黒い雷様
プロンテラ中央大通り。 いつもの場所で露天を広げて、愛想良く客の相手をしているハロルド。 その横では、相変わらず不機嫌そうな面持ちで分厚い本を広げたサカキが、細かい文字を追いながら、チョコレートバーらしき物を、もりもりと食べている。 「こんちは」 「こんにちは」 買い物中らしいユーインとクロムに、ハロルドの笑顔が営業用から親しみのこもったものに変わる。 「・・・なに読んでるの?」 学術書かと思ってサカキの手元を覗き込んだユーインは、それが難解だと評判の数学書だと見て取った。 「よくこんな賑やかな場所で読めますね・・・」 「明後日までに読んで返さねばならん」 サカキはページから視線を離さずに、クロムの感嘆に答えると、ミスティックフローズンで冷やされている新しいチョコレートバーの包みを手に取った。 「食べるか?」 「いいんですか?」 「箱買いした」 ぽいぽいとクロムとユーインに包みが放られ、ハロルドの前にもぴこぴこと揺れている。 「あ、俺はいいです」 「ん」 サカキはばりばりと包みを開け、ページを捲りながら、またもりもりと食べる。 その姿を、ややあっけにとられながら見ている二人に、ハロルドは小さな声を苦笑いから零した。 「難しいものを考える時は、これが一番いいんだって」 「なるほど」 やや蒸し暑いこの季節では、持っているうちに溶けてしまうだろう。ユーインもクロムも包みを開け、チョコレートをかじった。 「☆○△×◇!?」 「ん、美味しい!クラッシュクッキーが入っているんですね」 噴出しかけて口を押さえているユーインに、ハロルドからミルクが手渡されているが、クロムはにこにこと食べている。 『すっげー甘いぞ!?』 『俺もちょっと・・・』 そんなwisが交わされているHiWizとBSの隣では、万能味覚なABと、甘党のクリエが意気投合し始めた。 「チョコレートに比べて、ココアクッキーがそんなに甘くないかんじですね」 「そうだな。やや油脂分が気になるが、短期集中の糖分補給にはちょうどいい。・・・ちょっと喉が渇くが」 「(/うんうん)紅茶とか欲しいですね」 「あー・・・ハーブティーならあるぞ」 「いただきます」 優雅に紅茶をもらっている恋人をよそに、ユーインは若干涙目になりながらチョコレートをミルクで流し込み、チョコレートのパッケージをよく見た。 「若い女性に大ヒット」と謳っているが、駄菓子らしくカロリーも脂質も塩分もそこそこあるようだ。 サカキのようにバクバク食べていたら、高血圧とか糖尿病とかにならないだろうか・・・。 『頭のエネルギーに糖分はいいとして、脂質と塩分はどうするんだ。あんなに食べたら体に悪そうだ』 『運動して消費するからいいんだよ』 『あー・・・それもそうだな』 無邪気な笑顔のしたから、歳相応な欲をちらつかせるハロルドに、ユーインも納得した。 「太らないように運動しないとな」 「大丈夫だよ。俺がついてるから」 にしししし・・・といやらしい笑いを、ユーインとハロルドは交わした。 翌日。 「美味しいのに」 「俺がもっと美味いお菓子作るからッ!」 山積みになった黒い塊の箱たちに閉口して、ハロウィンやバレンタインでもないのに、ユーインがお菓子作りに苦心したのは言うまでも無い。 END |