離さない為に −2−
サカキがペノメナボトルの開発に没頭しているせいで、ハロルドはすでに、二週間のオアズケをくらっていた。
(まだ終わんないかなぁ・・・) キノコスープの鍋をかき回しながら、ハロルドはため息をつく。 一度スイッチが入ると、文字通り寝食を忘れて研究に入ってしまうサカキなので、おろそかになりがちな健康管理までハロルドが目を光らせなくてはならない。 差し入れの減り具合や、数日に一度ペノメナの残骸を持ち込むときに見る様子でしかわからないが、それほど深刻な状態にはなっていないようだ。・・・部屋の臭いは酷いことになっていたが。 『ハロ』 『はい、なんでしょう?』 若干眠そうなサカキの声に、ハロルドは材料が足りなくなったのなら、取ってくる間に寝るように言わなくてはと思った。しかし・・・ 『・・・腹減った』 『ちょうどご飯できますから、シャワー浴びてからきてください』 『わかった』 風呂場で寝ないか心配だったが、空腹の方が勝ったらしく、サカキは身体についた生臭さを洗い流してから、ハロルドの部屋にきた。 「やっと終わった・・・」 「おおっ!お疲れ様です」 「ん・・・」 サカキはふらふらとテーブルについたが、料理のいい香りに目が覚めたらしく、ハロルドが皿を運んだ時には、ちゃんと目を開けていた。 皿の上に乗っていたチーズオムレツやポテトサラダやソーセージなどをあらかた食べつくして、クルミパンを片手にキノコスープを飲み干して、ようやくサカキは満足げに表情を緩めた。 「美味かった。・・・いま、昼か?」 「はい」 ハロルドが日付を言うと、サカキの眉間にしわが寄った。日にちの感覚もずれているようだ。 「だいぶ時間を食った」 「難しかったですか?」 「ん・・・種類が多かったから」 「種類?」 人工ペノメナを召喚するだけのボトルではなかったのか。ハロルドは首をかしげた。 「えーと・・・五、六種類かな」 「そんなに!?」 「そのぐらいしか考え付かなかった・・・。アイディアぐらい、あの変態にださせればよかった」 サカキはむっつりと頬杖を付く。 「これから量産なら、材料とってきますけど」 「いや、試作数セットはできた。実用品は、使い勝手とか、実際の効果を見てからだな」 ふわぁあ・・・と、大きなあくびをして目を擦ったサカキが、不意にぎゅっと目を眇めた。 「ハロ」 「はい?」 「それどうした?」 それ、とサカキが示したところは、ハロルドの捲り上げた袖から少しだけ見えた青痣だ。 (あ、やべ・・・) なるべく気付かれたくなかったが、仕方がない。 「材料集めに行って、ペノに殴られたんです」 「一人で行っていたのか!?」 「それは無理ですって。シノさんと、たまに真澄さんとかソラさんが一緒でしたけど・・・その、最初の日に、キリヤがソラさんたちに食べられちゃって・・・」 「うわ・・・」 サカキの顔もひきつる。 ハロルドが受けた、「もうお婿に行けねぇ」というキリヤからの泣き声混じりのwisは、かなり哀れだった。 「本人も期待しているところはあったし、嫌がっているのを無理やりってわけじゃなかったみたいなんで、問題ないですよ」 「そうか」 「ただ二日ぐらい寝込んでいましたね。できれば忘れたいけど、女の人に組み敷かれる感覚を身体が覚えちゃったみたいで、いまだに立ち直る方向に悩んでいるみたいです」 「気の毒に・・・」 ごく真面目に同情の意を表して、サカキは席を立ってハロルドのそばに寄った。 「サカキさん?」 「身体検査」 「いや、俺は何もされて無くて大丈夫・・・」 「当たり前だ。ペノにやられたところをみせろ」 ハロルドは仕方なくシャツを捲った。気付かないで残っていた青痣は、腕の一箇所だけのはずだ。 それでも、サカキの細い指が、ハロルドの胸や腹、脇を撫でていく。 「っ・・・」 「痛かったか」 「いえ・・・」 そうではなく、裸の胸や腹を愛しい人に撫でられて、無反応でいられるわけがないという話なのだが・・・。 「え・・・ちょっ・・・サカキさん!?」 「なんだ?ほら、立て。さっさと脱ぐ」 てきぱきとベルトが外されて、ずるんとジーンズを引き摺り下ろされる。小さな悲鳴を上げてハロルドが下着を死守したのに、何か小さな舌打ちの音が聞こえたような気がしなくもない。 「サカキさん、恥ずかし・・・んっ!」 ちゅっと、膝裏のあたりに温かい感触が触れて、ハロルドは崩れそうになる体を支えてテーブルに手を突いた。 足首から脛やふくらはぎを撫で上げられ、太腿の後側や内側に、温かい吐息と、柔らかな濡れた感触が這い上がってくる。 「はっ・・・ぁ」 くすぐったいのに、時々じんと痺れるような、むずがゆい熱が集まってくる。下着の端が捲られ、脚と尻の境目を舐められて、ハロルドは白旗を上げた。 「っ・・・サカキさん、くすぐったい・・・」 「ふん、開発の余地ありだな」 「か、開発って・・・」 ぎゅっと後ろから抱きつかれて、ハロルドは背中と腰に、サカキの温もりと強張りを感じた。 「・・・あったかいな。ハロルドの匂いがするし、やっぱり生のハロルドがいい」 「サカキさん?」 ハロルドが首を捻じ曲げてサカキを見ると、ハロルドの肩に頬をつけたまま、憮然とため息をついていた。 「あの生臭いのは、何とか気にならない潮の香りにごまかしたんだ。ただ、やっぱり冷たいのがなぁ・・・」 「・・・サカキさん、何の話ですか?」 「ペノメナ。気持ちよくなるようには仕込んだが、あれじゃ風邪ひきそうだ」 あっさりと言ったサカキの台詞に、一瞬真っ白になったハロルドの思考は、嫌々動いた。声が恨めしげに低くなるのは仕方がない。 「・・・ペノメナで一人えっちしたんですか?」 「仕方ないだろう。実験しなきゃ、物にならん」 「・・・・・・」 もっともな理由だが、ハロルドは聞かなきゃよかったような、聞いておかなきゃいけないような、フクザツに悲しい気分になった。 「・・・どうした?見てみたかったか?惚けたプラントの比じゃないぞ?」 「〜っ、そうじゃありません!み・・・見てみたいとは思いますけど」 「俺もハロルドがペノに絡み付かれているのは見てみたい。・・・でも、それは今度にしよう。ペノは見飽きた」 ハロルドの頬に、サカキの唇が触れた。 「俺をあっためてくれ」 「・・・俺だって二週間我慢してたんですから」 「悪かったよ。材料集めもな。感謝している」 二週間ぶりの抱き合ったキスに、ハロルドは子供のようにしがみついた。我慢していたのは、一人で孤独に過ごす寂しさ。 「ペノにいじられたところ、俺が全部いじりなおしてあげます」 「そうしてくれ。・・・楽しみだ」 剥ぎ取るようにサカキの服を脱がせ、ベッドに倒れこむと、少しハスキーな低い声が、甘い吐息に変わる。 たくさんキスをして、癖の強い緑色の髪をかきあげて、こめかみや耳元、首筋にも、唇を当てる。軽く噛むだけで、跳ねるように快感の反応を示す身体を、早くしろと腰に脚が絡み付いてくるまで、指先や舌で愛撫しつづけた。 すべすべとした太腿を押し開き、根元を指で押さえつけたまま、ハロルドは反り返ったサカキの先端に口をつけて、舌で撫でながら雫を吸い取った。 「―ッ!は、ぁああっ!!あっ!や、め・・・っ!」 きしむほど背をそらせ、止めろというわりには脚を開いたまま腰を振ろうとするのを押さえつけ、ハロルドは丹念にサカキを舐めてしゃぶりついた。 「あ、あぁっう!た、のむ・・・から・・・っ!はろ・・・よせ・・・っ、も・・・イぃ・・・ッ」 「んっ・・・ぢゅっ・・・んんっ・・・はぁっ、すごい・・・サカキさん、かわいい」 大きく喘ぎながら快感に涙を溢れさせているサカキを眺め、ハロルドは根元を縛めていた指を外した。 「二週間分の俺をあげますから、その前に、二週間ぶりのサカキさんをくださいね」 また硬く強張ったものをぱくっと咥えると、ハロルドは唾液で濡れた指をゆっくりとサカキの後ろに沈めた。 「あっアッ・・・!だめだ、うごか・・・っ」 括れを唇で擦ってから、舌を絡み付けるように奥までくわえ込む。すんなり二本入った指を少しずつ進め、擦って欲しいと締め付けるそこを、慎重に探り当てる。 くちゅくちゅと淫靡な水音にうっとりしながら、ハロルドは思い切って喉の方まで咥えこみ、サカキのいいところを強く擦った。 「っぁああああっ!!!ひっぃああっ!!」 勢いよく吐き出された苦い蜜を飲み干し、最後まですすりとった。 「んっ、ぷはっ。ごちそうさまでした」 「はぁー・・・っはぁ・・・」 ぐったりとベッドに沈んだ体を抱きしめると、力の入っていない腕が、ハロルドの背に回された。 「ばかが・・・きもち、よすぎる・・・」 「嬉しいです。じゃ、もっと気持ち良くなりましょう」 ハロルドはサカキと舌を絡めるようにキスをして、柔らかくほぐれたところに自分を埋めた。 「っあああ!ハロッ・・・ハロぉ・・・!」 「俺はそんなに慣らしていないのに・・・サカキさんのここ、ペノにたくさんいじられちゃったんですね?触手は何本入ったんです?」 「ぃ、うな・・・っ、あっあぁっ・・・ひっ、そこ・・・ッ!」 「ここも、たくさん擦られちゃったんでしょ?俺が擦りなおしてあげますね」 「あっぁんっ・・・!ハロ・・・ハロ、熱い・・・もっと・・・」 「もっと奥ですか?」 きゅんきゅんと締め付けてくる中を深く抉ると、半開きの唇からかすれた嬌声が漏れた。絞り上げられるような反動に耐えてハロルドが目をあけると、快感に潤んだ琥珀色の目が、せつなげに見上げていた。 「もっと・・・抱いて、くれ・・・」 伸ばされた両腕の中に顔を埋めて、ハロルドは熱に浮かされてほんのり色づいた細い体を抱きしめた。 「はい、サカキさん・・・」 奥まで入ったまま激しく突き上げるハロルドが締め上げられ、腕の中でか細い悲鳴を上げて達する愛しい人の中に、ハロルドも熱い想いを吐き出した。 そして、そのままもう一度、快感に痺れた身体をゆすり、サカキが気絶するように眠り込んでしまうまで、ハロルドはサカキを抱き続けた。 |