いいこと考え付きました


「レパルスさんから聞いたんですが、ダンテさんって投球コントロールがお上手なんですって?」
「え?」
 突然大和から聞かれて、ダンテも目をぱちぱちとしばたいた。
「投球・・・・・・っていうか、投石?」
「投石!?」
「いやだって、俺、野球あんまりやったことないし・・・・・・」
 サッカー派のダンテは、ボール遊びと言えば、キャッチボールではなくリフティングである。
「じゃあ、どうして制球がお上手に?レパルスさんが貶さないどころか認めるなんて、珍しい事だと思いますが」
「だって、あれは死活問題というか、正確に当てられないと生き残れないというか・・・・・・」
「石器時代に生きていらしたんですか?」
「似たようなもんだよ」
「???」
 ダンテはそれ以上説明するつもりがなく口を噤んだが、しばらく頭をひねっていた大和は、ポンと手のひらに拳を打ち付けた。
「いいこと考え付きました!」

 そのクレーンは、年末年始の笑い納めだか隠し芸大会だかに使ったらしく、暖冬の穏やかな日差しの中で、大和を宙吊りにしていた。下にマットは敷いてあるが、二階から三階くらいの高さはある。
「・・・・・・・・・・・・」
「ダンテさぁ〜ん、よろしくお願いしまぁ〜す!」
 こういう人だ、こういう人だ、と自分に言い聞かせるも、ダンテの眼差しはちょっと死にかけている。
「はぁぁ・・・・・・。もぉ、知らないからね」
 ぽんぽんと軽く手の中で弄ぶと、金平糖のように凸凹のついたゴムボールを、ダンテは思いっきり振りかぶった。
「っ・・・・・・!」
 びゅんっと風を切る音も鋭く、弾丸のようなスピードでゴムボールが飛んでいく。
「ぐほぁっ!?!」
 ボコォッとすごい音がしたので、大和を吊り下げているベルトに当たったのだろう。当たったボールは、ぽい〜んと跳ね返って、地面に落ちた。
「ぐっは・・・・・・はぁっ、ベルト越しだったのに、めっちゃくちゃ痛かったですけどぉ!?」
「だからぁっ、言ったでしょぉっ!!」
 ダンテが投げる物は、相手が受け止めることを想定したボールではなく、相手に叩きつけて壊すためのあれやこれやなのである。打たれないようにコースを変えるという小器用な真似ができない代わりに、当たり所が良ければ突き抜けられるような鋭さと速さが求められるわけで・・・・・・。
「きゃんっ!あいたぁっ!!いったいですぅ!!」
「ほらほらぁ!最初の勢いはどうしたの、大和さんっ!!」
「あぁっ、ありがとうございます!!」
 ドコドコバコバコとゴムボールが投げられるが、空中で揺れる大和の腕や脚にも正確に当てられるのは、さすがレパルスが認めるだけはある。
「・・・・・・何やってんだ、あいつらは」
「ゴムボールが出しちゃいけないような音が聞こえますけど・・・・・・」
「すごいわね。あれだけ投げているのに、ヤマトの顔には一個も当たってないわ」
「サミィ、あんなものを眺めては目が腐りますよ」
 武蔵が買ってくれた焼き芋を片手に、通りかかった赤城とサマンサとレパルスは、他人の振りをして鎮守府へと帰っていった。
 その後、焼き芋を食べながらその話を聞いた長門が、なんだか面白そうなことをしているらしいと判断して飛び出していき、ゴムボールを大和の顔に当てたせいで、ダンテと殴り合いになったとかどうとか・・・・・・。
「あのぉ〜、そろそろ降ろしてもらえませんかぁ〜!?」
 ぷらんぷらんと揺れながら放置プレイされているマゾが降ろしてもらえたのは、それから一時間後だったらしい。

―完―