瑠璃雛菊の困惑 ―5―
ぱんぱんと自分の尻が音を立てるたびに、誰も入れたことのない奥にまで楔を感じ、オミは必死に自分の力の手綱を握りしめた。 「あっ!あぁっ!らめっ・・・・・・そ、ぁあっ!!おく!あっ!おく、らめぇっ!!」 「そんな、気持ちよさそうに煽るな。・・・・・・っは、あ・・・・・・きゅんきゅん、しめやがって・・・・・・ッ」 「アッ、ァアア!や、やめ・・・・・・!ヒギッ!?そ、こ、や・・・・・・ぁあああっ!あっ!ぁひっ!イっちゃう!イィッ!イく・・・・・・ッ!!」 抱え上げられた脚に青黒い文様が走り、オミは同じように文様の浮き出た手でシーツを握りしめた。気持ちいいのは仕方がないが、センを傷つけるのは絶対に嫌だ。 それなのに、センは欲情しているのに優しい眼差しでオミに覆いかぶさってくる。あそこが繋がったままオミの体は柔らかくセンに応え、奥の気持ちいい場所をコツコツと突かれる快感に酔いしれた。 「ア、アアアッ!!」 「オミ、番の精液、残さず飲めよ?」 柔らかな低い囁き声と、ちゅっ、と頬に感じた柔らかな感触に気を散らされた瞬間、どぴゅどぴゅと腹の中に注がれてくる甘露に抵抗などできなかった。 「ぅ、あぁ・・・・・・は、ぁああああッ!!!」 自分の中のすべてが排出され、自分の隅々までセンで満たされていくような、それは温かく、無慈悲な幸福感。 「セン、ちゃ・・・・・・ぁああ!!」 流れるほどあることすら知らなかった涙を、目の端で舐めとられ、オミは思わずセンにしがみついた。終わることがない様な快感と、滔々と溢れ出す思慕と、大事に思われていると確信させる温もりが、淫魔という自分のアイデンティティを軽々と覆すように渦巻いていく。 「センちゃ・・・・・・、すき。だいすき・・・・・・っ」 番になれる人間が、必ず番になるわけではない。双方が納得しなければ、それはただの捕食者と獲物だ。それは知っていた。 だが、こんなにせつなくて温かな気持ちになるのが番だとは、オミは知らなかった。 (ちがう。センちゃんだから・・・・・・センちゃんだけだから・・・・・・!) 色情とは一線を画す、この狂おしいほどの情熱を、なんと言えばいいのか。 「センちゃんだけ、すきぃ。センちゃぁ・・・・・・ん」 「・・・・・・そんな顔で好き好き言われたら、一発で終われないだろ」 「はあんっ、嬉しいっ・・・・・・もっとぉ!」 自分の腹に埋まっている物の大きさが、ちっとも萎えないことに、オミは淫蕩な笑みを浮かべた。 両手でセンの頭を抱え込むように、髭に囲まれた唇に口づけすると、最初の日の様に簡単に舌を許してくれる。普通の人間相手ならオミから技巧を凝らしてやるのだが、センが相手ならば任せるだけで、簡単にめまいがするような気持ち良さが味わえた。 上顎や下の裏側まで愛撫していくセンの舌に、うっとりと酔いしれていると、小鳥にえさを与える親鳥のくちばしはふいに糸を引いて離れ、オミの額に柔らかな感触がちゅっと吸い付いた。 「っ〜〜〜!!」 「ッく・・・・・・ぅ!おい、そんなに・・・・・・。動けないだろうが」 「だ、だって!だって、センちゃんが悪いんだよ!?しょんな・・・・・・、こと、されて・・・・・・!!」 火を噴きそうなほど顔が熱く、オミは「はわわわ」と顔を隠すように、センの逞しい肩に抱き着いた。胸がどきどきと激しく跳ね、息をするのも苦しい。 「・・・・・・嫌だったか?」 「い、嫌くないっ!嫌くないけどっ、ぼぼぼ僕、ど・・・・・・どうしたらいいのかっ」 「そんなに恥ずかしがることか。ここまでガチセックスしておいて」 「だって、僕センちゃんが初めてなんだよ!?こんなに好きな気持ちになるのも、こうやって入れさせてあげるのも!!」 「・・・・・・・・・・・・」 「なんで黙るの!?」 「天然の破壊力に打ちのめされているところだ」 「は、はぇ?」 「煽った責任は取れよ」 「よくわかんないけど・・・・・・もっとしていいよ?」 にへっと顔を緩ませたオミの頭を、センの大きな手が撫でていく。温かなセンの指先が、亜麻色の髪に隠れた角の付け根に触れ、オミは「ん」と眉間をこわばらせた。 「わるい。ここはダメだな?」 「ううん。・・・・・・やさしく、してくれれば・・・・・・」 「意外とマゾか」 「なんでそーなるの。センちゃんだからオッケーなの」 オミは少しむくれたが、センの唇はくすくすと笑いの吐息を漏らしながら、オミのこめかみに触れ、頬から首筋へと降りて行った。 「ァ・・・・・・あっ、あぁっ!」 角への愛撫は遠慮したらしく、センの温かい手は文様が浮き出たオミの体を撫で、背中を包むようにきゅっと抱きしめてくれる。オミもセンに抱き着いたままなので、二人の腹に挟まれた『色欲』の象徴が擦れて、オミはふるりと震えた。 「んっ・・・・・・ぁ、はッ!」 それは人間らしく服を着て取り繕っていた時の数倍は大きく、成人女性の肘から先にも匹敵しそうだ。およそ、人間の体での性交に適したサイズには思えない。オミ自身が吐き出した白濁で濡れ、二人の腹の間に糸をかけるそれはまさしく異形だったが、センはたいして気に留めていないようだった。 「スケベな体だな。こんなにデカくちゃ、擦ってくださいって言ってるようなもんだろ」 「ふぁッ!そ、んな・・・・・・うごいちゃ・・・・・・っ、ぁああっ!!」 オミは体を離そうともがいたが、バランスを崩してセンの体に両脚を絡ませ、余計に腰を密着させる格好になった。本当に『色欲』の魔物なのか疑わしくなるほど、不器用に自分の腕の中でじたばたしているオミの額に、センはもう一度口付けた。 「うぅぅっ・・・・・・!!センちゃんは、本当に僕が怖くないの!?」 「はぁ?全然」 何を言っているんだと見下してくるセンの逞しい腕に頬を寄せながら、オミはしゅんとなった表情のまま触手を伸ばした。その体から無数に生えた暗い紺青色の繊手も、オミの腕も、脚も、ずるずると形を崩しながらセンの体に絡みついて覆っていく。 「僕は、こんなに・・・・・・人間っぽくないのに?」 「オミが人間じゃないなんて、最初からわかっていることだろ。そんなことより、俺はオミを満足させたいと思うが?」 それが番として当然の心理なのか、それともセンがオミに対して好意を抱いての心情なのかは、オミにもわからない。オミが想っているほど、センはオミのことを想っていないかもしれない。 (でも、嫌がられては、いない) 恐る恐るセンを包み込むと、熱を帯びた吐息が返される。こつんと額が当たり、頬にちくちくと髭が当たる。 「もっと、食べていいんだぞ?・・・・・・俺は、もっとオミの中に出したい」 「ん・・・・・・うんっ、ぁ・・・・・・はぁっ」 緩やかに動きを再開した色情に、オミはくすぐられるように背をしならせて、とぷんとセンを呑み込んだ。 互いに励起しあう欲情に身をくねらせ、擦れ合う直接的な快感に喘ぐ。とろりと融けたセンの理性の奥から、オミの大好きなキャンディバーが剥き出しになって、夢中になってむしゃぶりつくほど、腕の中で筋肉質な背が震えた。 「ぁアッ、アッ・・・・・・ん、きもちいぃ・・・・・・!センちゃんも、僕でっ、きもちい、ぃっ?そこッ!ソコ、ごりゅごりゅしちゃ・・・・・・ッ!ぁああっ!!」 「・・・・・・っ、はぁっ・・・・・・ぁ、オミ・・・・・・お、み・・・・・・ッ」 「しゅ、ごぃ・・・・・・!じゅぼじゅぼこちゅこちゅ、くるの・・・・・・ッ!ヒッ!もぉっ、むりっ・・・・・・でちゃう!ぼくでちゃう!せんちゃ・・・・・・せんちゃ、ぁアアッ!」 「はぁっ、オミの中に・・・・・・ンッ・・・・・・!!」 「アアッ!ぼく・・・・・・の、なかッ!なか、しゅごい!イく!イってるぅッ!!」 トプトプと注がれてくる濃厚なミルクを吸い込むように飲み干すと、歓喜に震える胎の中から爪の先までしっとりと潤うような気がした。 「ふあ、ぁ・・・・・・おいしい・・・・・・」 オミは快楽に蕩けた頭のままで、唾液が滴る唇を長い舌で拭った。 寝室に籠るすべての精気を吸い取り、美しい人間の擬態を取り戻したオミは満足して微笑んだ。腹も心も満たされて、これ以上ないほど幸せな気分だ。 「ねえ、センちゃん」 「・・・・・・なんだ?」 死なない程度に絞れるだけ搾り取られて、さすがに疲れたのか、眠そうに瞼を持ち上げるセンに、オミは顔中にキスをしながら強請った。 「センちゃんが打った金属、なんでもいいから一個ちょうだい」 「・・・・・・え?」 不可解なことを聞いたように、センは眉間にしわを寄せる。 「そんな物持ってどうする。ただの鋼だとしても、俺が鍛錬をした物じゃ、オミを傷つけないか?」 「大丈夫じゃないかな。退魔アイテムとして完成したものでないなら、直接触らなければ、かぶれもしないと思うよ」 「・・・・・・そういうものか」 センは自分の力量にちょっと自信を失いかけたように見えたが、オミが「センが手作りした物」が欲しいと催促すると了解してくれた。 「仕上げが市販品よりも荒くていいなら、ドッグタグでも作ってやる」 「やったぁ!ありがとう!」 抱き着くオミを撫でながら眠ったセンは、約束どおり、一週間後にはステンレス鋼のプレートを完成させ、なるべくオミの肌を焼かないように、市販のサイレンサーとボールチェーンを付けたドッグタグにしてオミにくれた。 チタンを加工できればなぁ、などとセンは呟いていたが、薄くとも硬いプレートに、オミの名前と「Companion of SEN」と刻まれているのを見て、オミは失神しそうだった。 「ありがとう!大事にするね!」 タグを包んだ手のひらが少々荒れたが、オミはセンに降りてこいと言われるまで、火照った身体を抱きしめて空中を漂っていた。 「退魔刀鍛冶師の俺が、魔物の番か・・・・・・変なことになったもんだ」 「センちゃんは、僕と番なの嫌?」 「まさか」 即答したことに、セン自身が少し驚いた顔をしたが、恥ずかしそうに頬を染めてオミを見上げてきた。 「オミといるのは、なんだか気持ちいいな」 「うんうん!そうでしょう!」 オミはセンの逞しい肩にむぎゅっと抱き着き、まだ熱を持っている頬に口付けた。 オミは大好きという気持ちが溢れて、他のことなどどうでもよかった。センが自分を受け入れてくれたことだけで、すべてが許されたように錯覚したとしても、若い『色欲』には無理なからぬことだっただろう。 |