道 −6−


 連れてこられたのは、騎士団の詰め所でも、王城の牢屋でもなかった。
 すっかり日が沈んで暗くなっている上に、ペコペコの背にうつ伏せで乗せられていたせいで、どこをどう通ってたどり着いた場所なのかも、シャノアには皆目見当がつかなかった。
 運ばれている時は、逃げられないように両脚まで縛られていたが、降ろされると、自分で歩けとばかりに外され、その代わりに短剣が背をつついた。
 明るい屋敷の中は、豪奢な内装に加え、上品な調度品が揃えられている。「Blader」の溜まり場もすごかったが、ここもそれなりに金を持っている人間の屋敷なのだと、シャノアにはわかった。
 帯ごと剣を取られ、マントを剥ぎ取られた。どんと突き飛ばされてリビングの床に転がると、すぐに若い男のナイトが馬乗りになって、短剣を振り上げた。
(いやっ!)
 殺されるかと目をつぶったが、短剣はシャノアの鎧の継ぎ目に打ち込まれ、簡単にばらされてしまった。
 男が退いたので、シャノアはとにかく起き上がろうともがいた。スカートが捲り上がってしまっていて、そんなこと気にしている場合ではないのだが、やはり見えたままにはしたくない。
 鎧がなくなったことにより、腕ごと体を戒めていた縄が緩まり、シャノアはなんとか腕の自由を取り戻して猿轡を外したが、立ち上がる前に押さえつけられてしまった。
 見回すと、シャノアを押さえつけているナイトが三人。それから、ロードナイトが一人。全員男だ。所属を確認しようと目を凝らしたが、エンブレムも、階級章すらも見当たらない。
(私兵・・・?)
 大金持ちか、貴族の誰かに雇われているのだ。そして、その主を知られたくない。
 やはり、シャノアは正規の手順によって拘束されたわけではなかった。
「貴方たちは、いったい・・・。私がスパイだなんてでっち上げをして、どうするつもりですか!?」
 心底怖かったが、声が震えるのもかまわず、シャノアはできるだけ気丈に振舞うことを自分に言い聞かせた。
 しかし、指揮官らしい白髪を撫で付けたロードナイトは、すいとあごをしゃくっただけで、踵を返して部屋を出て行ってしまった。
「なぁ、本当に俺達が最初にやっちゃっていいのか?」
「いいんじゃないの。どうせ上にあげる時には、薬漬けのお人形だし」
 自分の左右で交わされた会話に、シャノアはぞっとした。レールから外れないトロッコに乗せられた気分だが、その行き先が明るくないことだけは確かだ。
「じゃ、一番乗り、いただきー」
 正面で脚を抑えていた一人が、シャノアのスカートをひょいと捲り上げた。
「い、いやぁっ!」
 蹴り上げた脚は防御され、簡単に掴み上げられてしまった。
「いやっ!放してっ!!」
「なんとまぁ、色気のないパンツ。彼氏とかいなさそう」
「おぉ?じゃぁ、処女?マジ?」
 下卑た笑い声に、シャノアは顔が熱くなった。確かに処女だが、それがすぐに過去形になりそうな雰囲気で、恥ずかしがってなどいられない。
「放してって言ってるでしょ!」
「はいはい、暴れない」
 にこにこ笑っている正面の男は、明るい茶髪の秀才顔だが、シャノアの脚をしっかりと掴んだ手はびくともしない。
「あんまり動くと、危ないよ?」
 脇から差し出されたナイフに、シャノアの動きも固まる。そのまま下着が切り裂かれるのを、なすすべもないまま感じた。
「いやっ!いやぁっ!!」
 二人に左右から押さえ込まれ、シャノアは解剖台の蛙よろしく、床に縫い止められてしまった。さらされた秘所が外気に触れて、たよりない。
「元気のいい子だねぇ」
「こっちも元気いっぱいですって。はーい、貫通式〜」
 なにか温かいものが当たったかと思うと、たいして濡れてもいないところに、ずぶりと入れられた。
「ひっ、いっ・・・ぐぅぁあっ!い、痛い!痛いぃっ!」
 めりめりと押し広げられる感覚と、乾いたままの陰唇が巻き込まれる痛みに、シャノアの体は硬直した。
「うわ、全然ダメ。入らねぇ」
「やっぱりなぁ。処女さんは勝手が違いますね」
「後がつっかえているんだし、早いとこ良くなってよ」
 薄手の胴衣を引き裂かれ、下着も剥ぎ取られる。
「あら、ちっさめ?」
「こちらも発展途上。ま、貧しいってほどじゃないと思うけど?」
 密かに気にしていることを言われて、涙が出そうになる。しかし、手甲と手袋を取った温かい素手で揉まれると、嫌悪の寒気と同時に、体の生理反応がシャノアの背筋を走った。
「ひっ・・・い、やっ!・・・んっぅう!」
 胸を撫でられたまま唇を奪われ、ぬるりとした感触に首を振り、手をばたつかせて抵抗を試みるも、反対側にいる男に勃起した乳首を吸われて、甘美な痺れに背が跳ねる。
「ふうっ・・・んっ・・・は、ぁっ」
 処女を失うのは怖くない。相手が好きになった男でないのは残念だが、いつかは散るものだ。ただ、ひりつくバギナの痛みと、嫌悪する意識とは無関係に反応する体に、悲しくなった。
「ん、いい感じ。やっぱ素面の子は新鮮だね」
 くちゅくちゅと音を立て始めたシャノアのクレバスに、挿入を試みていた男がにっこりと微笑んだ。
「しっかり押さえてて」
 がつんという衝撃とともに、体が内側から引き裂かれるようなビリビリという鋭い痛みが、シャノアの目の前に火花のような光を飛ばさせた。
「ぎ、ひぎゃあ・・・ああぁぁあ!!」
 一瞬で頭の中が白くなっていく。もう二度、性交が出来ないぐらいにアソコが壊れたのではないかと思った。
「がぁあっ・・・あ、ひっ・・・はっ」
「くぅ・・・っ、すっごい、狭すぎで、俺も痛い」
「処女さん大丈夫〜?はい、息吸って〜、はい、吐いて〜」
「はぁ・・・この泣き顔たまらん。薬キマッた女じゃ、こうはいかないしなぁ」
「もう我慢できん」
 自分のものでなくなった様に言うことを聞かない体で、必至に息をしようとしていたシャノアの腕に、涼しい空気が当たった。脱ぎ残されていた、手甲や手袋が外されたようだ。
「はい、これ握って。動かし方わかる?」
 痛みに血の気が引いて、冷たくなった指先には熱く感じられるものが握らされた。シャノアは初めて触るが、おそらく、いま自分の体内に入っているものと同じものなのだと理解した。
 こんなに大きなものが入ったのかと思うと、逆に笑えてくる。痛いはずだ。
「そそ。もっと強くてもいいよ」
「おや?処女さんスイッチ入っちゃった?」
 粘膜をこすり削られ、引き破られたせいで、動かれるとかなり痛いのだが、シャノアはこらえ、大人しく時が過ぎるのを待つことにした。
 痛みを紛らわそうと呼吸に集中すると、ふいに、どうしてこうなったのか、冷静に記憶が回りだした。
 逆向きにたどる記憶に、黒い猫耳のカチューシャをした女商人が、王国騎士団の独身女子寮の自室が、騎士団の詰め所と上司、心配そうな顔をしていたシリウス、強い日差しと優しいソラスティア、「Blader」の溜まり場とメンバー・・・。
 そうだ、あそこで騎士団には帰るなと言われた。どうしてだったか。黒髪のロードナイトが、なにか大それたことを考えているようなことを言っていた。それと・・・
 『今から騎士団に帰っても、たぶんハイマンの奴に落とされるだろう・・・』
(あぁ、そういえば、ハイマン隊長って貴族だったな)
 今朝シャノアが飛びついて、綺麗な金髪のプリーストに槍を投げるのを止めさせた。・・・たぶん、それが彼のプライドを傷つけたのだろう。
 『死んだほうがマシって思うめに合うより、とっとと辞めて、自由に生きろ・・・』そう言ったクラスターには、きっとこうなるであろうことはわかっていたのだ。
(私・・・馬鹿だ。あんな、生意気な、こと・・・言って)
 熱いものが目からあふれ出し、先についた涙の痕をたどっていくのを感じる。
 がくがくと揺さぶられ、体の中で暴れられる衝撃が、絶え間なくシャノアの呼吸を乱した。
「はっ、あっ・・・あっ、ふあっ・・・」
「ん・・・あぁ、すげぇ。はぁっ・・・く、いくぞ」
 どくどくと、胎の中に吐き出されるのを感じた。気持ちよくなんてない。ただ、アソコの痛みも、さっきよりは麻痺したように感じる。
「はいはい、次。もぉ、俺、いきそう」
「じゃあ、俺はこっちをもらう」
 ずるりと引き抜かれたが、やはりじくじくと痛む。ひょいと体をうつ伏せにされたが、もう抵抗する元気もなく、シャノアはされるがまま膝を立て、下敷きになった腕を引き抜いた。再びこわばった物が入ってきて、腹の中で動くのがわかる。さっきよりも深く入っている感じで、やたらと苦しく、内臓を突き上げられる感触が気持ち悪い。
 喘ぐシャノアの肩が引き上げられ、目の前に出された物を凝視するまもなく、弱い吐息を繰り返す口に突っ込まれた。
「うっ、んうっ!」
 初めての匂いと味は、例えようもなく変で、シャノアには適切な表現が思い浮かばなかったが、とにかく強烈な臭気に、胃が縮み上がるような吐き気がした。
「ん・・・処女さん、気持ちいいよ。ははっ、生理中の子犯しているみたいだけど」
「こっちは全然。舌ぐらい使ってくれない?」
 ぐいと頭を掴まれて、喉の方までねじ込まれる。
「ぐぅっ!ぉあ・・・っ!」
「んっ、こっちのがいいや。歯は立てるなよ」
 苦しくて吐き出したいのだが、頭を掴まれて無理やり振られているせいで、シャノアは息も出来ずに、涙と唾液がこぼれるに任せた。
 頭が熱くぼうっとして、自分の鼓動なのか耳鳴りなのかわからない音でいっぱいになる。
どこかで、ちゅぱんちゅぱんと音がする。それから、誰かが、なにか言っている。
(苦・・・し、い・・・)
 がつんがつんと、体を突き刺すように腹の中で動いていたものが動きを止め、また精液を胎の中で出される。それとは別に、苦くて臭い物が口の中に溢れたが、シャノアには飲み込むことも吐き出すことも出来なかった。
 ぐらぐらと揺れる視界が、すとんと床と平行になる。目を閉じて、自分がひどく疲れていることに気付いた。そうだ、きっと眠ったほうがいい。
 ふと、あの金髪の綺麗なプリーストの横顔を見た気がして、シャノアは微笑みたくなった。いま自分がどうなっていようと、今朝はあの人を守れたのだから、それはとても満足することだった。

「シャノアさん!シャノアさんっ!」
 青ざめてぐったりとしたまま動かない娘が、呼吸困難を起こしていることに気がつき、マルコは口を開かせて指を差し込み、喉に詰まった吐瀉物と精液をかき出してやった。
 ひゅうと、小さな呼吸音を聞いて、ほっとする。いわゆる殴り型の自分には、年上の従兄弟のように、人を治療する術をほとんど持っていない。
「マルコさん」
 ばさりと投げられた緋色のマントに、華奢な体を包んで抱えあげる。
 まわりには、だらしなく伸びているナイトが三人。
「・・・手加減したんですか?どうせ、口封じに殺されるのでは」
「そうだとしても、俺は生かして裁きを受けさせるべきだと思う。・・・それに、血は苦手なんじゃなかったか?」
 オーディンマスクで顔を隠した青い逆毛の騎士に、マルコはアサシンマスクの下で微笑んだ。
「大丈夫です。ヌいてきましたから」
 屋敷の表では激しい戦闘が繰り広げられているが、どちらかと言うと一方的な虐殺に近い。あの「Blader」を相手にして、まとも・・・な集団がかなうはずがないのだ。
『シャノアさんは確保しました。これから撤退します』
『了解』
 クラスターからの短い返答を受けて、マルコはシリウスと共に素早く屋敷を抜け出した。