悩める愛人の至福 2


 いい香りだね、と瓶から溢れた濃密な香りにほころんでいた唇が、さっきから切なげな吐息しかこぼさなくなっていた。
 乳白色の肌がかすかに紅潮し、本の背に回されていた腕は、力なくシーツに投げ出されている。
「どう?」
「・・・あ、の・・・なに、か・・・まざって、る?」
 とろんとした眼差しが、本をぼんやりと見上げている。
 香油をたっぷりすり込ませたクレバスが、本の指をしっかり咥えたまま、ぬめる感触越しに熱い鼓動を伝えてくる。
「少しね。微睡みのために、特別に調合してもらった」
「ん・・・けっこう・・・キクんだ、けど・・・」
「いやだった?」
「ううん・・・いいよ・・・」
 自らもっと脚を開こうとする膝裏から尻に向かって撫で下ろすと、大げさなほど腰が跳ねた。
「ふあぁっ!あっ、やぁあ・・・っ!」
「すごいな・・・」
「はぁっ、あ・・・も、はやく・・・はやくぅっ」
 力の入っていない手が、本の腕を掴もうと伸びてくる。
 しかし、その手が届く前に、赤く熟れたクリトリスを、指の腹でこすりあげた。
「きゃうぅっ!!」
「こんなに硬くして・・・大きくしなくていいのか?その方が気持ちいいんだろう?」
「ばかぁ!本のばかぁ!もうやっ・・・ひぃんっ!」
 微睡みの君主のこだわりもあり、ただでさえ淡白な本が男にはまったく無反応なこともあり、今までは完全な女体の微睡みの君主しか本は抱いたことがない。
 外見が男でもキスぐらいなら出来そうだが、それ以上となると、両性でもちょっと自信がない。ただ・・・どんな姿でも、相手が微睡みの君主ならば、快楽に溺れて乱れている姿を見てみたいと思う。
(薬で我を忘れても、女を保っていられるかな)
 こんな意地の悪いことを愛人が考えていると知ってか知らずか、快感に紅潮した細い肢体は、荒い息をついて、理性の手綱を振り切りたい衝動と戦っている。
 本が指を引き抜くと、はしたなくも腰が揺れる。
「ひぁっ・・・本ぅ・・・」
 小さな顎を上げて喘ぐ姿が、本当に愛しい。悔しげにシーツを掴んでは、もどかしげにかきむしる仕草など、本を高ぶらせてやまない。
 額に張り付いた前髪を撫で上げ、涙の滲んだ目元に口付けて舐めると、それすら快感なのか、小さな悲鳴を上げて背をきしませた。
「可愛いな、微睡み」
「本・・・本っ、もぅ・・・はやく、欲しいっ・・・」
 自分の脚の間に入った本にこすり付けるように、微睡みの君主の滑らかな腿が絡みつく。
「苦しかったら、ちゃんと言えよ」
「うん、うんっ・・・ぅあっ!あ、あぁっ!!」
 勝手に動こうとする腰を押さえつけ、本は慎重に、とろけだした蜜壷に己を埋めた。
 ぬるりとした感触に続いて、ざらついたきつい締め付けが、本を飲み込もうと絡みつく。その時、柔らかく本を迎え入れたそこが、突然波打った。
「ひぁ・・・あ、やぁああぁっ!」
「っ・・・!」
 喉の奥から嬌声をほとばしらせ、華奢な体が硬直し、痙攣を繰り返す。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
「入れただけなのに」
 香油に混ぜられた、女の体液にのみ反応する特殊な催淫剤の効果に戸惑いつつも、本は華奢な体を抱きしめて、狭い最奥まで貫いた。
「うっ・・・っくぅ!・・・ふぁっ、あぁっ!」
「大丈夫?」
「んっ、いい、よ・・・すごく・・・あ、やだ、気持ち・・・いいっ!あっ・・・熱い、よぉっ」
 深く咥え込んではきゅうきゅうと締め付けるそこは熱泥のようで、本は乱暴にしたい欲望を堪えて、微睡みの君主の体を抱きかかえたまま、ゆっくりと体を起こした。
「えっ・・・ああっ!ふか、い・・・っ」
 硬い楔に下から最奥を突かれた細身が、喘ぎながらも貪欲にむさぼろうと動き出す。しかし、本はその膝裏を掬い上げるように抱きかかえ、微睡みの君主が自ら動くのを封じた。
「やっ・・・本!」
 慌ててバランスをとろうとする微睡みの君主の細い腕が、本の肩に巻きつく。ぴたりと張り付いた柔らかな胸の中で、硬くなった乳首が押しつぶされた。
「はぁっ・・・ちょっと、この体勢・・・きついんだけど」
「しっかり掴まってて。俺が動くから」
「ん」
 耳元に切なげな吐息を感じながら、本は華奢な体をゆすり上げては、重みに任せて楔を飲み込むクレバスを突き上げた。
「ひぁああんっ!やっ・・・そんな、おくっ・・・うごいちゃ・・・っ、やめ・・・また・・・また、いっちゃうよぉっ!」
 両膝を高く上げて身動きが取れないまま、次々と襲ってくる快感に、微睡みの君主は本にしがみついて悲鳴を上げた。
 いつまでも慣れないような固さはなかったが、むしろ離すまいと、鋭さの無い小さな牙を立てられているようで、本の吐息がはずむ。
「くっ・・・、これじゃ・・・あんまり・・・」
「本・・・本っ、も・・・僕、僕、もうだめ・・・っ」
 涙をこぼしながら、自分の秘所がたてるぐちゅぐちゅという音に喘ぐ、その半開きになった唇に舌がのぞき、ためらうことなく吸い上げた。
「ふうぅっ!ぅんん!んっ!!っは、あっ、いいぃっ!!」
 ぎっちりと締め付けるそこが、ぬるぬると本を嘗め回すようにうごめく。びくびくと震える背を抱きしめ、そのまま放出したい衝動を、本はほとんど奇跡のように耐えた。
「っ・・・は、ぁっ・・・」
「本っ!やだ・・・そんなっ、おおき・・・だめぇっ!こすっちゃ・・・こすっちゃっ・・・や、ああっ!」
 肩にしがみつく腕を解いて、指を絡ませるようにベッドに押さえつける。ふと、脚を開いて男を咥え込んだまま喘ぐ、そのあられもない淫らな姿に、少しばかりの悪戯心が疼いた。
 こんな使い方をしたことはなかったが、怪我をさせなければいいだろうと、青銀色の髪を伸ばす。
「な・・・えっ?」
 呆然としている微睡みの君主の、手首に、膝に、本の青銀色の髪が絡みつく。これで、両手が自由に使える。
「痛くないか?」
「大丈夫・・・けど・・・」
 体を開いたまま緊縛され、その姿を見られている羞恥に、快楽に溺れた黒瞳が悩ましげに揺れ、長い睫が震える。
「すごく綺麗だ・・・」
 掌に収まってしまう胸のふくらみに頬を寄せ、さくらんぼのように色づいて主張する乳首を唇に含み舌で転がす。
「ひぃんっ!やっ・・・ぁ、うっ!」
 微睡みの君主の背が跳ね、快感を逃がそうと、もどかしげに首を振る。両手足を押さえつけた髪が、ぎしりときしむ。
「中に・・・していい?」
「あたり・・・ま、え・・・っ、んっ、いいっ!こ、すれ・・・ひぁっ!・・・はやくっ!はやく、本を頂戴ってば!」
 立て続けに達したにもかかわらず、快楽に歯止めが利かなくなってきた微睡みの君主は、本をむさぼろうと暴れはじめた。本はそれをなだめ、傷ひとつない肌に紅を散らしては高い悲鳴を上げさせる。
 髪と同じ漆黒の茂みの奥で、鮮やかな陰唇が淫液を噴きこぼしながら、本を咥えて戦慄いている。本はもう一度、自分自身に香油をなじませて、奥深くまで埋め、そのまま動いた。
「あっ、ああぁっ!」
「ほら、微睡みが欲しがっていたものだ。これでいいか?」
「いいっ・・・いいよぉっ!奥、あたっ・・・本が・・・、本の、おっきぃ・・・っ、・・・ああっ、気持ちいい・・・っ!」
 限界まで押し広げたしなやかな脚の内側を撫で、ぷるんとした可愛らしい尻を揉み、熱い湿地と化したその脇を、指先でなぞる。
 その度に嬌声を上げ、淫らな単語すら口にしながら腰を振ろうとする痴態こそ、本にとってこの上ない媚薬だった。
「あっ、あぁ・・・本っ、・・・ひぃくっ・・・ブ・・・ック、もっと、もっ・・・とぉっ・・・あ、ぁっ!」
 両手を頭の脇に固定され、そのさらに外側に向けて膝をつけるように体を折り曲げられた苦しい体勢で、快感に蕩けた微睡みの君主が、うわごとのように本を呼ぶ。
「微睡み・・・」
「本・・・っ、本、いいっ・・・僕・・・ぅっ!あ、ああぁっ!!」
 あふれ出す愛液に潤い、狭くざらついた膣壁が本の高ぶりを撫で回す。熱い脈動が激しく互いを求め合い、止められない快楽へと昇華していく。
「本!・・・本っ!!・・・っは、ぁああぅああぁっ!!」
「はっぁ・・・んっ・・・!」
 全身で本を受け入れ、蕩かそうとする微睡みの君主を抱きしめ、本はすべての愛を注ぎ込んだ。