夏の猛獣 −6−


 結局、ザミェル山にある山小屋のひとつに隠れていた漁師夫妻を捕まえるのに、丸二日かった。特別庇いだてする者はいなかったが、夫妻の罪状が反逆罪と聞いて、自分も告発されるのか、あるいは自分は関係ないとばかりに、似たように評判の悪い輩が慌ててドミロナを去っていったのは、その他の住人たちにとっては良かったのかもしれない。
 皇帝暗殺未遂、不敬教唆、未成年教育放棄等に問われた漁師夫婦は、直轄領総督の即決裁判で縛り首となった。二十年近く持ち主が来ていなかったので、マール湖を自分の縄張りのように思って図に乗っただけのようだが、それを許せるわけがない。
 監督不行き届きを咎められた総督も厳罰の予定だったが、潔く辞任し降格処分を申し入れたことが受け入れられ、同じく町長たちも、厳重注意と罰金のみで罷免を免れたが、三人ともが年内をもって辞任する意向を示した。
 親を失った兄弟は、ベリョーザ帝国第二の都市グラナートにある孤児院へと送られていった。慈愛溢れる養育者に恵まれれば、いつか両親の罪と、皇帝の恩赦を理解する日が来ることだろう。

 通常の賑わいを取り戻したドミロナの町だが、物々しく衛兵が警護する馬車を避けるように、住人や観光客は道のわきに寄って恭しくお辞儀をして、通り過ぎていくのを待った。
 頭のてっぺんが禿げた町長の案内で土産物街の一軒に入ると、イーヴァルと手を繋いでいたイグナーツは目を輝かせた。
「わあ!綺麗だなぁ」
 瓶詰にされたカラフルなジャム、可愛らしい絵付けをされた陶器に詰められた砂糖菓子、バスケットに盛られたクッキーやケーキ。ラズーリトの専門店に比べたら、素朴で洗練されたものではないかもしれない。それでも、魚の形をした香ばしい香りのクッキーや、ナッツを固めて山形にカットしたヌガーのような物は、雪に見立てたアイシングでザミェル山を表しているようで、マール湖の土産と言われて頷ける。
「・・・・・・リンゴやベリーの味がする、大きなマシュマロのようなものはなかったか?」
 店内を見回して言うイーヴァルに、イグナーツもざっと探してみるが、それらしいものは見当たらない。
「申し訳ありません、陛下。あれは引退した親父しか上手く作れないんです。今は、店においてなくて・・・・・・」
「そうか、残念だな」
 店主は恐縮して頭を下げるが、代替わりではそういうこともあるだろう。イグナーツはそば粉で作られた魚型クッキーと、ドライフルーツのケーキを買って、満足したようだ。
 エヴァへの土産に山羊の生肉を持って帰るわけにもいかず、山羊毛で織られたラグを購入した。気に入れば、下敷きにしたりひっかいたりして遊んでくれるだろう。
 一通りドミロナの土産物街を見て回ったが、魚の干物や山羊のチーズ、木工細工が多く目を引いた。中でも、木っ端の濃淡だけでフリゾリート城やマール湖の風景を描いた細工画は見事だった。
 驚いたのは、そろそろ帰ろうと馬車に乗り込んだ時に、先の菓子店の店主が息せき切って走ってきたことだ。なんでも、イーヴァルがこの地に来ると聞いていて、引退した先代がフルーツマシュマロを作っていたのだという。ついさっき完成品を店に持ってきたので、慌てて店主が届けにきたのだ。
「お、お代はけっこうです。畏れ多いことですが、親父がどうかお納めしてほしいと・・・・・・」
「そうか、感謝する。予は子供の頃、ここに来るとこればかり食べていたものでな。姉上にとられまいと必死だった。・・・・・・お父君に、身体を大事にせよと伝えてもらおう」
「は、ははっ!もったいないお言葉、恐悦至極にございます!」
 跪いて畏まる店主に手を振り、イーヴァルとイグナーツを乗せた馬車は、ドミロナの町を離れ、フリゾリート城へと戻っていった。

「なーなー、一個食べていい?」
「構わん。好きなだけ食べろ」
 ティーセットが並べられたテーブルの上に置かれたバスケットから、イグナーツは興味津々で、溢れそうなほどいっぱい入っていたマシュマロをひとつ摘み上げ、その大きさに目を丸くしながら、ぱくりと一口かじった。
「んんっ!美味い!!」
「そうだろう」
 ふっくらもっちりとしたマシュマロは、驚くほど一粒が大きかった。クルミの殻くらいだろうか。そして、じゅわっと口の中に広がるリンゴの味が、とても優しい。
「子供のイーヴァが、これ一人で抱えていたの、わかる気がする」
 イグナーツは手に持っていた残りのマシュマロも、もきゅもきゅと咀嚼し、紅茶をすすった。イーヴァルも懐かしく思いながら、大きな粒の甘味に手を伸ばした。子供の頃は、小さな手で一掴みにするのも大変だったように思う。
「名残惜しいが、これも食べ納めになるかもしれん・・・・・・もう、そんなに時がたっていたのだな」
 二十年、それは生まれた子供が成人するのに十分な時間だ。商店の主も代替わりするだろうし、かつて臨幸に沸いた頃の習慣も廃れるだろう。
 自分は大人になっても、なにも変わっていないつもりでいたイーヴァルだったが、自分が触れていない場所も等しく時が流れていることに、感慨を覚えずにはいられない。
「うん、でもさ。前の店主は、イーヴァがこれ好きだったの、覚えてくれていたじゃん?そういう人もいるの、なんかいいよな」
「・・・・・・そうだな」
 新たなマシュマロをつまんで、こっちはラズベリー味だ、などと笑顔で頬張るイグナーツを眺め、イーヴァルは紅茶を口に運んだ。イグナーツの素直な感性は、時にマイナス面を強調して見てしまうイーヴァルの心をほぐしてくれた。
「ところで、包帯はまだ取れないのか」
「あー、肩が一番ひどくてさ」
 痛い思いをしているのはイグナーツなので、イーヴァルは文句も言えない。しかし、不満なのは不満なのだ。
「ぷふっ、そんなにアレを付けたいのかよ」
「・・・・・・我慢はする」
「皇帝陛下が我慢するって、なんかすごいことだな」
 イグナーツは他人事のように笑い、紅茶を飲み干して椅子から立ち上がった。
「ほら、いいよ。せっかくのバカンスなのに、ろくにイチャコラしないまま終わっちまう」
 イーヴァルの頬に、ちゅっとイグナーツの唇が吸い付いた。
「俺だって、オアズケは辛い」
「痛くても知らんぞ」
「優しくな、優しく」
 悪戯っぽく微笑むイグナーツは、時にイーヴァルのわがままを口汚く罵り、いつだってイーヴァルの自尊心を傷つけないよう言葉を選んで励ましてくれる。その構わなさと心遣いが、たまらなく愛おしい。
 互いを抱きしめ、もどかしげに服の上から体をまさぐり、舌を絡めるように何度も唇を重ねる。イーヴァルの腿に股間を撫でられたイグナーツが、背を震わせて甘いうめき声をあげた。
「ぁん・・・・・・はぁ」
「たしかに、我慢は良くないな」
「うん。なあ、早く・・・・・・イーヴァの思うように、俺の体を飾ってくれ」
 性欲に濡れた金色の目に訴えられ、イーヴァルはイグナーツを脱がせながら、寝室に連れ込んだ。
 いまだ白い包帯が痛々しいが、薄い衣類を脱ぎ散らかしたイグナーツは、ベッドの上で脚を開いて、ピアスに飾られた自分のペニスを起たせて見せた。
「ははっ。あんまり付けすぎると、重くて起たなくなりそうだ」
「案ずることはない。・・・・・・これで吊ればいい」
 イーヴァルが手にした新たなアクセサリーを、イグナーツは明らかに欲情した眼差しで見つめ、笑みの形をした唇から、うめき声のようなため息をこぼした。
 亀頭そばの裏筋に付けられたリングに、二本の細い鎖が繋がれ、その端は片方ずつ乳首のリングに固定された。鎖の途中には、黄、桃、白の宝石をあしらったチャームが、ゆらゆらと揺れている。鎖は勃起を維持していないといけないほど短いわけではないが、胸の先端から陰茎の先にゆるくかかる曲線は、なんとも煽情的で、強烈に劣情を誘う。
「はあ・・・・・・っあ、イーヴァ・・・・・・」
「恥ずかしい格好と言うくせに、こっちは淫らに興奮しているようだが?」
「はひぃっん!うぅ・・・・・・あ、だめ、こするなって・・・・・・っ!」
 屹立した先端から先走りをこぼす竿を撫でてやると、イグナーツは慌てて体を起こして、イーヴァルをベッドに押し倒した。
「下になると怪我が痛いから、今日はイーヴァが下な」
 イグナーツは自分で香油を使って後ろを解しながら、イーヴァルの大きな屹立を美味そうに咥えた。
「んっ、ふっ・・・・・・ぅ、んんっ」
 イグナーツの唇に出入りするたびに濡れて硬くなっていく自分自身に、イーヴァルは満足げな溜息をこぼした。
「いいぞ、イグナーツ。上手だな」
 淡い青灰色の髪をなでると、切なげな眼差しが見上げてきた。尻の穴をいじる、くちゅくちゅという音も大きくなっている。
「ぁ・・・・・・んむっ、ふっ・・・・・・んっ、はぁ・・・・・・っ」
「気持ちよくて、お前の口の中に出してしまいそうだ」
「んぐっ!ふ、ぐ・・・・・・んあっ!」
 喉の奥へ突き入れてみたが、イグナーツは蕩けた目をしたまま口を離した。
「はあぁっ、まだ、イっちゃダメだ」
 イグナーツは口淫で十分に硬くなったイーヴァルをまたぎ、自分の腰をゆっくりと下ろした。イーヴァルが見つめる中、イーヴァルの屹立が、イグナーツのよく熟れた蜜壺に埋め込まれていく。
「んっ・・・・・・」
「はぁんっ!ふ、ぁああっ、ああっ!は、いって・・・・・・入って、く・・・・・・!はあぁん・・・・・・っ!!」
 頬を上気させて座り込んだイグナーツの腰をつかみ、イーヴァルは足りぬとばかりに、ぱちゅんと打ち上げた。
「はひぃィンッ!!」
「ふむ、奥まで入った。・・・・・・わかるか、イグナーツ。これが全部だ」
「ぁんっ、はぁっ・・・・・・ぃい!なか・・・・・・なか、しゅごいぃ・・・・・・ッ!」
 ガクガク震えて快感を訴えるイグナーツの中も、熱くイーヴァルに絡みついてくる。イーヴァルの為だけの性器になりおおせたアナルが、イーヴァルに快楽を与えようと吸い付き、香油を滴らせる。
「気持ちがいいな、イグナーツ。さあ、膝を開いて、繋がっているところを俺に見せてくれ。・・・・・・今日は、鎖を揺らして、踊ってくれるのだろう?」
 見上げたイーヴァルの視線を受け止めると、息を弾ませたイグナーツは淫蕩に微笑んで膝を立て、鎖とピアスに飾られた体を見せつけるように腰を揺らせた。