ・・・・・・ンッ、ぁあああっ!!」 両手を縛められたまま仰け反る時雨を押さえつけ、長門はじっくりと自分の巨砲を時雨の中に埋めていった。 「ハッ、ハッ、ハッ・・・・・・」 「んっ・・・・・・く、すご・・・・・・。生って、こんなにヤベーの?」 「はぁーっ、あ、あぁっ、あぁ・・・・・・っ」 みちみちと時雨の中を広げながら進む長門の額に汗がにじんでいる。時雨はそれを見上げているはずなのだが、穿たれる腹の中の感覚の方が強くて、外側の刺激を上手く受け取れない。 「はぁっ・・・・・・ひっ、いっ・・・・・・」 「気持ちいい?」 「ぅ、あ・・・・・・い、いいっ、も、っと・・・・・・」 「っ・・・・・・!」 ごりっと奥まで拓かされた快感に、時雨は声のない悲鳴を上げて白濁を噴き上げた。 |