夏の猛獣 −2−


 唾液やら香油やらでぬるぬるに濡らされ、男の指を三本も咥えて広げさせられているのに、イグナーツは一回もイかされることなく、じらしにじらされまくった。
「ひ、いぃっ、ああぁっ!」
 厚い織のクッションを裂きそうな勢いで握りしめて耐えても、イきたくてもあと一歩が足りないずくずくとした快感に、涙混じりの艶声が溢れ出る。たまらず腰をくねらせれば、笑いながら腿の内側や尻に噛みつかれるので、ひきつらせるように必死に我慢するしかない。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・ん、イーヴァ、や、だぁ・・・・・・ッ、イーヴァ、はやく・・・・・・もう、入れてくれって・・・・・・!!」
「もう少し慣らしてからでもよいだろう?」
「もう、いいっ!はぁっ、いいからっ・・・・・・はやく!っぁあう」
 ずるりと指が抜けていく感触に、イグナーツは涙をぬぐって体を起こした。
「ああ・・・・・・」
「これが欲しいか」
 着衣をはだけたイーヴァルの、そこから雄々しく現れたものに、イグナーツは蕩けたため息をついた。浮かされたようににじり寄り、迷いなく頬を寄せて口づける。熱い肉棒に何度もキスをして、好物を食べるように舌を出し、大きく開いた口でしゃぶりつく。
「んっ、んふっ、は・・・・・・んっ、んぐっ、ふっ・・・・・・」
 手を添えなければ勝手に上顎を滑って喉に刺さる凶器を、愛おしく舌と頬の内側で撫で、唾液が溢れようとする唇でしがみつく。
「淫蕩な顔をするようになったな」
「んふ?ううぐーん・・・・・・」
「っ、咥えたまましゃべるな」
「うー。んんっ、んぅ・・・・・・ぁ、はう」
 もっと口の中で愛撫したかったが、唾液を引いて離れたものが、次に入るべき場所はわかりきっているので、イグナーツは期待を込めて寝椅子に背を預け、脚を開いて持ち上げて見せた。
「はぁっ、イーヴァ、早くくれ・・・・・・ここに。いっぱい、中に欲しい」
 どろどろに蕩けたアナルが、期待に震えているのが自分でもわかる。あの凶器が自分を貫いて、快楽とともに支配されることに喜びを感じる体なのだから。
 黄昏の群青が遮られ、夜闇よりも艶やかな影が覆いかぶさってくる。
「はぁっ・・・・・・ぁ、あああっはあああああ・・・・・・ッ!!」
 体を裂くような太さと、鋼のような硬さのペニスが蜜壺に埋め込まれていき、十分な余裕をもって、最奥にぐいぐいと押しつけた。じらされすぎて切ない中を満たしていく力を感じるだけで、イグナーツは快感が振り切れるのを止められなかった。
「あっ、ああっ!あひぃッ!?あっ、ま、まて・・・・・・だめ、ぃっぁああああっ!!」
「ふっ・・・・・・簡単に奥まで入ったはいいが、入れただけでイったか」
 絶頂に震えるイグナーツの腹に撒かれた白濁を見下ろしながら、イーヴァルは満足そうに微笑む。イグナーツの中がぎゅうぎゅうと絡みついているのも、その微笑が深くなる原因だ。
「ひっ、ぅ・・・・・・だか、ら・・・・・・まてって・・・・・・言ったぁ!」
「早く入れろと言ったのはお前だ。そら、いくらでも入れてやる」
「ぅああっ!あぁっ!やめっ、まだ・・・・・・!ひぃっ!まだ、イった・・・・・・ああっ!ぁ、ひぃっ!」
 イグナーツは感じすぎてがくがくと震えたが、開かせた脚を抱えたイーヴァルが、問答無用に腰を打ち付けてくるために、涙交じりの嬌声を上げることしかできない。
 繋がった場所はちゅぱんちゅぱんと派手な音を立てて、自分の喘ぎ声よりもいやらしく感じるし、もちろん中を激しく侵されるのも気持ちいい。なにより善がっている自分を見下してくるイーヴァルの視線にさらされているのが、恥ずかしくて・・・・・・一番、燃える。
「ぁあん・・・・・・ああっ!はげ、し、ぃ・・・・・・っ、いいっ、そこ・・・・・・!」
「ここが気持ちいいな?」
「ぁひっ!イイ!ごりごり気持ち、いいっ・・・・・・!なか、なかきもちいいっ、ああっ!あぁっ!」
「ああ、いい締まりだ。どろどろなくせに、噛みつかれているようだ・・・・・・もっといい声を出せ」
「はあっ!イーヴァ、イーヴァ・・・・・・ぁあ!イくっ!また、イくぅ!ひ、ぎぃあああぁ!!あああああっ!!」
 体に爪を立てられ、限界まで開いた脚の、さらに奥まで突き立てられ、イグナーツは絶頂に腰を振りながら、自分に苦痛と快楽を与える凶器をきつく締めあげた。
「ふ、はぁ・・・・・・んっ」
「ふぁああっ!あ、ああん・・・・・・あっはあぁん」
 どくどくと注ぎ込まれる濃い雄の精が、体内に愛おしく染み渡っていくのを感じ、イグナーツは火照った身体を歓喜に震わせた。
 本来ならば、どこかの高貴な令嬢の胎に注ぎ込まれ、世継ぎを儲けるための、大事な子種だ。それが、子を孕めない男の、卑しい穴から腹の中に、無駄に捨てられている。その罪悪感と、畏れすらも、与えられる酷薄な笑みに蕩かされて、幸せな優越感へと昇華していく。この至上の男は、他の誰でもない、自分のものだ、と。
「は、ぁあ・・・・・・ああ・・・・・・ッ」
「ふっ、くく・・・・・・何回イけば気がすむのだ、お前は」
 イーヴァルは少しも硬さを失わないで、ぬめる襞に愛撫させるに任せたまま収まっている。当然、一回程度で済ますつもりはないのだろう。
「ふえぇ・・・・・・ら、らめぇ・・・・・・きもち、よしゅぎて・・・・・・」
 何度もやってくる絶頂に似た快感の波に、自分でも中がひくひくと痙攣しているのがわかる。しかし、自力でどうにかできるものでもないのだ。
「そんなに・・・・・・締め付けたら、動けないではないか」
「う、うごくなぁっ!まだ・・・・・・まだ、むりぃっ!」
 情けない泣き言をいえば、相手は仕方なさそうに、イグナーツがしっかりとつかんだ肩を寄せて、首に腕が回るようにしがみつかせてくれた。
「イーヴァ、イーヴァぁ・・・・・・」
 すんと鼻を鳴らすと、思いだしたように、頬に唇が触れる。涙がこぼれた目尻に、瞼に、前髪をかきあげた額に、小さくて柔らかな感触が、なだめるように優しく触れていく。
「・・・・・・イーヴァ」
 舌を舐め合うようなキスは、情事の激しい熱を冷ますどころか、再びもどかしい快感をくすぶらせ、息を弾ませる。
「はぁ・・・・・・ン、ふ、ぁっ!?」
 ピアスが揺れる乳首をきゅっとつままれ、イグナーツは喉をそらせた。
「ぅ・・・・・・あっ、イーヴァ・・・・・・ッああっ!」
「そろそろ、新しい鎖が必要だと思ないか?」
「ぇ・・・・・・?別に、錆びたりしてないだろ?」
 驚いて自分の胸元に視線を向けたイグナーツは、自分の精液で濡れた腹の上を、イーヴァルの指先が滑っていくのを見た。
「そっちの鎖ではない。そちらと・・・・・・ここを、繋げるのだ」
 まだ力を戻していないイグナーツのペニスをつまんで、リングピアスを爪ではじいたイーヴァルの顔を、イグナーツは正視できなかった。きっと、とても楽しそうに言っているだろうから。
「ま、また恥ずかしい格好させるのか!」
「今の恰好は、恥ずかしくないか?」
「十分恥ずかしいわ!もっと恥ずかしい格好になるっていうの!」
 そうやって、決して拒絶するわけではなく騒ぐイグナーツを、イーヴァルは楽しんでいる。くすくすと笑うイーヴァルが止めるはずはないし、イグナーツが本気で嫌がることなどしないから、イグナーツはイーヴァルの好きなようにさせているのだ。
「ああ、楽しみだな。お前をもっと飾り立ててやりたい」
「ひぁ・・・・・・!こ、こらっ、変な想像であそこをデカくするな!」
「つれないことを言うな」
 ちゅっと触れた唇は、相変わらず笑みの形で、乳首のリングを引っ張られて喘いだイグナーツの息を奪っていく。
「ん・・・・・・はっ、ぅは、あぁっん・・・・・・」
 深く舌を絡め合い、乳首は痛みを感じる寸前の刺激で愛撫され、イグナーツは緩やかに動きを再開した楔に身を任せた。
「ああんっ・・・・・・あぁ・・・・・・はっ、ぁん、イーヴァ・・・・・・ぁああっ」
「どうした?」
「んあ・・・・・・はっ、気持ちいい・・・・・・イーヴァ、気持ちいい・・・・・・ぁああっ!はあぁん!」
 緩やかだった動きが激しくなり、自分の中をかき回す凶器の存在に縋りつく。肉同士がぶつかり合う音に粘ついた濡音が混じり、弾む息に口づけもままならない。
「イグナーツ・・・・・・」
「はぁっ、はあぁっ・・・・・・イーヴァ、イーヴァっ、ああっイイっ・・・・・・なか、なかすごいぃ!ああんっ!きもち、いいッ・・・・・・!」
「お前は素直だな・・・・・・もっと欲しいか?」
「はっ・・・・・・ひっぅ、うんっ、ああっ!・・・・・・も、もっとぉ・・・・・・イーヴァ、もっと、ああっ!イく・・・・・・イーヴァ、なかに・・・・・・おれのなか、いっぱい・・・・・・はあんっ!ああっ!ほしい・・・・・・っ!いっぱい、なかに、だして・・・・・・!はひぃ、ひぎ!ぃああっ!あああっん!!」
 懇願は感じるポイントを蹂躙されることで応えられ、悲鳴を上げるイグナーツの、これも金の鎖と貴重な黒い石榴石のピアスに飾られた耳元に、甘く熱いささやきが流れ込んできた。
「鎖で飾っていいか・・・・・・?お前の体を、全部・・・・・・」
「ひっ、いいっ!いい・・・・・・つないで・・・・・・イーヴァ、おれ、イーヴァの・・・・・・イーヴァのだからっ!ああ、イくっ!もぅ、でるぅ!」
「はぁっ・・・・・・いいぞ、イグナーツ。奥に出してやる」
「ああ・・・・・・あああっ!イイぃ・・・・・・っ!」
 ごつごつと奥を突き上げてくる愛しい楔を締め上げ、蕩けた頭のまま絶頂を吐き出すと同時に、腹の中に熱い物が満たされていくのを感じた。
「ああっ!ああぁ・・・・・・っ!でてるっ・・・・・・おれの、なか・・・・・・はぁっ、イーヴァ・・・・・・イーヴァ、ぁあ・・・・・・!」
 がくがくと震えながらイーヴァルにしがみつくイグナーツの体を、イーヴァルは温かな腕で抱きかかえ、ぐったりと弛緩するまでそのままでいてくれた。
「ぅ・・・・・・ぅあ・・・・・・」
「いい声だった。室内の使用人どころか、階下の衛兵にまで聞こえていそうだな」
「うう・・・・・・ばかぁ・・・・・・!」
 少し嗄れた喉に咳払いをしたイグナーツを抱きかかえ、イーヴァルは満足そうに微笑んだ。
「夕食の前に湯浴みだな。・・・・・・この城にいる間は、覚悟しておけ」
「うぅ・・・・・・つやつやしやがって。発情期め」
「楽しい休暇になりそうだ」
 機嫌のよいイーヴァルに、イグナーツはもう力尽きたとこぼしたかった。