皆さんご一緒に


 ダンテは自作のケーキが入った箱を持ったまま、自宅の門前で困ってしまった。
「うっ・・・・・・うぐっ、ひっく・・・・・・」
 目の前には、マントを付けたいかにも王子様チックな服装をして、前髪に一房の蒼いメッシュがある金髪頭にコロネットを載せ、つぶらな碧眼からぽろぽろと涙を溢れさせている青年が一人。
「・・・・・・どうしたの?」
「レティが、いつの間にかいなくなった・・・・・・!」
(迷子か・・・・・・)
 季節外れのハロウィンでなければ、少年とは言えなさそうな年齢である彼が端的に言ったことを意訳すると、供とはぐれたのだと察する。冬の早い夕闇が迫る時間である。寒いことだし、心細いのだろう。
「俺はダンテ。君は?」
「アルバート・・・・・・」
「そうか。お供がいなくなったのは困ったな。しかし、俺もこれから出かけるし・・・・・・」
「うえーん、レパルス、どこに行ったー!!僕はここだぞーー!!!」
「は!?」
 うえーんと泣く青年にもびっくりだが、それよりも飛び出した名前の方にダンテはびっくりだった。
「・・・・・・つかぬことを聞くけれど、そのレティとかいう人のフルネームを教えてくれる?」
「ひっく・・・・・・ぅ、れ、レパルス・フェアクライド・・・・・・」
「・・・・・・そいつ、背が高くて、金髪で青い目してる?」
「いいや。銀髪で、金色の目で、左目に眼帯をしている。騎士だから、体は大きいな」
「わかった。事情を知ってそうな人を知っているから、一緒に行こう。大丈夫。ほら、泣き止んで」
 ハンカチを出して、青年の涙で赤くなった頬を拭うと、ダンテはケーキの箱を持っていない方の手を差し出して繋いだ。
「ロマーノ、背がデカくて銀髪金目の・・・・・・たぶん、顔のいいゴリラが通りかかったら、俺たちはTEARS名坂支部に行ったと伝えろ」
「わかった」
 自分の目の前にいる顔と同じ顔が、突如門の内にも現れて驚いたらしい青年の涙が引っ込んでいるうちに、ダンテは高貴そうな青年の手を引いて歩き出した。

「で?」
「で、じゃない。知り合いだろ?」
「知り合いたくもありません。あなたが勝手に拾ってきたのですから、持ち帰ってください」
 名坂支部にたどり着いたダンテは、長い金髪を赤いリボンでひっつめたレパルスに冷たく突き放されて唇を尖らせた。
「そんなこと言われてもなー」
「そうよ、レパルス。せっかくダンテがケーキを作って持ってきてくれたんだから、食べながら一緒に待てばいいじゃない」
「うむ。なかなか美味だぞ」
「お褒めにあずかり光栄です、殿下」
 アルバート・ウェールズと名乗った王子様っぽい青年は、やはり王子様だったらしい。ダンテが持ってきたケーキを、毒見もさせずに、サマンサと一緒にパクパク食べているが。
「お前のバースデーケーキだぞ。全部食われる前に、はよ食べろ」
「・・・・・・・・・・・・」
 イチゴを挟んだショートケーキが一切れ乗った皿を、レパルスが無言のまま受け取る。
「誕生日おめ・・・・・・」
「殿下ぁーーー!!!!」
 ずばーんとドアを壊しかねない勢いで入室してきたのは、銀の鎧とマントに身を包んだ眼帯の大男。
「わあ。こっちがフェアクライド家の坊ちゃんか」
「ちっ」
「同じ顔に向かって舌打ちかよ」
「あなたには関係ありません」
 ぷいっとそっぽを向く金髪のレパルスをよそに、鎧姿の方のレパルスは自分の主君の前に跪いていた。
「レティ!遅かったじゃないか」
「はっ、申し訳・・・・・・」
「おーい、お前さんもレパルスなら誕生日だろ。ケーキ食べていけ」
「殿下をかどわかしたのは貴様か」
「うわぁ、このレパルス、レパルスよりも凶悪な上に面倒くさいな」
 ずらりと抜かれた剣先を突き付けられて、ダンテはケーキの皿を持ったまま両手を上げた。
「よせ、レティ。彼は僕を助けてくれたし、ケーキも献上してきたぞ」
「しかし・・・・・・」
「主君が食べているもの、お付きの人が毒見しなくていいのか?」
「!」
 ぴくっと固まった銀髪のレパルスにもケーキが載った皿を押し付けると、ダンテはケーキを食べ終えてココアを飲んでいるサマンサの傍に、やれやれと腰を下ろした。
「ありがとう、ダンテ」
「どういたしまして。サマンサさんはレパルスのお菓子で舌が肥えているから、お口に合わなかったらどうしようって心配だったよ」
「そんなことないわ。とても美味しかったわよ」
「ダンテさん、サミィから離れてください」
「なんだよ、俺のケーキが美味しかったって褒められて悔しいか?」
 赤い右目と青い左目がすうっと据わったのを見上げて、ダンテはその場からとっとと逃げ出すことに決めた。
「ははっ、じゃぁな。誕生日おめでとさん!」
「待ちなさい!これを引き取っていってください!!」
「殿下をこれとはなんだ、魔女の犬め」
「む、ケーキはもう終わりか。もう少し食べたいな」
「ねえ、レパルス。クッキーはないかしら?」
「殿下!」
「サミィ!」
 二組の主従が紛糾する室内から、すたこらさっさと抜け出したダンテは、誕生日くらい仲良く祝えばいいのになぁ、と思うのであった。