一粒の飴玉 ―2―


 どんなにわがままを言っても、呆れながらいいよと言ってくれていたのに。いつも穏やかな空気と笑顔で大好きだと言ってくれていたのに。
(急に、会わないなんて言い出すから・・・・・・)
 手を放したら、そのままどこかに行ってしまいそうで、怖かった。
「ん、ふっ・・・・・・、ぁ」
「はぁ・・・・・・」
 ドライな関係が楽でいいと遊んでいたのに、いざ会えなくなると誰かに取られてしまうのではないかと焦るなんて、勝手なことだと思う。
「やまと、さ・・・・・・んっ」
 もう余計なことを考えないように、胸が苦しくなるようなことを言い出さないように、口を封じて繋ぎ止めておかなければいけない。
 ぬるりと舌が絡み合うたびに、頭の芯がじんと痺れるような感じがする。わずかな脱力感と目眩は、興奮したせいだろう。
「・・・・・・っは、どうしたの、大和さん?すごく積極的だ」
 大和に押し倒されて、ダンテは頬を染めて見上げてくる。
「しばらくしていませんでしたから」
「ふふっ、本当だ。我慢できない?」
「っ・・・・・・」
 膝で股間を撫でられ、大和はびくりと体を震わせた。こんな時でも、身に染み付いたマゾの性が喜んで、ぞくぞくと湧き上がる快感にだらしなく喘ぎたくなる。
「はぁっ、いけません・・・・・・ぼく、は・・・・・・ッ」
「踏まれるのが大好きなくせに、俺を押し倒していいと思ってるの?気持ちよくなるの期待して、もうこんなに大きくして、堪え性のない人だなぁ」
「ふぁあっ、しょこ、ぐりぐりしちゃ・・・・・・っあぁッ、ンひィ」
 腰を上げたまま、ダンテの上にくたりと肩を落とすと、いつものように少し荒れた指先が頭を撫でてくれる。頬に触れる温かい体から、とくとくと安らげる鼓動が聞こえてくる。
「うぅ、こうやって甘やかされてばかりだから、勝手なことを言われるんですよ、僕は」
「俺が悪かったから、もう怒らないで」
「怒っていません。そりゃあ僕はマゾですが、だからと言ってダンテさんに離れられるのは嫌です。僕にだって独占欲くらいあります」
「ッ・・・・・・本当に、今日はどうしちゃったの?大和さんが素直すぎて、俺の語彙から罵倒が消える・・・・・・」
「ダンテさんのせいですからね!?」
「じゃあいっそのこと、今日は大和さんが入れてみる?俺も大和さんに独占されたいから」
 驚いて青い目を覗き込むと、どうしたのと言いたげに太い眉が上がる。
「・・・・・・いいんですか?」
「大和さんが、俺相手に起つならね」
 鼻で笑う様な言い草は、マゾ精神を刺激すると同時に、大和に妙な昂りを覚えさせた。やれるものならやってみろ、という強い誘惑が、吊り上がった血色の良い唇から放たれているようだ。
「俺の準備はいいよ?こんなこともあろうかと、少しずつ慣らしてきたからね」
「ご自分で?」
「俺が他人にやらせると思った?」
 考えれば当たり前のことだが、ダンテが他人に寝取られるなどという妄想は、治りかけた心のささくれをむしり取るのに十分だった。
 シャツをたくしあげて厚みのある体を撫でると、目の前にある喉がしなやかに仰け反った。さらりとしているのにもっちりとした、意外と触り心地の良い肌に、プレイで拘束されていたとはいえ今まで触らなかったのは、ちょっとした損だろう。
 首筋に唇を這わせながら、柔らかな乳首をまさぐると、すぐに硬く勃起して大和の指先を楽しませた。
「はっ・・・・・・ぁ、んっ」
「ここも、ちゃんと気持ちいいんですね」
「そりゃ・・・・・・大和さんが、触ってくれているから、ぁッ」
 くせ毛がかかる耳を甘噛みすると、大和の下で跳ねた体がむくりと起き上がった。
「なんですか、僕にやらせてください」
「くすぐったい」
 互いの服を剥ぎ取ると、大和は機先を制してダンテの腰に組み付いた。
「大和さんっ?」
「ダンテさんは気遣い上手でプレイは丁寧なのに、自分のことになるとせっかちなんですよ」
 自覚があるらしく視線を逸らせた隙に、緩く立ち上がりかけたものを、思いきって口に含んだ。
「やっ、まとさ・・・・・・っ!」
「んんっ」
 やったことが無いので上手いはずがないが、筋に沿って舌を使い、ぎこちなく奥まで咥えてみる。むせない程度にするつもりだったのだが、いつもこれが自分の中に入っていると思うと興奮して、喉の奥まで迎えたくなる。
「んっ、ぉ・・・・・・ぁ、ん」
「無理、しないで・・・・・・」
 顔にかかる髪を押さえて見上げると、ダンテは顔を赤くして口元を押さえている。
「はぁっ・・・・・・気持ちよくないですか?」
「すっごく気持ちいいです。あと大和さんの顔がエロすぎて・・・・・・」
 ダンテは何かぶつぶつ言っていたが、潤滑ジェルを探した大和は聞いていなかった。傷付けてはいけないので、スキンで保護してジェルを馴染ませると、ダンテの窄まりはあっさりと大和の指を呑み込んでいく。
「ふあっ・・・・・・ッ」
「本当に、自分で慣らしていたんですね」
「ぁッ・・・・・・、大和さんだって、自分で・・・・・・っ」
 確かにそうなので、それ以上言葉で責めるのはやめて、知識にあるポイントを指先で探った。
「ッ!!」
「痛かったですか?」
 栗色の巻き毛がふるふると振られたが、必死に押し殺しているらしく、声がない。解剖学を履修しているマゾなのだから、他人の前立腺を探り当てるのくらい早くて当たり前ではないか。
「ダンテさんの声を、聞かせてくれませんか?」
「ひっ、ぁ・・・・・・こ、れは、予想外の羞恥プレイ・・・・・・」
 減らず口が叩けるなら、まだまだ余裕がありそうだ。ジェルを足して中を広げる指も増やすと、弾んだ息から小さな声がこぼれるようになった。ぐちゅぐちゅと濡れた音に反応して溢れ出した雫が、いきり立った陰茎を伝い落ちてくる。
「このままでもいけそうですね」
「ちょっ、だ、め、だって・・・・・・っ!俺が、さきに潰れちゃうっ」
 大和の指をぎゅうぎゅう締め付けているのに抜け出すと、ダンテは大和の上にまたがった。
「はぁっ・・・・・・入るかな・・・・・・」
「まだ・・・・・・」
「この状態でも大和さんの主砲は十分硬くて大きいの!」
「ひゃんっ」
 そんな無遠慮に掴まれると、もっと硬くもっと大きくなってしまうのだが、ダンテはわかっていてやっているのだろうか。ジェルで十分濡れたアナルにちゅぷんと先端が当たり、大和は期待した温かさにゆっくりと包まれていった。
「はあぁ・・・・・・っ」
「あっ、はっ・・・・・・ぁあァッ!はぁっ、ぁ・・・・・・ぁ!」
「すごい・・・・・・ちゃんと、入っていっていますよ」
「んっ・・・・・・」
 しかし、大和の肩に置かれた手は震え、浅い呼吸が繰り返される。大和は滑らかな背に腕を回し、男にしては肉付きのいい柔らかな尻を掴んだ。
「や、まと、さ・・・・・・はっ、はぁっ・・・・・・ぁああッ」
「はい・・・・・・全部、入りました」
「ひっぁ・・・・・・!ぁッ、はっ・・・・・・ひろ、げ、ないで・・・・・・ッ」
 大和を包み込んだ肉壁は熱くて狭くて、ひくりひくりと奥へ誘う様な締め付けに、思わず甘いため息が出る。
「ふふっ、捕まえました」
 目の前でせつなげに上下する鎖骨に口付け、火照った頬を摺り寄せる。肩幅が広くないから華奢に見えるだけで、大和の腕の中には伸びやかで豊かな肢体があった。背骨のくぼみを撫で下ろして尾てい骨の形をなぞると、悲鳴と共にぎちりと大和を締め付ける力が強くなる。
「ハッ、ハァッ・・・・・・ぅ、それ、されると・・・・・・う、動けないっ」
「そう言われましても、ダンテさんの締め付けがきつすぎて痛くて気持ちいいので・・・・・・」
「もうやだ、このド変態巨根マゾ!!」
「あぁっ、ありがとうございますっ」
「ッッッ・・・・・・!!」
 うっとりと見上げると、赤く染まった半泣き顔が近づいてきた。大和はその唇に吸い付き、途切れがちな呼気すら貪るように、舌を差し出した。
「は・・・・・・」
「ぁ、んぅ・・・・・・ふ」
 くちゅくちゅと唇同士が音を立て、舌の裏や上顎まで舐められた大和の口の端から、唾液がこぼれていく。
「ぁ・・・・・・だんてさ・・・・・・」
「ん、はぁ・・・・・・」
 長い髪を梳くように頭をかき抱かれてキスを繰り返しながら、ゆるゆると揺れる腰を支える。全身ラバースーツボンテージされたように、びっちりと締め付けるダンテの中で身動きが取れないにもかかわらず、うねる硬い凹凸が、根元から先端までくまなく愛撫していく。
「ア・・・・・・はぁ・・・・・・」
「はぁぁ・・・・・・とても気持ちいいです。痛くないですか?」
「すこし、だけ、苦し・・・・・・」
 大和にしがみついたまま、巻き毛がふるると振られるが、大丈夫、少しだけ、と繰り返される。まだ圧迫感に慣れなくても、気持ちいいところには当たっているのだと、潤んだ青い目が蕩けるような笑みを大和に向けた。
 もう少し待つことも出来た。だが、その微笑が、いつものように世話を焼くだけ焼いて、それだけでひとり満足してしまうようで、大和には不満だった。
「ッあああっ!!!」
 二人の腹の間で中途半端な快感に耐えている滾りを扱いてやれば、力の抜けた腰が落ちて、むっちりとした感触がのしかかってくると同時に、柔らかな奥まで穿ち進む快感がじんと響く。
「やま、と、さんッ・・・・・・ひっ、ぁ!・・・・・・や、ッ!」
「一緒に、気持ち良くなりましょう?」
 ガクガクと震える尻を撫でると、力の入っていない指先が、大和の肩をカリカリとひっかいた。
「や、らっ、まだ・・・・・・やめっ、イく、出ちゃうか、らぁ・・・・・・ッ!!」
「あぁっ、ダンテさんの中がギリギリ締まって、すり潰されそうなくらい気持ちがいいです。そのまま達して、僕のザーメンも搾り取ってください」
 ぬるついた先端を張り出したカリごと扱くと、大和の肩にも爪が喰い込んで、大和を締め付ける襞が大きく波打った。どろりとした快感が、長く長く駆け抜けて噴き出していく。
「ァっ、はっ・・・・・・あああぁッ!!」
「ッ・・・・・・は、ぁっん!!」
 びくびくと痙攣する体どうしを掴み合い、大和はもたれかかる火照った頬を濡らす涙を舐めとった。