男の条件−1−
ハロウィンの騒動の後、クロムからアマツの温泉旅館宿泊ペアチケットを貰った、サカキとハロルド。
サカキはそんなに気を使わなくていいのにと思いつつも、これからもあのお騒がせカップルとの付き合いがあるかと思うと、思い切り楽しむべきだと気持ちが切り替わる。ハロルドはまったく無邪気に、「温泉!温泉!」と喜んでいる。 アマツで冒険者がよく訪れるのは、お城や港があって、よく拓けている海岸付近が多い。正月や花見シーズンなどは、特に観光客で賑わう。 だが、今回二人が招待された宿は、少し内陸に入った、山深い土地だった。 「わぁ・・・」 座敷の窓の下には、赤や黄色に彩られた渓谷を流れるせせらぎが見えた。時折白いしぶきを上げて下っていく清流は、やがてミッドガッツと繋がる海へと続いているのだろう。 冒険者達にとってはシーズンオフだが、この紅葉が見られるのならば、晩秋のアマツも悪くないと思う。 「すごいですね。アマツといえば桜だと思っていたんですけど・・・紅葉も綺麗だなぁ」 「見ごろもこの週末が最後だそうだ。冬になれば、雪が積もる」 「それも見てみたいなぁ」 キラキラと目を輝かせるハロルドに、サカキは目を細めた。この男は恋人にまったく甘いので、そのうち雪の季節にも宿を取るかもしれない。 「さっそく温泉行きましょう!露天風呂入ってみたかったんです」 荷物を置くと、ハロルドは用意されていた浴衣を抱えて、パタパタと慌しい。 「慌てなくても風呂は逃げんぞ。どうせ貸しきりだしな」 「ゼイタクだなぁ。クロムさんに感謝しなくっちゃ」 お土産は温泉饅頭がいいかなぁ、それとも地酒の方がいいかなぁと、そんなところも楽しそうにしているハロルドの期待に応えて、サカキも浴衣と帯に手を伸ばした。 「うわぁああ・・・!」 澄んだ空気、紅葉に染まった渓谷を臨む展望、それらが岩風呂から立ち上る湯気を纏わりつかせて、さらに鮮やかさを増しているようだ。 「すげー!本当に山の中だ!屋根もないし、開放的〜!」 開放的なのはいいが、腰を覆っていたはずの手ぬぐいまで振り回すのはどうかと、サカキは思う。しなやかな四肢や背には逞しく筋肉が浮き上がり、引き締まった可愛い尻には思わず目がいってしまうのだが・・・。 「他に見る奴がいないからって、開放しすぎだ」 「ほえ?」 ハロルドが振り向くと、サカキはすでに湯船の中で徳利を傾けている。 「アマツ酒ですか?」 「飲んでみるか?」 「はい!」 ハロルドが湯船に入ると、サカキは盃を渡し、少しだけ注いだ。ハロルドはそれに鼻を近づけると、香りに誘われるように口付けた。 「ん・・・ちょっと辛いです」 「お子様め」 「好みですよ」 ぶぅと頬を膨らませ、眉間と鼻のあたりにしわを作るハロルドを、サカキはいつもの口元にだけたたえる微笑で眺める。 沢を駆け上る冷たい風が、渓谷の木々を揺らし、モミジやイチョウの葉を湯船にふりまいた。 「・・・風流ですねぇ」 「そうだな」 飲めなかったハロルドは、今度は徳利を持って、サカキの盃に注いだ。ふくよかないい香りが、湯気に乗って広がってくる。 掛け流しの贅沢な湯音、さわさわと揺れる木々の音、抜けるように高い青空に響いた鳥の声・・・。 普段、大都会の喧騒に包まれている二人には、この場所の時間の流れが、ずいぶん緩やかに感じた。 ハロルドはうつぶせになるように縁に両腕をついて、温かい湯を湛えた広い湯船にのびのびと体を伸ばし、静かに盃を傾けるサカキをぼんやりと眺めた。 明るいところで見る、肩も、腕も、胸も、どこから見ても男なのだが、ハロルドはそれに触れたいと思うし、いつもしていることだが、あんなことやこんなこともイタシタイと思う。 湿気でいつもよりきつく巻いた、深い緑色の癖毛とか、日に焼けていないけれど、張りのある瑞々しい肌だとか、強い光のある琥珀色の目だとか、ハロルドがいいと思うところが、秋の山河に映えて、いっそう綺麗だと見惚れる。 「・・・なんだ?」 「え?」 「あれだけで酔ったのか?顔がだらしない」 「ヒドイです。サカキさんが綺麗だなぁって見ていただけなのに・・・」 ふっとサカキの唇が緩んで、ハロルドの頭が撫でられた。 「ハロルドは、いつまでたっても可愛いな」 「・・・それ、褒めてます?」 「この上なく絶賛したつもりだ」 「そうですかぁ」 またハロルドの顔がだらしなくなる。サカキに可愛がってもらうのは、ハロルドの栄養源といっても過言ではない。 ハロルドは岩風呂の中をちょこちょこと移動して、ぴったりとサカキに寄り添う。風呂は広いのだが、熱いお湯越しでも、素肌に触れる方がいい。 しっとりと濡れた胸元に頬を寄せ、鼻を鳴らすように甘えると、後頭部の髪を軽く引っ張られ、ハロルドの鼻先はサカキの首筋に移った。 「危ないだろ。溺れたらどうする」 「はぁい」 まるで親子の会話だが、ごろごろと甘えるハロルドはサカキの体をまさぐり、サカキの手もハロルドの肩に回したまま。反対側の手も、空になった盃を盆に戻しただけだ。 「・・・ねぇ、サカキさん」 「ここではしないぞ。風邪をひく」 「ちぇ〜」 それでも楽しいのか嬉しいのか、ハロルドの手は湯の中で、ゆったりとサカキの脇腹や腿を撫でていた。 「俺幸せ〜」 「そうか」 戦闘BSとして完成したハロルドは、サカキと出会った頃とは比べ物にならないくらい逞しくなった。その筋肉の束が浮き上がった肩を撫で、背中の窪みへ、また首の方へ、サカキの指先が滑る。 「・・・ぁふ・・・」 「んっ・・・」 どちらからともいえない口付けは、わずかな吐息すら貪るように、深く舌を絡ませあった。互いの頭を引き寄せあい、湯を押しのけて体が密着する。胸がこすれあい、半端に開いた脚の間に、相手の脚が入ってくる。 「はっ・・・サカキさん、ここじゃしないって・・・」 「煽らないとは言ってない」 「イジワルですよ」 ぎゅうと抱きついたハロルドの脚の間では、隠しようのない欲望が元気に主張している。 「ハロルドがやっと押し倒したい体つきになったんでな」 「えぇ〜。いままでじゃダメだったんですか?」 「ダメじゃないが、もっと魅力的になったということだ」 「そっかぁ〜」 最近またVitに振ったのがよかったのかなぁと、ハロルドはまたごろごろしだしたが、不意に止まった。 「え、押し倒したい?」 「俺の下になるのは嫌か?」 「いや・・・嫌っていうか、その・・・」 サカキだって男だし、そもそもタチだ。いままではハロルドが上になるのを許してくれていたが・・・。 「気持ちよくしてやるぞ?」 「ひやぁっ」 サカキの手がハロルドの尻を撫で、脚を開かせようとする。割れ目を指先が滑っていき、ぴたりと停まったのは、硬い窄まりだ。 「・・・どうした?」 ハロルドはサカキの肩にぎゅっとしがみついたまま、体をこわばらせている。 「嫌か?」 「さ、サカキさんなら・・・。でも、ちょっと怖い・・・です」 見えない犬耳を垂れさせて、ぷるぷると震えているようなハロルドの様子に、サカキは口元にだけ苦笑を刻み、濡れてボリュームダウンした茶色の髪を撫でた。相変わらず子犬のような目とは違い、少しだけ精悍さが出た頬に唇を寄せる。 「息を吐いて力を抜け」 びくっと体を震わせたハロルドに、完全にサカキの脚をまたがせ、こわごわ息を吐くのに合わせて、窄まりの襞を解していく。 「はっ・・・っぅ」 「声を出していいんだぞ?俺しか聞いていないしな」 「サカキさ・・・ぁっ、はっ・・・ぁあ・・・っ!」 両手で尻を広げられ、少しずつ入ってくるサカキの指先の感触に、ハロルドはますます腕の中の人を抱きしめ、その首筋に顔を埋めた。 「痛いか?」 ハロルドはふるふると首を振り、せつなげに吐息を漏らした。 「へん、な・・・かんじ、です。痛くないけど・・・んあぁっ!ぁ、うごか・・・ぁっ!あんっ・・・サカキさん・・・!」 深く入ってきた異物感に喘ぎながら、ハロルドがサカキの唇を求めると、上手な舌が絡み付いてきた。まるで性器を愛撫するように舌を吸われ、膝が砕けそうになったとき、ハロルドの腰に信じられないような甘い痺れが走った。 「ひ・・・っ!!」 「ここか」 うっとりと微笑むサカキを、ハロルドは綺麗だと思ってしまった。 |