触手と愛とプレゼント ―3―
激しいプレイに満足して意識を手放した後、肌寒さに目を覚ました大和は、自分がバスタオル一枚で床に転がされていることを認識して力なく微笑んだ。
他人に気兼ねすることのない自宅だからといって、事後の放置プレイはダンテの感性に合わないはずだ。それでも大和の好みに付き合ってくれるから、自分は好かれているんだなと嬉しくなる。 「・・・・・・っ」 自分が汚した床からのろのろと起き上がり、あちこち痛む体を引きずるようにして、大和はエレベーターを使って一階のバスルームへ向かった。 (いい家を建てたな・・・・・・) とても使い勝手がいいと、自画自賛するのであった。 大和がバスルームから出ると着替え一式が用意されており、文明人らしい格好になってキッチンに向かえば、そこにはロマーノがいて、すでに朝食の準備が整っていた。愛想はないが気の使い方も家事能力もダンテと同等であり、よくできたハウスキーパーだ。 「おはようございます」 「チャオ」 テーブルには、ほかほかに温められたパンとポタージュスープに、サラダとスクランブルエッグとハムステーキが付いて、朝から豪華である。大和がさっそく腹を満たしていくと、ロマーノがコーヒーを入れながら、未明に侵入者があったと事務的に報告をしてきた。 「サンタクロースではなさそうですね。被害は?」 「特にない。塀を乗り越えて敷地に侵入した時点で、ダンテが全員食べた。身元が分かりそうな物はダンテが塀の外に投げ捨ててしまったから、仲間が回収したか、通行人が拾っていなければ、まだ落ちているかもな」 GPS機能でこの家にいると思われるのを避けたのだろう。不燃ごみを敷地に埋めたくないという意図もわかるが、ポイ捨てはいけないと、大和の日本人らしい美意識が咎めた。今後もこのようなことがあった場合の対処方法を含めて、ごみ箱を用意してやらねばならいだろう。 「わかりました。それはこちらで処理します。この件は後で涼月が訪ねてくるかもしれませんので、応対をお願いします」 「了解した」 人心地付いた大和はプレイルームの掃除をしようとしたが、ロマーノに断られてしまった。 「いえ、でも・・・・・・」 「俺の仕事だ。・・・・・・それとも、関係ない俺に掃除されて、恥ずかしいのか?」 「っ・・・・・・」 ダンテよりもロマーノの方が、ナチュラルに大和を言葉攻めしてくれるので嬉しいが、ダンテと同じ顔なので背徳感があってちょっと困る。 「ラブホと同じだろ。馬鹿じゃないのか。変態の癖に、いまさら恥じらうな、気持ち悪い。虐げられたいのは知っているが、マゾでもなんでもいいから、家主の御曹司らしくしていてくれ。あと、自分の家だからって、床に転がって俺に踏まれようとするな。邪魔だ」 「重ね重ねの罵倒ありがとうございます」 大和とて使用人の扱いには慣れているが、涼月をはじめとする実家の使用人にプレイルームを掃除させようとは思わない。そんなフルオープンにできる趣味ではないのだが、ロマーノはダンテの使い魔なので、アレもコレも全部知ってしまっている。 仕方がないので、大和はもう一度地下に降りて、今度は主寝室の方へ入った。まだ朝の六時台なので、ダンテを抱き枕に二度寝をするつもりだ。 「・・・・・・ダンテさん、これはなんですか」 爆睡しているダンテが抱えていたのは、全長五十センチほどのヌイグルミ。よく見なくても、それが自分を模していると大和にはわかった。 「生身の僕がいるんですから、これはいらないですね」 ダンテの腕の中からすぽんとヌイグルミを引き抜くと、大和はベッドにもぐりこんで、ひんやりした体に抱き着いた。抜けきっていない疲労と満腹になって温まった体は、すぐに休息モードへと突入した。 太陽が西の地平線に沈むころにダンテは目を覚ましたが、どちらかと言うと起こされたような気がする。抱きしめて寝たはずの大和さんヌイグルミが、手の届く場所からずいぶん遠くに放り投げられていた。 「おはよう、大和さん。なにしてるの?」 掛け布団を持ち上げ、股間で励んでいる人の頭を撫でる。人のパンツを色気のないスウェットのズボンごとずり下げて、ちょっと硬くなってきた主砲から口を離した大和が、にっこりと微笑んだ。 「おはようございます、そろそろ夕方ですが。昨夜の続きですよ」 「え、まだ続いているんだ」 しゃべりながら擦らないでほしいと思いながら、ダンテは気怠くため息をついた。気持ちよくて、寝起きと相まって頭が働かない。 「昨日のアレだけじゃ、満足できなかった?」 「そんなことはありません。とても良かったですよ。大満足です」 「それは良かった」 「でも、僕はプレゼントをもらったのに、ダンテさんは受け取っていないじゃないですか」 「・・・・・・あー。でも、侵入者なら食べたよ」 「それは僕が用意したものではありませんので・・・・・・」 「んっ」 まだ大きくしようとする大和を促して引っ張り上げることで、ダンテは疼く下半身から理性を保った。 「それで、何をプレゼントしてくれるの?」 「僕です!!」 まあ、なんとなく予想はついていた、とダンテの目が遠くなりかけるが、その反応が不満らしい大和は続きを告げた。 「SMプレイ無しでの僕です。いかがです?」 「えっ、いいの!?」 ダンテの食いつきがよくなったせいか、大和は満足げに胸を張った。 「昨夜はダンテさんをいただく前に、僕だけが気持ちよくなりすぎてしまいましたからね。望むところです」 「大和さん、優しい〜。大好き」 そうとわかれば大和の気が変わらぬうちにと、ダンテはさっさと衣類を剥ぎ取って大和を抱きしめた。 「あー・・・・・・触ると痛いかな?」 「問題ありません」 触手プレイの痕があちこちに赤く残る素肌に口付け、柔らかく解れているアナルにジェルを足してく。 「ふふっ、まだ柔らかい」 「っ・・・・・・あれは、ちょっと大きすぎました」 「そうだね。玩具はもっと小さくしないと、俺で満足してもらえなくなっちゃう」 「もう!」 振り上げられた拳を手のひらで包み込み、指を絡ませ合ってベッドに沈ませる。 「あっ・・・・・・はっ、っん・・・・・・!」 「大和さん、バックも好きだけど、こうして脚を広げる正常位好きだよね?」 「あぁッ」 柔らかく受け入れる奥までずぷんと打ち付けると、さらにひくりひくりと吸い付いてくる。まるで、もっと動いてほしいと言われているようだ。 「はっ・・・・・・ぁ、きもち、いいです・・・・・・っ」 とろんとした顔で見上げてくる頬を撫で、白い首筋に舌を這わせながら腰を動かすと、嬉しそうに肩にしがみついてくる。 「あっ、あっ・・・・・・あぁっ!」 「・・・・・・ここ、グリグリされるの好きだね?」 「は、いっ・・・・・・あっ、だめですっ、すぐ・・・・・・イっちゃいます、から・・・・・・!」 きゅんきゅんと締め付けてくる中を擦りあげると、たまらないと首を振り、その度に黒髪がはらりと広がった。 「とっても綺麗。大和さんがイっちゃう顔、もっと見せて」 「恥ずかしい、こと・・・・・・言わないでっ、はっ、ぁあッあぁッ」 「んっ、あぁっ・・・・・・大和さんの中、すごくえっちで気持ちいい」 限界が近くて全身を強張らせた大和を、ダンテは自分の快楽も重ねてさらに追い立てていった。 「あぁっ、なかに・・・・・・もっと、僕の中に、くださいっ・・・・・・」 「うん。いっぱい、飲んで」 「っは、イくっ、も、イ・・・・・・ぁああッ」 柔らかく反り返ったペニスの先端から、薄まった精液をぷしゅうと吹き上げる大和の、ぎゅうと窄まった奥にねじ込んで、ダンテはたまっていた濃い愛欲を叩きつけた。 「んっ、はっ、ぁ・・・・・・」 「ふ、ぁ・・・・・・あ、しゅごい・・・・・・」 温かな体を抱きしめ合い、余韻を貪るように舌を重ね合わせてから、大和の体をいたわる様にゆるゆると離す。気怠く潤んだ黒い瞳を覗き込むと、艶のある涼やかな微笑みが返ってきた。 「 「そうでしょう。来年もたくさん虐めてくださいね」 「・・・・・・善処するよ」 二人分のクスクスという笑い声が、触れあう唇の中に消えていった。 |