Trick or treat !
「Trick or treat !」
そう言って差し出された白い手に、ダンテは包装された小さな角形のチョコレートをひとつ、ポンと乗せた。 「・・・・・・・・・・・・」 「悪戯できなかったからって、そんなに悔しそうな顔しないでよ」 眉間に縦ジワを作り、涼やかな美貌をぷくっと膨らませる大和に、ダンテは朗らかに笑ってみせた。もちろん、ダンテのポーチにはチョコレートもキャンディーもビスケットも入っている。女子供に懐かれる性質の男は、こういうところがマメで、抜かりないのだ。 「僕が一番乗りで驚かせようと思ったのに・・・・・・」 「大和さん、遅いよ。もうサマンサさんや長門くんたちが来たし」 「あの人たち早すぎじゃないですか!?」 悪戯ができないどころか、スタートダッシュからして出遅れていたことを知って、大和はぷりぷりと悔しがりながら包み紙を剥き、一口サイズのチョコレートを口の中に放り込んだ。ミルクフレーバーの甘いチョコレートが、舌の上でとろんと蕩けだす。 「それで?そんなに見通しが甘い癖に、俺にどんな悪戯をしようとしたの?俺の迎撃弾幕を考えていなかったの?いくら頑丈な大和さんだって、慢心にもほどがあるんじゃないかな?それとも、また気絶するほど褒められたいの?本当に節操のないドМだよね」 「ひゃぁ・・・・・・ぃッ」 ダンテに嘲られて、大和の顔も蕩けてしまう。 「はぁッはぁッ、すごくイイです。ゾクゾクしてきました・・・・・・!もっとください!」 瞳の中にハートを浮かべてキラキラと微笑む大和に、ダンテもにこにこ笑いながら、自慢の饒舌を披露する。 「そもそもね、なにしに来たの?お菓子をもらいに来たの?それとも踏んでもらいに来たの?当然、踏んでもらいに来たんだよね。でも・・・・・・もうお菓子を受け取ってもらったし、靴底を 決して急がず、滔々と流れてくる低く優しい声は、鋭さや激しさは少ないものの、イイ感じに揉んでくれるマッサージ機のような硬い突き上げが、ジンジンと大和の性感を刺激する。 「んんっ・・・・・・ダンテさん、なんだか調子がいいですねぇ。体が温まります」 「最近褒めさせてもらっているからね。ふふっ、俺に罵られて気持ちよくなって、ほっぺが赤くなっている大和さん可愛いなぁ。あぁ、油断するとまた褒めてしまう」 「怒涛の如く褒められる心構えはできてきましたが、もうちょっとヒヤッとすることを言っていただいてもいいんですよ?」 「そう?Trick or treat !」 すっと差し出しされた手とダンテの顔を、大和は目をぱちくりさせて交互に眺めると、緩やかに唇の端を吊り上げた。ダンテにもらったチョコレートは、とっくに口の中で溶けて消えている。 「じゃあコレで」 ちゅっと頬に触れた感触に、今度はダンテの顔が赤くなった。 「ふふふっ」 「もぉ・・・・・・大和さんには、敵わないなぁ」 「当然です」 勝ったので激しいプレイをリクエストしますと微笑む大和に、ダンテは仕方なさそうに了解するのだった。 ―完― |