狂騒スイーツに愛を込めて−2−


「あーん」
 フォークに刺さったチョコをぱくっと咥え、ハロルドはそれがボンボンだと知った。
「んっ、美味しい!オレンジリキュールですか?」
「そうだ。他にチェリーやミントのウイスキーもあったはずだが・・・混ざってどれがどれだかわからん」
 あっさりとしたチョコレートの中に、とろりとした甘ったるいシロップが入っていた。もちろん酒が混ざっているのだが、きつすぎず、いくらでも食べられそうだ。
 もったいないと思いつつ、ハート型のパンケーキを切らずに一気に頬張り、ハロルドは幸せな気分だ。
「えへへ。サカキさん大好き〜」
「どうした、酔ったか?」
「うーん?なんかぽかぽかしますぅ。シアワセだなぁ」
「そうか」
 アイスクリームも平らげ、皿の上にはあと二、三粒のチョコしかない。
「んー・・・もったいない。もっとサカキさんのチョコ食べたいのに」
 いつの間にか抱きかかえられるようにサカキにもたれたハロルドは、頭を撫でられて、嬉しくてもっと擦り寄る。
「もっと食べたいか?」
「はぃ・・・食べたいですぅ」
「そうか。チョコまみれなハロルドを食わしてくれたら、チョコレートをかけた俺をやってもいいぞ」
 サカキさんがチョコかけた俺を食べてくれて、俺はチョコサカキさんが食べたい。チョコかけなサカキさん・・・チョコまみれなサカキさんが、チョコまみれな俺を食べて・・・。
「やります」
 ハロルドの見えない犬耳が、気合十分にぴこーんと立った。
「そうか。簡単な準備があるから、シャワー浴びてこい」
「はぁい」
 ハロルドはふらふらとおぼつかない足取りで、狭いシャワールームに向かった。泥酔した時のようなひどい酩酊感はないが、腰のあたりを中心に体が熱く、上手く思考がまとまらない。
(おかしいなぁ・・・あのボンボン、そんなに強かったのかなぁ・・・)
 もそもそと服を脱ぎ、ふと違和感を覚える。
「ん・・・?」
 さっきから妙に疼くと思っていたら、股間のモノが元気に起っていた。
「あ・・・あー、やられたぁ」
 チョコレートにサカキの薬が入っていたのだ。今年の薬入りチョコは、ボンボンだったらしい。最初の「あーん」の時に、サカキの薄い微笑に気付くべきだった。
「ま、いっか〜」
 どうせヤるのだし。普段は自作の薬を使いたがらないサカキが、自分から使っているのだし。チョコレートフォンデュなサカキを食べさせてくれるというし。
 うきうきと温かいシャワーを流し、ちゃんと綺麗にしないとと、ボディソープを泡立て・・・。
「ハロ」
「ほわぁっ!?サカキさん・・・なっ、なんですか?」
 しっかり起ってしまったそこを、まだちょっと見られたくないという恥じらいがある。それなのに、軽装になったサカキは狭い浴室に踏み込んできた。
 サカキの部屋は広めな造りをしているが、となりのハロルドの部屋は、アパートの他の部屋同様、単身の冒険者用にコンパクトな造りをしている。狭い浴室に二人も入っては、身動きが取り辛い。
「二人は無理かと・・・」
「チョコフォンデュの準備だ。そこに座って脚を開け。滑らないように気をつけろよ」
「へ・・・?な、なにするん・・・」
 浴槽の縁に腰掛けさせられ、泡だらけになった興奮が丸見えになる。
「ちゃんと効いているようだな」
「や・・・恥ずかしい・・・って何持っているんですか!?」
 サカキの手でキラーンと光っているのは、どう見ても剃刀だ。
「そ、それ・・・なにする・・・」
「剃るに決まっているだろ。毛があると、チョコが固まって痛いし、後も面倒なんだ」
「なるほど・・・って、えええええ!?」
「うるさい」
 きゅっと根元をつかまれ、突き上がるような快感に腰が抜けそうになる。
「ひあ、ぁ・・・!」
「そのまま、動くなよ。怪我するからな」
 大きく開かされた膝の間に緑色の癖毛頭が沈み、ハロルドは剃られる羞恥と、大事なところのすぐ脇に薄刃が当てられる恐怖に耐えた。
「ぅ・・・っ、恥ずかしい・・・!」
「大丈夫だ。大人しくしていれば、すぐに終わる」
 サカキの言葉を信じて、ハロルドは大人しくぎゅっと目をつむった。ショリショリという恥ずかしい音に泣きそうになったが、薬のせいで体が熱く、特に敏感になったところは起ちっぱなしで、しかもそこはサカキに凝視されている。
「はっ・・・はぁっ・・・」
「気持ち良さそうだな。溢れてるぞ」
「あ・・・は、やく・・・ぅっ」
 指示されるまま、脚を開いて、姿勢を変え、結局尻の方まで、綺麗につるつるにされてしまった。
「ふえぇ・・・っ。サカキさぁん・・・」
「よしよし、よくがんばった」
 サカキは上機嫌で頭を撫でてくれるが、ハロルドは股間がスースーして落ち着かない。
 泡を落としてバスタオルに包まり、シーツを多めにかぶせたベッドに転がっても、恥ずかしくて体を見せられない。
「ほら、チョコをかけるぞ」
「うぅ・・・こんな、生えてなくて・・・だいじょうぶぁあああっ!?」
 服を脱いだサカキが、二、三粒のボンボンを頬張っていたが、その裸体が衝撃的で、ハロルドは思わず飛び起き、そこを凝視した。
「な・・・!な・・・・・・ぁ!!」
「あんまりびっくりすると、薬の効果までぶっ飛んじまいそうだな」
「ないいいいぃいいいぃ!!!」
「やかましい」
 ぺしっと額を指先ではじかれたが、それどころではない。サカキの髪よりも少し濃い色合いの、下の茂みが綺麗になくなっていた。
「ああうぅううう・・・サカキさんの・・・サカキさんのがぁ・・・」
 たしかに人間チョコフォンデュはやってみたかったが、サカキが陰毛を剃ってしまうことになるとは思わず、涙が出てきそうだ。
「ごめんなさいいぃ」
「なに言っている。早くハロのチョコバナナを食わせてくれ」
 ちゅっと唇を吸われ、ハロルドはおずおずと、タオルを握り締めていた手を緩めた。
「サカキさんて・・・」
「ん?」
「もう・・・なんでもありなんですか」
「ハロにだけな」
 けっこう全力な変態プレイも、想定を超える大胆さも、遠慮のないオヤジ臭さも、相手がハロルドだから曝してくれるのだという。
(そうかぁ・・・俺にだけかぁ・・・)
 それでいて、顔中に降ってくるキスに、大事にされている特別さを感じ、ハロルドはやっと力を抜いた。
 タオルの端から入ってきたサカキの手が、太腿から腰を撫で上げ、ずっと我慢して硬く反り返った熱を握り込んだ。
「あ、ふっ・・・ぅ!」
「こんなにでかくして・・・食いきれるかな」
「ひっ・・・」
 物足りないくらいの力加減で緩やかに扱かれ、首筋に軽く歯を立てられ、全身に漣が立つように、快感の火が広がっていく。
「あっ・・・はぁっ、きもち、いい・・・もっと・・・!」
 ぞくぞくとざわめく体をもてあまして抱きつくと、あやすように唇を合わされる。
「Happy Valentine」
 優しく腕を解かれ、タオルを取り払われてむき出しになった下腹部に、とろとろとチョコレートが流れ落ちてきた。
 溶けたチョコレートは、ぬるい温度で、冷たくも熱くもないが、甘い香りが強く立ち込めた。互いの肌が擦れるたびに、チョコレートが広がり、少し粘着質な音がするのが羞恥を煽る。
「はぁ・・・っ、ん・・・もう、食べて・・・ください」
 我慢できなくて腰を揺するハロルドをサカキは押し倒し、硬く反り返った果実に、両手ですくったチョコレートを擦り付けた。
 腹や腰をチョコレートまみれにして脚を開いた姿が、どれほど劣情を煽るか、ハロルドはまだわかっていない。
「・・・美味そうだ」
「んっ・・・ふぁっ・・・あっ、あぁ!」
 チョコレートと先走りが混じった先端が、温かく湿った唇に飲み込まれていく。同時に、えもいわれぬ蕩けるような快感が、ハロルドのどこかにあった留め金を、軽く弾き飛ばしてしまった。
「ひぁっ・・・ぁっ!きもち・・・いいっ・・・よぉ!もっと、し・・・てぇっ!!」
 自分から脚を開いて緑の癖毛を押さえつけ、気持ちのいい中へ突き込もうと、勝手に腰が動く。根元を指で刺激され、裏側をぬるぬると舌が這い、先端が滑らかな場所に当たる・・・。
「あっ・・・おく・・・喉当たって・・・いいっ、ぁんっ・・・サカキさ・・・ぁあ!いいっ・・・でる・・・うぅっ!!」
「んっんっ・・・んぐ・・・ぅっ!!」
 愛しい人の口の中に、白濁した獣欲を吐き出し、眩暈がするような快感が溢れる。たくさん出ているのはわかるが、止められないし、気持ちいいサカキの口を放したくない。
「あ・・・ひぁ・・・ァ」
 がくがくと体を震わせながら、ハロルドは甘い余韻に浸った。