欠食児童の共食い ―1―


 爽やかな風に芝生が波打ち、日差しもホカホカと暖かで気持ちがいい。そんな気候の良い季節なのに、顔色悪く、ふらふらしているアゼルに寄りかかられて、レルシュは目を据わらせた。
「おい」
「腹減ったぁ」
 いまランチを食べたばかりじゃないか、と昼休みの校庭を歩きながら、レルシュはぼやく。アゼルはレルシュにべったりと寄り掛かったまま、引きずられるように歩いている。
「適当な女の子はいねぇのか」
「むぅりぃ・・・・・・。あいつら俺が気があるって勘違いすんだもん。せいぜい、ほっぺにちゅーが限界。どこかに綺麗などスケベお姉さんはいないかなぁ」
 アゼルはけっこうな美形だが、自分より美人な女でないと最後まで致すのはイヤと言うほど好みにうるさい。筆で書いたようにシャープなややつり気味の眉の下、長い睫毛に縁どられた大きなたれ目は、向かって右に泣きぼくろを従え、そこらの女よりも十分優し気で艶のある表情をする。両目の間からすんなりと伸びた鼻梁は高すぎず低すぎず、ぷくっと尖らせた薔薇色の唇も、男にしては柔らかそうだ。しかし、普段なら陶器のように滑らかな色白の肌が、心なしかくすんで見える。
「夢魔らしく夢で頂いちまえばいいだろ?」
「それは相手が人間じゃないと、俺だってモロばれじゃん。余計に悪いわ。・・・・・・なぁ、レルシュ〜」
「放課後まで我慢しろよ。学校でさかっ・・・・・・」
「ヤっていいの!?マジで!?」
「いや、だから・・・・・・」
「サンキュー!やっぱ持つべきものはセフレだよな!!」
「オイ!!変なこと言うんじゃねぇッ!!ちゃんと金取るからな!?俺はお前のセ・・・・・・なった覚えはねぇッ!!」
「うぅん、じゃあ・・・・・・売春?」
「もっとちげぇ!!!」
 レルシュにぎゅうぎゅうと抱き着いたまま、満開の花のような笑顔で頬擦りをするアゼルを、レルシュは力任せに引き離そうとするが、どういうわけかぬるぬると絡みつかれて上手くいかない。
「いやぁ、ありがてぇ。レルの精気って、ちょっと獣臭いけどそこがまた興奮するって言うか、スタミナ付く感じで腹持ちがいいんだわ。助かるぅ〜」
「わかった!わかったから、離れろ!!恥ずかしい!!」
 周囲の生徒たちからの視線に、本気で耐えきれなくなってきたレルシュの懇願に、アゼルは機嫌良さそうな笑顔でようやく離れてくれた。
「よしっ、じゃあ放課後な!どう気持ちよくしてやろうか考えてたら、午後の授業なんて寝てらんねー!」
「いや、寝ない意味がおかしいだろ」
 レルシュのツッコミなど聞こえてないのか、アゼルは元気よく教室に向かって歩き出した。
「早く行こーぜ!」
「ったく、現金な奴だな・・・・・・」
 やれやれと肩をすくめるものの、レルシュもアゼルが元気でいてくれる方が嬉しい。ただし、自分で飢えを満たしてほしいとは思っていないのだが・・・・・・。


 授業が終わった後まで教室に残っている奴はいない。もし今日に限っていたとしても追い出すつもりでいたので、クラスメイト達が蜘蛛の子を散らすようにざぁっと出ていく様子は、アゼルの満足するところだった。
「殺気出しすぎだろ」
「なんのこと?」
 先に帰るねと苦笑いを浮かべて出ていくイグナーツに手を振り、机に座ったレルシュに上目遣いで微笑むと、深々とため息をつかれた。
「本当にここでやんのかよ」
「これ以上待てねぇな」
 ベルトを外してファスナーを下ろし、下着越しにまだ柔らかな形をなぞると、びくりと元気の良い反応が返ってくる。
「ハハッ、レルシュも興奮してきた?教室でするの、誰かに見られそうだもんな」
「うるせぇ、さっさと済ませろ」
「もうちょっと雰囲気出そうぜ?なぁ?」
 椅子を退かしたスペースに跪き、アゼルはレルシュの股間に頬擦りしながら、舌を出して笑った。その舌が唇を舐めて艶を持たせると、レルシュからほんのり漂う色香が、心なしか強くなってアゼルの鼻腔を満たしていく。
「たまんねぇ・・・・・・ほら脱げよ。俺がレルのちんぽをじゅぽじゅぽしゃぶって、ぜぇんぶ飲んでやるからさ」
「っ・・・・・・」
 下着の中から引きずり出した雄に唾液の滴る舌を絡みつかせると、アゼルが求める精気がレルシュから迸り始める。待ち望んだ食餌に狂喜して、アゼルはレルシュを見上げながら、自分にも付いている性器を頬張って舐めしゃぶった。
 レルシュは恥ずかしそうに頬を染めて顔をそらせるが、アゼルの口の中のものはどんどん質量と硬度を増し、滑らかな先端がこりこりと上顎をこするまでになる。
「じゅっ、ちゅっ・・・・・・んっ、ちゅっ・・・・・・ぁふ、ぅ」
「はっ・・・・・・はっ、ぅ・・・・・・!んっ、アゼルッ」
「ん〜〜っ、は、レルすっげぇ〜。ガッチガチの極太さんになってんぞ」
 口を離したアゼルは丁寧に手で扱くが、その太さに笑みが止まらない。筋肉のように筋が見える竿には血管が浮き出ており、カリから裏筋を舌で舐め下ろしていくと喉に詰まったような呻き声が降ってきた。
「いっぱい溜め込んでんだろぉ?」
「ひぁっ、そっちまで・・・・・・触んなって!あっ!」
 たぷたぷと指先で睾丸をつつき、優しく包み込むように撫でると、硬い根元がギリギリと音を立てるように、さらに上を向いていく。手を緩めないまま、何度も竿に唇を吸いつかせ、切なげに先走りを滲ませる先端に舌を絡みつかせた。レルシュからよく見えるように亀頭だけを口に含んで、滑らかな先端もカリの凹凸も丁寧に舌で舐めまわし、溢れた唾液をこすりつけるように、脈打つ太い竿を両手で扱く。
「んんぅっ、んふ・・・・・・ぁ、んちゅ・・・・・・」
「はっ・・・・・・ぁ、んっ、んぅ・・・・・・っ」
 喘ぐレルシュからは隠し切れない欲情の精気が溢れ出し、それをどんどん吸い込んでいくアゼルの舌技にも熱がこもる。
「ッ・・・・・・あ、ぜるっ!」
「ングッ・・・・・・!?」
 突然頭を掴まれて深く咥え込まされ、レルシュの太いペニスに歯を立てないかと焦るまもなく、喉の奥にびゅくびゅくと熱い精液が叩きつけられる。アクメに解放された若い精気を貪欲に吸い付くし、喉に絡むどろりとした精液を飲み干すと、腹が満たされていくと同時に、たまらなく熱い疼きが突き上がってくる。
「っん、はあぁぁ・・・・・・」
「・・・・・・えっろい顔」
 半開きになったままのアゼルの口元をレルシュの指先が拭っていき、アゼルは気持ち良さに笑いながら、目の前でまだいきり立っている物に口づけた。
「んちゅっ、ちゅっ・・・・・・こんなでけぇもん、目の前にあったらさ・・・・・・はぁ」
「まだ足りないのか」
「もっと欲しい」
「また口で?」
 股間の高ぶりをレルシュの脛でこすられて、その言葉の真意を理解したアゼルは、レルシュのペニスを舐めながら自分の制服のボタンに指をかけた。
「上等だ・・・・・・最高に、気持ちよくしてやんよ」
 夜明け前の深く濃い空の色をしたアゼルの髪を押しのけ、額の両側から小さな角が顔をだし、ブレザーを脱ぎ捨てたシャツは皮膜の翼に押し上げられて、胸や腹をあらわにする。
 硬い外毛と柔毛が入り混じるレルシュの黒髪を梳いた手が掴まれ、指を赤い舌に舐められた。瞳孔が絞られて光を跳ね返す金と青のオッドアイが、射抜くような視線をアゼルに向けてくる。
「お前の爪、綺麗だよな」
 そう言うレルシュの爪は鋭く尖り、アゼルの指をしゃぶる口の中からは、頑丈そうな犬歯が覗いている。アゼルがレルシュを喰っているはずなのに、アゼルがレルシュに喰われそうな光景は、指を舌が這うくすぐったい快感と相まって、アゼルに艶めいたため息をつかせた。
「っはぁ・・・・・・なぁ、俺が『圧し掛かる者』インキュバスだってわかってんだろうな?」
「誰が入れさせてやるっつった」
「中を突かれるのも、キモチイイんだぜ?」
「じゃあ、そうしてやる。・・・・・・アゼルの中、気持ちいいんだろ?」
「当然だ」
 立ち上る二人分の色情が混じり合い、赤い舌同士が相手の性感帯を探ろうと絡まり合う。アゼルの舌がレルシュの上顎を舐め、柔らかな唇で舌を吸うと、レルシュの口の端から唾液が伝った。
 キスはアゼルの方が上手い。しかし、レルシュの手はアゼルのボトムをくつろげ、中から硬くなったものを引きずりだして、自分の物と一緒に扱きだした。
「ぁ、アっ!」
「ん・・・・・・」
 競い合うように硬度を増していく二人のペニスからは、先触れの雫が溢れだしてレルシュの手を湿らせていく。雄の匂いの中に、甘い花の蜜のような香りが混じるのは、アゼルのせいだ。
「はっ、んっ・・・・・・レル・・・・・・」
 レルシュに圧し掛かりながら、アゼルは片手で自分の尻を探った。出来るとはいえ、レルシュの大きさを収めるのには、やはり準備がいる。レルシュの鉤爪で大事なところを傷付けられたくはないし、舐められるなんてもっと嫌だから、アゼルはレルシュの膝を跨ぐように脚を開いて、レルシュの唾液で濡れた指を差し込んだ。
「はっ、ん・・・・・・っ、ふ・・・・・・はぁっ、あっ」
 触れるだけで柔らかく解けたそこは、餌を待ち焦がれるようにとろりと糸を引いた。確認のために、深く浅く、中を広げるように力を込めて動かす指が、アゼルの中で準備良しの応答を得る。
「んっ、ぁ・・・・・・はぁ、いいぜ」
「え、もう終わり?自分の尻弄ってるアゼルの顔、けっこうイイんだが・・・・・・」
「はぁ?」
 興奮のせいか耳も獣の形に変化したレルシュの残念そうな顔に、アゼルはくすぐったい気持ちを隠して朗らかに笑った。
「ッハハ!・・・・・・レルシュって意外と変なシュミしてんだな」
「うっせぇ」
 そっぽ向いたレルシュの赤くなった頬に口付け、アゼルは床に寝るよう促した。