寂しくない人 −1−
そのいかがわしい界隈・・・と言っても、一見普通の街並みだ。しかしよくよく見れば、未成年お断りのプレートが、そこかしこの店や宿についている。
そんな夜の街、一軒の小洒落た酒場に入ると、カウンターで一人足をぶらつかせているアコライトハイの少年に、憮然と口の端を曲げられた。 「お前さぁ・・・男口説く気あんの?」 言われたオーランの頭は、燦然と輝くシャイニーアフロカツラに包まれており、ウォーロックの職服とあいまって、それは絶妙な雰囲気をかもし出している。 「似合わないかな?」 「・・・そういう問題じゃねぇ」 アコライトハイの少年・・・ラダファムは、額に片手を当てつつ、反対側の手で炭酸の泡が登る赤い液体が入ったグラスを握り締めている。あんまり強く握ると割ってしまいそうだ。 「ギルマスってのは、いつでもエンターテイナーである必要があるんですよ」 「そーかいそーかい」 隣に座るオーランに、ラダファムはどうでも良さそうに相槌を打った。 未成年に見えるのに成人専門店にいるラダファムは、こう見えて、二十代半ばのオーランより十歳近くも年上なのだそうだ。転職さえすれば、チャンピオンどころか修羅にもなれるほど鍛えられている肉体は、アコライトの職服のせいか、冗談みたいに着やせして見える。 ふんわりとそよぐ金髪に、褐色がかった肌、濃く青い目。エキゾチックな雰囲気の美少年だが、中身は脳筋なおっさんな上に、男を食い散らかすホモだ。見た目に騙されて寄ってくる男が多いから転職しない、と言い切っているあたり、大変性質が悪い。 しかし、飲んでいるものはレッド・アイではなく、トマトジュースの炭酸割りだろう。一応未成熟な体にアルコールは悪いと思っているのか、オーランは彼がこの姿で酒を飲んでいるところを見たことがない。・・・もっとも、可憐な容姿で男を惑わせるアイテムに、酒はふさわしくないと思っているのかもしれないが。 「ファムさんも、まだお相手探し中?」 「なーんか、さすがに知られてきちゃってなぁ・・・」 ラダファムは頬を膨らませるが、オーランにしてみたら遅いくらいだと思う。可憐な廃アコと思ったらショタマッチョで、大人の男が組み敷かれてバックを奪われた・・・そんな事実は、やられた当人が恥かしがって言わないから、いままで噂が広がるのが押さえられていたのだろう。 「ごついくせにそもそもネコなのは好みじゃないし・・・この際、可愛い系に変えてみるか」 可愛い子なら真性ネコでもいいしなぁ、などと、ラダファムは笑顔でのたまう。ラダファムが抵抗するごついのをいただくのが好きなおかげで、オーランのバックバージンが救われ、友人付き合いをしていられるのは皮肉な話だ。 「そういやぁ、まだ討伐に参加してんのか?」 「うん。最近は人も少なくなってきたんで、狙いやすいですよ」 スプリッツァーのグラスを受け取りながら、オーランは微笑んだつもりだったが、ラダファムの表情は微妙だ。それを素直に哀れみと受け取ってしまうには、オーランはまだ若かった。 「ふーん、気ぃつけてな」 「はい」 アッシュ・バキュームへの道が繋がったいまでも、時折次元の狭間に現れる魔王モロクの討伐は、オーランのライフワークと言ってよかった。 「お、狙い目なのきたー」 ラダファムの呟きに視線を追えば、初心そうなブラックスミスが、きょろきょろしながら店に入ってきたところだ。待ち人がいないのなら、ほぼ間違いなくラダファムの餌食になるだろう。 「じゃ、俺は席を空けますか」 「頭つっかえるなよ」 席を立ったオーランの盛大に盛った頭をからかい、ラダファムは誘惑用の美少年モードになって、スツールから滑り降りた。トマトジュースのグラスも忘れない。なんでも、両手で持っていると、より可愛く見えるのだとか・・・。 キラキラと星を飛ばすラダファムを尻目に、オーランもキラキラと照明を跳ね返すアフロ頭で、賑やかそうな奇数グループに声をかけに行った。 ウォーロックのオーランは、ギルド「レゾナンス」のマスターだ。 「レゾナンス」は、元々マジシャンアカデミーの同窓などを中心に、友人同士で始めたギルドだが、どういうわけだか男ばかりが集まり、全員が集まるとむさくるしいことこの上ない。ただ、異性に遠慮することもなく、良く言えば伸び伸びとした、悪く言えばややルーズなギルドだ。 いつもどおりの時間にベッドから起き上がり、オーランは朝日にぼんやりとしながら、自分の長い銀髪を手櫛で梳いた。 キャビネットの上に飾られた二つのポートレートに、小さく朝の挨拶をする。一枚は子供のオーランも写っている家族の写真。もう一枚は、清楚な佇まいの少女の写真。・・・どちらも、今は亡き人たちの面影だ。 オーランの実家はモロクにあったが、魔王復活の日に、諸共吹き飛ばされてしまった。特別恋愛感情はなかったが、許婚と教えられ、幼い頃から付き合ってきた少女も・・・。 ゲフェンにあるオーランの自宅は、一人暮らしには広いだろう。経済力の乏しいギルドメンバーが下宿できるように、それなりに裕福だった実家の財産を処分して、五、六人は同居してもいいようにと大きく造ったのだが、いまはみな独り立ちして、オーランしか住んでいない。 もっとも、酒場や食事処以外では、なにかとオーランの自宅が溜まり場になることが多いのだが。 「おはようございまーす!!」 コーヒーを飲みながら新聞を広げていると、早速どたがたと喧しい音が玄関から聞こえてきた。 「ほらシュアさん、しっかりしてくださいよっ!」 「んあぁ〜ぁ・・・」 「どうした?」 出迎えてみると、酔っ払ってでもいるのか、てろんてろんになったチェイサーのシュアを、プリーストの蓮が抱えるようにして支えていた。 「あ、おはよ、マスター」 「おは。シュアはどうしたんだ?」 細身でやや小柄な蓮の反対側からシュアを支えようとして、酒臭さのないことにオーランは首をかしげた。 「それが・・・」 「んはぅっ!ますた・・・やぁっ!そこ・・・ひゃうぅう!!」 体を跳ねさせたシュアに、オーランは思わず手を放し、反動でよろめいた蓮を支えることになった。 「なんだなんだ!?」 「あ・・・暴れないでよっ!もう!!」 「はぁん・・・む、りぃ・・・っ!イくぅ・・・!!」 身を捩じらせて喘ぐシュアは、日頃からセックス依存症気味なのだが、これは明らかになにか違うものが入っている。 「すみません・・・呼び出された時には、もうこの状態で・・・」 「とりあえず、運ぼう」 喘ぐというか暴れるシュアを二人で拘束しながら、たくさんある部屋のひとつに放り込む。 「はぁっ・・・はぁ・・・ぁあっ!イっていい!?もうイっていいれすかぁああっ!?あぁああ・・・っんん!!おく、こすってぇ・・・っ!きもち、ひぃいいいいッ!!イくッ!!あぁっ、イくッ!!でりゅぅううう!!」 ベッドの上に仰臥したシュアは、自由になった両手で忙しくベルトとパンツを緩め、中で反り返った自分のモノを取り出して扱き、あっという間に果てた。飛び散った精液が、紺色のアンダーシャツを白く汚している。 「一夜の相手に薬でも盛られたか」 「そうみたいです」 絶頂にくったりとなったシュアだが、まだ頬から首筋が紅色に染まったまま、眼差しもとろんと潤んで定まらない。息を弾ませながら、自分の精液がついた指をしゃぶっているぐらいだから、まだしばらくは抜けないだろう。 「ウェインに連絡は?」 「もうしてあります。今日は元々、ウェインさんをラボから発掘する日でしたから」 「ああ、そうか」 アルケミストのウェインは、放っておくと自宅兼ラボに埋まるので、半月に一度発掘してやらねばならないのだ。オーランや教授のコラーゼの蔵書も多いが、ウェインの家はそこに実験器具や薬草プラス、日用品に食糧やらゴミやらが積まれるので、一定以上になると発掘にも危険が伴うようになってしまう。盗虫が出ないように掃除するのも一苦労なのだ。 「じゃあ、みんなが集まるまで、一発やっていますんで」 「お?」 プリーストの上着を脱いだ蓮は、仕方なさそうに苦笑いを零した。 「耳元でずっと喘がれたら、僕だって起ちますよ」 「そりゃそうだ。ゴムはしておけよ。薬もらって共倒れになるからな」 「はーい」 せっせとシュアのパンツを脱がしにかかっている蓮に後を任せ、オーランは部屋を出た。 |