オーロラの妖精 −9−


 クロムの甘く激しい嬌声を聞きながら、そうっと寝室のドアを閉め、ノエルはそろそろと忍び足で客室のリビングを横切り、二人の部屋を後にした。まったく、きしみひとつしないドアで助かった。
(うわぁ・・・激しかったなぁ)
 オーランからの夜食の誘いを携えてやってきたのだが、ノックに反応もなく、リビングに入ったらクロムの声が聞こえて、喧嘩でもしているのかとそっと寝室を覗いたら・・・お楽しみの真っ最中だったというわけだ。
 二人がそういう関係だと知ってはいたが、あの物静かなクロムの切羽詰まった喘ぎ声は、ノエルの股間ももじもじさせた。
「王様、ノエルです」
 コンコンとノックすると、オーランの返事が聞こえ、ノエルはオーランの私的なラウンジに足を踏み入れた。
 オーランの私室は、なんというか・・・ノエルには不思議な空間だった。部屋いっぱいに飾られているのは、船乗りたちが、各地で手に入れた土産物らしい。柄の先が丸い宝石飾りの剣とか、繊細な透かしの入った陶器の香炉などに混じり、ノエルの身長ほどもある巨大な木のお面や、太鼓をたたいている縞模様の服を着た人形などは、どこの国の物か問う前に、呪物ではないかと疑いたくなる。
「あの二人は?」
「ぁー・・・えっと、お取込み中でした」
 ちっとも誤魔化しきれないノエルの言い方に、オーランはくすくすと笑い、隣に座るようしめした。
 ノエルはカウチに座るオーランの隣に腰を下ろし、ノエル用に水で割った蜂蜜酒を手渡された。テーブルには、チーズやソーセージなどが並び、黒パンやピクルスが添えられていた。
「ノエルは他国との外交官には向かなさそうだな」
「ぅ、ごめんなさい・・・」
「かまわないよ。ノエルは俺とジョート族とをつなぐ大使であれば、役目としては十分なのだからな」
 オーランが砕けた自称を使ったので、ノエルはびっくりして、隣に座るオーランを見上げた。
「なんだ?」
「ううん」
「ノエルが困った顔をしていなかったので、あの二人が喧嘩をしていたわけではないのだろう。つまり、いちゃついていたわけだ」
「すごい・・・。なんでわかるの?ノエル、王様にクロムたちが恋人だって言ったっけ?」
「いいや。慎ましいノエルは、自分からは言わなかったよ」
 ノエルはそこまで推察したオーランを、本当にすごいと思ったのだが、オーランは穏やかに、楽しそうに微笑むばかりだ。
「そうだ、ノエル。二人きりの時は、オーランと呼んでくれ」
「え・・・と・・・・・・、オーラン様?」
 ノエルは困りながらも妥協点を探したのだが、オーランは不満なようだ。
「俺はノエルが好きだから、呼び捨てで呼んでもらいたいのだが?」
「え、ぁ・・・う・・・」
 王様を呼び捨てにしろという方が庶民の心臓には悪いのだが、ユーインも王子なのに呼び捨てにさせていたからいいのかなと考え直した。
「オーラン・・・?」
 恐る恐る呼んでみると、満面の笑顔で抱きしめられ、ノエルは顔が熱くなった。
「あぁ、ノエルは可愛いな。ずっとそばにいてくれ」
「ぇ、はい・・・?」
 ノエルは部族を代表して、ずっとリクダンに住むことになっているのだから、あらためて言われるのも変だなと首をかしげた。
 しかし、オーランはとても重要なことだと思っているのか、ノエルがとてもきれいだと思う顔を曇らせて見つめてきた。
「嫌か?ジョート族の集落へ戻りたいか?」
 ぶんぶんとノエルは首を振った。羊たちと歩いた山々、鹿狩りをした湿原、霧をまとう豊かな森・・・言われるまでもなく、故郷は懐かしい。しかし、みんなが安心して遊牧生活できるように、王宮でお仕事するのがノエルの役目だし、オーランは優しいし、ご飯はいろいろ出てきて狩りに行かなくても困らないし、ベッドはふかふかだ。何より、またあの船に乗って戻るのは億劫すぎる。
「ノエルは、俺のことが嫌いか?おっと、こんな聞き方は威圧的でだめだな。そう・・・俺はノエルに気に入られているだろうか?もっとこうして欲しいという要望はあるだろうか?」
「ううん。ノエルは、優しいおう・・・オーランが好きだよ。・・・オーランは、とっても綺麗だし、お仕事している時は、とてもかっこいいよ」
「そうか」
 再び満面の笑顔になったオーランに抱きしめられ、ノエルもなんだか嬉しくなった。
「ノエルは、ずっとここにいるよ。オーランやみんなの役に立ちないな」
「ふむ・・・では、俺の個人的な好意には応えてもらえるだろうか」
「え?」
 いままでのは個人的じゃなくて、王様として公的なものだったのだろうかと、ノエルはちょっと肩透かしを食らった気がしたが、オーランは真面目に、間近でノエルを見つめていた。
「つまり、ユーインがクロムを好きなように、俺もノエルのことが好きなのだ」
 ノエルは両目と口がぽかんと開いた。オーランは王様で、ノエルはノエルでしかなくて、二人の間には、とても大きな隔たりがあったはずなのだが・・・。
「嫌なら、そう言ってくれていい。ノエルを責めたり、ジョート族に意地悪をしたりしないから。正直に・・・」
 オーランは哀しそうに言うが、ノエルは思いっきり首を横に振った。
「そんなことない。でも、ノエルでいいの・・・?女の人じゃないから・・・」
「そんなことは構わない」
 断言されても、宰相や大臣たちが怒るんじゃないかなぁとノエルは心配だ。しかし、オーランがいいというならいいのだろう。
「えっと・・・ノエルでよければ・・・」
 ぼぼぼっと焚火のように顔が熱くなって、ノエルはうつむいた。仕事に真面目で、年下で未熟なノエルにも真摯に接してくれるオーランに、そういう意味で好きと言ってもらえるのは、とても嬉しい。どきどきした。
「でも、あの・・・クロムみたいに、上手じゃない、と思う・・・」
「おや、ノエルはクロムがどんなふうにしていたのか、見ていたのか?」
「えっ、ちが・・・その・・・ぅ」
 ノエルは恥ずかしくてぱたぱたと振ったが、オーランに頬を撫でられ、固まっているうちに、唇どうしが触れた。
「ぅあ、あ・・・はっ・・・」
「ノエル、力を抜いて」
「ぅん・・・」
 そっと目をつむって、ノエルは唇に触れるオーランの気配を追いかけた。乾いていて、温かくて、柔らかい唇と・・・。
「んぁ・・・、はぁっ・・・」
 ちゅるっと滑り込んできた舌が、ノエルの怖がりな舌を撫でて、口の中の蜂蜜酒の香りを舐め取るように動く。
「はっ、ぁ・・・おーらん・・・」
 ノエルは気持ちよさにぞくぞくしたものを背中に感じ、一時はおさまった股間の熱が、再び頭をもたげていた。そこを見られたくなくて、ノエルはオーランにしがみついたが、オーランの大きな手は、ノエルの背中から腰を撫で、簡単にノエルの脚を開かせてしまった。
「あっ、だめぇ・・・っ!」
「いいじゃないか。ここをこすると、気持ちいいだろう?」
「あぁんっ!あっ、そこ・・・っ、やぁあ・・・んっ!」
 ズボンの上からでもわかってしまう形を、オーランの手にこすられて、ノエルは恥ずかしくて、さらにオーランの肩に、ギュッとしがみついた。
「ノエルは食べてしまいたいくらい可愛いな」
「ひっ・・・」
 うっとりとしたオーランの低い声に、ノエルは耳を塞ぎたいほど感じてしまった。
 服をはぎ取られ、ぴんと起ったそこも見られて、ノエルは恥ずかしくてたまらない。それなのに、オーランはノエルのあそこを柔らかく扱きながら、体中にキスをしてくれた。
「ノエルの肌は、白くてすべすべだな」
「はぁっ、はあぁっ・・・っ、オーラン、オーランっ、もぅ、こすっちゃダメ・・・っ!でちゃうよぉ・・・!」
「そうか。では、後ろを解さねばいけないな」
「ひゃっ!?」
 ノエルの先走りがこぼれた尻の間に、蜂蜜酒に濡らしたオーランの指先がもぐりこんだ。
「あっ、そんな拓いちゃ・・・ぁああああっ!あぁんっ!」
 ノエルは異物感や痛みにすくむ前に、乳首を吸われた快感が腰に響いて、自分でもびっくりするような甘い声を上げた。
「さあ、ノエル。ノエルのいいところを、俺が探してあげよう」
「オーラン・・・はっ、ぁああっ、あぁ・・・っ!」
 カウチとクッションにもたれたノエルは、オーランに脚を広げられ、誰にも触らせたことのない場所に深く侵入されて喘いだ。太く長い指が、一本から二本に増え、ゆっくりと動きながら、ノエルの中を少しずつ広げていく。
「はぁ・・・あぁ・・・、おーら・・・ひぃぁっ!?」
 そこをオーランの指に押し上げられると、きゅんと腰から力が抜けるような気がした。気持ち良くて、すぐにイってしまいそうだ。
「あぁ、ここだ」
 にっこり微笑んだオーランだが、涙がにじんだノエルにはよく見えなかった。