美女と野獣


 むかしむかしあるところに、三人の娘を持つ商人がおりました。
 ある日、商人は娘たちに、土産をやるから望みのものを言うよう言いました。

 長い黒髪をした、一番上の娘はこういいます。

「俺は月の色をしたドレス(Xアーマー)がいいな」

 豪華な金髪の、二番目の娘はこういいます。

「私は日の色をしたドレス(Dローブ)が欲しい」

 しかし、緑色の癖毛をした一番下の娘は、何も言いません。
 父である商人が、遠慮せずに欲しい物をねだりなさいと言うと、末娘はどこか面倒くさそうに言いました。

「・・・白ハーブ」


 商人は仕事を終えた後、娘達が欲しがった服を買いましたが、どうしても白ハーブを売っている人がいません。

 困った商人は森へ行き、白い草や輝く草が生えていないか歩きました。そのうちに、大変立派な白ハーブの群生地を見つけました。
 商人は末娘への約束が果たせると、喜んでハーブを摘みましたが、そこは野獣の王子が住む、古いお城の薬草園だったのです!

「ちょっと!おじさん、ドロボウだよ!!」

 ぐおーっと顔を出した荒々しい獣にびっくりして、商人は腰を抜かしました。

「俺の白ハーブを盗むのは、おじさんの子供を取っちゃうのと同じなんだからね!」

 怒りの収まらない獣に恐れをなして、商人は慌てて家に逃げ帰りました。そして、娘たちにことの次第を語りましたが、とにかく野獣の王子の怒りが恐ろしくて仕方がありません。

「・・・謝ってくる。俺が言い出したことだからな」

 末娘の発言に、商人はとんでもないと引き止めましたが、娘の決心は揺るぎません。

「いいんじゃね?本人が行きたいって言ってるんだし」
「サカキ、気をつけてな」

 わりと無責任なことを言う姉たちに支援され、末娘のサカキは、スカートでは歩きにくい野獣の王子が住む森の奥へと足を踏み入れました。


 暗くて深い森を進むと、それは立派なお城が見えてきました。サカキは門扉を叩きます。

「・・・おーい(ガンガンッ)」

 すると、大きな野獣がびっくりしたように現れました。

「え?あ、あの・・・どちら様でしょう?」
「・・・・・・バフォ?」

 大きなヤギの角、ふかふかの金色の毛、ぴんと尖った耳、長い顔の先にあるつやつやした鼻、サカキなど一呑みにしてしまいそうな口・・・。とても怖ろしい悪魔のような姿ですが、サカキを見つめるつぶらな青紫色の目は、困ったように揺れています。

「やっかいになるぞ」
「えええぇっ!?」

 色々省略したサカキの発言にびくびくしつつも、大きな野獣は自分を恐れない娘を招き入れました。そして、言葉足らずな珍客から、白ハーブの償いに来た事を聞きだすと、明るく言いました。

「大丈夫ですよ。そんなに、ひどく荒らされたわけじゃないですから」

 サカキはひとまずほっとしましたが、ハロルドと名乗った大きな野獣はもじもじと続けます。

「あの・・・よければ、このままウチにいませんか?薬草園は好きに使ってもらっていいですし、このお城では、欲しい物は何でも出てきますから・・・」

 静かに錬金術の研究ができる環境を目の前にしたサカキは、二つ返事でハロルドの申し出を受け入れました。


 獣のハロルドは、サカキと食事を共にする以外は、サカキの研究や勉強を静かに眺めていたり、薬の材料を取る手伝いをしたり、いつもニコニコと笑顔で、おとなしく過ごしています。
 サカキは獣がとても優しいので、この恐ろしげな外見をどうにかできないかと、大好きなスイーツを頬張りながら頭をひねります。

「う・・・呪いなんで・・・」
「ふむ。で、その呪いを解くには?」
「・・・お、俺と・・・け、結婚してくださいっ!」
「・・・・・・」

 呆れたようにため息をついてスルーしたサカキに、サカキのことが好きなハロルドは、しょんぼりとうなだれてしまいました。


 ある日のこと。

 ハロルドが、慌ててサカキに鏡を見せました。それは魔法の鏡で、末娘の身を案じた商人が、とうとう病気になってしまったことを映していました。

「あの・・・」
「・・・しかたがない、一度戻る。いいか?」
「はい。・・・でも、なるべく早く帰ってきてください」
「それはいいが、何かあるのか?」
「・・・・・・もうすぐ、俺の、誕生日なんです・・・」

 でかい図体の癖にもじもじと小さな声で言うハロルドを、サカキはとても可愛く思いましたが、ハロルドはあまり嬉しそうではなく、どこか悲しげな顔をしていました。


 久しぶりに家に帰ったサカキでしたが、商人は末娘の帰省に喜び、あっという間に元気になりました。
 サカキはすぐにお城へ帰りたかったのですが、家族に引き止められてしまいました。

 何日かしてようやく森の奥のお城に帰ってくると、ハロルドが倒れています。驚いて介抱しますが、ハロルドはぐったりしたままです。

「最後に、会えてよかった。・・・愛しています」

 弱々しく微笑んで目を閉じるハロルドに、サカキはもっと早く帰ってくるべきだったと涙をこぼします。

「結婚でも何でもしてやるから死ぬな!」

 サカキは一緒に暮らしているうちに、この恐ろしげな姿の優しいハロルドを好きになっていたのです。
 獣の大きな口に、涙に濡れた唇が触れると、どうしたことかハロルドの体が縮んでいきます。

「・・・ハロ?」

 毛むくじゃらだった大きな獣は、ふさふさした明るい茶色の髪と、キラキラと輝く青紫色の目をした、立派な若者になりました。

「ふにゃ・・・?ん?あれ?呪い解けたぁああああ!!!!ありがとうございますぅうう!!!」
「???」

 状況を飲み込めていないサカキに、ハロルドはむぎゅうと抱きつきます。

 遠い国の王子様だったハロルドは、呪いによって獣にされ、21歳の誕生日までに、本当に愛してくれる人からのキスをもらえなかったら死んでしまうところだったのです。

 サカキはハロルドと結婚して、ハロルドの国で幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし、めでたし。