癒しの連鎖
― 二十三時台の某雑談スレッド 278 美味しい肉塊さん ×××××××2fo だから襲撃成功なんて都市伝説だって 護衛の車がついてるの見た事ねーのかよ 279 美味しい肉塊さん ×××××××eep もしかして、その辺の薬局に配達する車と思ってる? 280 美味しい肉塊さん ×××××××0ty 降りる場所がある所にはヘリで配達してるだろ 風邪薬じゃねーんだからwwwwww 281 美味しい肉塊さん ×××××××44d 風邪薬は草 282 美味しい肉塊さん ×××××××68w そもそも、薬は草から作ったからな 283 美味しい肉塊さん ×××××××44d ワクチンは卵だろ? 284 美味しい肉塊さん ×××××××oty だからインフルエンザじゃねえって 285 美味しい肉塊さん ×××××××eep ワクチンって、注射だろ? 手に入れたって、自分でできるとは思えないんだけど 286 美味しい肉塊さん ×××××××68w 普通はそう思うよな。お手軽な飲み薬じゃないんだし そもそもワクチンに対して自分の体がもつかもわからないのにさ 287 美味しい肉塊さん ×××××××hkr TEARSばっかりずるいじゃん 全員にワクチン打たせろよ 288 美味しい肉塊さん ×××××××ffo 小鳥遊製薬が値段吊り上げてるから無理問題 軍需産業真っ青の肥え太りだぜ 289 美味しい肉塊さん ×××××××44d やっぱそーだよなー 小鳥遊の社員なら、みんなワクチン打ってるんだろーなー 290 美味しい肉塊さん ×××××××2fo んなわけあるか 単に供給が追い付いていないのと、286が言う通り 俺はワクチンだって自分の体に入れたくないよ 300 美味しい肉塊さん ×××××××sfg でもさぁ、ワクチン手に入ったらいいよね 化物になって死にたくないもん 生きるためにできることは何でもしたいじゃん 301 美味しい肉塊さん ×××××××2fo これだから配送車とか小鳥遊の人間を襲おうって考える奴が絶えんのか 302 美味しい肉塊さん ×××××××58u 勘弁しろ この板まで公安に監視されるぞ いい天気につられて、市街地へ散歩に出かけたのを見計らったかのように、二人の前にふらりとフード姿の男が現れた。 「ごきげんよう、ダンテ!」 「ごきげんよう、サマンサ女史。今日も笑顔が素敵だね。俺も元気が出るよ。・・・・・・でも、五十メートル先から捕捉されるとは思わなかった」 「だって、人間の中にレパルスと同じ“匂い”がする生き物が混ざってたら、気付かない方がおかしいわ」 にこにこと手を振るサマンサの隣で、レパルスの目が据わる。ダンテと同じ匂いだと言われたのが、たいそう不満のようだ。 「何の用です?」 「睨むな。・・・・・・別に」 「用がないなら、そこを退いてください」 視線を逸らせたダンテを押しのけるように歩き出したレパルスを、サマンサの手が引き留めた。 「サミィ」 「いいじゃない。三人で歩くなんて、久しぶりね」 誰に気兼ねすることもなく、平和な町を安全に歩けるという普通が、とても貴重なことだということを、この三人は知っていた。 サマンサは自分を中心に、レパルスとダンテを隣にしたかったのだが、レパルスに歩道の奥へと押し込まれてしまい、レパルスの外側に対向者を避けながらダンテが並んだ。店舗のショーケースがよく見えるので、これはこれでいいかと思う。 肉屋の店先にあるコロッケが美味しそうだなぁと眺めるサマンサの頭上で、低い声が静かにやり取りされていた。 「普通の人間じゃないって、大和さんにバレた。・・・・・・珍しいファミリーネームなんだな。本当に小鳥遊グループの関係者だとは思わなかった」 「それで?」 「万が一、俺が小鳥遊製薬やTEARSに連れていかれても、何も言わないで、手も出さないでほしい」 「・・・・・・私がわざわざ、そんな真似をすると?相変わらず、お目出度い頭ですね」 「念のためだ」 「私よりも、あのマゾに言っておくべきではありませんか?」 「俺から言えるわけないだろ。大和さんの立場を危うくするようなことになるくらいなら、研究材料にでもなんでもなってやるよ」 猫をかぶるのをやめた元テロリストの表情は、緩い目元をほころばせた笑顔よりも、レパルスにはなじみがあるように感じた。望む結果の為には、自分を捨て駒にすることすら躊躇わない確信犯には、なにを言っても無駄だ。 しかし、肉屋を通り過ぎてきょとんと目を瞬かせたサマンサが、少し首を傾げながら二人を見上げてきた。 「大丈夫よ。ダンテは完全な吸血鬼じゃないんだから、人間がいくら調べたって、なにも出てこないわよ」 「え?」 「そういうものですか?」 ダンテとレパルスから注目されて、サマンサはこくんと頷いた。 「完全な人間ではないけれど、それ以外でもないの。だから、人間の両親から生まれた、生きた人間としての肉体がある以上、それ以外の何かを人間の知識が分析することはできないはずよ。・・・・・・たぶん、だけど」 「そっか・・・・・・」 ダンテは気が抜けたように空を見上げたが、サマンサはじっとダンテを見つめていた。 「ねえ、ダンテ。そんな風に考えていたら、ヤマトがかわいそうよ。少しはレパルスを見習った方がいいわ」 「どういう意味ですか、サミィ?」 レパルスは眉間にしわを寄せたが、サマンサはくすくす笑って二人を見上げた。 「レパルスだったらどうするか、ダンテならわかるでしょ?」 自分が腕力に物を言わせる図を想像したのか、ダンテは柔らかな苦笑いを浮かべて頷いた。後先を考えて正しいか正しくないか腐心するよりも、自分の気持ちに正直に道を切り拓いていくことも大切だ。 「・・・・・・心意気だけでも、見習うことにするよ。ありがとう、サマンサさん」 「いいのよ。みんながレパルスみたいにできるなんて思ってないわ。私のレパルスは、それだけすごいんだから」 サマンサはレパルスの腕にしがみつきながら、ふふんと胸を張った。 「ダンテは失敗したくないから、遠くを見すぎるのよ。もっと目の前のことや、自分のことを、大事にするべきじゃないかしら」 「・・・・・・大和さんにも、自分に関することが大雑把だって言われたよ」 「そうでしょう。ほら、私の言ったことは正しいわ」 胸を張りすぎて、ぐぐーっと反り返りだしたサマンサを、レパルスはしがみつかれている腕一本で支え、サマンサが後ろにひっくり返るのを防いだ。 「安心したら、ヤマトにも教えてあげなさい。いいこと?自分に嘘をついちゃダメよ」 「うん」 幾分すっきりとした表情で目元の険もなくなったダンテと別れると、レパルスはやや呆れ気味に豊かな褐色の髪を見下した。 「サミィ、あの男を甘やかしすぎです」 「あらレパルス、やきもち?」 「やっ・・・・・・!?」 嫌そうに歪んだ端正な顔が赤くなって視線を逸らせたレパルスに、サマンサは「冗談よ、ごめんなさい」と柔らかく微笑んだ。 「しっかりしているように見えて、あの子だって不安だし寂しいのよ。わかるでしょ?私にはレパルスがいるし、レパルスには私がいるけど・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 サマンサは自分の歩調に合わせてゆっくりと進むコンパスの音を、とても心地よく感じた。そして、レパルスも隣で弾むように歩くサマンサの歩調を、心地よく感じてくれればいいなと思うのだ。 『近いうちに会える?たくさん褒めさせてほしいんだ。つまり寂しいので甘えさせてください』 『かまいませんよ。ただ、褒めるのは僕がリクエストした事柄だけにしてください。褒められすぎるのも、かえって傷付いたり居心地悪くなったりするんですよ』 『わかった。今からテーマを言ってくれれば、サミットで演説できるくらい心を込めて推敲するけど?』 『直前に言わせてもらいます!それから、褒めるだけじゃなくて、ちゃんと踏んでくださいね』 『もちろんだよ!迎えに行くからね』 「迎えに・・・・・・?」 大和は手の中のスマートフォンを見ながら首を傾げたが、まあいいかと日時と守衛のいる正門を指定して返信した。 何も問題が起こらなければ、久しぶりに素肌を靴底で踏みにじってもらえるだろう。そう考えると、うきうきと心が弾んで、診察室に飛び込んできたよく響く元気な大声も、気にならなくなった。 |