遠足に行こう! −2−
キラキラキラキラ・・・。白に赤に青に黄色に・・・たくさんの光が雪に反射して、さらに銀に金に照り返されている。
ノエルは開きっぱなしの口から冷たい空気が入ってくるのも気にならず、この夢のような景色をすべて視界に納めようと、可能なかぎり目を開いた。その菫色の目にもイルミネーションの瞬きが映り、まるで星空のようだ。 「すごーい!!」 ルティエの門をくぐり、小川にかかる橋を渡ると、そこには天を突くほどのクリスマスツリーがノエルを待っていた。青々とした枝葉に長い銀モールが掛けられ、カラーボールをはじめ、様々な飾りがたくさんぶら下がっている。積もる雪にも負けないキラキラとした光が、雪空さえも明るく照らしているようだ。 思わず駆け出し、サンタポリンのモザイク画をあしらった坂道を駆け上がる。見上げれば見上げるほど、大きなモミの木だ。プレゼントが積まれた幹など、ノエルが十人束になったよりも太いだろう。 「ふぁああ・・・。ねぇ、ファムたん!」 ノエルが振り向くと、ラダファムは知り合いでもいたのか、なにやら坂道の陰に向かって手を上げていた。 「・・・ファムたん?」 ノエルが上ってきた坂道を下ると、そこには毛糸の帽子とマフラーをつけた雪ダルマがいた。 「ノエル、寂しがりのスノウスノウだ。話しかけてやれよ」 「え・・・こ、こんにちは?」 「メリークリスマス」 はにかんだ微笑で返事をされて、ノエルはぽかーんとなった。この雪ダルマはしゃべるのだ。 「すごぉい!」 「あははっ、スノウスノウはここから動けねぇからな。たまには話しかけてやるといい」 「ノエルだよ。よろしくね!」 スノウスノウと仲良くなるには、バードを志していないといけないらしく、ノエルはぽつんとたたずむ寂しげな雪ダルマに手を振った。 「さぁて、まずはノエルの防寒具をそろえないとな。手が冷たくなってきてるぞ」 ノエルの手を繋いでくれているラダファムの手は、ごつごつとして硬い。大きさはノエルとあまり変わらないし、ぱっと見ただけでは、そうとわからない。ノエルを包むように撫でてくれる、オーランの大きな手も好きだが、ラダファムの硬くて温かい手も、ノエルは好きだった。 ルティエの町は、建物の形までケーキのようだ。店の中は暖かかったが、ラダファムの表情は渋い。 「あちゃあ・・・。ルティエって、マフラーないのか」 ノエルもラインナップを覗いてみると、ロングコートやマントはあるが、マフラーはないようだ。 「ファムたん、ファムたんのマフラーで大丈夫だよ」 「えぇ〜っ、それ古いし・・・臭くねぇか?」 「そうかな?ファムたんの匂いがするよ」 「・・・・・・」 なぜかラダファムは赤くなっているが、ノエルはラダファムと寝ているときのように安心できる。 「そ、そか・・・。じゃあ、ダンジョンにいくか」 「うん!」 降り続ける雪を払いながら、町の北の高台にあるおもちゃ工場に入ると、ノエルはその広さと溢れんばかりのカラフルなおもちゃたちに、目を回しかけた。 「うわぁっ!!」 サイコロのブロック、パンダトランプのパーテンション、よく見ると床はパズルのようだ。そこかしこに包装されたプレゼントボックスやぬいぐるみ、たくさんのおもちゃが積みあがっている。あのレバーがたくさんついた機械は何だろう?頭上ではクレーンが動いているし、工場というくらいだから、おもちゃを運ぶ機械があるのだろう。 そして、色とりどりのポリン族がぽよんぽよんと飛び跳ね、帽子をかぶった小さな人も走り回っている。 「ポリンがいっぱーい!ねぇ、あれはなぁに?」 「クッキーのことか?あれもモンスターだ。倒すとよく焼いたクッキーをくれるぞ」 「クッキー大好き!」 ノエルは甘いお菓子が大好きだ。時々、オーランのギルドの人が、手作りのお菓子を持ってきてくれるが、それも美味しくて、ノエルは大好きだ。 しかし、オーランの家ではおやつの時間が決まっているし、自分でおやつを買ったこともない。 「さぁ、こいつで思いっきりぶん殴りな」 ラダファムが渡してくれたのは、可愛いトラ縞の肉球クラブ。よく見ると、+8ダブルウルヴァリンスピリット肉球クラブとある。挿されているカードは、狼の絵柄が二枚と、青いオットセイの毛皮を脱いだ中身のようなものが描かれているのが一枚。 「それはノエルにあげる」 「え・・・でも・・・」 ノエルは武器の精錬にはお金がかかるし、カードも高価だと教わった。オーランからは知らない人に物をもらっちゃいけないと言われているが、ラダファムからなら高価な物をもらってもいいというわけでもないだろう。 心配そうな困った顔をするノエルに、ラダファムはけらけらと笑う。 「カードは倉庫の肥しになっていたものだし、オーランも怒らないだろうよ。ノエルが進路を決めるぐらいまでは、役に立つだろ」 心配するなと背中を軽く叩かれ、ノエルはラダファムの厚意に甘えることにした。 「ありがとう、ファムたん」 「ん、ん。ノエルはいい子だなぁ」 満面の笑顔で抱きしめてくれるラダファムに、ノエルは頬擦りで答えた。 「ブレッシング!速度増加!ほら、どれでも叩いていいぞ〜」 「わーい!」 ノエルはラダファムのおかげで身軽になった体で攻撃を避けながら、えいやっと緑色の帽子をかぶったクッキーを倒し、続いてマーリンや赤い帽子のクッキーをどんどん殴る。ころん、ころんと落ちるキャンディー類や、よく焼いたクッキーを拾い集め、ノエルは上機嫌だ。 ラダファムはそんなノエルの後からついて行き、少し離れた場所にいるモンスターにホーリーライトをぶつけては、近寄ってきたものをノエルに叩かせてくれた。 おもちゃ工場は広いが、高低差もあり、またいろんな物が道を塞いでいて、ノエルは時々行き止まりにはまってしまった。しかし、カラーボックスで組まれた文字の間をくねくねと進むのも、大きなプレゼントボックスの山をよじ登るのも、とにかく楽しい。戦って息切れするよりも、笑いっぱなしで息切れする方が大きいようだ。 「あれ?おっきなプレボが歩いてるよ!!」 きゅっきゅっと音を出しながら、赤いリボンをかけられた大きなプレゼントボックスが、飛び跳ねるように歩いている。 「ああ、ミストケースだな。あいつのメマーナイトが当たると痛いから、俺がタゲを持つぜ」 ラダファムがばこんと一発殴ると、ミストケースは箱の中からびよよんと真っ赤なパンチンググローブを飛び出させる。その可笑しさにノエルは笑いながら、ぽっこんぱっこんと肉球クラブを振り下ろし、ミストケースはついにぱちんと爆ぜて消えた。 「あっ、ケーキだ!」 消えたミストケースのかわりに、ひとくちケーキが出た。しっとりしたスポンジとふわふわのクリーム、その甘い味を思い出し、ノエルの頬が緩む。 「もっとケーキ出ないかなぁ」 「ミストケースは二階に行けばいっぱいいるけど、あそこはおもちゃの兵隊もいるからな」 クルーザーの遠距離攻撃を防ぐ手立てがないと、ノエルを連れて行けないと、ラダファムは唇を曲げる。 「だぁー。ニューマとっておけばよかった・・・」 がっくりとうなだれて残念がるラダファムに、ノエルは出たばかりのケーキを差し出した。 「あのね、二階に行けなくても、ノエルは平気だよ。ファムたん、元気出して。これどうぞ」 「・・・っ、ノエルぅ〜!不甲斐ない俺を許してくれっ!」 ラダファムにむきゅっと抱きつかれ、ノエルはその褐色の頬に、ちゅっと口付けた。ノエルは、いつもノエルの事を考えて気にかけてくれるラダファムのことが、大好きだ。 「あっ、またいたよ。あれも倒そう?」 数が少ないと思っていたミストケースが、今度は三体も見える。ノエルはふんっと気合を入れて、肉球クラブを構えた。 「ノエル、ダメだ!それはチェペットの取り巻きだ!!」 「え?」 ラダファムの鋭い声にノエルは足を止めたが、すでに向こうに気付かれたらしく、ミストケースに囲まれながら赤い服を着た金髪の女の子が素足で歩いてくる。 「ノエル、下がっていろ。デモンストレーションとファイヤーピラーを絶対に踏むな」 「うん・・・」 ノエルはラダファムの邪魔にならないように、カラーボックスの陰に隠れて、そっと様子をうかがった。 背負っていた大きな荷物から装備を取り出したラダファムが、精錬してカードが挿されているらしいカドリールをぶんと一振りし、豪雨の箱を開けて、属性を付与する。 「ブレッシング!速度増加!いくぞ、おらぁっ!!」 立ち上る炎の柱を避けながら、ラダファムはミストケースを踏み潰し、殴り潰し、前掛けから大きなマッチ棒を構える怪物を出したチェペットに殴りかかる。 ノエルはデモンストレーションで燃える床にはらはらしながら、ラダファムは熱くないのだろうかと心配になった。しかし、火属性の服を着ているらしいラダファムは、ホワイトスリムポーションを口に咥えながら、見事に少女のモンスターを倒してしまった。 「成敗ッ!!」 「ファムたん、すごい!!」 「はっはっはぁ。そうだろう、そうだろう」 ノエルが興奮しながら抱きつくと、ラダファムは得意げに、逞しい胸で抱きとめてくれた。 |