エニシ −9−


 クロムはしばらく、快楽の放出に伴う気だるさと、初めて男の手でイかされたショックに呆然としていたが、服を脱ぎ捨てたユーインに圧し掛かられ、軽く血の気が引いた。
 自分のものですら恥ずかしいのに、そそりたったユーインの楔が、否応無しに視界に入る。
「ゆ・・・」
「よかった。全然起ってくれなかったら、ホントにどうしようかと思ってたんだ」
 ユーインは苦笑しながら、全裸になったクロムをしっかりと抱きしめる。裸で触れあう体が温かく、ユーインの匂いがして、クロムは少し頬が熱くなった。
「大丈夫?」
 額やこめかみに、柔らかな唇の感触が当たり、クロムは黙って頷く。
「もっと気持ちいいことしよ?」
 耳元で囁かれ、頭の中に流れ込んでくる甘い声にゾクゾクして、クロムはユーインに体を寄せた。
「ぇ・・・あ、ユーイン・・・?」
 クロムの肩や腕をさわさわと撫でていたユーインの手が、するりと絡みついてくる。腕の内側や、わき腹や、腿にも・・・まるで、上等な絹布をまとったかのように、軽く、滑らかで・・・。
「・・・くすぐったい」
「ここも要開発だなぁ」
「なんだ、開発って・・・」
 ユーインはクスクスと声を出さずに笑うが、クロムはなんだかむずむずして困る。
「一応、医者の卵でしょ?自分の性感帯とか知らないの?」
「んなっ・・・知るか!!医者とか関係ないっ!!」
 クロムは赤くなって暴れるが、まだ笑っているユーインに易々と包まれてしまう。
「じゃあ、俺が見つけてあげる」
「いらんっ!そんな・・・っ、く、くすぐったい!!」
 ユーインは「えー」と不満そうな声を出したが、手首の内側や耳の後ろを舐められて、クロムは猫のように身震いした。
「仕方がない、後のお楽しみにとっておこう」
 ユーインは平和そうにのたまうが、クロムは笑い死にさせられやしまいかと心配だ。
「そんなところ、気持ちよくない」
「・・・じゃあ、別のところならいいね」
 ユーインのいつもと微妙に違うが、とても嬉しそうな笑顔に、クロムは墓穴を掘ったことを悟った。
「乳首はさっき、ちゃんと気持ちよかったよね」
「ちょ・・・んっ!はぁっ・・・ぁ!」
 ぴちゃ、とユーインの舌がクロムの胸に這い、再び硬く尖り始めた先端を舐める。
「やっ・・・ぁ、す・・・ぅな・・・ぁっ!」
 温かく湿った唇に挟まれながら吸われ、唾液を擦り付けるように舌で転がされる。また痺れるような疼きがやってきて、クロムは懸命に快感を逃がそうとした。
「はっ・・・ぁ!あ、やだぁ・・・っ!」
 組み敷かれ、シーツをつかんだ腕の内側を、ユーインが撫でていく。くすぐったいのに、胸からの刺激がおかしな風にその感触を拾い、痺れて力が入らない。
 ユーインの唇が唾液まみれで赤く勃起した乳首から離れ、クロムの真っ白な二の腕の内側に吸い付いた。
「っぁああ・・・ぅっ!!」
 間違いようのない快感と同時に、きりっという痛みを感じて頭を動かすと、赤い痕がついていた。
「ユ・・・イン・・・?」
 今まで見たことのない、ユーインの獣のような眼差しに射すくめられたが、さらに戸惑いと恐怖が湧く前に、再び熱を持って起ったところを握りこまれた。
「あぅっ・・・ユーイン!」
「さっきイったばかりなのに、また硬くなって・・・こんなにとろとろにして、可愛いな・・・」
 欲情に濡れた囁きがクロムをおののかせたが、自分が出した物で濡れたユーインの指が、信じられない場所を探りに沈んだほうに身が竦んだ。
「ちょ・・・そんなところ!」
「ちゃんと解して慣らさないとダメだよ?」
 どうして解して慣らさないといけないのか、理由はわかるが受け入れがたい。
「そ・・・んな・・・は、入るかっ!」
 ゆっくりと入ってきた異物感にショックを受け、呼吸が忙しなくなって血の気が引く。
「やだ・・・!ユ、ユーイン・・・!」
「大丈夫、落ち着いて。・・・ひどくしないから」
 ちゅっと頬にキスされたが、クロムは痛みに耐えようとしっかり目を瞑り、性交に使ったことのない窄まりが開かされるのを待った。
「・・・ひやぁっ!?」
 恐怖に萎えていたところが、突然温かい粘膜に触れ、クロムはびっくりして目を開いた。ユーインの赤毛頭が、自分の股間に蹲っている。その唇が、咥えて・・・。
「ユーイン!そんな・・・ぁ、ああ・・・っ!!」
 ぬるりと舌に舐められ、唇に柔らかく吸われ、そちらに快楽の神経が向いた拍子に、後ろに指が入ってくるのを感じた。
「あ・・・あっ・・・!あぁんっ!」
 敏感な先端がユーインの上顎にこすり付けられ、裏側の筋から根元の方まで、ずるずると舌が這っていく。せつなげな温かい吐息と、ぽたぽたと伝っていく唾液が、脚の付け根のあたりに広がっていく。
「ふぁ・・・あ・・・ユーイン、はあぁっ!」
 ユーインの腕に押されるまま、脚を開き、指が入りやすいように腰の角度が変わる。あそこに入っている指が二本に増えて、中をゆっくりと擦られる動きがはっきりとわかって・・・恥ずかしいのに、クロムは感じるまま喘ぐしかできない。
「はあっ・・・あぁっ!だめぇ・・・そ、こぉ・・・!!」
 中にあるその場所を押されるたびに、いままで感じたことがない快感が頭まで貫き、ますますユーインの指を締め付けてしまう。
「や、ぁ・・・っ、ゆー・・・いん!ユーイン・・・!」
「またイっちゃいそう?」
「ひっ・・・」
 ずる、とユーインの指が抜けて行き、クロムはがくがくと頷いた。ユーインにいじられたあそこが、熱くて蕩けそうで・・・もっと欲しい。
「ちょっと、うつ伏せになって。そう、その方が、楽なはずだから」
 力の入らない足腰を動かして、クロムがやっとのことで四つん這いになると、ユーインの両手が、クロムの尻をつかんで開いた。
「やぁ・・・っ!は、ずかし・・・」
「可愛いよ、クロムのここ。・・・ヒクヒクしてる。いま、入れてあげるからね」
 ぴたりとあてがわれた熱に怯える間も無く、引き裂かれるような痛みに、クロムは体をこわばらせた。
「ぁああッ!い、いたい・・・っ!!」
「クロム、ちから抜いて・・・息、吐いて」
 苦しい痛みに涙目になりながらも、クロムは硬い楔の大きさに慣れようと、シーツを握り締めたまま、言われたとおりに息を吐いた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・ぁ」
「そう・・・上手だよ、クロム。俺で、気持ちよくなって」
 熱い囁きがずくんと染込み、クロムの体を貫く楔を締め上げさせた。
「あっ、あぁあああっ・・・!!」
 自ら蠢いて、ユーインの楔を凹凸の隅々まで愛撫し、内側にあるいいところが自然に張り出して、ユーインにこすり付けられるのを感じる。
「んっ・・・く、ぅ・・・っ!」
「あぁっ!ユーイン!・・・ゆーぃ、ぁああ!いいッ!・・・すご、ぃいっ・・・!!」
 初めてなのに、激しく出し入れされて感じている。それを恥ずかしいと思う暇も無く、クロムは腰を振った。
「すごい・・・きつくて、気持ちいい・・・クロムの中、絡みついてくるよ」
 ユーインも気持ちいいんだ・・・そう思うと、余計に腹の中に納まっている熱い楔が愛しくなり、その硬い剛直を快感の導くまま締め上げた。もっと、擦って欲しい・・・。
「あっ・・・はぁあん!ユーイン・・・ユーイン・・・っ!イく・・・!また・・・ぁああっ!でちゃうぅ・・・!!」
「クロム、中に出すよ。・・・はぁっ。俺だけの印、つけてあげる・・・!」
 クロムは自分の激しい息遣いと、下の口がじゅぶじゅぶと貪る音ばかりが響く中で、ぼんやりとユーインの声を聞いた。中に、出す・・・なにを?抱かれて・・・ユーインに、支配されて・・・奥にあたってる・・・硬いのに広げられて・・・ユーインの雄・・・熱くて、白い・・・精液が。
「ああっ!ユーイン!ユーインのぉ・・・!だめ・・・イく!もぉ、ィくぅ・・・っ!!なか、に・・・ぁああああ・・・ッ!!」
 ごりごりと擦られるいいところはそのまま、太くて大きな雄に、ずんと突き上げられたその奥へ、熱いものが迸るのを感じた。そして、快感に押し出され、自らもとめどなく垂れ流しているのも・・・。
「はぁっ・・・あ、あ・・・っ、ゆーいん・・・ッ!」
「俺のクロム・・・」
 外も中もユーインに支配され、自分が自分のものでなくなった・・・それなのに、クロムは不思議と幸せな気分だった。

 紗の天蓋の下で裸のまま抱き合って、ユーインは何度もクロムにキスをしながら、弾んだ声を出す。
「まずはボルデ岬に夕日を見に行こう。あそこは世界の一番端なんだ。それから、パボ・レアル城も案内するよ。大広間の天井にある細工画が素晴らしくて、ハロルドも見たがっていたな」
 ひととおりの武術を習い、諸国を遊学してまわれる体力のあるユーインの腕に抱き寄せられ、クロムはその逞しい温もりに、心がゆったりと和いでいくのを感じた。
「どこの町にも美味しい物がたくさんあるから、食い倒れの旅もおすすめだな。うちの国は荒っぽい祭が多いから、クロムは嫌がるかもしれないけど・・・」
 次第に緩やかになるユーインの声は、優しくて甘くて、クロムは煩わしい現実の全てを忘れた。クロムがいま感じられるのは、抱き合っているユーインだけだ。
「そういえば、うちはエストレリャ国と隣り合っているけど、向こうは医学が発達しているそうだし、医学書を取り寄せれば、クロムも退屈しないんじゃないかな・・・」
 ユーインと共に行くオルキデア王国の風景を夢に見たか、柔らかな寝顔で腕の中に納まったクロムに、ユーインはその白い髪に口付けながら、そっと囁いた。
「・・・ねぇ、世界で二人だけになってもいいぐらい好きだって言ったら、クロム怒るかな?」
 クロムの前では優しく陽気なユーインが、愛する人と一緒にいるためなら、どんな冷酷でもやってのける、子供のように純粋なエゴイスト王子さまだということを、穏やかに眠るクロムはまだ知らない。