そんな貴方が大好きです
寒さ厳しい二月。 雪がちらつくそんな日でも、センは仕事に出かけていく。ニ十四時間イチャイチャしていたいオミとしては、そんな (自営業なんだから、もうちょっと自分に優しくてもいいと思うんだけどなぁ) とはいえ、「退魔刀鍛冶師をしていてもいい」という条件を自分から出してお付き合いを始めた身としては、文句の言い様もない。ただ、自分とは違って脆弱な人間の体が、寒さのせいで壊れないかと心配するくらいはいいだろう。 世の中はバレンタインデーで浮かれており、淫魔の最高峰 「はぁああ〜〜〜。もぉ、センちゃん早く帰ってきてぇぇ〜〜〜」 そうでないと、家の中がチョコレート菓子で溢れてしまう。キッチンにもダイニングにも、オミが作ったチョコレートがこれでもかと並び、オーブンにはまだフォンダンショコラが焼かれている最中だ。家中が甘い香りに包まれて、オミのアソコも臨戦態勢待ったなし。 あんなことしたい、こんなことしたい、昨夜の優しいプレイも良かったが、一昨日のねっとりしたプレイも良かった。今夜は激しくしてもいいかな、などと、頭の中はえっちなことでいっぱいなオミだが、手元は正確無比に料理を作り続ける。チョコレート菓子の合間に、夕食の準備もぬかりない。センに気持ちよく過ごしてもらうことが、オミが自分に課した至上使命である。衣食住に満足した理性と良識のあるセンを、どろっどろによがらせるのが最高に美味しい・・・・・・という下心が無いわけでもない。 リビングテーブルにチョコレートケーキを中心としたキングダムが出来上がる頃、ようやく玄関のドアが開いた。 「ただい・・・・・・」 「センちゃんおかえりーーーーー!!!!!」 オミはむぎゅうとセンに抱き着いて、抱き着いたまま運ばれる。オミがほとんど浮いているとはいえ、歩きにくかろうセンは文句ひとつ言わない。 「いい匂いだな・・・・・・って、オミ、ここはバレンタイン特設売り場か?」 「全部センちゃんのだよ!!」 「オミの気持ちはありがたいが、一人で食いきれるか。一緒に食べるぞ」 「うん!!」 センちゃんは僕の気持ちがありがたいのかぁとオミはニヤニヤしていたが、センが持っている物に眉間が曇った。 「センちゃん、それなぁに?」 「バレンタインのチョコレートだと」 紙の手提げ袋の中に、ファンシーな包装紙に包まれた小箱たちが三つ四つ見える。 「むぅ〜っ」 「むくれるな。全部仕事関係からの義理だ。・・・・・・あのな、お前がいるのをわかっていて、そういう意味で俺にチョコを渡す奴がいるわけないだろう。オミさんとどうぞ、って渡されたのばっかりだぞ」 センは呆れるが、オミの独占欲は鎮まらない。オミはこの美貌である上にフェロモン駄々洩れであるから、当然モテる。オミが『色欲』だと知っても知らずでも言い寄ってくる輩はいたが、すべてお断りしてきたし、つまみ食いだってしたことはない。もちろん、センへの操だてだ。 「センちゃんには、僕からのチョコだけでいいのに」 「はいはい。じゃあ、これは俺からオミにだ」 「わーい!」 ころっと笑顔になったオミを下ろし、センは防寒具を脱いだ。手袋を外し、少しためらった後、脱いだモッズコートのポケットに手を突っ込んで、なにかをつかみだす。 「オミ」 「なぁに?」 センからもらった市販の高級チョコの箱にニコニコしていたオミは、手を出せと言われて片手を差し出した。 「ちょっと痛かったらすまん」 センによって、オミの手のひらに冷たい金属が落ちてきた。チェーンと、小さなプレートのようだ。たしかに、プレートからチリチリした刺激があったので、センが叩いた地金なのだろう。 「ドッグタグ?僕がしてるのと・・・・・・え?あれ?」 オミはセンに作ってもらったドッグタグを首にかけており、そこには「Companion of SEN」と刻印されている。だが、いまオミに渡されたドッグタグには「Companion of OMI」と刻印されていた。 「もしかして、お揃い・・・・・・?」 「クリスマスの後に気が付いてな。オミがそういうの、好きかと思って・・・・・・」 照れ臭そうに頭を掻くセンは、わざわざ自分用に作ったのだろう。それをオミに渡したということは・・・・・・。 「僕が、センちゃんに付けていいの?」 センがこくんと頷いた瞬間、オミの視界がすとんと低くなった。 「おっ、おいっ、大丈夫か!?」 腰が抜けてぺったりと床に座り込んでしまったオミに、センは慌てて支えようと手を伸ばしてくる。種族が違うどころか、捕食者と被捕食者という関係ですらあるのに、こうやってさり気なく優しくしてくれるだけでも、たまらなく心地よくて好きだというのに。 「ふぇ・・・・・・ふぇえええええん」 「なっ、何で泣くんだ!?やっぱり痛かったか?」 「ひぃぃん、っ、違うのぉぉ・・・・・・嬉しいぃぃぃ」 「ええええ?」 お揃いを作って、それを自分で付けずにオミに付けてもらおうという、その甘ったるい気遣いが、自分を本当に信頼してくれていると感じて、オミにはなにかをプレゼントされるよりも、ずっと嬉しかった。 「僕とセンちゃん結婚してたぁぁぁぁ」 「はぁ?どこからそういう発想・・・・・・あ」 センが作った金属はオミをわずかでも傷付けるから、常に肌に接するペアリングをつけることは適わないが、これはこれで指輪の交換に近いと言えなくもない。 「うぅっ、ぅえええええん・・・・・・センちゃぁあああああん」 「はいはい」 「好きぃぃぃっ、だいすきいいいぃ」 「そうだな、俺もオミが大好きだ・・・・・・で、それを付けてくれないのか?」 「つけるぅ」 オミは涙をぬぐいながらボールチェーンを繰り、センの逞しい首に、お揃いのドッグタグをかけた。 「ううぅっ」 「わかったわかった、嬉しいのはわかったから、もう泣くな」 「だって、センちゃんがぁぁ・・・・・・かっこよすぎるうぅっ」 「あぁ、まったく・・・・・・困った罪源様だな」 プレートを作っている途中は、俺はなにを年甲斐もなく・・・・・・などと思っていたセンだが、これだけ喜んでもらったので悪い気はしない。恥ずかしがらずにやって良かったと、ひそかに胸を撫で下ろした。 「さあ、オミが作った夕飯を食べたら、オミが作ってくれたチョコレートを食べるぞ」 「うんっ!その後は僕がセンちゃんを食べる!」 「・・・・・・お手柔らかにな」 恋人の祭典というスペシャルデーに、その希望はあんまり叶えられないなぁと、オミは涙が引っ込んできた笑顔でセンの頬に口付けた。 |