白いカトレアの暴威 ―5―
二百周年の記念の祭りだったはずの神社は、まさに天変地異としか言いようのない有様をさらしていた。 石鳥居は崩れ落ち、池も壊れ、本殿は壊れこそしなかったが、よく見ればあちこちの木材が腐っている。石畳もひび割れが目立ち、境内の樹木は何本か折れていた。 対外的には、局地的な低気圧による落雷、と説明された。多くの参拝客が一斉に意識不明になったのも、急激な気圧変化か感電によるものだろうと片付けられた。 事情を知っている者たちからすれば、天変地異で無理やり納得させるしかないし、またその程度の被害で良かったと、胸を撫で下ろすしかない。 「落雷じゃ木は腐らないよね。焦げちゃうし」 「・・・・・・まあな」 その天変地異を起こした元凶は、センの目の前でお気楽にアップルパイをつついている。オミについても、各地の神社を包括する偉い人たちから困った目つきで訊ねられたのだが、そもそも刀匠たちを追い出してオミを呼び込むきっかけを作ったのが神社側なので、強くは言えないようだ。橋姫を撃退したのがセンであり、ただでさえ一級品の刀に名刀と言って差し支えない曰が付き、それが奉納されるとあっては、口を拭わないわけにはいかないだろう。 大泉橋神社の宮司である榛原からは平謝りされたし、加納の執り成しで職人たちとの和解が成立し、榎枝の刀は無事、神社に奉納された。巻き込まれた波多野と牧戸も、精神が若いのか、すごいことを体験したと笑い話にしてくれたので、センも申し訳ないという気持ちが少し和らいだ。 取り憑かれていた神主は正気を取り戻して、いまは療養中だそうだ。もともと出来は良かったのだが、同じトップクラスの同期たちとの差に悩んでいたようで、そこを橋姫に付け込まれたのだろう。 (トラウマにならなきゃいいけどな・・・・・・) そこそこ本気モードな姿のオミに迫られるのを目撃してしまった身としては、センはエリート神主に同情せざるを得ない。EDになってないだろうな、とか、逆に変な性嗜好に目覚めていないといいな、とか、ちょっとだけ心配になる。 「どうしたの?」 「ん?いや・・・・・・」 センの前に置いてあるアップルパイの減りが少ないので、オミは具合が悪いのかと心配しているのだろう。 「あんまり、腹減ってなくてな。食べかけだけど、俺の分も食べてくれるか?」 「うん」 オミが自分の空になった皿を脇に寄せたので、センは一口大にしたパイをフォークに突き刺した。 「はい、あーん」 「ぇあ・・・・・・あ、あーん!」 ぱくっとフォークに喰いついた、柔らかそうなバラ色の唇。 「っ・・・・・・」 「む?センちゃん!?」 フォークを取り落とし、うずくまるように震えだしたセンに、オミは慌ててセンを支えようとした。 「・・・・・・っ、触るな!」 「!?」 震えを押さえようと荒い呼吸を繰り返し、センは絞り出すように繰り返した。 「悪い・・・・・・だいじょうぶ。さわるな・・・・・・」 「でも、それ・・・・・・あ!まさか!」 今度は制止する前にオミに触れられ、センはかすれた悲鳴をあげて仰け反った。ビリビリと電気でも流れたような痛みが走り過ぎた後に疼くような熱が湧きだし、硬く立ち上がった男根の先が濡れているのがわかる。 「ぁ・・・・・・!あ・・・・・・ぁッ!」 「まずい・・・・・・!!」 かなり筋肉質なはずのセンを、オミは軽々と抱き上げて寝室に直行した。ベッドに優しく降ろされるも、さっさと着衣をはぎとられ、センはオミを力なく睨んだ。 「ごめんね、センちゃん。でも、これはまずい。早くしないと・・・・・・!」 珍しく焦りに顔色を失ったオミが、センに覆いかぶさってくる。 「イッ・・・・・・!ァ・・・・・・ア、はぁっ!・・・・・・ぁヒァぁああ・・・・・・ッ!!」 オミに触られるたびに、甘い快感と重い熱が全身を貫き、痺れと目眩で火花が散っているような頭では、もはや正常な思考など繰りようがない。胸が言うことを聞かない苦しい呼吸と、かすむ視界のむこうで、オミの申し訳なさそうな声が、遠く近く聞こえる。 「ひっ・・・・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・」 「あの姿の僕に触ったせいだよ。少しずつ慣らすつもりだったのに・・・・・・。僕の魔力に当たりすぎて、センちゃんの体がオーバーヒートしちゃったんだ・・・・・・ごめんね、すぐに『平気なように』するから・・・・・・」 「ッ・・・・・・!!」 白く長い指が胸を撫でていき、痛いほど勃起した乳首に濡れた柔らかな感触が吸い付いてくる。温かな舌で嬲られると、喉の奥で詰めていた息が情けない悲鳴になってこぼれ出ていく。 「大丈夫だよ、センちゃん。気持ちいいのを怖がらないで。苦しいのを無くすだけだから」 優しい声で噛んで含むように諭され、きつく閉じていた目を開けると、すぐそばに輝くような美貌があった。とろりと潤んだ穏やかなライトブラウンの目が、センを見下ろしている。滑らかな肌やバラ色の唇から、甘い蜂蜜のような香りが漂ってきて、すらりと高い鼻がくっつきそうだ。 いつもと変わらないけれど、野放図に快楽を求めるいつもの色香とは違う・・・・・・恐らく、本来の『色欲』としてのオミが、そこにいた。 「はぁっ・・・・・・オミ・・・・・・オミ・・・・・・」 「うん」 まるで純真無垢な花がほころぶような笑みに、体が言うことを聞かない恐怖心が薄れて力が抜ける。軽い口付けひとつで胸の中が温まり、首筋をぬるりと舌が這っていくと、遠慮のない快感の声が出た。 「あっ・・・・・・ぁ、はあぁっ!」 「こんなにカチカチにして、苦しそう」 「ヒッ!?」 するり指が巻き付いてきたのを感じた時には、もう達してしまった。腰から背中がしびれて硬直しているのに、たらたらとだらしなく出続けている感覚は嫌にはっきりしている。 「――――ッ!!ァ、ッ―――!」 「息して、センちゃん。ほら、吐いてぇ、吸ってぇ・・・・・・」 「ヒぐッ!?だ、からっ!!ッ・・・・・・さ、わるなっ・・・・・・!!」 緩やかにセンの男根を扱く手は、センが吐き出した精液を舐めとるように丁寧に動きまわる。解放の余韻に頭の芯がしびれているにもかかわらず、すぐに次の射精がくる感覚に、センは悲鳴を上げた。 「やめっ・・・・・・イ、くっ!また・・・・・・ぁッ!!」 「いいんだよ。僕がついてるから、怖くないよ?」 激しく喘ぐセンの唇に、オミは自分の唇がちゅっと触れさせると、一瞬で全裸になって、センの高ぶりの上に腰を下ろした。 「ィッ・・・・・・!!」 「っはぁっん」 お互いの熱が溶けあってしまいそうなほど温かな中に、ずぶずぶと潜り込んでいく。オミの中はいつも通り凹凸がよく潤って柔らかくセンを受け入れ、全部が埋まって逆に引き抜こうとすると、きゅうと吸い付くようによく締まった。 「や、ぁ・・・・・・ああぁッ!!」 ほとんど入れただけで、止めようのない二回目の絶頂を迎え、センは視界を覆うように飛ぶ白い火花の向こうに、自分の涙交じりの喘ぎ声を遠くに聞いた。 「ふぁぁ・・・・・・ん、その調子。少しは苦しいの治まってきた?」 うっとりと舌なめずりをするオミに見下されながら、言われてみれば、痺れるような苦痛は少なくなっていた。しかし、激しい呼吸と動悸は治まらないし、溶岩のようにドロドロした熱く乾いた性欲は強くなる一方だ。 「はっ・・・・・・はぁっ・・・・・・まだ・・・・・・まだ、欲しい。・・・・・・オミが、欲しい」 白い肩を抱いて体を入れ替えると、センはオミの脚を抱えて、ぐいと腰を押し進めた。出したばかりの精液をオミの奥でかき回すように、優しくも容赦なく快感を導く肉襞の中を、硬く力を失わない男根で突いていく。組み敷いたオミを抱きしめながら、ぱちゅぱちゅと肉がぶつかり合う卑猥な音と自分たちの激しい息遣いだけが耳に届いた。 「はっ・・・・・・はっ、んっ・・・・・・」 「あっ!はぁっ!はげし、すぎ・・・・・・!ふぁあっ!しょこ・・・・・・おくっ!おくまでっ・・・・・・ぁあんっ!」 ただただ、セン自身だけの快楽だけを求めた動きだったが、オミはいつも通り艶やかに喉をそらせて甘い声で快感を訴えた。 「はっ・・・・・・ぁ、はっ、はっ・・・・・・オミ、オミ・・・・・・!」 「んっ、センちゃん・・・・・・ありがとう、『 じゅくりと濡れた唇同士がくっつき、舌が深く絡み合う。オミに抱きしめられたセンの背中が、限界を訴えて震えた。 「あっ・・・・・・オミ、も・・・・・・」 「ぁはぁっ・・・・・・センちゃん、僕とひとつになって」 優美な角を生やし、青黒い文様を浮かび上がらせたオミに包み込まれることに、センは何の恐怖も躊躇いも感じなかった。紺青色の触手がセンの四肢に絡みつくのはいつものことだったが、今日は逞しく引き締まっているが無防備な臀部に這い寄るものに意志を感じて驚いた。 「え・・・・・・あっ、お、いッ!?」 「あはぁ。大丈夫だよ」 快楽から覚めそうなセンの顔を、オミはすかさず抱き寄せて、むちゅっと唇を塞ぐ。 「んんーッ!?っは、ま、てっ・・・・・・ッ!」 「ふふっ、痛くなんてないでしょ?」 ちゅるりと潜り込んでくる細い触手は次々に数を増やし、センが驚いている間に、きつかった窄まりを内側から押し広げていく。たっぷりの粘液のおかげで擦れる痛さはなかったが、反射的に締めようとする体を嘲笑うように動かれると、力が入らずに情けなくオミに縋りついた。 「よ、せっ・・・・・・きたな・・・・・・」 「もう、僕を誰だと思ってんの。へーきへーき」 「へい、ひぁ・・・・・・ぅあ、あっ、はっ・・・・・・んんっ」 「ここ弄られるの、初めてでしょ?センちゃん上手だよ」 オミの触手が何本入り込んでいるのかわからなかったが、それらは好き勝手に動いてセンの中をぐちゅぐちゅと拓いていく。 「あっ、あ、やっ、め・・・・・・んっ!ぅア・・・・・・はっ、ひっぃああッ!」 ぐいぐいと押されたところがよかったのか、イきそうなまま中途半端だったセンは、腰を震わせて不定形な物体に埋もれたオミの中に射精した。 「うふふふ・・・・・・気持ちよかったね?センちゃんの可愛い声が聞けた」 「はぁっ、はぁー・・・・・・お前と、違うんだ・・・・・・。おっさんの声が可愛いもんか」 「照れなくていいのに。今日はその可愛くて美味しい喘ぎ声を、たっぷり聞かせてもらうんだから」 「は?・・・・・・え?」 不穏なセリフを聞いたと思ったセンは、自分の背後で自分の尻を鷲掴みにする謎の存在に、さらに嫌な予感と諦めが自分の中で同時に存在するのを感じた。センの目の前には、ベッドに押し倒した時のままのオミが艶やかに微笑んでいる。 「まダまダ、熱いデショ?」 「センちゃんノはじめテ、イタダキマス♡」 前後から囁かれる甘ったるい声が耳に入り込むと、それだけで、センの精神は蕩けて思考を放棄し、再び身体の奥が熱く滾った。 |