095 禁止事項と仕事の依頼
「しかし、俺が言うのもなんだが、よくこんな分かれ方したな」
琢磨が自分と同じように僕に回収された四人を見回すので、僕はタブレットを操作して、ゼーベルト王とミシュルト大司教が話しているところを再生してみせた。 「ふっざっけんじゃねーぞ!」 「あー、はー。役立たずで悪かったわねえ」 犯罪者扱いされて激怒する琢磨と、役立たずと言われてビキビキ青筋を立てる水渓さん。 うん、何度見ても、不用品発言には、僕もむかっ腹が立つ。 「偶然だとは思うけれど、むこうの四人は、最初にあんまり抵抗しなかったんじゃないかしら? 竹柴さんのように、自分からついて行った感じとか」 「ああ、なるほど」 首を傾げながらの七種さんの呟きに、心当たりがあるのか枡出さんも頷いた。 ミシュルト大司教による最初の部屋分けは、扱いやすそうかどうかで決められたのかもしれない。琢磨はあの通り最初から怒っていたし、彩香さんは【魅了】スキルが危険とみなされた。枡出さんは子供で視界が不自由な彩香さんをかばおうとし、七種さんと水渓さんはスキル鑑定のために腕を掴まれて抵抗したそうだ。 「みなさんが姿を消したことは、そろそろむこうにもバレる頃です。この四人にも接触して、保護したいところですが、この通り人の目が多くて、難しいんですよね。話を聞いてくれるかどうかもわからないし」 「たしかに、現状満足しているなら、そこが危険だっつっても受け入れねーだろうな」 なんとなくわかる、と琢磨も顔をゆがめる。 「そんな状態で接触しても、こちらの方が危険になりかねません。いまだに、この国に出現した迷宮とダンジョンが、僕が創ったものだとは、知られていません。僕が関係者であると知っている人は、それなりにいますけど」 「お前が捕まったら、それこそアウトってわけか」 「そういうこと。この四人については、申し訳ないけれど、もう少し様子を見てから接触することにする予定です。別の受け入れ用の町も作らないといけないですしね」 下手をすれば自分たちにも危険が及びかねないので、琢磨たち五人も了承してくれた。 「明日、皆さんに住んでいただく町をご案内します。ただ、地球の時間とこの世界の時間がずれている上に、僕も王城の様子や、他の対応をしなければならない場合があります。僕が来るのが難しかったら、代理の者が案内しますので、安心してください」 こちらの世界の一日が、地球時間で二十四時間以上あると、実際に二つの時計の進み具合を見せて納得してもらった。 こちらの世界の一年が地球の一週間程度なのに、実際の時の流れの速さは逆だなんて、実に不思議だ。一年の日数も違うから、二通りのカレンダーを作っておかなきゃ。 「みなさんが住むタウンエリアは、地球時間に合わせてありますし、重力や放射線量も問題ありません。ただ、ひとつだけ、禁止事項を設けさせてもらいました」 五人が少し緊張した面持ちになったが、これだけは、僕にもどうしようもないことだったのだ。 「地球人同士の性交渉です。十分な医療施設もありませんし、地球に還るめどもなく、この世界でも生きられない子供を作るのだけは、絶対に禁止とさせてもらいます」 目を瞬き、互いに顔を見合わせた五人は、揃って頷いた。 「言われてみれば、当たり前のことよね」 「たとえ生まれたとしても、ショーディーくんが作った町から出ないで一生を過ごすことになりますな。学校に通う友達もいないというのに」 「うえ……想像したくねえ」 「気が狂いそうね」 七種さん、枡出さん、琢磨に水渓さんも、当然だと納得した。彩香さんは、自分が死んだ後で自分の子供がたった一人の地球人として生きなければならない、という状況を、まだ少し想像がつかないようだ。ただ、いずれは理解してもらえると思う。 「それと、これはより厳しく対応させていただきますが、この世界の人間との恋愛や性交渉も禁止です。こちらは、妊娠出産の実績がないどころか、性交渉の事実がなくとも、政治利用されてしまいます。迷宮が争いに巻き込まれる可能性が高いので、最悪は迷宮からの追放とさせていただきます。実際に政治利用され、後に内乱となった国もあります」 これに関しては、まだ保護できていない四人の方が、ハニートラップに引っかかりそうで危ないんだけど。 「例外として、迷宮に住むアルカ族とはかまいません。生殖能力がないので。気に入った人がいれば結婚もできますし、極端なことを言えばハーレムを作ることも可能です。その辺りは、ご自由にしていただけます」 僕が創ったアルカ族は、自然繁殖なんかしないからね。僕が子供の姿で作ったら、ずっと子供のまま。寿命もないから、老人は老人のまま。壊されれば死ぬけれど、不老の人形に過ぎない。 「みなさんに住んでもらう町では、基本的に衣食住に不自由はありません。ですが、娯楽もないので、よかったら僕の仕事の手伝いをしてもらえると嬉しいです。もちろん、報酬が出ますよ」 「仕事って、なにするんだ?」 「琢磨には、ぜひやってもらいたことがある。ダンジョンで出るドロップ品作りだよ。ステータスアップ宝飾品や、かっこいい武器のデザインだな」 「おおっ!? 詳しく話せ」 俄然やる気を見せる琢磨に、僕は笑って、まずは説明させてくれと制した。 「七種さんには、ぜひ食糧品質の向上を研究して、生産してもらいたいです。この旅館で食べてもらった食品は僕の記憶を頼りに作りだしましたが、より詳しいイメージがないと作れないものがあるんです。やり方は後でお教えしますね」 「わかったわ」 七種さんが了承してくれたので、これで美味しいカレーライスが食べられるかもしれない。僕も楽しみだ。 「水渓さんは、琢磨のように服飾関係の製作やデザインをお願いしたいです。いずれは水渓さんも、琢磨にも、ブランドを立ち上げてもらったらどうかなって考えています」 「いいじゃない! 任せてちょうだい!」 好きな服を作れることに加えて、自分のブランドを持てるという希望に、水渓さんの目がキラッキラしはじめた。 「枡出さんには、教育関係の助言をいただきたいと思っています。このとおり、この世界の人間は、稀人の知識に頼りっぱなしで、自分で発見したり開発しようとしたりする気概が育っていないんです」 「私ができることなら」 枡出さんのところには、ミモザやアクルックスの教師たちを研修に来させるとしよう。 「彩香さんなんだけど、君は仕事の前に、まずこの町を探検して楽しんでもらって、もっとこうしたらいいんじゃないかってことを、僕に教えて欲しい。盲導犬の訓練はしていないけれど、一緒にいてくれる犬や猫がいるから、仲良くしてあげて欲しいな」 「えっ、ワンちゃんを飼ってもいいの!? 嬉しい!」 ぱぁっと笑顔が輝いたので、僕も嬉しく思う。ミヤモトの案に乗って、迷宮内で活動する動物を創っておいてよかった。 僕は五人のステータスを書き写した紙と、彼らが生活するうえで必要そうなスキルを書き出した紙を配った。 「実は、僕のスキルで、皆さんのスキルを付け替えることができます。これが変更可能なスキル群なので、交換したいものを選んでおいてください」 「っはー!? なによ、その至れり尽くせりは!? ショーディーちゃん、天才?」 「僕じゃなくて、スキルがチートすぎるんです」 漁師としてのスキルばかりで、裁縫関係のスキルがなかった水渓さんが、交換可能なスキルが書かれた用紙を舐めるように見入っている。 「それから……っと、みなさんに、迷宮品作成の権限を付与しますね」 僕はタブレットを操作して、ラビリンス・クリエイト・ナビゲーションから、迷宮の住人となった五人に、権限の付与をした。 「お?」 五人それぞれの前に、大判のタブレットがポンと出現した。僕も初めてやることだから、少し驚いた。急いで、自分のタブレットに出てきた説明を読む。 「えーっと……、そのタブレットが、みなさん専用のデバイスだそうです。タッチパネル式で、言語入力も可能。カメラ付きで、むこうの世界から持ち込んだ物をカメラで撮れば、データを取り込んで迷宮の親機で複製可能……マジか」 いきなりすんごいチート機能がぶっ込まれてきた。なんか、青いロボットがポケットから出す未来道具にありそうだな。 「検索機能から、地球に存在した物に、より近い物を顕現させるが、成分や製法を指定しての作成も可能。原料はすべて魔素及び魔力であり、意図的にコストを減らすことで、迷宮外に持ち出された時に消滅させられる」 あ、コストを減らしてスカスカのハリボテにする機能は、僕が迷宮硬貨にしているのと同じだな。 「へ〜……うおっ、炉もあるし、グラインダーまであるじゃねーか! ハハッ、スゲェな!」 「うっそぉ〜、このミシン欲しかったのよぉ! 嬉しぃ〜!」 「え、種や苗だけじゃなくて、麹菌まで手に入るわ」 「んん? 七種さん、ということは、酒造が可能という事ですかな?」 「ねえねえ、ショーディーくん。このピアノか、エレクトーンを買ってもいい?」 「もちろん。明日、住む家を決めてから、作ってみよう」 「うん!」 わいわいと盛り上がる中、僕はこそこそと七種さんに近付いて耳打ちをした。 「えっ……!」 「すみません、僕では作れなくて。製品が出来たら、町の店に並べさせてもらいます」 「あはは、そうよね。わかったわ」 両手を合わせて拝む僕に、七種さんは苦笑いを浮かべつつも、必要なことだと大きく頷いてくれた。 女性用の衛生品は、さすがに本物をまじまじと見たことがなかったからね。早めにデータをもらって、タウンエリアの店に出しておこう。 |