不器用な優しさ −3−
午後いっぱいをイグナーツとのおしゃべりで過ごし、夕食も一緒に取ると、ユーインだけがイーヴァルに呼び出された。
「舞踏会ぃ!?なんで俺だけ!?」 頭を抱えて悲嘆するユーインに、報せを持ってきたアゼルがニヤニヤと笑う。 「クロムさん、また女装します?」 「絶対に嫌です。謹んで遠慮します」 アネッロでのことを思い出して、クロムはうんざりした表情になる。あのときは事情があったし、体型や顔を隠せたから、まだ何とかなったのだ。それに、またユーインは引っ張りだこだろうし、一人でいるクロムが誰かに絡まれたら、今度こそごまかしがきかない。そんな危険にクロムを晒すことをよしとしないユーインであるから、渋々一人で行くことに了承した。 「ベリョーザで顔を売るなんて、気が乗らないなぁ」 「あぁ、そういうことは気にしなくていいんじゃないかなぁ」 呟いて首を傾げたイグナーツに、ユーインはどういうことかとたずねる。 「イーヴァはたぶん、自分に向けられる姫君たちからのターゲットを、分散させたいだけだと思いますよ。ああ見えて、昔からパーティーとか苦手だったんだって」 パーティーに慣れたユーインよりも、ユーインのお見合い相手の肖像画を大量に見せられたクロムの方が、納得の声を漏らした。 「なるほど。せっかくいるんだから面倒くさいのをちょっと任せる、ということなんですね」 「そういうこと。半分くらいは嫌がらせだと思うけど」 あははは、とイグナーツは軽快に笑い、ユーインにご愁傷様ですと手を振った。 「クロムは、俺とお風呂に行こう!ベリョーザは春でも寒いからね」 「いいですね。ではユーイン、そういうことで」 「うぅ〜〜〜っ!!」 俺もクロムと一緒に風呂に入りたい、などと愚痴を漏らしつつも、ユーインはイーヴァル怖さに、嫌々アゼルについていった。 ロサ・ルイーナに代わって風呂場に付き添ったのは、イーヴァル以上に立派な体躯の持ち主の青年だった。 「俺専属のお医者さんで、ハインツだよ。由緒ある貴族だけど、元軍医なんだ」 「お初にお目にかかります。ハインツ・ボニファティ・ヴァレリアノヴィチ・キュイ=ルミアンゼフと申します」 以後お見知りおきを、と丁寧に礼をした長い名前の青年は、ベリョーザ人らしい威圧感のある体格のわりに、気弱そうな優しい声音で話す。元衛生兵であるクロムとしても、戦場の悲惨さを知っている医師というところに、信頼と親近感を覚えた。 「もしかして、イーヴァル陛下が言っていた口煩い医官って、ハインツさんのことかな」 「えっ!?」 「あははは!たぶんそうだよ。ハインツのお祖父さんのこともイーヴァは知ってて、ルミアンゼフ家の人間は愚直で頑固で苦手だって言ってたから」 「お、畏れ多いことです・・・・・・」 恐縮して大きな体で首をすくめる様子が、どことなく可愛らしく感じてしまう。大きなアナグマのようだ。 「お客様にはご不快かと思いますが、どうぞご容赦ください」 ハインツが脱衣所まで入ってきてクロムは驚いたが、彼にはイグナーツの護衛よりも、もっと直接的な役割があった。 「一人でもできるんだけど、外した物を管理しておいてくれる人が必要だからさ」 ぱっぱと服を脱いだイグナーツの裸体を見て、クロムは絶句したまま、思わず赤面して目を背けた。 「綺麗だろ?イーヴァの趣味だよ。打たれたり斬られたりするよりは、まだマシだと思うんだけど」 三連のダイヤモンドがあしらわれた黒い革の首輪。そこから生えた二本の細い鎖は、左右の乳首に繋がれ、さらにそこから別の鎖が腹部を縦断して、男性器に繋がっていた。そして、その装飾品たちには、いくつも宝石がつけられており、繊細な金の鎖だけでも相当な金額がかかっているように見えた。 「い、痛くはないんですか?」 「あー、穴を開けた時は痛かったけど、何年も前の話だし。今は全然痛くないよ」 クロムが背を向けている間に、カチカチと小さな音を立てて異様な装飾品が取り外されていく。クロムもなるべく気にしないように、手早く衣類を脱いだ。 「よし、行くぞー」 「は、はいっ」 焼き印痕のある背を追い、クロムはホカホカと湯気の立つ風呂場に立ち入った。 大理石の大きな浴槽に、二人そろってざぶんと浸かり込む。クロムは花の香りがするたっぷりの湯に体を沈めるが、イグナーツの体が気になって仕方がない。 「洗いにくいから、全部外したんですか?」 「全部じゃないよ。見る?」 「ひやあぁ!?」 ざばぁっと目の前に立たれて、クロムは思わず手で視界を塞いだが、イグナーツは大丈夫だと笑う。 「お医者さんとして見ればいいんじゃないかな。ハインツは腕がいいから、たまにイーヴァが痛いことしても綺麗に治してくれるんだよ」 大量のピアスはまだしも、ピアス穴が開いている場所が問題なのだけど・・・・・・と思いつつ、クロムはイグナーツに言われて恐る恐る目を開けた。 体を洗いにくいし、水滴を拭うのも大変だからだろうか。首輪と鎖は外されていた。しかし、両乳首には、まだリングピアスが付いている。 「なんで、そんなところに・・・・・・」 「イーヴァの趣味だから・・・・・・あと、こっちの方が多いんだよ」 イグナーツは自分の陰茎をひょいと持ち上げて裏側を見せ、クロムにまた素っ頓狂な悲鳴を上げさせた。クロムは今度こそ両手で顔を覆ってしまう。 「もう・・・・・・もうっ・・・・・・!!」 「そんなに恥ずかしがらなくても・・・・・・ちんこにピアスつけてるのは俺なんだし」 「それを見せるのは、どうかと思いますけど!!」 イグナーツの陰茎には、裏側に数個のリングとピンが連なっていた。尿道を貫通していないだけましだが、小さな宝石飾りが筋にそって並んでいるのは、やはり異様な光景だった。 「なんでそんな所にまで・・・・・・」 「わからない?イーヴァが観賞するためと、俺が他人に入れないようにだよ」 「え?」 意味が分からなくて手を下ろしたクロムに、イグナーツはむしろ真面目な顔で説明した。 「イーヴァの独占欲の表れというか、支配欲の表れというか・・・・・・。つまり、こんなのをつけていたら、男にも女にも突っ込めないだろ?」 「ええ、たしかに・・・・・・」 陰茎に並んだリングをちゃらちゃらと指先で弄りながら、イグナーツはさらに続ける。 「さらに、これを外さないと、俺は自分で扱くこともできない。貞操帯みたいなもんかな?」 「十分軟禁されているのに、そこまでしないといけないんですか!?」 「イーヴァがそういう趣味をしているんだから、仕方がない。俺にはいまだに想像つかないんだけど、俺がいない間は、平均して毎月のように死人が出ていたらしいよ。イーヴァが俺を飾り立てることで満足して、年間十数人が無駄に苦痛を受けて死なないだけ、いいことじゃない?」 「それは・・・・・・」 イーヴァルの嗜虐趣味は有名だったが、イグナーツがそばにいるようになってからは、イグナーツ以外の者を手ずから傷めつけることはなくなったという。 「こういう飾り、俺は別にかまわない。ユーイン殿下は、クロムにこういうのはしないの?」 「し、しませんよ!!」 ユーインはクロムを傷付けないよう大切にしており、イグナーツのように宝石まみれにされたクロムの裸体にちょっと興味がわくなくらい思うかもしれないが、実際にやるなんてとんでもないと憤るだろう。 「じゃあ、普段はどんな感じにヤってるの?」 「ええぇ!?」 「教えてくれてもいいじゃん」 「どんなって・・・・・・その、普通、というか・・・・・・」 「じゃあ、相手が忙しい時は、自分でしたりもする?それとも、自分でする余裕がないくらい、毎晩搾り取られてる?」 「なっ、そんな・・・・・・だからっ」 ぐいぐい質問攻めにしてくるイグナーツの乳首ピアスが視界から外れず、クロムは赤面したまま、わたわたと手を振る。 「俺はさ、いまみたいにイーヴァが忙しい時は寂しいんだ。普段は絶倫魔王で、もう出ないってくらいイかされるからさ。でも、イーヴァがつけたピアスのおかげで、俺は前を擦れないし・・・・・・」 そう言いながら、イグナーツは自分の両乳首のリングを軽くひねってみせた。 「はぁっ・・・・・・」 「ひっ、痛くないんですか?」 「ん・・・・・・強くやらなければ。もうイーヴァに弄られすぎて・・・・・・」 赤く熟れた果実のようにふっくらと立ち上がったところに貫通したリングが当たってもどかしそうに、イグナーツは指先で乳首をつまみ上げて切なげな吐息を漏らした。 「このくらいじゃ、気持ちいいだけなんだよ」 クロムの目の前で立ち上がり始めた陰茎が、所有者を主張するように高価な拘束具を見せつける。色付いた先端くらいなら刺激できそうだが、竿を握り込んで擦るなど、到底できない。 「はっ・・・・・・ぁ、んっ・・・・・・ふ、ぁ、イーヴァ・・・・・・」 硬く立ち上がった先端から、我慢できない透明な雫が溢れだし、アクセサリを伝うように湯に混じって溶けた。クロムは見てはいけないと思いつつも、その艶やかな痴態から目を離せなかった。 「んぅっ、足りない・・・・・・」 「それ・・・・・・どうするんですか」 潤んだ金色の目がうっとりとほころび、血行の良くなった薄い唇が、さらに赤い舌を覗かせ、クロムを見下ろしていた。 「どうもこうも・・・・・・こうするしか、ないだろ?」 くるりと後ろをむいたイグナーツは、湯船の縁につかまって、片手で尻を広げて見せた。そこはもう赤くなった襞が、湯に濡れて物欲しそうに解けていた。 「ここを、かき回すんだよ。自分の指で・・・・・・中を擦らないとイけないんだ。いつもは、イーヴァがここに入れてくれるんだ。何度も。あのでっかいので、奥まで・・・・・・はぁ、いっぱいにしてほしい・・・・・・」 するりと入り込んだ二本の指が、くちゅくちゅとアナルに出入りするのをクロムはただ見ているしかできなかった。広げて、また奥へ入っていき、中をかき回すように動いたときには、甲高い喘ぎ声が響いた。 「ぁあっ・・・・・・見える?ここに、ずぼずぼ突っ込んでもらうんだ・・・・・・っは、あぁっ!ああ、そこ・・・・・・イイ!気持ちイイっ!で、るぅッ!」 赤い肉穴に根元まで指を埋め込んだ白い尻ががくがくと震え、湯気の中でかくりと沈んでいった。 「はぁ・・・・・・ふはぁ・・・・・・。ねえ、クロム。そのままじゃ、外に出られないだろ?」 今度は俺が見ていてあげるよ、と向き直ったイグナーツの前で、クロムは自分のいきり立ったものに手を伸ばした。 |