嵐華の春 −3−


 開け放たれた窓からは、湿気の多い、少し臭いのある風が入ってきた。港は遠くて見えないが、街の灯りが水路に反射して、街角の濃い影とキラキラとした光が、幻想的な雰囲気を漂わせている。
 クロムは窓辺の肘掛け椅子に腰かけて、ぬるい春風に頬を撫でられながら、アネッロの夜景を楽しんでいた。ここはアネッロ有数の高級宿であり、敷物やベッドは清潔で、調度も上品だ。今座っている椅子も、背もたれを含めたクッションは分厚く、洒落たデザインの脚も肘掛けも滑らかで、実に良い座り心地だ。
 ジェメリ国に入ってからしばらくして気付いたのだが、この国は本当に「お洒落」なのだ。町の人の服装、街角の設え、料理の皿、すれ違う女の香水、看板の文字、花の束ね方、子供のアクセサリー、仲間と仕事に励む男の仕草・・・・・・。どれをとっても洗練されており、けっしてため息が出るような豪華さや上品さというわけではないのだが、憧れを抱くには十分すぎる華やかさだった。
 ユーインと共にあちこちまわったつもりのクロムだが、アネッロほど、ここまで自分の美意識や、感性を奮わせてくれる町はなかった。各国の上流階級が、こぞってジェメリでの流行やアネッロ発の最新情報を求めるのも頷けた。
(いい街だな・・・・・・)
 男女の笑い声に視線を落とせば、近くの水路をゆっくりと進む、飾り立てられたゴンドラの灯りが見えた。それは橋の下をくぐっていき、すぐに見えなくなってしまったが、クロムに自分も乗ってみたいという欲求を持たせてくれた。普段は自分から何かをしてみたいと思うことが少ないクロムにしては、なかなか珍しいことだ。
「クロム?」
「・・・・・・はい?」
 自分を呼ぶ声にも反応が遅れ、クロムは慌てて窓を閉めて、体の向きを変えた。そこには、優美な模様のグラスと酒の瓶をもったユーインが、苦笑いで立っていた。
「何か面白いものでもあった?」
「あ・・・・・・水路を小舟が通って行ったので。楽しそうな声がしたので、つい」
「ああ、舟遊びもいいね。まだ水は冷たいから、落ちないように気をつけないといけないけど」
 小テーブルに、脚が特徴的なデザインのグラスが置かれ、深い赤色の液体が注がれていく。ガラス細工も葡萄酒も、ジェメリの特産品だ。
「素敵な町ですね」
「うん?まあ、流行の発信地みたいなところだからね」
 ユーインとクロムは花模様のあるワイングラスを傾け、芳醇な香りと熱を臓腑に染み込ませた。深い味わいであるのに、すっきりとした口当たりがお洒落で、やはりジェメリの国柄を表すようだ。
「美味しい」
「うん、エクラワインとは、また趣が違っていいね」
 二人は差し交し、すぐにボトルを一本空けてしまった。でもそれだけで、クロムの浮かれた心は、舌を滑らかにした。
「この町に住んだら、毎日楽しそうです」
「クロムはこういう雰囲気が好きなのか」
「うーん・・・・・・なんというか・・・・・・」
 クロムは医学の勉強や、献身的な仕事に誇りを持っていたし、そういう事に向いた静かな環境が好みだ。だが、アネッロのような華やかさが、けっして嫌いではない。
「ああ、ユーインみたいだからです。明るくて、華やかで、お洒落で・・・・・・一緒にいて、楽しいんです」
 自分の例えが妙に合って満足して、クロムは思わずクスクスと笑った。そんなクロムを、ユーインは困ったように見つめている。
「・・・・・・これは・・・・・・こんな経験は初めてだ」
「ユーイン?」
 席を立ったユーインに抱きしめられ、クロムはグラスを落とさないようにテーブルの中央に寄せた。その間にも、ユーインの腕は、クロムをぎゅっと抱きしめて、力が弱まる様子はない。
「ユーイン、どうしたんですか?」
「・・・・・・アネッロに嫉妬した」
「はい?」
 クロムの頬にユーインの頬が当たっている。そして、ユーインの吐息が、クロムの耳や首筋にかかった。
「クロムが楽しそうにしている理由が、一緒にいる俺じゃなくて、俺みたいなアネッロのせいなんて・・・・・・町に嫉妬したのなんて、初めてだ」
 本当に困ったように言うユーインに、クロムは肩を震わせて、笑いをこらえきれなかった。
「ユ、ユーイン・・・・・・」
「笑うなよ!俺だって自分がおかしいことぐらいわかってる!」
「いえ・・・・・・いいえ・・・・・・」
 クロムはユーインを抱きしめ返し、逞しい肩口に額を押し付けながら首を横に振った。
「愛おしいんです。ただ、それだけです」
「クロム・・・・・・」
 柔らかな唇が押し付けられ、クロムはワインの香りを吸い込みながら、ユーインの口付に応えた。
「・・・・・・はっ、ぁ・・・・・・んっ」
 何度も繰り返す口付に息を弾ませ、舌を絡め取られる快感に体を震わせながら、クロムはユーインの温かい身体にしがみついた。
「たまには、俺にやらせてください」
「積極的だね」
「アネッロのせいだといったら?」
「せめて、ジェメリワインのせいだといってくれ」
 情けなく肩を落とすユーインをベッドに押し倒し、クロムは自分のシャツを脱いでから、ユーインの衣類を緩めにかかった。
 ボタンをはずして首筋や浮き上がった鎖骨に唇を寄せ、温かな胸に手のひらを這わせた。
「ユーイン・・・・・・ユーイン・・・・・・」
 大きな手が発情したクロムの頭を優しく撫でていき、少し尖った形の耳の後ろを指先が刺激する。
「はっ・・・・・・ぁん・・・・・・っ!」
「クロムのこんなにえっちな顔を見られるなら、アネッロにもたまになら来てもいいかなぁ」
「それで、またヤキモチ焼いてください」
「もう!」
 むくれるユーインの下着を緩め、クロムはまだ力のないペニスに頬を寄せた。温かいそれを愛撫すれば、すぐに力強く硬くなることを知っている。
「は・・・・・・んむっ・・・・・・んっ」
「んっ・・・・・・!」
 頬張ったものを舌と唇で扱き、強張る太腿に手のひらを滑らせて、ボトムを剥ぎ取る。どんどん硬く、さらに大きくなるものに歯を立ててしまわぬよう、クロムは角度に気を付けながら深く咥えた。
「んっ、ん!ぐぅ・・・・・・ぅッ!」
「く、ろむ・・・・・・っ!やッ、それ、やばいって・・・・・・!」
 クロムの口の中がユーインでいっぱいになって、喉の粘膜にユーインの柔らかな先端が触れる。舌全体がユーインの大きさを感じて、だらだらと溢れる唾液が止まらない。息苦しいが、頭の中もぼんやりとして気持ちがいい。このまま精液が喉奥にほとばしるかと思うと、クロムは何度も深く頭を振った。
「んんっ・・・・・・ぅぐ、んぅっ・・・・・・!」
「こら・・・・・・っ!出ちゃうってば!」
 今ならできそうな気がして喉の奥までユーインを迎え入れてみたのだが、予想外にユーインの方がクロムの頭を引きはがしてしまった。
「はぁっ、けほっげほっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」
「なんでそんなことするの!苦しいでしょ!?」
「ん・・・・・・」
 苦しいには苦しいが、したかったのだからいいではないかと、クロムは不満だ。
「俺がしたかったんです。気持ちよくなかったですか?」
「よくなくはないっていうか・・・・・・」
「俺も気持ちよかったです」
「う・・・・・・」
「はぁ・・・・・・っ、こんなに大きくなった」
 立派に育って天を突く肉棒を、クロムは愛おしげに手で扱いた。白い指に唾液と先走りが絡み、濡れた音を立てて実に卑猥だ。
「俺のだけ大きくしたって、クロムのあそこが狭かったら入らないよ」
「あっ」
 ユーインに引き寄せられたクロムは、何か冷たくて硬い物にキスをした。
「はい、これも舐めてみよう」
「はむ・・・・・・んっじゅる・・・・・・」
 クロムは言われるがままにそれを咥え、味のない硬い物をしゃぶった。ごつごつとした凹凸はあったが、特別口の中に痛みはない。
「んは・・・・・・な、んですか、これ・・・・・・?」
「ジェメリ特産のガラス細工」
 クロムの唾液に濡れた肉厚な短いガラス棒は、透明度が高く、いくつものくびれがあった。
「まさか・・・・・・」
「うん、そのまさか」
 ユーインは笑顔でクロムの尻に、その丸い先端を押し当てた。
「はっ・・・・・・ぁあああっ!あぁっ!」
 つぷつぷとクロムの中に埋まっていく玩具を、ユーインは時々引っ張りながら、イタズラに動かした。
「ああぁっ!あっ、ユーイン・・・・・・ユーイン!だめ、です・・・・・・!」
「どうして?」
「ひっ!あぁっ!だめ、そんな・・・・・・ぁあああっ!」
 ユーインの動かす玩具に合わせて、クロムの腰がひくひくと跳ねる。ユーインを跨ぐように膝立ちになったクロムの股間では、先のイラマチオでも十分に起った陰茎が、滴をこぼしながら震えていた。
「はっ、はっ、ゆーいん・・・・・・、ゆーいんっ!イっちゃ、う・・・・・・!そこっ、したら・・・・・・ぁああっ奥ぅっ!!」
「ん、全部入った」
 玩具を押し込んだユーインは、両手をベッドについて、下から中腰のクロムを見上げた。
「はい、自分で扱いて、イってみせて」
「あ・・・・・・」
 ユーインの視線は既にクロムのそこに固定され、クロムは快楽よりも羞恥に頬を染めた。
「でも・・・・・・」
「ほら、クロムが自分でしてるところ、俺に見せて」
「は・・・・・・は、い・・・・・・っ」
 クロムはすぐにイってしまいそうな誘惑を奥歯で噛み殺しながら、自分の色付いた陰茎に指を絡ませた。