可愛いは正義!!


ノエルがオーランに勉強を教わっていると、チャイムとドアを開ける音が同時にして、次にとたとたと駆けて来る音がした。

「おーい!いるかぁー!」

元気のいい少年の声に、ノエルは顔をほころばせた。

「ファムたんだ。こっちにいるよ!」
「家に上がりこんでからいるかも何もないだろうに・・・」

オーランは綺麗な銀髪を払って、席を立った。
お茶を淹れるためだろう。

「やっほー。ノエル〜、いい子にしてたか〜?」

ダイニングに姿を現したのは、ふんわりとした金髪にやや褐色の肌のアコライトハイ。
ノエルには「ファムたん」と呼ぶよう言っているが、本当はラダファムという名で、元気いっぱいにきらきらと青い目が輝いている美少年だ。

ラダファムにきゅうっと抱きつかれて、ノエルは嬉しくて抱きしめ返した。
ノエルが着ているプリーストの法衣のはだけられた首筋に、ラダファムのくんかくんかという息遣いが当たってくすぐったい。

「うーん、やっぱりノエルはいい匂いだな〜。髪の毛もツヤサラだ〜」
「ファムさん、ヘンタイ臭いことしないでください」
「んだよ、いーじゃねーか」

相変わらずノエルに抱きついているラダファムに、ティーセットを用意したオーランはため息をつく。
オーランは慣れた手つきで三人分の紅茶を淹れていくが、ノエルはウォーロックのひらひらした飾りや鎖が邪魔じゃないのかなと思う。

ノエルはふと、ラダファムのいつもと違う匂いに気がついて、首をかしげた。
ちょっと獣臭いような・・・でも、モンスターの臭いとも違うような。

「ファムたん、どこか行ってきたの?」
「おうっ!良くぞ聞いてくれた。マラン島に行ってきたんだぜ!!」
「マラン島・・・?」

ノエルは少しずつ世の中のことをオーランに教わっていたが、その島の名は初めて耳にする。

「猫だらけの島なんだぜ」
「猫だらけ・・・」

ノエルは、いたるところで猫が香箱を作り、尻尾を立てて闊歩する島を想像したが、マラン島は二本足で歩く猫たちが住んでいて、普通の人間とも言葉が通じるそうだ。

「そこで〜、じゃじゃーん!おにぅ鈍器〜♪ちょーかわいいだろー!!」
「わぁ!可愛い〜!!」

ラダファムが効果音つきで取り出したのは、猫の手を模した可愛いらしい鈍器だ。
茶色の縞々模様の柄に、大きな青いリボンが付いている。
先端はしゃきーんと爪が出ているが、打撃面はぷにぷにしているようだ。

肉球クラブというらしく、これで叩かれてもあんまり痛くなさそうに見えるが、ラダファムの膂力で殴られたら、それなりのダメージが出そうだ。

しかし、オーランは小さく首をかしげた。

「鈍器としてのスペックはそんなに高くないと聞きましたが?」
「チェインの上位互換って所だな」
「その程度じゃ、今ファムさんが持っている鈍器の方が、ずっと強いでしょ」

たしかに、ノエルが狩場で見るラダファムは、フライパンや金槌を振り回している。
しかし、ラダファムはちっちっと指を振り、誇らかに肉球クラブを掲げて見せた。


「可愛いは正義だ!可愛い俺が可愛い武器を持たない理由がどこにある!?」


スポットライトにピンクの花弁が散り、キラキラと輝きながら力説するラダファム。

「ファムたんかっこいい!」
「はいはい・・・」

その姿にノエルはぱちぱちと拍手をするが、オーランはどーでも良さそうにクッキーをかじっている。

「見た目はいくら可愛くても・・・だいたい、ファムさん今年でさんじゅ・・・」


「シャラーップ!!!!」


素晴らしいスイングで振りぬかれた肉球クラブに、オーランはばちこーんと吹っ飛ばされ、ノエルはおろおろと駆け寄った。

「オ、オーラン・・・!大丈夫?」
「いったいじゃないですかっ!」

肉球の形に赤くなった頬を擦るオーランに、ラダファムは全身全霊で叫んだ。


「可愛い俺は永遠の16歳だッ!!それ以上は、認めん!!!」


「ファムたんすごいな!可愛いと歳をとらないんだね。・・・オーランは、歳止まらないの?綺麗だから?」
「ノエル・・・ちょっと違うんだ・・・」

ラダファムの主張に惑わされない正しい知識を与えようとするオーランの苦労が、ノエルには、まだちょっとわからなかった。




END