犬の気持ち


「ぶぇっくしぃっ!!」
 頭から薄手の毛布をかぶったまま、ハロルドは盛大なくしゃみを放った。
「大丈夫か?」
「ずび・・・あい、らいじょう・・・っくしぇっ!」
 服は着替えたものの、冷えた体が温まらない。毛布から這い出して鼻をかむと、サカキから温かい紅茶が差し出された。
「ありがとうございます」
「俺よりMdef低いのに無茶するな」
「えへへ」
 サカキを狙ってユーインが放ったストームガストに、思わず飛び出してしまった。見事に凍ったハロルドだが、サカキが無傷ならそれでいいのだ。ハロルドが凍結から回復したときには、すでに二人を追い出したらしく、部屋にいたのはぷりぷりしているサカキだけだった。
 猫化したクロムの体を調べるためとはいえ、サカキがクロムの敏感なところを見たり触ったりするのは、ハロルドもちょっとどうかと思っていた。でも、いきなり大魔法撃たなくったっていいじゃないかとも思う。サカキが怪我をしたらどうするのだ。
 霜焼けや切り傷になったところに薬を塗ってもらい、サカキ手ずから入れた温かいハーブティーは、ハチ蜜を入れて飲みやすくなっている。
「ごちそうさまでした」
「ん」
 サカキはカップを退けると、ベッドの上で達磨のようになっているハロルドの隣に座り、乾かしたばかりの頭を撫でてくれた。
「えへへ。サカキさぁ〜ん」
「なんだ」
 もふもふと擦り寄ると、なんだと言いながらも、サカキは自分よりでかいハロルドでも、優しく抱きとめてくれる。そして、いつでも撫でてくれる。ハロルドは、それがとても嬉しい。
「サカキさん、大好き」
「そうか」
 ハロルドは優しく撫でてくれるサカキに、ぎゅううっと抱きついて、独占しているのを確認する。
 サカキはクロムの尻尾に触ったのは、純粋に原因や解決法を知りたいという知的欲求からであり、クロムをよがらせたかったわけではない。その証拠に、サカキはこうしてハロルドを撫でてくれるが、クロムを撫でようとはしなかった。
 そう思うと、ハロルドは急に、心が痛くなった。
「ごめんなさい、サカキさん・・・」
「どうした?」
 頭の上から心配そうな声がしたが、ハロルドは顔を上げられない。
「ヤキモチしました」
「・・・なんだそれは。新手の誘い文句か?」
「なんでそうなるんで、す・・・」
 ハロルドが思わず見上げると、そのまま顎をとられて、ちゅっと唇をふさがれた。
「あんまり可愛いことを言うな。尻尾付きのアナルプラグを買ってきたくなる」
「う・・・それ、俺につけろと・・・?」
「他に誰がいる」
 ハロルドもあまり人のことは言えないが、誰かこの変態さんを止めてくださいと心で叫んだ。真面目な顔でこんなことを言う恋人を好きになったのは、ハロルドの責任ではあるのだが。
「ハロルドを撫でていいのは俺だけだ。それでいいんだろ?」
 全部わかって含んでいるような、穏やかなサカキの微笑が、こつんとハロルドの額にくっつき、ハロルドの顔が、にへらっとだらしなくなる。
「はい!」
 そのままベッドの上に押し倒されて、ハロルドは覆いかぶさっている人を見上げた。
「ハロ」
「は、はい?」
「人肌で温めてやる」
 ハロルドは見えない尾を激しく振って、大好きな人を腕の中に抱きしめこんだ。