人獣心中 −5−
体が裂かれそうな痛みから、祐介は必死に逃れようともがいた。しかし実際は、浅い呼吸しかできない体が震えるばかりで、ボロボロ零れる涙を止めることもできない。
「ヒック、ゥ・・・・・・ァ、ァア!」 「きっつ・・・・・・」 前戯と潤滑液のおかげで切れてはいないようだが、それが余計に体の奥まで侵入させる結果となり、祐介に串刺し刑の気分を味あわせていた。 (や、だ・・・・・・おく、や、め・・・・・・っ!!) 指とは比べ物にならない太さの物が、祐介の中をゴリゴリと押し広げながら、少しずつ入ってくる。苦しさのあまり、目がチカチカとかすんできて、この剛槍が自分の体を貫いて口を突き破るまで、永遠に終わらないのではと感じ始めた。 「ヒッ、ヒ、ィッ・・・・・・ハッ、ヒッ・・・・・・」 「もうちょっと、力を抜いてくれると・・・・・・祐介も痛くないと思うよ?」 首の後ろに温かさ感じて、苛立った昂に髪を掴まれるのかと、祐介は反射的に意識をそちらに向けたが、昂の手は祐介の頭を耳ごと撫で、強張った首筋や肩をさすっただけだった。 「ん、上手」 「ふっ・・・・・・ぅんっ!」 適度に力が抜けたらしく、冷え切った尻にちゅぱんと体温を感じると、祐介の腹の中のものは動きを止めた。 「ふぅー・・・・・・っ、ふぅー・・・・・・っ」 「はぁ、処女で良かった。忍だし?こういうの慣れてたら、本当にどうしようかと・・・・・・」 失敬な呟きが降ってきて、祐介は腹が立った。普通はこうなる前に自害するのだから、慣れるはずが無かろう、と。 しかし、その心の動きが、身体の繋がった状態の相手にも伝わったようで、嬉しそうに楔をゆすられた。 「ンぅ!?」 「慣れるまで、もうちょっと動かないでおこうかと思ったんだけど、俺がもちそうにないや」 クスクスと自嘲する声が終わらないうちに、祐介は腰の後ろからビリビリとした刺激が走るのに悲鳴を上げた。 「ひぁああッ!?」 「あ、やっぱり。ここ弱いんだね。・・・・・・ふふっ、中、すっごいうねって、締め付けてくる」 祐介は一生懸命に尾を振って逃げようとしたが、その根元をがっちりと掴まれているのでどうしようもない。 「ひあっ!や、あっ!ぁふっ、ふあぁッ!!」 尾の付け根を弄られるたびに、自分の意思とは無関係に腹の中の一物をぐにぐにと締め付けてしまい、苦痛よりも呼吸が追い付かない焦りと甘い痺れに仰け反った。 「はひっ・・・・・・ぁ、ふっ、んぁあ!」 「んっ、気持ちいい・・・・・・ふふっ、祐介も気持ちいい?」 濡れた布越しに前も握り込まれて、祐介は懸命に首を振った。 「うぅーッ!」 「嘘言わないの。こんなに硬くなってる・・・・・・さっき出したので、ぐちょぐちょだね。忍装束、祐介の仕事道具なのに・・・・・・また出ちゃいそう?」 「んんっ!ひぁ、あっ!ひゃ、え・・・・・・っぇ!!」 自分の精でぬめる猿股越しに感じる昂の手は、いくら祐介がやめてくれと懇願しても動きを止めない。くちゅくちゅと音を立てては、先端やくびれを撫でまわし、快感に祐介が自分の腹の中を締め付けると、大胆に根元から擦りあげてきた。 (やめっ・・・・・・やらぁ!もうでる!またでるぅ・・・・・・っ!!) 尾と陰茎からの刺激にガクガク震える腰は、相変わらず昂の肉棒を咥え込んで離さない。それどころか、さきほど昂の指先に押された尻の中が、刺激を求めるように硬いものに自ら押し付けられていく。 「もう・・・・・・すごい、はしたない体になっちゃって・・・・・・!」 「ァ・・・・・・!」 ずりっと腹の中が引っ張り出されるような違和感に続き、内臓を丸ごと突き上げられるような衝撃が、蕩けそうな祐介の脳髄を襲った。 「カハッ・・・・・・はぁああぁ!」 無理やり出させられた最初とは違う、自分の快楽を求めた甘い開放感が、祐介に長く精を吐き出させた。全身をぴんと強張らせ、陰茎からただびゅくびゅくと精を垂れ流す快感に、祐介は犬のように口で息をしながら身をゆだねた。頭の中も、目の前も、白くかすんでままならない。 それなのに、祐介の腰を抱えた昂は祐介の中を蹂躙するのをやめず、祐介の尻は濁った水音を立てて出入りする肉棒を甘噛むように受け入れた。 「ァ・・・・・・ぁ!ハ・・・・・・ァ!」 「ふ、あ・・・・・・すごい。祐介の中、とろとろきゅうきゅうして、すごく気持ちいいよ」 まだ達しない太く硬い楔は、祐介の中の気持ちいい所を存分に擦って奥まで抉り、くびれに引っ掛けるようにかき回していく。 (らめ、おく、まで・・・・・・!や、ら・・・・・・ぁ!でて、るのに・・・・・・!まだでる、の・・・・・・む、りぃ!) 祐介は精を吐き出す快感が治まらないまま、どんどん激しくなる動きについていけず、痙攣するように尻を犯す肉棒を締め上げた。 「ぁおっ・・・・・・おっ、ほっ、ぁ・・・・・・あァッ!」 「んっ、出る・・・・・・祐介の中にたくさん出すよ。・・・・・・はぁっ、祐介は俺のだからね!わかった?」 この快楽が終わるならなんでもいいと、祐介はカクカクと頷いた。 「ぅあ・・・・・・ぁ、ああ・・・・・・ッ!」 ひときわ突き込まれた腹の一番奥に、勢いよく熱い物が当たるのを感じる。その刺激がまた、祐介の中をきゅんとせつなくし、薄くなった最後の精を鈴口から押し出させた。 (他人の・・・・・・精を・・・・・・) 犯され、完全に侵された。その認識が、腹の中に出された精と一緒に、じわじわと染み込んでくる。屈辱と怒りとで叫びたかった。他人に犯されて感じてしまった自分が恨めしい。なぜ自分がこのような目に合わねばならないのか。理不尽さに立ち向かうことすらできない、非力な自分の惨めさが呪わしかった。 満足気な吐息を溢しながらまだ硬い楔が抜けていくと、すぐには閉じ切らない祐介の菊座から、溢れそうなほど注ぎこまれたものがごぽりと流れ出ていった。 「ふ・・・・・・ぅんッ」 「気持ちよかったよ、祐介」 祐介の前に回った昂は、ギシリと縄を揺らしながら祐介を抱きしめた。涙や唾液でぐしゃぐしゃになった祐介の顔を、袂で丁寧に拭い、白い毛におおわれた薄い耳朶に、その赤い唇を寄せた。 「ね?人間に騙されていままで積み上げてきたものなんか、役に立たないだろ?誰かのために研鑽したことなんか、お前を守ってくれないんだよ」 「ッ・・・・・・!!」 これまで当たり前に過ごしてきた祐介の人生をあっさりと否定してのけた昂は、悪鬼が嗤うように告げた。 「大好きだよ、祐介。早く檻を壊して、俺に刃を届かせてみせてくれよ」 「ッ・・・・・・!!!」 自分を閉じ込め、犯し、否定して、弄び、まだ自分のものだと嘲笑うこの男を、祐介は強い憤りを込めて睨みつけた。 (惑わされるな!!) 昂は悪戯に言葉を繰り、祐介を霧中に迷わせる。自分が見定めた物を標的とし、自分が信じられるものを刃とすればよい。 (屈するものか・・・・・・!!) 呪い物の掛け軸の所有者が祐介の飼い主だというのなら、いま目の前にいる男を葬り去れば、祐介は自由の身だ。 (俺は・・・・・・!!) 疲労困憊して感覚がなくなってきた全身に力を込める。この不条理に立ち向かい、自由になる為に、祐介は昂が否定した自分のすべてを信じることにした。 「ぅああああああああッ!!!!」 すごい勢いで吹き飛ばされた、と昂が理解したのは、頭と背中を土蔵の扉にしたたかにぶつけてからのことだ。 「っつう・・・・・・!」 よろよろと立ち上がった目の前で、青白い炎を噴き上げる塊がぶちぶちと縄を弾けさせ、梁の滑車から吊るしている縄も切れて地面に落下する。 昂は慌てて祐介に駆け寄ろうとしたが、青白い炎がかたどった巨影に苦笑いを溢して立ち止まった。輪郭がぼんやりとして何者かはわからないが、少なくとも昂と同等程度の地力はありそうだ。 (でかいなぁ。頭と四肢を備え、武器も持っているな?流石は霊格が違う) ちらりと壁の掛け軸に目をやれば、じゅうじゅうと黒煙を上げて、絵が溶け始めていた。 「よし。それじゃあ、俺と遊ぼうか」 昂は匕首を抜いて構えたが、本体である祐介はまだ縄を絡みつかせたまま地面に倒れ伏し、ピクリともしない。あの青白い影を出すだけで体力が限界だったのだろう。 昂は祐介の檻が壊れきるまで時間を稼ぎ、なんとかしてあの巨影と渡り合って鎮めねばならないようだ。 「いくぞ!ぺるそ・・・・・・」 ゴォッと吹き付けくる冷気に、昂は慌てて自分の中に力を仕舞うが、少し間に合わなかった。 「ぐッ・・・・・・!!」 パキパキと髪の先や着物が凍り、踏み止まろうと力を込めた草履の先が、霜柱で浮いた地面を抉るように沈み込む。肌や体が冷えて強張り、ちょっとしたことで大怪我をしそうだ。 (氷結の術!なんて相性の悪い) 昂が宿す力は、寒さに弱いものがやや多い。しかも祐介は見た目に寄らずかなりの膂力を持っていた。それがあの巨影の力だとすると、力負けする恐れがあった。 「来い、シキオウジ!!」 紙を折りたたんで形作られたような雄々しい人型が昂の前に立ち、振り下ろされる青白い武器をズシンと受け止めた。シキオウジなら力負けすることはまずないが、やはり相手の方が格上なのか、なかなか挑発に乗ってくれない。雪山のような冷気が絶えず昂を苛んだ。 「くそ・・・・・・!」 吐く息が白く、凍りそうな肺と肌がピリピリと痛い。つま先から感覚が失われていき、なんとか手を打たないと、生身の体がもたない。 ― 我を ・・・・・・ 我を ・・・・・・ 自分の内側から呼びかけてくる数多の声に、昂は顔を押さえる。自分が扱いきれない力を呼び出しても仕方がないし、まず寿命が縮む。 しかしその中で、二つの声が強く立ち上り、宿主である昂に呼びかける。 ― 我と・・・・・・我らを・・・・・・ その意図を理解して、昂は唇を噛む。新たな力を得るには、相応の代償が必要だ。だが、その躊躇も一瞬だった。 (惚れた弱みだな) 死んでもいいなどとは口が裂けても言えないが、他に良い方法もない。覚悟を決めた昂は、己の内のオニとフウキに短刀を突き立て、自分の背の皮膚が爆ぜ割れるの感じながら叫んだ 「我は汝、汝は我・・・・・・!来い、スイキ!!」 シキオウジに代わって、長い髪の青黒い鬼が現れて鋼の棍棒を振り回すと、冷気はあっという間に吸収されて、昂の呼吸は楽になった。 「さてと・・・・・・」 凍えて蒼褪めた唇に少しずつ血の気が戻り、痛みすら嘲笑うように、ニィッと吊り上がった。 |