人獣心中 −8−


 どうしてこんなことになったのか、昂は自分でもよくわからない。祐介が、自分を強姦した相手だとわかっていても昂に敵意を持たないでいてくれただけでも奇跡だと思っていたのに・・・・・・。
「祐介、とっても上手だよ」
「んっぅ、は・・・・・・んっ」
 長い前髪を梳き上げるように頭を撫でると、祐介は嬉しそうに目尻をほころばせ、さらに昂の陰茎を熱心に口で奉仕した。
(すごい眺めだ・・・・・・)
 祐介の薄い唇に包まれて出入りする一物は唾液に濡れててらてらとひかり、舌に撫でられる気持ち良さに突き入れてしまわないよう自制するのも辛いくらいだ。
「俺と交尾するの、そんなに気持ちよかった?」
 困ったように狐の耳が伏せられたが、祐介は昂を咥えたまま、恥ずかしそうにこくんと頷いた。
(かっわいいいッ!!!!)
 祐介の口の中で、またむくりと大きくなってしまう。昂にとっては不本意な抱き方になってしまったが、事情を知った祐介が行為そのものは良かったと思ってくれたのは嬉しい。
「祐介に酷いことしたから、嫌われてると思ってた」
「はっ・・・・・・嫌いではない。だが、貴様のことはよくわからん」
「そう」
 たぶん、刷り込みのようなものだろうと、祐介を見てきた昂は考える。大きな衝撃のあとも一緒にいたから、本能が保護者だと勘違いしているのだろう。昂に余所見をされると不安になるのも、きっとそのせいだ。
「だから、もっと知りたい」
「・・・・・・知らなくていい、と言ったら?」
「貴様の意見は聞いていない。俺が直接、見て、触れれば、事足りる」
 昂の牽制など鋭い目の煌きで一蹴した祐介は、昂の膝の上にまたがり、両手でくせ毛頭を鷲掴みにした。
「うっ」
「耳を出せ。貴様の匂いは懐かしい感じがするから好きだ」
「え、はぁ・・・・・・」
 昂が耳の形状を変化させると、祐介は機嫌よく抱き着いて頬擦りしてくる。獣具合が進んでいるなと思わずにいられないが、昂とて、ぽふぽふと振られる白い尾が本能的に気になってしまう。
「ぅひっ!?そこをっ、触るなっ!!」
 上着の裾を跳ね上げている尾と小さな尻を撫でたら怒られたので、少し拗ねたふりをして唇を尖らせ、別のところに手を伸ばした。
「ぁ・・・・・・は、破廉恥なっ!」
「触ってって言ったの、祐介の方なのに・・・・・・交尾するんでしょ?」
 互いの陰茎をこすり合わせるように扱くと、堪えきれないように細い腰が震えて、肩にしがみついてくる力が強まる。昂の手の中では硬さを増していく二本の雄は、唾液と先走りですぐに濡れた音を立てはじめた。
「・・・・・・ッ・・・・・・ふ、・・・・・・っ!」
「気持ちよかったら、声出していいんだよ?」
「馬鹿な。貴様とて、男のあ、ッ・・・・・・あえぎ、ごえなど・・・・・・ッ!」
「いいじゃん。祐介の喘ぎ声、聞きたいな。それとも・・・・・・」
 俺の喘ぎ声でも聞く?と囁けば、必死で声を押さえようとする喉の代わりに抗議するように、白い尾が激しく打ち振るわれた。鈴口を強く弄ったせいではないと思う。
「そうかぁ、俺の喘ぎ声はいらないか」
「そ・・・・・・ぉ、では、な・・・・・・ひっ、ぁあッ!」
 ぐりぐりとくびれを擦ると、細い腰が強張ってますます押し付けられた。昂の肩にしがみついたまま、腰だけは快感に素直な祐介が可愛らしくて、陰茎を扱く手にも熱がこもる。
「ッ!・・・・・・ぅ、ッ!」
 藍の濃い真っ直ぐな髪越しに唇を押し付けると、目元まで頬を赤くした困惑顔がこちらを向いたので、噛みしめてしまっている薄い唇に、もう一度唇を押し付けた。
「ぁ・・・・・・」
「噛むな。切れちゃうよ」
 口答えされる前に何度もふよふよと口付け、警戒の薄くなった菊座に指を潜り込ませた。
「は、ぁッ・・・・・・!ふ・・・・・・ぁ!」
「そうそう。声出した方が、気持ちいいでしょ?」
 初めてした日から数日たっているとはいえ、一度開かれることを覚えた場所は素直に解けていく。祐介の菊座はまもなく昂の指を三本呑み込んで、色付いた襞を物欲しげに震わせるようになった。
「はあっ・・・・・・ぁあ、あっ、ん・・・・・・っ」
「祐介・・・・・・中に入っていい?」
 控えめに頷く体を散らばる着物の上に押し倒し、恥ずかし気に赤く染まった顔を隠そうとする腕を掴んだ。
「っ・・・・・・」
「余所見しないで。祐介が言ったんだよ」
「貴様は・・・・・・本当に、意地が悪い!」
「そんなの、最初からわかっているだろ?」
 好かれるような事をした覚えはないし、自分は祐介とは一緒にいられないとわかっているから、一時求められるだけでも嬉しい。
「あ・・・・・・んっ、はぁ、ぁ・・・・・・あぁっ!」
 眉尻を下げて喘ぐ綺麗な顔を見下しながら、温かな他人に自分を埋めていく。どうか、この思いが実る前に腐り落ちてしまいますように。早く、手の届かない所に行ってしまえばいいのに。
「おい・・・・・・」
 細く長い指先に耳をつままれ、昂ははっと焦点を合わせた。涼やかな切れ長なの目の中で、深い藍を沈めた瞳が、真っ直ぐに昂を見上げていた。
「余所見をするな」
「・・・・・・うん、ごめんね」
 忍装束の合わせ目から、浮き出た鎖骨を甘噛みして首筋に舌を滑らせる。半獣化した自分の舌はざらついており、舐められた方は少々痛いはずだ。驚いたように跳ねた祐介の体を組み敷いて、広げさせた長い脚をさらに動けなくさせると、ふかふかの尾が昂の太腿に当たった。
「はぁっ、ん・・・・・・ッ、ふ、か・・・・・・ぃ!ぁあッ!」
 はふはふと息を弾ませる祐介をしがみつかせたまま、昂は自分の尾を祐介の尾に絡ませて腰を振った。
「ふあぁあああっ!!ああぁっ!!あぁッ!」
「気持ちいい?」
 祐介の中はきゅうきゅうと昂に絡みついてきて、快感にぴんと強張った体は、ことさら性感帯を突き出してくるようだ。かき回すように激しく責めても、緩く奥まで穿っても、祐介は滑らかな低い声を甘く蕩けさせて昂を興奮させる。
「ひぃぅっ!?しょこ、らめ・・・・・・ぇ!やらっ!でる!でるぅ!!」
「うん、ここコリコリザラザラして・・・・・・はぁっ、気持ちいいっ」
「ぁあっ、あひっ!イイッ!ひぃっ!?」
 健気に広がった菊座で硬い昂を受け入れている祐介の腹の上では、反り返った一物が先走りを溢しながら震えて、膨らみ切った陰嚢がきゅっと持ち上がっている。
「ねぇ、祐介・・・・・・出ちゃいそう?じゃあ、イっちゃうって言ってみて?交尾気持ちよくて、種付けされてイっちゃうって」
 ずぷ、と根元まで包まれた快感に浮かされて口走る昂の下で、コツコツと突き上げられる度に喘ぎ声をあげる祐介の身体がびくびくと震えた。
「ぁ・・・・・・あっ!きもち、いい!イく!イくっ!たねづけくるッ!こうびッこうびきもちいいッぁあああ!!でちゃう!もうイくッ!イ、くぅ!!」
 下敷きにした着物をかきむしるように掴んで背を強張らせる祐介を床に押し付けるように圧し掛かり、一足先に白濁を噴き上げて痙攣する、温かく締め付ける狭い肉襞の奥に自分の魔羅を突き込んだ。
「んッ・・・・・・!!」
「ひぎっ・・・・・・ぁ!ああっ・・・・・・ぁ、ッ!!」
 どくどくと精を吐き出す陰茎を、さらに搾り取るように蠢かれて、油断するとこちらまで意識が飛びそうになる。
「はっ、ぁ・・・・・・ん?」
 まだ息を弾ませた祐介の腕が伸びてきて、昂のくせ毛頭が抱きしめられた。昂は逆らわずに軽く身を載せ、上気して汗ばんだ肌と、徐々におさまっていく鼓動を聞きながら、甘えるように頭を擦り付けた。
「・・・・・・なぜだろうな」
「?」
 ゆっくりと体を離した昂を見上げてくる祐介は、情事の名残に目を潤ませたまま、ぼんやりとかすれた声を出した。
「あの時から、目に映るすべてが鮮やかに感じられるようになった。木々や花の色、風の匂い、貴様が作る飯の味・・・・・・そのなかで、貴様の声だけが、よく聞こえているはずなのに、雑音交じりで聞こえにくい」
「・・・・・・・・・・・・」
 祐介は体を起こし、自分の精で白く汚れた紅色の忍装束を脱ぎ捨て、その辺に散らばっていた着物の一着を羽織った。そして、少し乱れた昂の着物を脱がそうとした祐介の手を、昂が止めた。
「ゆ・・・・・・」
「知っている。この前、見てしまった」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前も、悪い呪術の被害者だったのだな」
 昂の体に細かく刻まれた刺青と、その皮膚を突き破って現れた十数の人面瘡は、とても直視できるような物ではない。つい最近、新しく出現した人面瘡などは、まだ赤い肉を蠢かせている。
「同情した?」
「それはこっちの台詞だ。俺も、しなかったとは言わん。だが・・・・・・それよりも納得した。なぜ母の同輩がお前を頼ったのか、なぜ俺が真実を知ってここにいるのか」
 自分のことを多く語らない昂だが、祐介に関しては純粋な味方なのだと、腑に落ちたという。
「そうしたら、お前を知りたくなった。同じ被害者とはいえ、なぜ俺にそこまでしてくれるのか、お前は何者なのか、なぜ俺を・・・・・・」
 なおも疑問を吐き出そうとする祐介の唇に人差し指を立てて黙らせると、昂は仕方なさそうに微笑んだ。
「その理由は言ったはずなんだけどな。祐介の質問に全部答えるのには、一晩では語りつくせない。とにかく、湯を沸かそう。汗で冷えるよ」
 納得していない顔の祐介を置いて風呂を焚きながら、昂は快楽で緩くなった頭を振る。祐介にしたら、昂の沈黙は卑怯と思うかもしれない。それでも、自分の経験したことを話したら、せっかく生来の尊い道に戻ろうとしている祐介が穢れてしまいそうな気がするのだ。暗中模索の荊道など、自分一人で十分だ。
 体を清めて風呂場から戻ってきた祐介が、水を滴らせながら全裸で耳と尾を垂れ下げているのに、昂は唖然とした。
「ま、待って!ここで体を振るな!」
 昂は慌ててまだ使っていない浴衣をかぶせて、ぶるぶると全身を震わせて水気を飛ばす獣を押さえた。
「どうしてこうなるのだ!?」
「えぇっと・・・・・・」
 真っ白い毛並みの大きな狐に唸られて、昂は苦笑いを浮かべた。白狐のすらりと通った鼻筋や力強い眼差し、ほっそりとした体つきは祐介そのものだ。
「たぶん、交尾のせいで俺と祐介の気が循環して、獣化が早まったんじゃないかな。ほら祐介、俺の獣っぽい匂いが好きだって言ってただろ?」
「うむ・・・・・・」
 昂がわしわしと祐介の身体を拭いてやると、にょきりと藍の濃い頭髪が現れて、色白な痩躯が戻ってきた。
「いったいどうなっているんだ、俺の体は!?」
「アハハハッ」
 祐介の興味が昂から自分の身体に移ってくれたようで、昂は内心でほっと溜息をついた。