一緒にいたい夏休み


 サカキとハロルドは、「エルドラド」のギルドイベントに招待されて、海まで遊びに行った。砂浜で飴屋とカキ氷屋を出して、水着姿のエルドラドメンバー相手に商売をし、スイカ割りにも混ぜてもらった。普段は大勢で賑やかに過ごすことのない二人は、夏の一日を大いに楽しんだ。

 日差しの強いビーチに一日中いたおかげで、すっかり疲れてベッドに入ったのに、サカキは悲鳴のようなwisに叩き起こされた。
 起こされたのだが、wisの相手がすぐに交信不能状態に陥ったらしく、ろくに話をしないまま静かになった。
(・・・ったく)
 もさもさと飛び跳ねた、緑色の癖毛をかき回し、サカキはため息をつく。
 ユーインとクロムのカップルには、サカキの予測があまり通用しない。良かれと思ってしたことが裏目に出たり、斜め上を行ってしまったりと、それはそれで見ているだけなら面白いのだが・・・。
 滋養強壮に良いハチの子やマムシ酒などで、ちょっと大人味のカオス飴を作ってみたのだが、これでは夏バテ予防どころか、クロムを寝込ませてしまうにちがいない。
(ちゃんと、どちらがどちらの分か言ったはずなんだが・・・)
 クロムに食べさせようと思っていたものをユーインが食べてしまい、性欲がいつも以上に燃え上がってしまったようだ。
(まぁ、いいか)
 どうせいつもやっていることと、やることは変わらないわけだし・・・と、投げやりに思考を止める。甚大な被害が出なければ、サカキはわりと適当だ。
 蚊取り線香が残り半分ぐらいになっているのを確認すると、サカキは隣で大の字になって寝ているハロルドの脇にもそもそと丸まった。暑苦しくても、ハロルドにぴったりとくっついているのがいい。
 ハロルドはいつもサカキを抱きしめて寝るのだが、いつのまにか上を向いてしまう。暑かろうと寒かろうと、それがハロルドの寝相なので、自然とサカキがハロルドにしがみつくような格好になるのだ。
 あらわになった筋肉質で温かい肢体に触れて、サカキのテンションが上がるが、これがビーチでさらされなくて良かったと思う。他人に見せるなんてもったいない。
 食材にこだわるハロルドは、カキ氷の氷といえども妥協せず、わざわざラヘルの氷ダンジョンから取り寄せ、甘いシロップもお手製だ。売り物とはいえ、レシピはサカキに食べさせるのが前提なので、美味いのは当たり前だ。
「・・・・・・」
 ハロルドは愛想がいいから人が寄ってくるし、出している品も美味いから人気が出る。べつにハロルドに群がる水着姿の女の子たちに嫉妬しているわけではないし、彼女たちに愛想良く振舞うハロルドがそれほどムカつくわけでもないのだが・・・。
(カキ氷が美味いのは俺が食べるからだ!)
 要は、自分以外の人間が、ハロルドが作ったものを食べるのが気に入らないだけだ。自慢というか惚気というか、金を払っている他人にしたらどうでもいいことだが、サカキはちょっと独占欲がじりじりとする。
(・・・売り物は、そんなに美味く作らなくていいんだぞ)
 ぷうと頬を膨らませたいところだが、三十過ぎのおっさんがやっても可愛くない。これから数日間は、露店も休んで、ハロルドを完全に独占することで、一応妥協することにした。
(・・・スイカ割りのナビしている時ぐらい、客を待たせたっていいだろ!)
 やっぱり、ちょっとヤキモチを焼いているようだ。ぷんすことイラ立ったサカキの背中が、窓からそよそよと入ってくる夜風に落ち着くまで、しばらく時間がかかった。

 ハロルドは夜更けに、ふにゃと目を覚ました。
(トイレ・・・)
 昼間にスイカを食べ過ぎたのだろうか。目を擦り、起き上がろうとするが、サカキの腕がしっかりと巻き付いている。
(可愛いなぁ・・・でも、トイレ行かせて)
 寝癖のついていそうなサカキの頭を撫で、ひしっとくっついている腕を解いて手にタオルケットをつかませ、ハロルドはそっとベッドを抜け出した。
 ユーインとクロムに誘われたギルドイベントは、とても楽しかった。カキ氷は良く売れたし、思いっきり叩いたスイカは粉々になっちゃったけど、去年のハロウィンのようなトラブルも無かったし・・・。
 すっきりして戻ってくると、蚊取り線香がもう少しで焚け終わりそうだった。
 そんなに広くないベッドの上で、タオルケットをまきつけただけでほとんど裸のサカキが丸まっている。外ではケープに隠れて、ほとんどあらわになることがない肩や背が、夜闇に白く浮かび上がって、呼吸のたびに規則正しく動いている。この体が自分だけのものだと思うと、自然に顔がにやける。
 今日は海辺ということもあり、薄着な人ばかりでちょっと心配だったのだ。
(目移りされたら悲しいよね〜)
 この場合、女の人は完全に除外していい。サカキは女体になど一ミクロンも興味がないのだから。
 エルドラドのメンバーはプリースト系が多いとはいえ、支援や退魔型だけでなく殴りもいるし、二次職のチェイサーやスナイパー、前衛の騎士もハロルド同じBSもいる。
(自分と比べちゃうよなぁ・・・)
 体作りを怠っているつもりはないが、サカキの好みが好みなので、より魅力的な肉体でありたいと思わずにいられない。
 ベッドを揺らさないようにそっと戻ると、サカキがもそもそと抱きついてきた。
「すみません、起こしましたか」
「・・・?」
 サカキがぽやんと顔を上げたが、半分ぐらい寝ているようで、反応が薄い。そのまま、ハロルドの腕枕に収まると、ハロルドが抜け出す前と同じようにがっちりとホールドしてわき腹にくっつき、目が閉じられた。
「・・・・・・」
 正直暑いのだが、密着したサカキの裸の胸や頬、タオルケット越しに当たる腰なんかが、非常にムラムラしてしまい・・・。
(明日も露店お休みしていいかなぁ)
 昼間から盛って暑いと文句を言われたら、白玉あんみつかフルーツシャーベットでご機嫌を取ろう。
 ハロルドはそう決心して、サカキのすべすべした背中を、きゅっと抱き寄せた。


 清清しい空気が窓から流れ込み、今日も眩しい日差しが気温を上げる直前。
「朝っぱらから盛るな!ヤるのはポイントもらってからにしろ!」
「えぇ〜。どうせたいした物出ませんよぅ」
「知り合いがバリアントシューズ出したんだよ!商人ならバルーンハットぐらいの夢は持っておけ!」
「この前出たウエディングドレスなら・・・」
「いらんッ!!」
 ハロルドの朝から元気な欲望は、時価40Mの夢の前に押さえつけられた。
「うぅ〜」
「・・・帰ってきたらな」
 ハロルドは制服の下で見えない首筋に吸い付いて耳を引っ張られたが、機嫌の良さそうなサカキは、今日も明日も露店を休むと言って、ハロルドの唇にキスをしてくれた。