罵倒と賛辞の二重螺旋 −2−
大和はベッドの上でクッションにもたれたダンテにまたがり、急き立てられるように腰を振っていた。邪魔な布切れは脱いでしまったが、下から突き上げられる嘲りに心が蕩けて、せつない喘ぎが止まらない。
「まだまだだね。自分だけ気持ちよくならないの」 「ふわぁ・・・・・・ッ!あぁっん!ごめ、なさ、あぁッ!しょこ、もっと・・・・・・!もっと!あっ、アッ!ごりごりしてっ、きもちいい・・・・・・ッ」 上下だけでなく、かき回すようにグラインドさせることを覚えたせいで、自分の気持ちいいところにばかり、無意識に当ててしまう。大和のアナルはじゅぷじゅぷといやらしい音を立ててダンテを呑み込んでいるが、またがられている方は涼しい顔をしている。 「可愛いなぁ、大和さん。少し前までは処女だったのに、お尻でイくことを覚えたら、すっかり淫乱になっちゃって。こんなに大きくて立派なオトコノコを持っているのに・・・・・・」 「ッぁああ!!らめっ!ぁああ!こしゅこしゅしちゃ・・・・・・ひぃん!らめっらめっ、イくっ!へんらの、くりゅ!れちゃ、ぅ・・・・・・ぁあんッ!」 大和の動きにあわせて振れていたペニスを扱かれ、腰が砕ける様な感覚と一緒に、ぷしゅぅっと射精とは微妙に違う快感を吐き出した。 「ぁ、あへぇ・・・・・・」 「おぉ、潮噴いた。すげぇ・・・・・・大和さん、すごいよ」 ダンテに褒められて抱きしめられたが、力の抜けた大和の中から、まだ硬いダンテが抜けてしまった。 「ふあぁっ、ぬけちゃいましたぁ」 「まだ欲しいの?」 「ほしいです!ダンテさんのむちむちふわっとした、やさしいおちんぽがほしいです!ぼくのなか、おくまでいっぱいになるのがいいんです!」 「うん、まあ、大和さんのが鋼鉄かつ巨砲だからね。相対的にそうなるよね」 「ふえ?」 大和はダンテの上で逆向きに座らされ、再び後ろからずぶずぶと貫かれて仰け反った。 「ぁあああッ!おく、まで・・・・・・ぁああッ!」 「んっ・・・・・・気持ちいいっ」 こつこつと奥を突かれながら、きゅっと乳首をつままれて、痛みよりも、ジンと痺れるような快感が、イったばかりなのに射精を促してくる。 「あんッ、あ、らめでしゅっ・・・・・・!ぼく、またイく!イっちゃ、ぁあああッ!!!」 「はぁ、すごい・・・・・・ッ」 幾分薄まった精液をだらだらとこぼしながら果てる大和の中で、ダンテのものも震えた。どくんどくんと腹の中で感じる快感の証が、男に快楽を提供できる体だと蔑んでくれているようだ。 「ふあぁぁ・・・・・・」 後ろからぎゅっと抱き着いてくる肩に背を預け、大和は満足の吐息を漏らした。 いつもどおり、アフターケアまでしっかり尽くしてくれるダンテに髪を梳いてもらいながら、大和は以前から気になっていたことを訊ねた。 「ダンテさんが満足を感じる部分がよくわからないので、こうして僕に付き合ってくれることに、いまだに戸惑います。僕を罵るのって、そんなに難しいですか?」 穏やかな青い目がきょとんと見開かれ、こてりと首が傾げられる。 「うーん、俺の場合は、大和さんに対する大好きだっていう気持ちが渋滞を起こしちゃって、罵り言葉を探す労力に負担がかかって難しいんだと思う。自慢じゃないけど、大和さん以外に対してなら、割とすんなり出てくると思うよ」 なんだかシステマチックな説明をされたが、要は大和が好きすぎて難しいということか。 ダンテにしてもらうプレイは、激しさとしては腹八分目というあたりなのだが、いつでも気遣いに溢れているし、さまざまに趣向を凝らしてくれるので飽きない。大和はそれに満足しているし、ダンテもずっと付き合ってくれるのだが、本当はすごく大変で、快楽に対して割に合わないのではないかと、時々不安になる。 「ひらめきました。僕がダンテさんに入れれば、ダンテさんが罵る必要はないと思います」 「大和さんは絶倫だって、何回言えばわかってくれるの?毎回やったら、俺のお尻がガバガバになっちゃうでしょ!?」 「・・・・・・僕だけがぴったり入れば、問題ないのでは?」 「そうだけどそうじゃないの!大和さんの変態基準で考えないで!?」 「そうですか・・・・・・」 いいアイディアだと思ったのだが、ダンテが自分の尻をかばいながら後退るので諦めた。そもそも罵りや蔑みに、特別セックスは必要ないので、他の方法を考えた方がいいだろう。 「ダンテさんは、僕に何かして欲しいことはないんですか?」 「え・・・・・・?」 目を丸くしたダンテに、大和の方が少々傷付いた。 「ないんですか!?」 「え、ないっていうか・・・・・・噛みつかせてもらえているし、いてくれるだけで最高に嬉しいから・・・・・・」 ダンテはしどろもどろに答え、大和が肩を落とすと、さらに困ってしまったようだ。 「そうですよね・・・・・・それだけ無欲なんですから、僕からの要求ばかりになるのは当たり前ですよね・・・・・・」 「ええっ!?いや、あのっ・・・・・・」 「ダンテさんは自立した人ですから、僕なんかがしてあげられることなんてないですし・・・・・・」 どんよりと下を向く大和を、ダンテは励ますようにぎゅうっと抱きしめてくれる。 「どうしたの?俺じゃまだ足りないかな。お願いだから、そんなに悲しい顔をしないで」 ダンテが悪いわけではないので、大和は首を横に振る。 「僕に応えようとしてくれるダンテさんほど、僕が何かしてあげられないのが嫌なんです」 「じゃあ、たくさん褒めさせてよ。大和さんはいいところいっぱいあるんだから、俺が褒めても恥ずかしがらないで」 「えっ・・・・・・?」 褒めるというのは与える方ではないのだろうか?そもそも自分に褒められるようなところがあっただろうかと首を傾げる大和に、ダンテは少し困ったように微笑んだ。 「ダメかな?」 「そんな、僕なんて・・・・・・」 他人と比較するなんて不毛だと思うが、まず戦闘に立つメンバーほど優秀だとは思えない。なんだか名前負けしているなんて、卑屈なことを思ったこともある。一度泥水の中に這いつくばった経験は、いくら僚友に引き上げられても、胸の隅で重い塊になっていた。それは、大和が生きてきた過去に癒着して、誰かが安易に取り除けるようなものではない。 「そんなに、褒められるような人間ではありません。自分でも嫌になるくらい、弱い人間ですよ」 いつも欲してばかりで、誰かに分け与えられるような物を持っているだろうか。所属や大義名分に支えられたままで、ダンテのように自分の脚で立って歩いているのだろうか。 うつむいた大和の両手が温かな手に握られ、ダンテがすっと息を吸い込んだのが聞こえた。正面に座り込んだ穏やかな青い目が大和を見上げ、大和がこよなく愛する栗色の巻き毛が、ふわんと揺れている。 「・・・・・・あのね、戦っている人が傷付いたら、最後に頼るのが大和さんなんだから、当然、大和さんが一番頑丈だよ?お医者さんは倒れることが許されなくて体力勝負なんだから、大和さんは他の人と比べても、十分以上にタフだよ。もっと言うなら、俺に噛まれもモルヒネ打ってるんじゃないかってくらい平気なのは、大和さんだけだよ。すごいの。だから、自信もって」 「自分が弱いって感じることが、なにかあったんだね?大丈夫だよ。自分が弱い事を知っている人は、誰かに対して謙虚になることができるし、誰かの弱さを理解することができる。大和さんは自分が思っているよりも、ずっと色々なことができるんだよ。だいたい、罵られたいって言っている人のどこが『弱い』のさ?むしろスペックが尖って高すぎるんだよ。変態仕様って言うでしょ?いままで誰にもそれを指摘されてこなかったの?冗談でしょう?大和さんは弱いんじゃなくて、以前よりも今が、現在進行形で、最高に強いんだよ」 「俺が大和さんを大好きだと思う理由はいくつもあるけど、一番尊敬しているところは、他者に迎合しない、筋が通ったところだと思うんだ。自分が正しいと思ったこと、自分がやるべき事だと思ったこと、それをやり通す強さは、俺が大好きなことで、自分もそうありたいっていつも思ってる」 「医師免許持ってるんだから、並の人間よりも頭いいし、努力し続けられる根性がある証明だよ。親の意向と金で大学に行った?別にいいじゃない。大和さんがお医者さんになっていたから、俺と会えたのかもしれないでしょ。そんなことより、毎日進歩する医学を、誰かのために毎日自分に取り込んで実践していける頭と精神があるんだから、それは誇っていいことだよ。優しい大和さんだからできることだよ。そういえば、生身の左手、意外と大きくて、俺好きだって、言ってあったかな?」 「本当に美しいと思う。俺はこんなに美しい人を見たことないんだ。いつも凛としていて、冬の引き締まった空気似ている。それに、綺麗なまま白かったり赤くなったり、モンテ・ローザみたいだ。えぇっと、日本語では神々しいっていうのかな?畏怖すら覚えるよ。まっすぐな黒髪も大好きだよ。できれば毎日俺が梳いてあげたいと思ってる。だって、こんなに綺麗なんだ。もちろん、一番敬意を捧げたいのは、流星みたいに輝いてる目だよ。だらしなく蕩けてハートマークが浮かんじゃっている時も最高に可愛いけど、やっぱり普段のきりっとした涼やかな表情があればこそだと・・・・・・」 「大和さん、やまとさーん!」 「はっ!え、僕・・・・・・!?」 温かく滔々と流し込まれてくる、心からの好意と励ましと賛辞の大洪水に、耳から溺れて白目をむいていたらしい。ダンテ以外に言われたら、蕁麻疹が出るから止めろと殴りに行きたいほどの、ある意味言葉攻めだった。これが褒め殺しというものだろうか。 「砂糖漬けにされた気分です・・・・・・胸焼けと、鳥肌が・・・・・・」 「何で本当のことを言われて失神できるの?」 ダンテは心底困惑した面持ちで大和を見ているが、慣れない事を言われて心身が現実逃避を始めるのは仕方がないではないか。 「はぁぁ・・・・・・よくそんなに、褒め言葉が出ますね」 「うん。俺は、大和さんが大好きだから!いくらでも出るよ。続き聞く?」 シチリアの太陽みたいに明るく爽やかに言いきられ、大和は湯気でなければ冷や汗が出そうな顔を覆い、勘弁してくださいと呻いた。慣れるしかない。ダンテの真っ直ぐに届く好意に溢れた言葉が、こんなに強烈だとは知らなかった。ほとんど物量攻撃だ。弾幕だ。 恐ろしいことに、日本語でこれだけ出てくるのだから、彼の母国語で言われたら、分量はもっと多くなるに違いない。好きな気持ちが渋滞を起こしているという表現もうなずける、大和に対して日々これだけの賛辞を内に溜めていたというのなら、罵倒が難しいというのも無理ならぬことか。 なるほど、この称賛と応援の大洪水を受け止めることが、ダンテが大和にして欲しいことというわけだ。 「わかりました。せめて、ダムから放水する時はサイレンを鳴らしてください。これから僕を褒めますって」 「Si signore!よし、これからは褒め放題だ」 「ちょ・・・・・・」 ぐっと拳を握るダンテは、奥ゆかしい気質の民族をあまり褒め過ぎると胡散臭がられると経験して、かなり自重していたらしい。 「もう、ダンテさんのセリフが甘すぎて、頭がトリュフチョコレートになりそうです。激辛担々麺が食べたくなってきました」 「うん、俺もお腹すいたから、食べに行こう。大和さん、動ける?」 「もちろんです。・・・・・・僕は、頑丈ですから」 はにかんで、上手く笑えたかわからないが、言いたいことを言ってすっきりしたらしいいつもの穏やかな笑顔が、うんうんと大きく頷く。 髪をまとめるために晒した頬が、まだ熱い。それでも、自分の背を押すメープルシロップのように甘い賛辞の波濤に、もう少し耳を傾けてみようか、という気になった。 言語の吸収が早くて饒舌なダンテのことだから、当人が言う通り、好きなだけ好きなように大和を称賛させた方が、大和が求める罵倒も早くこなれてくるに違いない・・・・・・たぶん、きっと。 |