夏の猛獣 −7−


 しゃらしゃらと鎖が鳴り、肌に弾む宝石と汗が光る。
「はあぁん!ああっ、イーヴァ!イーヴァぁ・・・・・・!」
 肉が打ち付けられるたびに、ぱちゅぱちゅと淫らな音がベッドに響く。イグナーツの秘所は怒張したイーヴァルを健気に呑み込んでは、内襞に引っ掛けるように少し腰を浮かし、また奥まで呑み込んでいく。
「ああ、ああッ!ふ、かいぃ・・・・・・ッ!イイッ、はひっ、あっ!はぁあっ!」
「いいぞ、イグナーツ・・・・・・とても美しい。ほら、もっと突いてやろう」
「ああンッ!ふぁ・・・・・・はああぁッ!イーヴァ、ああッ!おく、ぁひンッ!」
 イグナーツの良い所を探ろうとうねるように穿つと、たまらないと背が反らされ、なおさら鎖でつながれても天を突いたままのペニスをイーヴァルの眼前にさらした。
「ぃ、イーヴァ・・・・・・イーヴァ、も、だめ・・・・・・ひっ、ぃ、イきたい・・・・・・っ!」
「イっていいぞ?ああ、こんなに張り詰めて、苦しそうだな」
「あっ!ああっ!だめっ!しごいちゃ・・・・・・らめぇっ!イく!イッちゃ、ぁあああああッ!!」
 ぎちぎちとイーヴァルを締め上げながら、悲鳴を上げたイグナーツの先端から、勢いよく白濁が噴きあがった。濃い精液は、イグナーツをしごいていたイーヴァルの手とアクセサリーを汚し、そのままイーヴァルの腹に撒き散らされていく。
 そんな手放しで発せられる快楽に、イーヴァルの熱も、高められ導かれるように、イグナーツの中へ噴きあがった。
「ふっ・・・・・・く」
「はあぁっ、ああっ!!きてる・・・・・・ぅ!イーヴァの・・・・・・イーヴァも、おれのなか・・・・・・ぁああんっ」
 イグナーツが嬉しそうに腰をくねらせると、またしゃらりと鎖が揺れる。美しく、淫らで、強く、優しい、この上なく愛おしいケダモノだ。
 イーヴァルは、イグナーツの内に埋めたままの己に、また燃えるような熱が集まっていくのを感じた。
「イグナーツ」
「ふぁ・・・・・・ん、なぁに?」
 体を起こしたイーヴァルに反射的に抱き着いたイグナーツを抱え、腰の上にある火傷痕の引きつりを撫でる。もうだいぶ薄くなってしまったが、これがイグナーツに最初に付けた印だ。
 ぎゅっと抱き着いてくるイグナーツの頬に口づけると、嬉しそうにキスを強請ってくる。
「ん・・・・・・イーヴァ、大好き。ぁんっ・・・・・・んちゅ・・・・・・はっ」
「・・・・・・少し、痛くするぞ?」
 艶やかに唇をゆがめたイグナーツの、包帯に覆われた肩を探り、指先に力を込めた。
「ッぁあああッ!!」
「・・・・・・良い声だ。それに、こっちも、良い反応をする」
 イグナーツの中はひくひくとうごめいて、イーヴァルも動きを控えられそうもない。
 イーヴァルはイグナーツをベッドに横たえ、包帯の隙間から顔を出している乳首に吸い付いた。
「ひあぁんっ!あっ、イーヴァ・・・・・・!イーヴァ、そこ、は・・・・・・ぁあっ!」
 ピアスの針に貫かれ、チョーカーとペニスからの鎖を中継する小さな突起を、舌で転がし、指先でつまむ。包帯をかき分けた指の腹で乳輪を優しくなぞり、胸郭にそって掌で愛撫しながら、悪戯にリングを口で引っ張ると、悲鳴を上げて腕も脚もイーヴァルにしがみついてくる。
 そのままでもよかったが、イーヴァルは一度イグナーツを引きはがして中からも出ていくと、イグナーツをひっくり返し、後ろからもう一度貫いた。
「ああぁっ!」
 膝をついて尻を高く掲げさせると、イーヴァルは包帯をかきむしるように、イグナーツの肩に爪を立てた。イグナーツは悲鳴をあげながら、頬を付けたシーツを握りしめるが、イーヴァルを咥え込んだ腰は快感に何度も揺らめく。
「ひぎッ・・・・・・ィったあ!・・・・・・ああッん!イーヴァ、はぁっ・・・・・・イーヴァぁ・・・・・・ぅああっ!」
 イーヴァルも息を弾ませながら、欲望の滾るままにイグナーツの中へ突き入れ、香油と自分が出した精液が混ざり合って泡立ち、それがイグナーツの中から溢れ出していく様子に薄ら笑いを浮かべた。イグナーツの中は熱く蕩けそうで、いくら慣れたとしても変わらずイーヴァルの肉棒に吸い付いてくる。
「ああ、いいぞ、イグナーツ。お前の中は最高だ」
「っ、イーヴァ、ああぁ!は、げしぃ・・・・・・あン、あンッ・・・・・・ぁあは、はあぁんッ!!ああッ!ら、めぇ・・・・・・ッ!!」
「く、ぅ・・・・・・いい締まりだ。ここが気持ちいいな?」
「あひッ!ひぎ、ぃ・・・・・・ッ!イィ!!イくッ!もう、イくぅッ!!」
 快感に跳ね回ろうとするイグナーツの体を押さえつけ、イーヴァルはイグナーツの傷に爪を立てながら、自分自身を一番奥にねじ込み、神聖なものを力尽くで汚すように自分の精液を注ぎ込んだ。
「ん・・・・・・はぁ」
「ひ、ぃっ!イーヴァ、イーヴァ・・・・・・!は、ぁ・・・・・・ああッ!!」
 絶頂に体を震わせ、ぎちぎちとイーヴァルを締め上げるイグナーツの頭をひとつ撫で、イーヴァルはイグナーツの中から身を退いてやった。
「あ・・・・・・はぁあん・・・・・・ッ」
「お前の中は本当に気持ち良すぎて、我慢がきかないな」
 快感の余韻をひきずりながら、自分の手で飾り立てた肢体を抱き寄せる。
「あっ・・・・・・ん、待って・・・・・・出ちゃう・・・・・・」
「かまわん。また奥で、溢れるほど注ぎ込んでやる」
 恥ずかしそうに、嬉しそうに、頬を染めたイグナーツが微笑む。鎖を揺らして快感に蕩けた笑顔も良いが、無垢な透明感にあふれた微笑も、また愛おしい。
「イーヴァ・・・・・・」
「愛している。イグナーツ」
「俺も・・・・・・!俺も、愛してる」
 ぎゅ、っと抱き着いてきた体は、ほどけかけた包帯がまとわりつき、イーヴァルの嗜虐趣味を刺激しないでもなかったが、細い鎖や宝石越しに温かな肌が密着すると、ただ抱きしめるだけで、気持ちが満ち足りてくるようだ。
「イグナーツ・・・・・・」
「イーヴァ?んっ・・・・・・」
 唇を舐め合うように何度もキスを重ね、暑い日差しが山際に隠れるまで、イーヴァルはイグナーツを抱きしめて、飽きることなく撫でまわした。
 二度と失敗はすまいと己を戒め、奇跡のような獣がどこかへ行ってしまわないように、もっと自分に繋ぎ留めようと。
「ん。イーヴァ、もっと」
 イーヴァルの体に抱き着き、もっと撫でろと額や頬を擦り付けるイグナーツは、そんなイーヴァルの思いを嗤うだろうか。愛している、そんなありふれた言葉だけでは、この原始的な情動を充分に言い表しきれていないというのに。


 湖にはいくつも護衛の舟が浮かび、かなり物々しい雰囲気だが、凝った装飾の小舟に乗っている二人は、まるで気にしていないようだ。船頭がゆっくりと進める舟には、日除けが掲げられ、その下で水面を眺めて楽しんでいるようだ。
 イグナーツは舟の縁に手をかけ、ちらちらと光る水面をのぞき込んでいる。
「そんなに乗り出すと落ちるぞ」
「んー」
 子供のように魚影を探すイグナーツの姿に、イーヴァルは小さな子供を幻視する。その子供が座っていた時、今自分が座っている場所には、同じ黒髪の男が座っていた。
 物静かで口数は少なかったが、いつも家族を気に掛ける、穏やかな良い父親だった・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
 いつの間にか、死んだ父親の年齢に近くなってしまった。あの人も、こうやって大事な家族を見守っていたのだろうか。
「あっ、跳ねた!」
 興奮気味に指をさすイグナーツの視線の先を追っても、すでにさざ波も消えたところだった。
「イグナーツ」
「なぁに?」
 山吹色のショールが、くりんと傾き、イーヴァルと無邪気に目を合わせる。
「もし今回のことに嫌気を覚えていないのなら、他に行きたい場所が出来なければ、また来年の夏もここでよいか?」
「いいよー」
 イグナーツはあっさりとうなずき、しかし首を傾げた。
「うーん、来年はエヴァも連れてきた方がいいのかな?熊避けに」
「やめておこう。猛獣同士の取っ組み合いで、エヴァが怪我をしたら嫌だろう?」
「あ、うん。そうだな」
 イグナーツは素直に頷いたが、確かに熊避けは必要だ。
「来年は早いうちから人をやって、シーズン中には熊に遭遇しないよう対策を取っておく」
「うん!よろしくな」
 にっこりと笑うイグナーツに、イーヴァルも唇に小さく笑みを刻んだ。
 毎年同じ人と同じ場所で同じことができることが、実は途方もない幸福なのだと、イーヴァルは初めて理解し、噛みしめるような気持で、目の前の青年を眺めるのだった。