気高き獣 −5−
イーヴァルが何を持っているのか、イグナーツにはわかるまい。それほど小さなものだった。
「イグナーツ、少しチクッとする。暴れると余計なところを傷付けるから、我慢しろ。声はいくらあげても構わん」 イーヴァルが針を使うことを悟ったらしいイグナーツは、嫌そうに顔を歪めたが、頷いて目を閉じた。 イーヴァルは手順をもう一度頭の中で思い浮かべ、生贄で何度もやってきたと自信を持たせた。イグナーツに知れると、瞬間的な拒絶に手元が狂いかねない。だから、スピードと精密さが要求された。 「大丈夫だ。俺はお前を傷付けたりしない」 その呪文をイグナーツと自分にもかけると、イーヴァルはイグナーツの陰茎に手を伸ばした。 「んっ・・・・・・!」 消毒の綿はさぞ冷たいだろう。亀頭下の裏筋を強くつまみ上げ、そこへ迷いなく真っ直ぐに、ずぶりと針を突き通した。 「んぐゥーーーーーッ!!!!」 がくがくと震える腕や脚腰は、鎖と革ベルトとロープによって、がっちりと固定されており、イーヴァルの邪魔にはならない。 素早く針を抜き取って、溢れ出る血液をガーゼに吸い取らせ、そして小さな飾りのついたピンを貫通した穴に差し込んで、きちんと先端にキャップをはめ込んだ。 「よし」 「ひぐうがーッ!うーがあぐううあっばーッ!!」 「何を言っているのかわからん」 イグナーツの猿轡を取ってやると、泣き声でエクラ語とベリョーザ語の罵詈雑言が飛び出してきた。 「なにしやがる、この馬鹿ぁああッ!!痛すぎるッ!!さっさと取れ!!このドS!!変態!!あんぽんたん!!十分傷付いたわ、すっとこどっこいのノーテンドアホぉおおおお!!」 「下賤な単語は理解できん。俺にわかる言葉で喋れ」 「いーから、取れぇえええええッ!!!!!」 「よかろう」 イーヴァルはイグナーツのアナルに埋まっていた翡翠を抜き取ってやった。 「っぁあ、あああ・・・・・・ッ!!」 「まだ少し・・・・・・まあ、少しぐらいきつい方が、久しぶりという雰囲気が・・・・・・」 「能書きはいいから、さっさと終わらせろッ!」 「・・・・・・まったく、風情の無い」 「そんなところに穴開けられて、どこに風情を感じろっていうんだっ!?」 イグナーツはため息をつきながら、うるさいイグナーツの腰を持ち上げてやった。 「ッ!?く、るしいっ!!」 「見えぬか?ここまで紫の濃いサファイアも珍しいのだが」 イグナーツの裏筋に付けたピアスには、極小粒ながら立派な青玉が嵌められていた。青でも赤でもない、濃い紫の・・・・・・イーヴァルの目と同じ色の石だった。 「そのうち、もっと大きなものに付け替えてやる。お前にはこういう飾りは初めてだからな、最初はこれで我慢してやろう。・・・・・・さて」 イーヴァルは危険な道具を片付け、イグナーツの両脚の戒めを解き、両手も解放してやった。 「・・・・・・・・・・・・」 「うむ、傷にはなっていないな」 拘束していた手足は、圧迫された痕はあっても、擦り切れた傷はなかった。イーヴァルは言葉通り、イグナーツを傷付ける気はなく、『安全』に気を配っていた。 「イーヴァ・・・・・・」 「なんだ?」 乱れた髪の下から上目使いに睨んできたイグナーツは、目に涙を溜めたまま文句を言った。 「痛い!こんなに痛くて恥ずかしいことするなんて聞いてない!それに、あっちが中途半端なんだから、早く何とかしろ!!」 要するに、痛いけど早く突っ込んでイかせろ、ということなのだろうが、それを本人がわかっていて言っているのかどうなのか、イーヴァルにはまだよくわからない。ただ、イーヴァルに尽きない笑みを沸き上がらせてくれる態度なのは確かだ。 「本当に、活きのいい男だ」 見上げてくる肉付きの薄い頬を包み込んで、あまり厚くない唇に口付すると、イーヴァルの背にイグナーツの裸の腕が巻き付いてきた。毛織の上着や絹のシャツ越しに、ぎゅっと込められる力が感じられた。 「っは、ぁ・・・・・・」 「初めて、お前から触れてきたな」 「無礼すぎて首を撥ねるべきか、皇帝陛下?」 「たわけが」 「ん・・・・・・ふ、ぅ・・・・・・ぁ」 イグナーツが欲しがっていたキスを、唾液が溢れるほど舌を絡ませながら何度もすると、涙が乾きかけた切なげな顔がイーヴァルを呼んだ。 「・・・・・・もぅ、欲しい。イーヴァ・・・・・・」 イーヴァルがイグナーツの尻に手を伸ばすと、よく慣らしたそこは、香油を溢れさせながら、すんなりと受け入れた。 「あ、ぁ・・・・・・!っ、イーヴァ・・・・・・イーヴァ・・・・・・ぁ!」 しがみついてくるイグナーツをベッドに寝かせ、着衣をくつろげながら見てみれば、小さなアクセサリーを付けたそこが、血を滲ませながら張りつめていた。 「痛いか、イグナーツ?」 「痛いよ・・・・・・!イーヴァのせいだぞ!こんなにっ、痛いのに・・・・・・!」 痛いのに感じてしまい、感じるのに痛くて達することができないのだ。それがわかっていてやるから、イーヴァルは性格が悪いと言われるのだが、このイグナーツは奇特なことに、そんなイーヴァルを好いてくれた。 「あ、あぁ・・・・・・ッ!」 「あれだけ広げて、このキツさか・・・・・・」 たっぷりと香油を使っており、イーヴァルが侵入する際も無駄なひっかかりはなかったが、それでも締め付けは強い。 「はあっ、はっ・・・・・・ぁ、ああっ!ぁうっ・・・・・・!」 やや辛そうなイグナーツがしがみつくに任せ、イーヴァルは緩やかに動いた。 「あァッ!イーヴァ・・・・・・っ、イーヴァ、だめ、だっ・・・・・・!ひっ、ぃあ・・・・・・ああっ!」 イーヴァルの楔をイグナーツの蕩けたアナルに抜き差しするたびに、ぐっちゅじゅっぷと卑猥な音を立てて香油が溢れた。イグナーツの中は温かく潤い、イーヴァルに擦られるたびに、きゅんきゅんと締め付けてきた。 「ふふっ、いい具合だ。お前のここは物覚えがよく・・・・・・実に素直だ」 「や、ぁああッ!!そこ・・・・・・ッ」 「ここだな?」 「っぁ、あああぁ・・・・・・はぁっ!はぁっ、だめ・・・・・・!」 「駄目では無かろう、こんなに良さそうに食いついてきて」 イーヴァルはしがみついてくるイグナーツの両手をベッドに押し付け、開かせた膝を抱え上げた。 「ぁあああああああッ!!!」 「そら、奥まで入った」 根元まで埋まった自身に絡み付いてくる内壁に痺れながら、イーヴァルは大きく動いて、イグナーツの奥まで届くよう腰を打ちつけた。 「かはっ、ぁああッ!!ああッ、ぁひっ、くる・・・・・・っ!おく、やあぁ・・・・・・っ!」 シーツを握りしめて耐える泣き顔も良かったが、上も下と同じように、もう少し素直になってもいいだろう。 「イグナーツ・・・・・・奥が駄目なら、どこがいい?」 「ひっ・・・・・・ぁ・・・・・・」 イーヴァルはことさら動きを緩め、浅い抜き差しを繰り返した。 「あぁ・・・・・・っ」 前髪を撫で上げて額をあらわにし、口づけた。涙がこぼれる目元に、浅い呼吸を繰り返す唇に、汗が浮く首筋に、硬く尖った乳首に、イーヴァルは唇を寄せ、舌で愛撫した。 「はぁ・・・・・・んッ!はぁっ、イーヴァ・・・・・・イーヴァ・・・・・・ぁ」 「どこがいい、イグナーツ?」 「・・・・・・ぜ、んぶ・・・・・・」 どこもかしこも感じると、金色の目が訴えてきた。 「そうか、全部気持ちいいか」 「うん、気持ちい・・・・・・ぁ、ああッ!!」 再び奥まで埋め込むと、眉間にあったしわが寄らなくなっていた。イーヴァルはイグナーツの柔らかなふくらみを弄り、硬く反り返ってピアス穴から血を滲ませる陰茎をゆるゆると扱いた。 「ひ、あぁ・・・・・・ッ!いいっ!痛い、のにぃ・・・・・・!」 「痛いのに、なんだ?」 さらに先走りを溢れさせた亀頭を爪先でひっかいてやると、きゅううっと中が締まった。 「らめぇッ・・・・・・きもちいいっ!痛いのにっ、気持ち、いいぃ・・・・・・ッ!!」 「そうだな。もっとよくなっていいぞ?」 片脚をことさら抱え上げて角度を変え、深く浅く、いいところを中心に突き上げてやれば、自ら腰を回して淫らに喘いだ。 「ああっ、らめ・・・・・・かき、まわしちゃ・・・・・・!そこぉっ、ごりごりいいっ、くるっ!いい、よぉっ!なかっ・・・・・・なか、きもちいいぃッ!!もっと!もっとぉ・・・・・・っ!!」 「よし、素直になったご褒美だ。お前の気持ちいい中に、出してやろう」 「あぁっ!なか、出して・・・・・・!イーヴァの・・・・・・イーヴァの、精液、出して・・・・・・ぁああっ!おれ、イくッ・・・・・・なか、きもちいい・・・・・・ッ!!」 完全に理性が飛んで、蕩けた笑顔で腰を振るイグナーツの根元を握り、イーヴァルは自分の動きに合わせて擦ってやった。 「ああああああぁ!!イくぅッ!!イーヴァ、きもち、いい・・・・・・ッ!」 「んっ、そら、出すぞ」 「あぁッ!でるっ、イくぅ・・・・・・ッ!!イーヴァ、すきっ・・・・・・すきぃ・・・・・・っぁあああああああッ!!!!」 血を滲ませた先から勢いよく白濁を迸らせたイグナーツの、ぎゅうううぅと締め付けられる中に、イーヴァルは頭の芯が蕩けるような快感を味わいながら、十五年ぶりに自分の精液を注ぎ込んだ。 最後まで紳士的な気遣いで体を清めさせたイーヴァルは、イグナーツの快感がおさまって痛いと騒ぎ始める前に痛み止めを飲ませ、気怠いまま眠らせることに成功した。 イーヴァルは特別に作らせた首輪を、眠っているイグナーツにはめた。丈夫な革製で、漆黒の表面に連なった三つの小さな星は、ベリョーザでも希少な金剛石だ。 「・・・・・・よく似合っている」 イグナーツが忠誠を誓うフビ国第四王子は、イグナーツをベリョーザへ向かわせることを了承する代わりに、イーヴァルに三つのことを約束してほしいと言ってきた。 ひとつ、ベリョーザ帝国とフビ国との友好。ひとつ、イグナーツにかまけてベリョーザの国政をおろそかにしないこと。ひとつ、イグナーツを生涯愛し、大切にすること。 イーヴァルはその条件を二つ返事で了解し、常に約束が見えるよう、こうして首輪に刻んだ。 「愛している」 イーヴァルは腕の中に納まった青年に囁き、泣き腫らした頬に口付けた。 「やっと、俺だけのものだ・・・・・・。愛している、俺のイグナーツ」 大理石と天鵞絨の檻に閉じ込めて・・・・・・もう誰にも見せたくなかった。 |