キラキラネーム


料理好き仲間のレヴィーの所に行っていたハロルドだが、帰ってくるなりサカキに見せたのは、レシピでもレヴィーが育てているハーブでもなく、一冊の分厚い本だった。

「ねーねー、サカキさん!アマツ語わかりますか?」
「は・・・?」

ハロルドがカートから取り出して見せたのは、アマツ語の辞典のようだ。
レヴィーと一緒に住んでいる教授、コラーゼの蔵書の一冊だろう。

「まえ、サカキさんの名前をアマツ文字で見せてもらったでしょ?俺のはあります?」

ハロルドは目を輝かせながら辞典を捲っているが、サカキの眉間のしわは深い。

「発音ごとの当て字は出来るだろうが・・・」
「そうなんですか。は・・・はー・・・、ろ・・・・・・」

サカキが表にしてやったアマツ語の並びを頼りに、ハロルドはページを捲り、せっせと白紙にペンを走らせている。

「んー、出来ました!!」

 破炉流怒

「・・・鍛冶屋にしては危険な字面だな」
「えぇっ、そうなんですかΣ(´Д`;)!?」

しゅんとなるハロルドから辞典を引っ張り寄せ、サカキはさらさらと別の字を書いて見せた。

 羽絽瑠堵

「ちょっと雅になったな。しかし読みにくい・・・」

サカキは再びペンを走らせた。

 覇露琉努

「字の意味はいいんだが、アンバランスだな・・・」
「難しすぎて書けません〜」

自分の名前ではアマツ語変換は難しいと思ったのか、再び辞典を引き寄せたハロルドは、知り合いの名前を変換しはじめたようだ。

「クロムさんの字はすぐ出ましたよ」

 黒夢

「・・・ロックな字になったな」
「そうなんですか?」
「あー・・・お前たちの世代じゃわからんか」

ややジェネレーションギャップを感じた様子のサカキを見て、ハロルドはもう一度ペンを走らせた。

 紅露霧

「ああ、その方がいいな」

誤解もないし、クロムのアルビノらしい儚げな美しさもよく表れていると、サカキは頷く。

サカキに褒められて気をよくしたハロルドは、さらに別の人間の名前にもチャレンジするため、再び辞書のページを捲り始めた。

「ユーイン!」

 誘淫

「(´゚ω゚):;*.':;ブッ」
「サカキさん、お茶噴かないでくださいッ!」

ハロルドはテーブルを拭くが、サカキはまだごほごほと咽ている。

「なんですかもぉ・・・。そんなに笑わなくてもいいじゃないですか、ひどいなぁ」
「げほっ、はぁっ・・・わ、笑ったわけじゃ・・・んんっ。他の字にしろ・・・」
「はーい」

ハロルドはさらにいくつかの文字を組み合わせることに成功したようだ。

「雄印、遊院、融音・・・どうしてどれもこれも、イカガワシイものを想像させる字になるんだッ!」
「そ、そんなぁ・・・」

ハロルドにはアマツ文字ひとつひとつの意味などわからず、サカキに呆れられてもどうしようもない。
最終的に、魔法使いらしいということで「悠韻」でおさまったようだが、ハロルドはしみじみとしたサカキの呟きを聞いていた。

「名は体を表すと言うが・・・」

その後、ハロルドはアマツ語辞典をコラーゼに返しに行ったが、コラーゼとレヴィーの名前も、アマツ語にするのは難しかったと伝えておいた。




END