Sugar Days−2−


「ふぅん。こう見てみると、だいぶ逞しくなってきたんだな」
 サンダルフォンがまじまじと、上半身裸になったマルコとサカキを見比べている。
「・・・そうだな。最初に見たときは、本当に子供だったが」
「え・・・あの・・・・・・」
 サンダルフォンに加えてサカキにまでじろじろと見られて、マルコは恥ずかしくてうつむいた。
 専用に大きな寝台を設えた部屋は、窓にレースのカーテンが引かれ、若い肢体に明るい光を柔らかく浴びせていた。
 わずかな傷すら回避するために、身体は俊敏な動きを要求されて引き締まった。名工が手がけて過剰精錬された超強いスタナーを振り回す腕は、筋肉の束がうっすらと浮き上がって見えるほどには太くなった。
「まぁ、まだサカキには及ばないがな〜」
「早々追いつかれても・・・」
 からからと笑うサンダルフォンは、魔術師や弓手たちの盾をするようなタイプではなく、どちらかと言うと騎士や暗殺者など、大勢の前衛を後ろから切れ目なくサポートするのに向いた体作りをしていたが、それでもマルコよりは完成した大人の肉体をしている。前衛の、それも転生間近というサカキは言わずもがな。
 マルコに武器防具の扱いや、効果的な敵の倒し方を教えたのはクラスターだが、攻撃の避け方やソロの立ち回りを教えたのはサカキだ。あせらず、慎重に、ゆっくりでも確実な方法の良さを懇々とマルコに諭し、決して大柄ではない、古傷に覆われたサカキの身体が説得力をもたせた。それは、白くて滑らかな肌に、目立った傷跡もないマルコの代わりに経験したとも言える戦歴だ。
「身長は、もうすぐ追い抜かれるだろうけどな。転生したら、ずっと見上げて過ごさねばならん」
「剥けてないサカキを見るのが今から楽しみだ」
「絶対に見せてやらん。変態め」
 くすくす笑うサンダルフォンに唸りながら、サカキはマルコをぎゅっと抱きしめた。サカキの温もりに、マルコの胸はドキドキとせわしなく高鳴った。
「転生したガキの俺を、サンダルフォンから守ってくれ。頼むぞ、マルコ?」
 こつんと額をくっつけて囁く、琥珀色の眼差しに吸い込まれそうになりながら、マルコは喘ぐように頷いた。
「はい・・・」
「マルコはいい子だ」
 ちゅっとサカキの唇が、マルコの頬に吸い付いた。そのまま顎に指先がかかって、大人しく顔を上げたマルコは、幸せな気分で目を閉じた。
「んっ・・・は、ぁ・・・」
 柔らかくついばまれていた唇を舐められて、口を開けば、焦れて差し出した舌の裏側をくすぐっていく。絡め取るように吸われると、気持ちがよくて、膝が震えた。
「やっぱりサカキが相手だと、マルコの顔が違うなぁ」
「そうか?」
「私が言うのもなんだが、困るぐらいにエロい」
「そのおかげで不能が治ったんだろうが」
「それを言われると、ぐぅの音も出ない。だいたい、最初の相手がサカキだったせいで、その辺の奴じゃ満足できないそうだぞ?」
「サンダルフォン!」
 真っ赤になるマルコを、サカキはひょいと抱き上げてベッドに座った。
「あ・・・」
「煽るな、サンダルフォン。俺の我慢がきかない」
「なかなか自分が思ったことを話さない、マルコの口を割らせる私の苦労も考えてくれ」
「あんたのは羞恥プレイと紙一重だ」
「そうとも言うな」
 否定しないサンダルフォンは、法衣を着たまま椅子に座って、にこにこと頬杖をついている。
「さ、しばらくサカキにかまってもらえないんだ。いっぱいわがまま言っておけよ?」
「ぇ、あ・・・さ、最後まで・・・っ」
 思わず口走ったが、あまりにも短すぎて、怪訝な表情で見下ろしてきたサカキのまなざしが説明を求めている。マルコは法衣のトラウザーズを握り締め、真っ赤になった顔をうつむかせたまま、勇気を振り絞った。
「ぁ、あの・・・最後、まで・・・正気のまま・・・血は、なしで・・・」
「いいのか?」
 意外そうなサカキの声に、マルコはこっくりと、大きく頷いた。
 血の臭いに酔った発情状態の方が、強い快楽を得られると同時に、すっかり性欲を吐き出す事ができる。だが、どうしてもマルコの自我が飛んでしまう事が多く、そのせいで相手にいらぬ怪我をさせる事がほとんどだ。
「さ、いご、まで・・・サカキさん・・・感じ、ていたい・・・から・・・」
 終わりの方は聞き取りにくいほど小さくなってしまったが、言いたいことはきちんと言えたと、マルコは心の中で自分に二重丸をあげた。相手の顔を見て言えれば、花丸なのだが。
「・・・こういうのは、羞恥プレイと言わないのか?」
「黙れ。今俺は、激しく感動していると同時に、なぜあんたの従兄弟なのにマルコがこんなに可愛いのか、その深遠なる疑問について、神の気まぐれを疑っているところだ」
 無粋なことを言うなとサカキが唸ると、サンダルフォンも可愛く育てたのは私だと言い返す。
 二人はまったく仲がいいと、マルコは思う。
「あの・・・じゃあ、二人とも・・・」
「「はぁっ?」」
 同時に向けられた唖然とした視線に、なにかおかしなことを言っただろうかと、マルコは小さく首をかしげた。マルコは友人同士の二人が好きだし、サンダルフォンのこともサカキのことも、それぞれ好きだ。二人が自分のことを愛してくれているのはわかるし、それをとても嬉しいと思っている。
「ふむ、それもありか!」
「ありなのか・・・」
「最初から最後まで3Pって、今までなかったな」
「まぁ・・・あんたは見ているだけの事が多いし、マルコは途中でトリップしちまうからな。・・・それにしても、覚えていたのか?」
「???」
 何のことだかわからずにマルコが首を傾げると、サンダルフォンがからからと笑い出した。
「素だ。これは素のおねだりだ」
「はぁ・・・」
 サカキにため息をつかせて、何か困らせたのかとマルコは不安になったが、額に降ってきたキスに大丈夫だと安堵した。
「・・・マルコの身体が心配だ。今日明日動けないぞ?」
「え・・・?」
 広げた脚の両膝を、ひょいとサカキの膝に掛けられて、マルコは赤面した。開いた膝の間に立ったサンダルフォンに、無防備どころか、ちょっと恥ずかしい姿をさらしている。いつの間にか両手はサカキに押さえられて、身動きすらできない。
「マルコのおねだりだ。最後まで付き合えよ?」
「ぁ・・・」
 耳元で囁かれた低い声に、ぞくりと首をそらせると、サンダルフォンに優しく頬を包まれた。
「さぁ、マルコ。私に雄を取り戻させた声を聞かせてくれ」
 サンダルフォンの上品なキスに目を伏せると、頬を撫でるように髪を払われ、期待に火照る顔を見られる羞恥に、普段は感じることのない快感が、肌を滑っていく。
「ぅ・・・、ぁ・・・はぁっ・・・」
 瞼を舐められて顔を上向かせたまま、サンダルフォンの指先が首筋を伝って、肩から浮き出た鎖骨を撫でていくのを感じる。サカキに腕を絡めとられて身動きができずに震える白い胸は、触られる前から先端を尖らせていた。
「あっ・・・ふ、ぁあっ・・・!」
「こんなに硬くして・・・ここを触られるのが好きか?」
 きゅっと乳首をつままれて、マルコの身体が跳ねた。
「はぅっ!・・・ん、はぁ・・・きもちいい・・・ぁっ!」
「マルコ、サンダルフォンは、好きかどうか聞いているぞ?」
「はひっ・・・ぁう、ん・・・す、きぃ・・・っ」
 くりくりと乳首をいじられたまま、耳から流し込まれる低い快感に、マルコはがくがくと首を縦に振った。
「それなら、指でされるのと、舌でされるのは、どっちがいい?」
 唇が触れそうな距離でサンダルフォンに囁かれ、マルコは喘ぎながら、口づけを求めるように答えた。
「はっ・・・ぁ、りょ・・・ほぉっ・・・あうっ!」
 右側の乳首を強くこねられながら、左側の乳首にくちゅりと濡れた感触が吸い付いて、痺れるような快感が下肢を震えさせた。しかし、いくら身悶えても、しっかりと捕まえられた腕と、閉じられない脚は自由にならない
「ああぁっ!あっ・・・サンダルフォン・・・!」
 ぱんぱんに張り詰めた股間を撫でられて、さすがに涙が出てきた。
「ひ・・・ぁあ・・・っ」
「ずいぶん苦しそうだな。見えるか、サカキ?」
「・・・外してやれよ」
 楽しそうなサンダルフォンに、サカキの呆れたような声がマルコを助けた。