闇を慕う月 −4 −


 あっと思うまもなく、マリエスは自分の熱く潤んだ窄まりが押し広げられるのに、思考がすべて飛んだ。
「あ・・・あぁああァっ!!」
 太いモノが、ずぶずぶと自分の中に入ってくる。物足りなくて、かゆいような疼きと痺れるような熱にもがいていた奥に、そこを擦ってくれるモノが、やっと入ってきた。
「ああっ!・・・はひぃっ、て・・・はぃいってぇ・・・ひぃぎいいぁああぁっ!?」
 思ってもみなかった痛みに、マリエスは飛び上がって悲鳴を上げた。マリエスの開いた両脚には、薄い皮膚に幾筋もの赤い蚯蚓腫れがある。そこに、視界を塞がれた赤毛のクルセイダーが手を付き、爪を立てたのだ。
「いたいっ!そこ・・・さわ、ら、ないでっ!・・・っうぁああああっ!」
 ぎちゅりと、マリエスの奥まで、他人の男根が埋まった。やっと欲しかった男の印に触れられて、マリエスの内壁は勝手にうごめく。
 自分に覆いかぶさっている同職が、なにか呻き声を漏らしたが、マリエスには聞き取れなかった。ただ、また痛い殴打傷をつかまれ、引き摺り下ろされた。
「ぐあっ・・・いったぁ、ああッ!」
 腕がぴんと伸び、肩が抜けそうだ。脚は縄の長さから逃れられるはずも無く、限界まで開いた上に少し浮いている。
 もう痛いのか気持ちいいのかわからない。ケイとするときのような、痛みが快楽になるわけではない。だが、媚薬にあおられた快楽を求める熱だけが、どうしようもなくマリエスの中で、男をむさぼっている。
 玩具では満足できない中を擦られるたびに、奥を突き上げられるたびに、マリエスは嬌声を上げてケイを呼んだ。
「けいィっ・・・!ぃあァああ・・・アアッ!ひいぃぁ、もっとぉ・・・けぃいいっ!やあぁあぁ・・・っ!」
 がんがんと打ち付けられるマリエスのそこは、どろどろに蕩けて、他人の男根を激しく出入りさせては、肉のぶつかり合う音に負けないくらいの、淫靡な音を響かせた。
「でるうぅっ・・・ひいいぉお・・・ぉ」
「ああ、いいよ、マリィ。たくさん出しな。マリィが犯されているところ、僕はちゃんと見てるから」
 どこか熱に浮かされたケイの優しげな声が、マリエスの中に染み渡った。涙でぼやけた視界に、闇色の影が見えた。砂岩色の髪と、秀麗な素顔の陰影も見える。
 ・・・ケイが見ている。犯されている自分を、無理やり突っ込まれてよがっている自分を見ている。繋がっているあそこも見えているに違いない。恥ずかしい格好で脚を広げたまま、起ってだらだらと雫をこぼしているマリエスの陰茎も見えているに違いない。・・・ケイが・・・ご主人さまが見ている・・・ご主人さま・・・ご主人さま、すごく、気持ちいいっ!
「ア・・・ぁああッ・・・ご、しゅじん・・・さまァ・・・ッ!」
「くっ・・・」
 ぎゅうっと締め付けたそこを、太いモノが何度も擦っていく。ぞくぞくとした快感が、熱い塊を押し出した。
「ぅ、あ・・・ぁああっアアッ!」
 魂ごと持っていかれるかのような、手に負えない快感が、息もできないマリエスの神経を焼き焦がしながら昇華していく。勢い良く放たれた白い放物線は、マリエスの胸や首筋にまで飛び、それでもなお、マリエスの腹を汚し続けた。
「うっ・・・ぁ、も・・・」
 速さを増した楔が、不意にマリエスの中から、ずるっと出て行った。
「・・・っ!」
 ぱたぱたっ・・・と、マリエスは熱いものが、顔から腹にかけてかかるのを感じた。鼻梁や口元から強く漂う、雄の匂い。
 マリエスは荒い呼吸をしながら、ぼんやりと男娼が中で出さなかった疑問に目を開けると、男娼をマリエスから引き離したケイが、放ったばかりの陰茎を、絞り上げるように握り締めていた。
「ぐっ・・・ぁあぅ!」
「マリィの中で出していいなんて、許してないよ?この馬鹿が」
 その冷えた鋼のような声に、マリエスは安堵のあまり意識を手放した。

 痺れた両腕に肩から温かな血が流れていくのを感じて、マリエスは目を覚ました。だが、平衡感覚が定まらず、むやみに暴れだした身体を押さえつけられた。
「マリィ?大丈夫?」
「・・・・・・」
 ケイ、と唇だけで答えて、マリエスは力を抜いた。両手足の拘束は解かれ、顔や身体も拭われている。つま先には何も触れなかったが、背に硬い板の感触があった。まだカウンターテーブルの上なのだ。気を失っていたのは、ほんのわずかな時間だったようだ。
「可愛かったよ、マリィ。すごく良かった」
 額や頬に、何度もキスが降ってくる。ケイを楽しませることができたらしいとわかって、マリエスは力の抜けた微笑を浮かべた。
 その唇に、ケイの唇が重なる。優しいキスは、ついばむように唇をなぞり、やがて唇を割って、深く舌を絡めあった。
 また、マリエスの奥に、じくりと熱が生まれた。
「はっ・・・ケ、イ・・・」
「マリィ?・・・まだ欲しいの?」
 身体は休息を求めていたが、媚薬が原因のこの熱は止めようがない。それに、マリエスの恋人は、まだ一度も満足していない。
「だって・・・まだ、ケイを・・・もらってない」
「そんな可愛いこと言わないでよ。・・・ひどくしちゃうかもしれない」
「いい・・・から・・・」
 媚薬の効果を思い出したマリエスの身体は、あっという間に快楽を求めだした。ふらふらと起き上がってテーブルを降りたが、力の入らない膝のせいで立てず、床に崩れた。
「マリィ!」
「だい・・・じょうぶ・・・」
 泣き叫んで嗄れた喉では、かすれた声しか出ない。マリエスはぼんやりと見上げ、何とか膝を立てて、目的の場所に舌を伸ばした。ファスナーさえ下ろせてしまえば、後はどうにかなるだろうと、いい加減な考えしか浮かんでいなかった。
「ちょ・・・っと、本当に大丈夫?」
「ん?」
 少し困ったような苦笑いに首をかしげ、マリエスはケイが自分で緩めてくれた着衣の中に、顔を突っ込んだ。
「・・・やっぱり、自分で薬を作るのは早計だったかなぁ」
 そんな呟きが聞こえてきたが、マリエスにはどうでもいいことだ。目の前に現れた愛しいご主人さまに舌を這わせ、気持ちよくなってもらうことに全力を傾けた。
 根元から丁寧に舐めあげ、甘噛するように唇をつけては、自分の唾液を舌でなすりつける。
「はっ・・・ん、んっ・・・・・・」
 自分と同じもののはずなのに、どうしてこんなに興奮するのか。これが自分の中を余すことなく擦り上げ、支配し、快感を与えてくれるからだろうか。
 躊躇いも無く口に含み、吸い上げるように奉仕を始めると、額に落ちた髪を梳くように撫で上げられた。なにか要望があるのかと視線だけ上げると、藍色の目が優しく微笑みかけてきた。
「すっごくエロいよ、マリィ。ご奉仕もいつもよりねちっこいし・・・このまま顔にぶっかけたいくらい」
 顔にかけられるのは好きだから・・・マリエスは呼吸も忘れて、口いっぱいに頬張ったまま頭を振った。唇から唾液がこぼれ、ぴちゃびちゃと音を立てた。
「んっ・・・ぐっ・・・ふ、ぅんっ・・・じゅ・・・っ・・・」
「っ・・・こらこら。犯されてるマリィを見て、僕も・・・くっ、興奮しちゃってるんだから・・・さ、ぁっ」
 口の中でさらに大きくなるケイが、喉奥まで吸い込もうとするマリエスから無理やり引き抜かれていった。
「・・・っ」
「は・・・ぁっ、あぁッ」
 どろっとした熱い飛沫を叩きつけられ、マリエスは犬のように舌を出したまま、快感に背を震わせた。
「ふっ・・・すっごいスケベな顔。精液まみれになっちゃって・・・きったないよ?」
 ぐいっと上向かされた顔を、ケイの吐き出された獣欲が滑っていく。それを、マリエスは舌を伸ばし、指先で拭って、口に含んだ。青臭い苦味が広がる。
「はぁっ・・・は、ん・・・美味しい、です・・・」
 蕩けた笑顔で見上げるマリエスの指が、手の甲まで白く濡れているのにケイは気付いた。
「あ・・・」
 ケイが少し身体を離して覗き込めば、顔についた精液を舐め取りながらも、マリエスの片手は自分で吐き出した精液に濡れた自身をしごいている。
「あー・・・これ、わかってないな」
 ケイの呟きこそ、マリエスにはわからなかった。
「けい・・・?」
「マリィ、気持ちいい?」
「は、い・・・気持ちいい・・・はっ・・・ぁ、もっと・・・」
 自分を見失ったまま、くちゅくちゅと音を立てて自慰を続けるマリエスに、ケイは軽く命令した。
「立てる?立って、そこのテーブルの上にうつぶせに寄りかかっていいよ。それから、自分で入れて欲しいところを広げなさい」
「はい、ごしゅじんさま」
 脚や腕に力が入らず、マリエスはやっとのことで、カウンターテーブルにすがりついた。
「はぁっ・・・は、ん・・・っ・・・ここ、ぉ・・・」
 冷たい天板に胸を押し付け、がくがくと震える膝を叱咤して、マリエスは何度イっても疼いて仕方がない腰を上げた。両手で尻を掴み、その奥にある窄まりが見えるように、引き開いた。
「ここ、に・・・ごしゅじんさまの・・・ぉおきな・・・・・・を・・・」
 何度セックスのたびに言っても、いくら薬が理性のほとんどを溶かしているとしても、マリエスは口ごもる。そんな本質的に慎ましい彼を、奔放で優雅な声が、しなやかな鞭のように打ち据える。
「なぁに、マリィ?聞こえないよ」
 その羞恥が、強要される屈辱が、気持ちいい。
「ごしゅじん・・・さまのっ・・・おぉきな、ペニスを・・・、わたしの、いやらしい穴に、ください!・・・そして、たくさんこすって・・・ぉ、おかしてください!」
「マリィは淫乱だね!」
 パシッと平手で尻を叩かれる痛みと罵られる快感に呻く間も無く、自分で見せ付けるように広げたアナルがじっくりと満たされ、マリエスは切れ目のない嬌声を上げた。