第二幕・第三話 若村長と奇跡の結果
同盟者となった俺は、サルヴィアのステータスを見せてもらった。
転生者同士で同意があれば、お互いのステータスを見せ合うことができるようだ。 サルヴィア・アレネース・ブランヴェリ (16歳) レベル:81 職業 :ブランヴェリ公爵代行 天賦 :【魔女の叡智】 称号 :【公爵令息】【男の娘】【民の守護者】 冒険者ランク: S(サルヴィア)・B(セージ) 能力 :【空間収納】【鑑定(全般)】【魔女の大鍋】【お忍び行動】 特技 :製薬Lv10、薬草栽培Lv1、弓術Lv5、短剣術Lv2、火炎魔法Lv10・・・・・・ 経営Lv8、社交Lv7、礼儀作法Lv8・・・・・・ 武勇 :88 統率:37 政治力:58 知略 :60 魅力:90 忠誠心:10 (うわぁ、バケモンみたいなデータが出てきた) えっ、まだ十六歳だよね? 武勇と魅力が90に届きそうって、十分に英雄級だよ。ヤバい。 「すっご……」 「そうですの? 『フラ君』的には、ブースト控えめで二周目の最終レベルがこんなものですし、わたくしのこれからを考えると、欲しい所が全然足りないと思うのですけれど」 サルヴィアは納得いかないと首を傾げるが、そう言えばこのお嬢さん……お嬢さん? は、限界は超えるものという信念の持ち主だった。乙女ゲー内で先手を打つために、いままでマッチョな鍛え方をしてきたに違いない。 「この、冒険者ランクに、サルヴィアとセージがあるのは?」 「なんと言いましょうか、システムの穴を突いたら、二重登録できてしまいましたの。学院に入ってからはサルヴィアでしか活動していなかったのですけれど、領地にいたときは、度々お忍びで男の恰好をしてセージになっていましたのよ」 「な、なるほど?」 冒険者ギルドに気軽に出入りする美少年が、普段は護衛に囲まれた公爵令嬢(女ではない)だとは思うまい。たぶん、能力【お忍び行動】が、いい仕事をしているのだろう。 俺が予想した通り、サルヴィアの【鑑定】はヘルプ機能も備えていた。それによると、天賦【聖者の献身】は「自分の労力を用いての献身行為にプラス補正」とあり、具体的には「回復魔法と神聖魔法と【身代わりの奇跡】に関して、効果が大幅に上昇」というものだった。 能力の【幸運】はそのままの意味で、これはあらゆる行動の成功確率にボーナスが付くという、創造者垂涎のパッシブアビリティで、製薬が主な特技であるサルヴィアも羨ましいそうだ。 【女神の加護】は、女神アスヴァトルドが司るものに関して、体力や魔力の消費を抑えるというもの。彼女が司るものは「陽」と「豊穣」。つまり、瘴気を浄化できる神聖魔法や、農耕などの第一次産業。俺にぴったりだ。 リヒターの運命を翻弄した【身代わりの奇跡】は、「自身の犠牲に応じて、望む奇跡を起こす」というもの。 そこで、俺はふと首を傾げた。これって……。 「あれ? もしかして、対価は命や寿命とは限らないんじゃ?」 「え!?」 サルヴィアは驚いていたが、どこにも命を要求するとは明記されていない事を確認して、さらに目を真ん丸にしていた。 「わたくし、てっきり……」 「ゲームでリヒターが死んだから、そう思い込んだんだろ。俺だって、リヒターの母親が死んだから、寿命が対価だと思ったもん」 たぶん、命以外のものを優先して消費して、それでも足りないと、最終的に死に至るのだろう。俺が何を犠牲にしたのか、さっぱりわからないのだけど。 犠牲の大きさもさることながら、望みの規模も関係しているかもしれない。あの時俺が望んだことは、ごく局所的というか、あの一時をしのぎ切ればいいというものだった。ゲームでのリヒターが望んだように、広大な国土を救うとか、リヒターの母親が望んだように、赤ん坊の未来を含めた命を望んだわけじゃない。 「これって、実は小出しに出来るアビリティだったのかも」 「リヒター、やめてくださいませ」 「わかってるよ。そんなに怖い顔をしないでくれ」 何を犠牲にするのか具体的にわかっていないのに、命を保証金替わりに検証する気はない。 「わたくし気付いたのですけれど、【空間収納】を持っているのは、転生者だけかもしれません。リヒターに会うまで、わたくし以外に持っている人がいませんでしたから」 「そうなんだ。じゃあ、ひとつの見分け目安になるな」 見比べることで、他にもわかることがあるかもしれない。 リヒター(24歳) レベル:34 職業 :農民 天賦 :【聖者の献身】 称号 :【優しい若村長】【神罰の代行者】【コッケ道】 能力 :【空間収納】【幸運】【神の加護】【身代わりの奇跡】 特技 :農作Lv5、牧畜Lv5、果樹栽培Lv1、回復魔法Lv1、神聖魔法Lv6 神獣召喚Lv10、布教Lv5、行軍Lv1 武勇 :10 統率:45 政治力:30 知略 :50 魅力:80 忠誠心:30 えっ……。 「なんじゃこりゃぁぁぁ!?」 「どうかされました?」 「ちょっ、これっ!」 いきなりレベルが上がりまくっているし、変な称号が増えているし、神獣召喚ってなんのことだか……。 あわあわしながらステータス画面を指差す俺に、サルヴィアは「あぁ」と軽く頷いて説明してくれた。 「【神罰の代行者】は、リッチを倒したからでしょうね。【コッケ道】はわたくしもよくわかりませんが、コッケと仲がよろしいからではありませんの? 牧畜も、以前より少し上がっていますでしょ? 神聖魔法が上がったのは、道中で何度も瘴気を浄化したからでしょうし、布教と行軍が生えたのも不思議ではありませんわ」 「……いま、わざと抜かしたよね。この神獣召喚は?」 俺が見上げると、サルヴィアはあのいい笑顔をしていた。 「直接ご覧になった方が、よろしいと思いますわぁ」 俺が連れていた三羽のひよこだが、あの時の奇跡で成鳥になったらしい。 「は? 巨大化したり、雷を操ったり?」 何を言っているんだと、俺は隣を歩くサルヴィアを見たが、彼の表情は変わらない。 「見れば、わかりますわ」 難民キャンプの馬房の裏手に、こっそり鶏舎を作ってくれてあるそうだ。崩れた小屋を再利用しているらしく、天井は一部ないが、壁はしっかりしている。 「コッコッ……」 「あ、俺を起こしに来た奴だ」 鶏舎の前でこつこつと地面を突きながら歩いていたのは、俺を大音声で叩き起こした、もっちりコッケ。 「あのコッケ、リヒターが連れてきたひよこの一羽ですわ」 「あんなにデカくなったのか」 「……。ちなみに、あれを鑑定すると、『金鶏』という固有種なのですけど」 「きんけい?」 「日本にいた時に、民話などで聞いたことございません? 埋蔵金や隠し財産を探し当てるニワトリのことですわ」 「…………なんだって?」 ちょっと思考が追い付いていない俺を置いて、サルヴィアは鶏舎の中に入っていく。 俺も追いかけて崩れかけの小屋に入ってみると、そこには掃除された床に藁が敷かれた一角があり、水桶にはきれいな水が、餌場には刻んだ葉野菜に穀類や木の実を砕いたものまで入れられていて、コッケの餌とは思えないほどの豪華さ。奥行きのある棚や止まり木なども用意されていて、実に行き届いている。 「は……?」 棚の上でくつろいでいたのは、神々しいまでに純白のコッケ。鶏冠は繊細で優美な形になり、尾羽がずらりと長い。言うまでもなく、一抱えはあろう程の巨体。コッケのひなだと思っていたのに、突然変異の七面鳥だったわけじゃないだろうな。 そして、止まり木からこちらを鋭く見下ろしてきたのは、やはり巨体だがいくぶんシュッとしているコッケ。その羽毛は、ニワトリによくある赤茶色ではなく、鷹のような薄いこげ茶色で、尾羽など部分的に黒っぽい色になっている。神秘的なのは、その羽が光の加減で青紫色に光って見えることだ。 「こ、こいつらも? デカくなったなぁ」 「……勘違いされているようですけど、リッチを倒した時、この二羽はパラグライダーより大きく見えましたわよ」 「は?」 パラグライダーって、ハングライダーよりも大きい、パラシュートを横長に広げたような形のだよな? それよりも大きい? 「そんな馬鹿な。変身でもするのか?」 「一緒に来た方たちに聞いてみればよろしいのでは? 口をそろえて、天を覆うほどの大きさだった、っておっしゃると思いますけど」 「……」 俺はいったい、どんな奇跡を起こしたんだ? 「わたくしの【鑑定】によりますと、そちらの白いのが『シームルグ』、こちらの茶色いのが『サンダーバード』、という固有種になっていますわ。ちなみに三羽とも、神獣ですわね」 「待ってくれ。……待ってくれ」 俺は頭を抱えながら、断片的な前世の知識を引っ張り出す。 『シームルグ』は、たしか、ペルシャ辺りの神話に出てくる鳥だな? ゾロアスター教の、豊穣と癒しの霊鳥だろ? 『サンダーバード』は、ネイティブアメリカンの伝説だったはず? トーテムポールの鳥が、サンダーバードだって聞いたことあるような……。 「どうしてこうなった」 「わたくしが聞きたいのですけれど?」 俺はこの三羽を飼うためにも、早急に人目につかない場所を確保しなければならない事を悟った。 |