愚者に捧げる鎮魂花 −7−


 ハロルドも転生してホワイトスミスにはなったが、相手も同職なうえ、そもそもキャリアが違う。たとえハロルドが病み上がりでなく、いつもどおり機敏な動きができていたとしても、チハヤを跳ね退けることなどできなかっただろう。
「い、やっ・・・!放して!チハヤさん!!やめ・・・いたっ」
 外されたサスペンダーで両腕を後ろに一括りにされ、ハロルドはうつぶせのままもがいた。かなりきつく縛られており、ガントレットに守られていない手首に食い込んで痛い。
「こんなこと・・・サカキさんはしません!」
「俺はしている」
「だから・・・えっと・・・・・・だめですって!」
 ハロルドはチハヤの思考についていけなくて、どうすれば彼を止められるのか全くわからない。
 ただ、ベルトの金具が外れて、下着ごとジーンズを引き摺り下ろされたのは、紛れもない現実だ。
「嫌だ!放して!放せっ!」
 いくら顔や声が似ていても、サカキはサカキ、チハヤはチハヤだ。
 いくら暴れても、すごい力で腕を捕まえられたまま、片方だけジーンズを脱がされた。膝を立てさせられて腰をつかまれ、あられもない場所を開かされて、ハロルドは半狂乱になった。
「いや・・・ぁ、やだぁああ!いっ・・・痛い!」
 何も慣らしていないところに指を突っ込まれて、それ以上痛みを受けないように身体が強張る。
「こんなところに入るのか?」
「は・・・いるわけ・・・ないっ!」
「?」
「俺は、そっちは・・・したこと、ないんだって・・・っ!」
「は?・・・へぇ。ハロルドが入れるほうだったんだ」
 ハロルドは頬をシーツに押し付けたまま頷いたが、何を考えているのか全くわからないチハヤの無感動な調子が恐ろしい。
「ひぁっ・・・ぁ、うっ・・・!」
 無造作に指が抜けていき、次の痛みに備えてハロルドは身を固くしたが、予想していた激痛はなかった。その代わり、冷たい液体がぴしゃぴしゃと当たった。
(ローション?)
 潤滑剤にしては、ずいぶん水っぽいのが気になる。思い切って片方の肩に力を込めて、首を痛くなるほど後ろを向き、目に映った紅色の液体が入った瓶に慌てた。
「きょうき・・・無理ですって!俺まだ飲めないし、そんなの・・・ぅあぁっ!!」
「動くな」
 縛められたままの腕を捻り上げられ、我慢できないほど鋭い痛みに、ハロルドの両肩と頬は再びシーツに這い蹲った。
 つぷ、と硬質な物が差し込まれる感触と、バーサークポーションが染み込んでくる冷たさに、絶望するなというほうが無理だ。これだけで、すっかり犯されてしまったような気分になってくる。
「やだぁあっ!・・・うっ・・・や、ぁあ・・・っ、たすけて・・・!」
 レベルの足りない身体では、いずれバーサークポーションの負荷に耐え切れずに我を失ってしまう。その前に、ハロルドは声の限りに助けを求めた。その相手が、もういなくても。
「たすけて、サカキさん!サカキさっ・・・ひっ!や、ぁあああぁああっ!!いたぁいぃっ!やあぁああ!!」
 無理な姿勢を支えている首も痛いが、そんなものとは比べ物にならない、体を裂く痛みに、絶叫が迸った。
「ぬ、いてぇ・・・っ、おねがいっ!いたいよぉ・・・っ!さかきさ・・・ぃたいぃ・・・たす、けて・・・」
 体の中で脈打つ塊は、抜けもしなかったが、動きもしなかった。ただ、逃げようとする身体は、強い力で引き戻され、そのせいで痛むあそこが熱くひりついた。
 バーサークポーションは確実に効いていて、ハロルドの折れかけた心とは裏腹に、身体が温まり、この苦痛に順応しようと、精神を蝕み始めていた。
「ハロルド?」
 もう悲鳴も出ずに、荒い息をついて涙を溢すだけになったハロルドは、聞き慣れた声が自分を呼ぶのを感じた。痺れて感覚がなくなってきた腕を、誰かが擦っている。
「・・・ぁか・・・き、さ・・・・・・?」
「ハロルド」
 低くて、少しかすれた響きのある声。いつも、ハロルドを呼んでくれた・・・。
(サカキさん・・・)
 その時、自分の体の内側が蠢いたのを、ハロルドは自覚しなかった。疲れて力の抜けかけたハロルドの体の中を、ゆるりと塊が動く。
「は・・・っ、ぁ・・・んっ・・・」
 その異物感に吐き気と眩暈がしながらも、苦痛を逃れようと、ハロルドの身体は勝手に相手に合わせようとした。
 ぴちゃ・・・くちゅ・・・ちゅぷ・・・
「ぁ・・・ふ、う・・・」
「はぁ・・・気持ち、いい・・・。ハロルドは、こうやって・・・サカキの中で、していたんだな」
「ぅ・・・さ、かき・・・さん・・・んっ・・・はっ・・・ぁぐ・・・」
 ハロルドの内股を、伝い落ちていく液体ごと撫で上げていった手が、そのまま柔らかな芯を包んで扱き出した。
「ひあぁ・・・っ!あぁっ!やめ・・・や、だあぁ!」
 無理やり快感を引き出され、ハロルドは白くなりかけた意識に火花が飛ぶような気がした。
「あ・・・すご、いな・・・こんなに、締め付けて・・・」
「いぁあ・・・!あぅ・・・っやぁ・・・!」
 ずぶずぶと中を擦られるのは痛いし気持ち悪いのに、バーサークポーションのせいで余計に敏感になった前を擦られるのは気持ちいい。
「あぅっ・・・こ、われ・・・ちゃぅ、よぉ・・・っ、ああぁッ!」
「・・・ここ?気持ちいい?」
「ひいィっ!!」
 たまらなく気持ちいいところを突き上げられ、ハロルドはのけぞった。嫌なのに、そこをもっと擦って欲しい。
「ぃあぁ・・・!やらぁ・・・あぅっ、きもちいぃ・・・、た、すけ・・・」
「ハロ・・・」
 その低い声が耳に染みとおって、ハロルドの首筋は、ぞくりと粟立った。せつなげにそう呼ぶのは、サカキだけで・・・。
「ぁ・・・ひっ!・・・っさかきさ、ぁんっ!・・・ぃっちゃうぅ!ひ、イぃっ!!」
「くっ・・・んっ!」
 ハロルドはかつて体験したことのない快感に、体を痙攣させて、シーツの上に欲望を吐き出した。
「はっ・・・はぁ・・・はぁっ・・・」
 頭がぼうっとする。息が苦しい。体を支えている肩と首が痛い。まだ異物が入っているあそこが痛い。
 ・・・だが、まだポーションの効果が切れず、達したにもかかわらず、身体が熱い。
「すごいな。後ろでも、ちゃんとイけるじゃないか」
 感心するように言われても、ハロルドには答えようがない。
(サカキさん・・・ごめんなさい・・・っ)
 いくら似ているからといって、チハヤの声をサカキの声とダブらせて、イってしまっていた。
「うっ・・・ふぅっ・・・ひっく・・・」
「よく泣く奴だな」
 泣かせているのはアンタだと、ハロルドはぼんやりした頭の奥で思った。しゃくりあげながら泣いているのに、それを認識する意識が遠い。
 突然、身体の横をするりと落ちていき、ぱたんぱたんとシーツに着いたのは、ずっと背中で縛められていた両腕だった。痺れて感覚がないが、そのうち痛くなるだろう。
「ぐ、ぁあっ・・・!」
 まだ大きいものを引き抜かれて、ハロルドは呻いた。
 そのまま支えを失って、とんと腰を押されるままに、横向きに転がった。下敷きになった片腕と肩の痛みに、悲鳴を殺して腕を引き抜き、なんとか上半身だけ仰向けになる。何か冷たいものに触れたが、さっき自分がシーツの上に出した精液だと思い至って、また涙が溢れる。
 さっさと狂ってしまえばいいのに、痛みだけはハロルドを現実に引き戻してしまう。
「ほら、顔拭け」
 柔らかな布が、ハロルドの涙と鼻水と唾液でぐちゃぐちゃになった顔を拭っていく。
 サカキと同じで違う人間の顔なんか見たくなくて、ハロルドは目を閉じて顔を背けた。
「ハロルド」
 ハロルドはその声音に逆らえず、嫌々目を開いた。自分と同じ、ホワイトスミスの短い上着、その下の肉体はハロルドよりも逞しく、サスペンダーを押し上げている。
 身体が熱い。首や呼吸は楽になったが、ずきずきするあそこは裂けているだろうし、砕かれるかと思った腰も痛い。感覚が戻ってきた両腕も、びりびりと痛い。
 それなのに、一番痛むはずの心は、麻痺したようにぼんやりしている。目の前に、ハロルドの大好きな、目つきの鋭い顔がある。
「ハロルド・・・」
 聞き慣れた、少しハスキーな低い声。柔らかな唇が、ハロルドの唇を覆う。
「ちは・・・さ・・・?・・・かき・・・」
「どっちでもいい。・・・お前は、可愛いな」
 ぺろっと唇を舐められて、ハロルドは全身の力が抜けた。唇をふさがれて、チハヤの舌が入ってきても、抵抗できなかった。
「はっ・・・ぁ、んっ・・・ふぁ・・・あ、つい・・・ぅあ・・・あっ!」
 胸を撫でられ、耳を舐められ、ハロルドは堪らず、のしかかってきている男の肩に腕を回した。
「ハロ・・・」
 とろんと蕩けた意識に、その声と眼差しは、とても優しく染み込んできた。