お菓子の城‐1‐
視界を塞がれると、他の感覚が鋭敏になる代わりに、精神の耐久力も下がるらしい。視覚からの恐怖がない代わりに見えない恐怖が増幅され、明確な危機に対抗しようとするガッツが湧きづらくなるのだ。
そんなことを発見しても、今の自分には何の意味もないと、イグナーツはクラクラする頭で自分をののしる。ただの現実逃避だが、そうでもしなければ自分を保っていられそうにない。 「いッ・・・・・・!っぁぐ・・・・・・!」 「もっと声を出せ。楽しくならないぞ」 新たな熱い痛みと、脇腹からにじみ出る血を感じると、十分楽しそうな、柔らかく低い声が聞こえてきた。 「っ・・・・・・俺は、ぜんっぜん、楽しくねえっ!」 「そうか」 ずぶりと右側の太腿の裏に異物が刺し込まれる感触に、吐き気をこらえる代わりに悲鳴が出た。 「ッ!?ぁあああああっ!!・・・・・・っいってぇえっ!!」 「クククッ・・・・・・イグナーツは元気がいいなぁ」 イグナーツに刃物を刺して遊んでいる人物は、実に楽しそうで、大変に腹が立つ。クライアントから破格の報酬をもらっていなければ、絶対に逃げ出している。・・・・・・両手両足を拘束された状態で逃げられれば、の話だが。 じゃらじゃらがりがりと鳴る鎖が忌々しい。最初のロープで作った傷が化膿してしまい、それならと革ベルトが付いたこの鎖になったのだが、その音で自分が繋がれているという意識が余計に強くなってしまい、非常に忌々しい。ああ、忌々しい。 「この、ド変態がッ!」 「その格好で言えるのは、なかなかの度胸だ。鏡を見せてやれないのが残念だな」 「そういう格好させてんのはアンタだろがッ!」 暴れるほど体中の傷からじくじくとした痛みが伝わってきたが、怒鳴り返さずにはいられない。自覚無自覚にかかわらず、頑張って抵抗することも依頼内容に入っているのは、この際ありがたいのかもしれない。なにしろ、気を抜くとあっさり外傷性ショックを起こして気絶しそうなのだから。 目を覆う布以外は全裸になったイグナーツの両手首と、開いた両脚の膝と足首とに革ベルトを巻いて、それぞれつながった鎖が、ベッドの頭側の柵に固定されている。鎖は絶妙な長さと角度で、イグナーツの腰が浮いたままになって、バイブを突っ込まれたままのアナルが丸見えで、それはそれは恥ずかしい恰好になっているはずだ。 「もう少し色気のある鳴き方にならないか?・・・・・・やはり傷は深い方がいい鳴き方をするな。今度は反対の脚を撃ってみようか、それとも薄い腹にしてみようか・・・・・・」 「殺す気か!?」 「言ってみただけだ、また焔に怒られるからな。つまらん」 「いってぇええええっ!!」 さりげなく尻の脇にナイフの先が滑って、拘束されたままのイグナーツの体が跳ねた。 手のひらをナイフで貫通されたり、脚を銃で撃たれたりとするたびに、任務に支障が出ないようにするという契約はどうなったと、クライアントである焔氏に抗議して謝られているのだが・・・・・・やらかす本人はいっこうに反省の色がない。大怪我をさせると次までの待ち時間が長くなると多少学習したようだが、最近は頻繁に呼び出されて傷だらけにされるので、イグナーツの負担はあまり変わらなかった。 「はぁっ・・・・・・くっそ・・・・・・」 「イグナーツ、もう少し太った方が、傷めつけやすい。お前は皮下脂肪がなさすぎる上に、筋繊維も必要以上に太くない。痛みを感じやすいのは結構だが、こちらも細かい技量が問われる。気を使わせるな」 「いくら食っても全然太らない俺様だが、ぜってー太ってやらねえ!」 ほとんど意地で言い返すが、イグナーツも太れない体質なのは気にしているので、ちょっと凹んだ。 「今のままでは抱き心地に瑕瑾だと言っているのだ、低能」 「ぅあぁっ・・・・・・!」 ナイフでつけられた尻の傷口を舐められて、ぞわぞわと背筋が粟立った。 ひとつひとつの傷はそんなに深くないが、どれも血がにじむ程度には、すっぱりと切れており、体中のあちこちが、ひりひりと熱を持って、うずくような痛みが延々と続いている。いくら頑丈なアークスのハンターとはいえ、このいつ終わるともしれない拘束と出血と苦痛による心身の疲労は、過酷なクエストに匹敵した。だが、それだけでは終わらない。 「そろそろ、声が嗄れるような鳴き声を聞かせろ」 この声に逆らえる人間がいるだろうか。むしろ、いたら尊敬すると、イグナーツは真剣に思う。こんなに甘いのに絶望しか連想させない声を聞かされたら、その後に撫でられたって悲鳴を上げるだろう。 「ひっ!・・・・・・っあ、やめ・・・・・・ッ!!いって、ぇ・・・・・・!!」 小さなモーター音と音に、腹の中に埋まっていたものがうごめきはじめ、異物感に身を捩ろうとすれば、腕やふくらはぎに痛みが走る。 「無駄に動いてもいいが、余計なところが切れるぞ」 「ふっ、ざけ、んな・・・・・・!っあ、ぅっ・・・・・・ァ!」 「ククッ、よさそうだな」 「はっ・・・・・・く、このぉ、変態・・・・・・ッ!!あ、馬鹿、動かすな、ぁっ!!」 簡単な大人の玩具しか経験のないイグナーツには、グネグネと生き物のように動きまくる玩具は、かなりきつかった。無駄なところに金をかける変態だと胸の内で悪態をつくが、イボだらけの太い芋虫が腹の中で暴れているような感覚には耐えきれない。 「や、だぁ・・・・・・!っ、くる、し・・・・・・はぁっ、あ、やめ・・・・・・抜いて・・・・・・っ!ひっ、ぁっ・・・・・・はぁっ」 「そら、もっといい声を聞かせろ。・・・・・・そうしたら、ご褒美をくれてやる」 「はっ、そのご褒美とやら・・・・・・俺が満足したためしなんかねぇぞ!」 完全に見下した言い方にカチンと来て言い返したが、相手の笑みが深くなる気配に、一瞬で言わなきゃよかったと後悔した。 「いっ、ぎゃあああああああああッ!!!」 「ああ、そうだ。いい鳴き声が出たな」 楽しそうな声は、自分の悲鳴であまり聞こえなかった。足の甲に何か金属が刺さっている。たぶん、錐か、目打ちだ。 「いってぇええええ!!早く抜け馬鹿ぁ!!痛すぎてちびる!!このバイブも抜け!!こんなもんで感じるかぁ!!」 耐え切れずに出た涙が目隠しに吸い取られていくが、もう泣き声交じりの悲鳴になっても構わなかった。早く終わるならいくらでも泣いてやる。 「・・・・・・わがままなやつだな」 「アンタと一緒にするな!!いてえっ!!」 ため息交じりに錐が抜かれ、ついでのように腹の中の物も動きを止めた。 「はーっ、くっそ・・・・・・あー、いてぇ・・・・・・」 「痛いようにしているのだから、当たり前だろう。素直に悲鳴をあげればいいのだ」 「・・・・・・・・・・・・」 イグナーツとしては、十分素直に痛がって叫んでいるつもりなのだが、彼にとってはまだ不十分らしい。 ぐっと腹の中の玩具が引っ張られる感じがして、イグナーツは思わず息をつめた。 「っ・・・・・・は、あぁっ!」 ずるんと一気に抜かれ、あそこが擦れる痛みに顔をしかめた。 「いっ・・・・・・」 「だから、我慢するなと言っているだろう」 「ひっ!あっ、やだ、ぁ・・・・・・!」 ぞろりと舌が足の甲を這うのを感じて、イグナーツは身震いした。錐で傷付けられてずきずきと痛む足に、くすぐったいような沁みるような感覚が絡み付き、逃げられない体を必死で捩った。がしゃがしゃと鎖が柵に当たって鳴ったが、しっかりと捕まれた足はびくともしない。 「や、めろ、って・・・・・・ッ!」 「これなら痛くないだろう?」 「そういうんじゃ・・・・・・んっ!」 クスクスと笑う息が、足から膝へ、そしてイグナーツの胸の上へと上がってくる。かりかりと胸をひっかく爪が、うっすらと残っている古い手術痕をなぞっていることぐらいわかる。 「ひっ・・・・・・」 「可愛いな、イグナーツ。そうだ、もっといい声を出せ」 開かされている太腿に、足の甲に刺さったのと同じ感触が、ぶすりと刺さった。注射針が痛いと思っていた子供の頃が微笑ましく思えるほどの痛みに、イグナーツは折れそうな心を叱咤して泣き叫んでみた。 「いってぇええええぇッ!!!痛いいいいいィッ!!・・・ひっく、うぅ、早くイけ、遅漏!!!」 「誰が遅漏だ。気持ちのいい鳴き声で萎えるようなことを言うな」 「痛いぃいいいい!!ううっ!それを、抜けぇえええ!!!」 「入れたらな」 涼しい声が胸にのしかかり、痙攣する太腿を押さえられたまま、玩具を入れられた以外はろくに愛撫もされていないアナルに、鋭くはないが硬いモノが、ずぶずぶと入ってきた。 「あ、あああっ!」 「ククッ・・・・・・相変わらず、いい締まりだな」 まだ太腿には鋭い痛みがあるものの、抵抗を押し返しながら奥まで入ってくる快感に、イグナーツは呼吸の仕方を度忘れしたように喘いだ。 「ああっ、はぁ・・・・・・ぁあんッ!く、すげ・・・・・・おくぅ・・・・・・ぁあっ!」 「あれだけ玩具で広げられていたのに、お前のここは欲張りだな。良ければすぐに起つし、いい身体だ」 「ひぁっ!」 ぴんっ、と起った先を指先で弾かれ、情けなさに涙がまたこぼれる。それなのに、腹の奥まで満たしているでかいペニスにはもっと欲しいと吸い付いて、苦痛に耐えかねてタガの外れた快感が渦巻いている。 「いい・・・なか、気持ちいい!イーヴァ・・・・・・イーヴァ、はやく・・・・・・もっと、こすってぇ!!ああぁっ!!」 ずるりと引かれ、また奥まで満たされて、やっと与えられた快楽を追いかけるのに夢中になる。ちゃんと熱くて、硬い肉棒が、いいところを擦り上げて、苦しく感じるほど奥まで何度も犯していく。 「ああっ!あぁ、イーヴァぁ・・・・・・!イっちまう・・・・・・っ、なか、こすれて・・・・・・ああっ、イくっ、イーヴァ!イーヴァぁ!」 両手を拘束され、両脚は広げられたままで男を受けいれ、奥まで激しく突かれながら抱きすくめられている。自由に動けないのに、与えられる快感はこの上なく甘美だった。 「いい子に出来た、約束のご褒美だ」 耳元で低く囁かれた声が、涙声で喘ぐイグナーツの唇を塞いだ。 「んんっ!んふうぅ!はっ、ぁんんーっ!」 ぬるりと舌が絡み、唾液が混ざり合って溢れる。上と下を同時に犯されるような被虐心を、はしたなく開かされたままの中を擦っている雄が、正確に貫いた。 「んふぁあああっ!ああっ、そこぉ!おれ・・・・・・おれ、んんぅーっ!イイっ!イく、イくぅっ!んああああっ!!」 イグナーツは不自由な体勢で腰を振り、きゅうきゅうと肉棒に吸い付きながら、白濁した精液を自分の腹にぶちまけた。 「はっ・・・・・・ほら、もっとイけ、イグナーツ。お前の中に出してやる」 「ぅああああっ!あぁ、イーヴァ!イーヴァ、こわれ、ちま・・・・・・ああああっ!!」 「ふっ、ククッ、二回目・・・・・・」 「はっはっ・・・・・・ぁ、イーヴァぁ・・・・・・!イーヴァ、中、出して・・・・・・!俺のなか・・・なか、ああっ、イイぃ・・・・・・!!」 何度も、何度も。終わらないような、それは苦痛と似て、イグナーツを蝕んでは、壊れる寸前で、甘く掬い上げては、抱きしめてくれた。 |