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「しかし、皇帝がそれを飲むか?隔年を毎年にしろとか、金額を上げろとか、言ってこないか?」
「飲まざるを得ないと思うぞ。本の遺書があるからな」 どこか痛みをこらえるように、雷の王はニヤリと笑った。 「以上が、微睡みの君主が残した遺言の、大まかなものだ。ラクエン内に対する細かなものは、別途各関係機関に説明する。この遺言書はラクエン憲章、第二十六章に定められた、遺言に関する法に則した、公式なものであることを宣言する。次に、本の遺書に移る。こちらもラクエン憲章にのっとっており、同じく公的な書類として認められる」 自ら命を絶った魔王が何を言い残したのか、広間はしんと静まり返った。 「ひとつ、わたくし本は、肉体であるイシゾノリュウジを、クサナギエムに返還する為、この度の生を自らの手で終わらせるものである。これはわたくし自身で決めたことであり、 その意味を全て解するのは、「創世」を経験した一握りの魔族たちだけだったが、棺の中で寄り添った二人を見ていない者はいなかった。 「ひとつ、わたくし本は、微睡みの君主の遺言を全面的に支持し、わたくしが転生した際に 唖然とする会場の中で、本の完璧な脅しに、さすがの破壊王ものけぞった。雷の王も、ため息をつく。 「我が友人殿は、なかなか過激な気性であったらしい」 「まったく、大人しそうな顔をして、やることは微睡みより陰険で容赦が無い」 魔族社会の電子ネットワークに深く関与していた本ならではの、凶悪なテロ予告だ。おそらく、現在の技術では、本気になった本が構築した複雑なプログラムを探し出し、傷ひとつ付けずに停止、分解できる者はいないだろう。 「わたくしの自害に、多くの疑念が出ることを予測し、これを遺書として残すものである。また、急なことで、関係者各位には要らぬ迷惑をかけることになった。すまない。・・・以上だ」 実際に一ヶ月をかけて、仕事の引継ぎと身辺整理を終わらせた本なので、本がいなくなったという衝撃以上には、目立った混乱はおきていない。 本の遺言により、微睡みの君主の遺言を履行することに反対できる者はいなくなった。今はよくても、数十年後が怖い。早ければ数年で転生することもあるからだ。その数十年で本以上の能力を持つ者が現れるかは、賭けに等しい。 ぐうの音も出ない魔族たちを前に、葬儀屋はジュンを手招きした。 「微睡みの君主が指名した、ラクエンの代表者を紹介する。まぁ、見てもわかるとおり、微睡みの君主と雷の王の子供なわけだが、微睡みの君主が彼を選んだ理由は他にある」 葬儀屋に場所を譲られ、ジュンは飛び出しそうな心臓の鼓動を胸に、深く息を吐き出し、楽に構えた。そうすると、いっそう微睡みの君主に似た立ち姿になることを、経験上知っていたからだ。 「僭越ながら、ご挨拶させていただきます。本日は、亡き微睡みの君主と、本殿のためにお集まりいただき、まことにありがとうございます。ただいまご紹介に預かりました、ジュンと申します」 いったんしゃべりだしてしまうと、それがまるで、生前の微睡みの君主が話しているような気分になって、ジュンの口元は自然にほころんだ。 「わたくしが、我が君より承った最後のご命令は、いずれ転生してくるご自分から、このラクエンを守り、今までどおり、種族に関係なく、なるべく共存できる街を保つことです。若輩な世間知らずにて、各位にはご迷惑をかけることもあるかと思いますが、生涯をかけて責務を全うする所存であります」 大切な主君が、すべてを自分に託してくれた、それがジュンの誇りであり、生甲斐となった。 冥い光を宿した若者に、何か悲しいことがあるのかと問うたあの日より、体と心に刻み込まれた愛おしさと、日々大きく強くなるばかりの忠誠。 「どうぞ、よろしくお願いします」 その妖艶な微笑みが、不夜城ラクエンの証。 |