エニシ −8−


 従軍するにあたって、それほど私物を持ってきたわけではない。故郷の自分の部屋には、色々な物が残したままだ。だが来月には、クロムは異国の地を踏んでいることだろう。心配する実家に、手紙を出しておかなければいけない。
 のらりくらりとかわしていたが、結局なるようにしかならないらしい。医師の勉強中に衛生兵に志願したときは、こんな事になるなんて夢にも思わなかった。
 クロムは自分の荷物を担ぎ、ため息をつきながら、とぼとぼとシェーヌの街への道を辿っていた。
 ユーインに口説かれた時、最初は冗談だと思った。身分の高い人間は、時々平民には理解しがたいことを言い出すものだ。それなのに、まさか前線近くまで付いてくるとは・・・。ユーインが本気なのだとよくわかったが、それに自分が応えられるか、それはまた別問題だ。
(よくわからない・・・)
 嫌いではない。でも、そういう意味で好きなのかどうか・・・。抱きしめられて、優しくキスをされて・・・嫌ではない。だが、ユーインと同じ「好き」を返せるのか、クロムには自信が無かった。
(でもまぁ・・・)
 少なくとも、これで同僚たちに「玉の輿」だの「見せびらかしたい淫売」だの「異国の王妃様」だのと、嫌味をいわれることはなくなった。病院長達も他国の王子が紛れ込んでいるという悩みのタネがなくなって、さぞ祝杯を挙げていることだろう。
 対外的なけじめは付いた。あとは、自分の気持ちがユーインに添い続けられるかどうか、ゆっくり見極めていくしかできない。
 本当は、国のために、これからさらに働きたかったが、こんな状態ではしかたがない。それに、もしもユーインが怪我をしたら、疫病にかかったら・・・そう考える方が、クロムには恐ろしかった。
(ユーインの故郷は、どんな国かな・・・?)
 オルキデア王国は太陽の国とも言われる。強い日差しはクロムにはきつそうだが、砂色をしたレンガの建物に打ち付ける激しいスコールや、甘い香りの熱帯植物に囲まれるのは楽しみでもある。ユーインのように、明るく陽気な国なのだろうか。
 クロムの技術や献身は、グルナディエ公国には捧げられなかったが、どこにいても、そこにいる傷付いた人のためには尽くせるはずだ。
 クロムは夕刻の道を歩きながら、公国への未練を全て捨て、帝国の傷病者を労わりながらの旅程に気持ちを切り替えた。
 そして、一軒の宿の前で立ち止まる。
「クロム!!」
 シェーヌの街で一番良い部屋のある宿に逗留していたユーインが、輝くような笑顔でクロムを出迎えてくれた。ついでに、人目をはばからないハグもいつものことなので、クロムは抱きつかれる前に背負っていた荷物で防御した。
「むぎゅう」
「・・・仰せの通り、寄宿舎を払ってきました。出発までの数日間、オセワニナリマス」
「これからずぅ〜っと、お世話するよ〜」
 顔面で受けたクロムの荷物を抱きかかえ、ユーインはスキップしそうな勢いで、クロムを部屋に案内する。本当に嬉しそうだ。
「・・・・・・はぁ」
 自分は本当にこの人についていけるだろうか、クロムはいまさらながらにため息が出た。
 ユーインの部屋は簡素ながら広々として、家具も比較的上等なものが揃えられていた。だが、ユーインはクロムの荷物を部屋の隅に置いただけで、クロムの部屋を案内しようとはしない。
「・・・俺の部屋は、となり?」
 きょろきょろと見回すクロムに、ユーインはびっくりしたように言った。
「なんで?ベッドも広いんだから、一緒でいいじゃん」
「は!?」
 男の裸なぞ見慣れているし、クロムもこの歳で乙女のように恥らうわけでもないが、一応相手は王族のはずだ。
「王子と平民が同じベッドで寝られるか!俺はこっちのカウチで寝・・・」
「ちょっとぉ!せっかく恋人になったのに、それはヒドイんじゃない!?」
「こい・・・」
 ユーインと恋人になったという現実は、クロムには、いまだに違和感がある。だが、ユーインは眉間にしわを寄せているクロムの腕を引っ張り、天蓋まで付いたベッドに連れて行く。
 寄宿舎の物よりずっと柔らかいベッドに、問答無用で押し倒され、クロムもさすがに慌てた。
「おうじ・・・!」
「王子はヤダ。殿下もダメ。様もいらない。ユーインって呼んで」
「・・・ユーイン」
「なぁに、クロム?」
 覆いかぶさっているユーインがにっこりと笑顔になり、ちゅっちゅっとキスが降ってくる。ユーインはクロムより年上だが、恥らいも遠慮もないストレートな愛情表現は、まるで子供のように表裏無く無邪気で、クロムを安心させると同時に戸惑わせる。
「クロム、大好きだよ」
 クロムを見下ろす淡い水色の目が、幸せそうに潤んで微笑む。
「やっと俺のものになる・・・」
 そのささやきに、クロムはずっと胸のあたりにわだかまっていたものが、腹の底にすとんと落ちるのを感じた。ユーインの気持ちが、ただの「好き」ではない、「欲しい」という、どの男ももっている獣性からくる欲求だと・・・冗談のように誰にでも振り撒く愛ではないと・・・ようやく確証を得た気がした。
「でも・・・男となんてしたことないぞ」
「大丈夫だよ。気持ちいいところ、いっぱい教えてあげる」
 それはそれでクロムは複雑な気分を感じ、嬉しそうにクロムの服を脱がしていくユーインの下で身をよじる。首筋にユーインの息がかかってくすぐったい。
「っ・・・」
 皮膚の薄い場所に舌が這う感覚に、クロムは息をつめて体をこわばらせた。忙しない鼓動が体中に響き、あらわにされていく肌が、ひんやりとした空気にびくついている。
「ひっ・・・」
 胸を撫でられたときに、緊張していた突起がユーインの指に引っかかり、クロムはおかしな声を出したことに赤面して口を片手で覆った。
「ここ、気持ちいい?」
「やっ・・・よせっ!ぁっ・・・!」
 指先で少しつままれただけで、そこがふわりと色づいて硬く膨らんでいく。芯を持った乳首をいじられるたびに、なんともいえない疼きが体の内側に走り、クロムは半ばパニックになりながら、ユーインを押しのけようとした。
「や、め・・・ぇっ!」
「痛い?」
 痛いわけじゃないと首を振るが、クロムは快感を得るためにそんなところをいじった経験が無いので、よくわからない恐怖に囚われていた。それなのに、ユーインの手は止まらず、両方の胸が生み出す快感に、クロムは何とか逃げようともがいた。
 そのとき、ユーインの片手が離れ、もっと強い快感が股間から突き上がり、クロムは背をのけぞらせた。
「ぅあぁっ!?」
「よかった。感じてくれてはいるんだ」
 布越しに強張った形をゆるゆるとなぞられ、クロムは恥ずかしくて涙が浮かんだ。
「やだっ・・・ユーイン・・・ユーインッ!」
 ユーインがいるせいで閉じられない脚の間で、はっきりと布地を押し上げた熱を扱かれて、クロムは押しのけようとしていたユーインの肩にしがみついた。
 ユーインは上手かった。他人にされて恥ずかしいのに、熱くて、疼いて、もっとして欲しくて仕方がない。
「クロム・・・」
「ひゃぁ・・・っ!」
 耳元で囁かれ、息がかかるくすぐったさに、背がふるえる。
 手早く緩められた下着から直接握りこまれ、出そうになった悲鳴を必死で飲み込む。布越しでも温かかったのに、直に触れられるユーインの手の熱に、気が狂いそうになる。
「やああぁ・・・っ!」
「すごい、もうこんなに濡れて・・・」
「ひぅ・・・!!」
 クロムの先端から溢れ出した雫がユーインの指に絡まり、括れを擦られるたびにくちゅくちゅと卑猥な音を立てる。根元の方から丁寧に扱かれ、クロムは頭の奥が沸騰しそうな感覚を味わいながら喘いだ。
「あっあぁっ・・・!ユーイン・・・っ、だめ・・・も・・・やだぁ、でちゃうぅっ・・・!!」
 自分で言ってしまうと、もう出したい欲求が止められない。開いた両脚に、中途半端に脱げたズボンを絡ませたまま、クロムは衝動に任せて腰を震わせ、ユーインの手に押し付けた。
「いいよ、クロム」
「ゆーぃ・・・はぁ、はあぁぅ・・・・・・ッ!!」
 喘ぎごと舌をユーインの唇に吸われ、くりくりと先端の割れ目を撫でられると、クロムは見開いた目から涙をこぼしながら、ユーインの手に熱い精を吐き出した。