極太の楔に腹の中でずるずると動かれ、時雨はただ息をするだけしかできない。
「はぁっ、はぁっ･･････アァッ」
　ゆっくりとした動きだが、奥まで満たされるのと、抜けそうなほど退かれるのとを繰り返されると、快感の波を自分で掴むことができなくてもどかしい。
「ぁ、う･･････はぁっ、あぁっ･･････」
「時雨･･････っ、そんなに締められると、動けねーって」
「ぃ、いから･･････、もっと･･････はっ、ぁ･･････せ、らぁっ」
　舌打ちしそうな長門がなにか呟いたが、時雨にそれは聞こえず、膝裏を抱えられて、むぎゅうと抱きしめられた。ずぶずぶと奥まで長門が刺さり、隙間からあふれ出したジェルがぷちゅぷちゅと嫌らしい音をたてた。
「ぁ、ふ、あ･･････ぁあッ」
「奥まで広げられんのが好き？」
「しゅ、き･･････ぃっ、せらっ･･････はぁっ、せらが、いっぱ、い･･････っ」
「･･････そんな顔されたら、我慢できねーってのっ」
「ん、ぁ、あっ、あっ！」
　先ほどまでのスローストロークが嘘のように、奥まで広げられた時雨の中を、筋張った硬い肉棒ががつがつと穿っていく。情けなく上がった尻に長門の腰が打ち付けられ、滑らかな亀頭に狭い奥を突かれる蕩けそうな感覚に、時雨は巻き付けられた自分のシャツを握りしめて喘いだ。
「ひぅ、いいっ、イくっ、お、くっ、おく、くるっ」
「気持ちいい？イきそう？」
「あ、あ、あ、あ、あ、イくっ、イクッ･･････あ、ぁッ、アァッ！」
「っ･･････！」
　ひくんひくんと腰を震わせて絶頂を訴えると、ひときわ奥までにねじ込まれた先端から、どくどくと熱い迸りが吐き出されるのを感じた。
「ぁ、あ･･････ッ、せ、ら･･････ぁ！」
　じゅわりと自分の体に染み込んでくる熱が、ただただ愛おしくて、時雨はふわふわとした意識のままで微笑んだ。
「はぁっ、はぁっ･･････、ん、すげ･･････。時雨、気持ちよかった？」
「ぁ･･････きもち、いい･･････っ、んむっ」
　合わさった唇から唾液を滴らせた舌が絡みついてきて、時雨は懸命にそれを吸って、吸い返された。腹の奥まで染められたのに、今度は喉の奥まで長門に染められる感覚に、息をするのも忘れそうだ。
「ん、ぉ･･････はっ、はぁっ･･････」
「はぁっ、すっごい･･････んっ、中、まだヒクヒク締まってんだけど、さ･･････。時雨、自分が何回イってるか、わかる？」
「･･････？」
　気持ちよすぎて震えるような呼吸を鎮め、時雨はふと、長門に抑え込まれたままの体をよじった。
「せ、ら･･････これ、とって･･････」
「これ？もう取っていい？」
　時雨が頷くと、長門は時雨の手首に巻きついていたロープをほどき、邪魔なシャツも脱がせた。
「ぁ･･････」
　自由になった腕は少し痺れていたが、時雨は構わず長門の体にしがみついた。指先に当たるさらさらとした感触は、金色の髪に違いない。
（あったかい･･････）
　コシのある黒髪を梳かれ、ふにふにと額や頬にキスをされると、自分がどんな格好をしているのかも忘れて、このまま丸まって眠りたくなる。
「ん･･････」
「ぅあ･･････ッ」
　時雨の体から力が抜けたのと、長門が動いたせいで、ジェルと混じった白濁が結合部からごぼりと溢れ出す。
「ちょっと、抜く･･････」
「ま、って･･････この、まま･･････！」
「！？」
　長門は恥ずかしそうに顔を赤くして狼狽えているが、時雨は腕の中の温もりが離れてしまう方が嫌だった。
「行くな･･････っ」
　自分よりも逞しい素肌にぎゅっと抱きつくと、さっきまで長門が抜けそうだったアナルが、またみっちりと広げられたように感じた。
「え･･････」
「･･････そんな顔でそーゆーこと言われたら、デカくなるの当たり前だろ」
　耳元で囁かれた低い声と共に、もう一度奥までずぶんと満たされる。
「ァ･･････！」
「もう、止まんねーからな」
　すぶんずぶんと突き上げられる激しさは、時雨が受容する快楽よりも長門が求める快感に偏っていたが、それさえも時雨には脳が蕩けるような、甘美な刺激だった。
　無意識のままに締める腸壁が、ぬるぬるしたジェルと一緒にゴツくて硬い怒張に擦られる。何度も何度も気持ちいいところを往復されて、時雨は悲鳴をあげながら腰を振って、終わらない快感を吐き出そうとした。
「あぁっ、あ、いいっ、はっ、ア、アァッ･･････せらぁっ、お、きぃ･･････アッ、ぅふ、んンッ、ンンッ！」
　はぁはぁと犬のように出していた舌を、噛み付くように合わされた柔らかな唇に吸い付かれ、また目の前にぱちぱちと火花が散る。
「時雨、気持ちいい？ここ、気持ちいい？」
「ひっ、い、いいっ、きもち、いいっ･･････！」
　もう時雨の腹の中は、先に入れたジェルよりも、長門が出した精液の方が多くなっていたが、宣言どおり長門の動きは止まらず、ぐずぐずにぬかるんだ奥をかき回される。
「アァッ、ヒッ、ぉ、･･････ら、め･･････ま、た･･････」
「またイきそう？イっていいよ、ほら、時雨、イっちゃえ！」
「せ、らぁっ･･････あ、あっ、あぁっ、イくっ、またイくっ！あぁっ、せらぁ･･････っ！」
　ガクガクと震える身体を押さえつけられたまま、時雨は中を擦りながら力強く奥をノックする先端に吸い付いて強請った。
「おくっ、もっと、せらっ、せらぁっ！い、っしょ、･･････っ！」
「っ･･････しぐれ、んっ！」
「せ、らっ、ぁ･･････ひッ、ぁあああッ！！」
　どろどろに蕩けたさらに奥を濃い精液に撃ち抜かれ、時雨の体は爪先まで強張らせて絶頂を訴えたが、もう薄まった体液をにじませることすらできなかった。
　唯一自由になる両手から力が抜けてシーツに滑り落ちた時、その爪の先には、わずかに鉄臭い赤がこびりついていた。


　長門から遅れて健康診断の日になった時雨の体を、大和は死んだ目で見ることになった。
「････････････」
「す、すまない･･････」
　恥ずかしさで耳どころか首まで真っ赤になった時雨には、その首も胸にもいたるところに小さな鬱血が散らばり、たぶん、腿や尻も同じ状態だろう。
「僕のやり方で、効果はあったんでしょうか」
「･･････俺たちには合わない、と思う」
「そうですかー」
　よくお似合いですけど、と続けたいのを呑み込んだ大和に、時雨は悲しそうに目を伏せた。
「途中で瀬良に解いてくれとせがんでしまって、結局いつものようにひっかいてしまった」
「そぉですかぁ〜」
　握った三色ボールペンがミシリと音をたてたが、大和は気にせずカルテを書き進め、診察を終わらせた。

　その日の夜、時雨は出動待機の為にベンチに腰かけて本を読んでいたが、声を掛けられて顔をあげた。
「ボナセーラ、時雨」
「ダンテ？今夜はシフトじゃないだろ？」
　そこには、栗色の癖毛頭をＴＥＡＲＳ制式ジャケットの上に載せた、陽気な吸血鬼が立っていた。
「ルイルイに呼ばれたんだよ。司令官が、大和さんの抱き枕を出勤させろって言ったらしくて」
「そうか。大変、だな･･････」
　自分と同じ制式ジャケットの腰に、黒革を束ねたような細長い物体を認めて、時雨はなにも見なかったことにした。ルイスも持っているような道具を持参の上『出勤』させて、何の仕事をさせるのか、見当がついてしまった。
「いいってことさ〜」
　そう言いながら顔を近付けてきたダンテから、時雨は少し身を引いた。
「な、なんだ？」
「･･････いや、怪我がなさそうなのに、うっすら血の匂いがするのと･･････時雨から長門くんの匂いがするから。お盛んだなぁって」
「はっ！？」
　ビキッと時雨が固まっているうちに、ダンテは「いいなー。大和さんも早く仕事終わらないかなぁ」とぼやきながら歩き去っていった。
「お、俺から？瀬良の、にぉ、ぃ･･････！？」
　その後、挙動不審になった時雨が長門に問い詰められ、正直に白状したがために、その晩も匂い付けをすると言ってベッドへ引っ張り込まれたのは、必然と言っていいかもしれない。



「ダンテ、どうすれば、その･･････する時に、相手をひっかかずにできるだろうか」
「へ？　正常位の時しがみついちゃうの？　それなら、後背位とか騎乗位でやればいいんじゃない？」
「その手があったか！」
「･･････長門くん、喜ぶと思うよ。時雨が自分の上で腰振って喘いでくれるなんて」
「！？！？！？！？」

　萩原時雨の懊悩は続く。